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21.初対面

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「本当にそれで良いのか?」
「はい。魔剣はあくまでサブソードとして使わせていただきます」

 場所は都の門前。
 グルトは俺を見送りにここまで来てくれていた。

 俺の腰には二本の剣、一本は魔剣でもう一本は特殊な細工を施したわけでもない普通ただの片手剣だ。

「それにしても、魔剣をサブソードとして使いたいといいよるとはな。お前さんというやつはつくづく不思議な奴じゃの」
「そうですかね?」
「ああ、そうよ。魔剣を扱えるほどのもんがもう一本メインソード用として普通の剣を作ってほしいだなんて」

 そう、俺はあの後グルトに一つ頼みごとをしていた。
 それはメインソード用に使う剣を作ってもらうこと。

 生前もそうだったが、俺は聖剣や魔剣のような力に支配された剣を握ることはあまり好まない。
 普通の剣を自らの手で磨き、自分色に染めることで初めて剣というものは輝けるのだと信じているからだ。

 だから魔剣はあくまで万が一の時に備えての切り札。
 普段から使っていこうなんてサラサラ考えてはいなかった。

 が、一つだけ難点があった。
 それはズバリ、お金関係の話だ。

 最初、代金は後日に貰う給料で支払いということで頼もうとしたのだが……





『本当にいいんですか!? タダで作ってもらっちゃって……』
『構わんよ。それに、ワシも久々に面白いもんを見させてもらった。その礼じゃ』
『あ、ありがとうございますっ!』

 ……と言う感じで、メインソードを作ってもらったというわけだ。

(なんかこっちに来てから金銭面で助けられてばかりだな……)

 たとえ剣聖と言われようがやっぱりお金がないと人間として最低限度の生活はできない。
 
 あまりこういうことにはならないようにきっちりと稼いで貯蓄しておかないとな……

「それじゃ、ワシはもう戻るぞ。何かあったらまたいつでも来てくれ」
「はい。その時はまたお世話になります」

 俺はグルトに礼をすると、王城へと向かって歩き出す。
 そして門前で王城滞在中に取得しておいたゲートパスを検問兵に見せ、都へと入る。

 時刻はもうすぐ夕暮れ時。
 リーリアとの約束の時間が迫っていた。

「パーティーかぁ……ていうか服装とかどうすればいいんだ?」
 
 わざわざパーティーを開いてくれるのは嬉しいことなのだが、それに見合った服装がないことに気付く。
 というかパーティーと呼ばれるものに今まで参加したことがないのでそもそもどうしたらいいのか分からない。
 
 唯一あるとすれば剣聖時代に要人護衛としてとある大貴族の主催するパーティーに行ったことがあるくらい。
 もちろん、俺は会場の外でひたすら見回りしていただけなので会場内を見ることはなかった。

 だがその時にチラッと耳にしたのは、何でも貴族階級のパーティーは”格”を重要視するとのこと。
 それは見栄え、言動、立ち居振る舞いだそうで、これらをいかに良く他人に見せるかが大切であると聞いたことがある。

 言動や立ち居振る舞いならなんとかなりそうだが、見栄えがなぁ……

(常識的に考えれば紳士服で行くのがいいのだろうけど……)

 何せ俺の持っている服はこの団から貰った専用の軍服とこっちに来たときに来ていた白シャツと黒ズボンしかない。
 そんなのでパーティーに顔を出したら喧嘩売っているのかと思われてしまう。

 これではどう考えても戦闘力不足だ。

「うーん……」

 そんなことを考えながら、俺は王城へと帰還する。
 すると、城門前に一人の兵士が俺の帰りを待っていたかのように姿を現す。

「あっ、ゼナリオ様。お帰りなさいませ」
「ご苦労様です。えっと……何かあったんですか?」
「あ、はい。先ほど団長よりゼナリオ様が帰り次第団長室へと案内するよう命令を受けましたので、ここで待機をしておりました」
「そうですか。わざわざありがとうございます、お待たせしてしまいましたか?」
「いいえ! その辺はお気になさらず、これがわたしの仕事ですので。ささっ、ここは冷えるので中へ入りましょう」

 俺はその兵士に導かれ、団長室へと案内する。
 長い間待っていたのか分からないが、彼の背中は少し震えていた。

 確かに今の時期の夜は冷える。ベールに野宿を止めるように言われたのも納得の寒さだ。
 
(なんか悪いことしてしまったな……)

 少々罪悪感に見舞われる。

 と、そんなことを考えている内に団長室の目の前まで来る。

「リーリア団長、ゼナリオ様をご案内致しました」
 
 案内役の兵士はドアを二回ノックし、応答を待つ。

「どうぞ」

 返事はすぐに返ってきた。
 部屋の中からリーリアと思わしき声が聞こえてくる。 
 
「失礼します」

 兵士に中に入るよう誘導され、一声発して中へ。
 すると中ではいつもの軍服姿に身を包んだリーリアの姿があった。

「お呼びでしょうか、リーリア団長」
「そう堅くならないで大丈夫ですよ。わたしのことも普通にリーリアと呼んでもらって……」
「いえ、それはさすがにできません」
「……そ、そうですか」

 話し途中に即座に拒否。
 今日の朝もなんか同じような会話をした気がするが……しっかりと断っておく。

 別にこれは拒絶とかそういうものじゃなくてあくまで自分なりの礼儀を貫いているまで。
 まぁ、体質的な問題もあるのだが……

 でも、少し気になったのは断った瞬間にリーリアが一瞬だけ落ち込む顔を見せたことだ。
 むしろそう呼んでもらいたい? みたいなそんな印象を受けた。

 ま、考えすぎか。

「それで団長、今回は一体何用でしょうか? パーティーの件……ですよね?」

 とりあえず今は下手な事は考えず、本題へ。
 それを聞いたリーリアも理由を説明し始める。

「それもそうなんですが、今回の歓迎会パーティーはただの歓迎会じゃないんです」
「ただのパーティー……じゃない?」
「はい。少しお時間、いただけますか? 会ってもらいたい方がいるんです」
「それはもちろん大丈夫ですがそれって……」

『ねぇ~リーリアぁ~新しい騎士さんはまだぁ?』

 ……ん? 誰だ?

 突然奥の部屋から聞こえてくる可愛らしい声。
 そしてその瞬間に現れるは……まだ年端もいかない一人の少女だった。
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