6 / 13
6話 初めての能力
しおりを挟む次の日。
俺とアリスはとある迷宮の入り口で待機していた。
というのも、ある人物を待つため。
迷宮に入るに当たって、俺たちの支援をしてくれる人だ。
「おーい、アリシアく~ん!」
迷宮の入り口で待っていると、手を振りながらこっちに向かってくる人物が一人。
大きな大剣を担いだ中年男が息を切らしながら、走ってきた。
「はぁ……はぁ……ごめんね、遅くなって」
「いえ。わざわざ来ていただいてありがとうございます、レイヤさん」
「それくらいどうってことないよ! なんせ我が親友の願いなんだからさ!」
男はガハハッと笑うと、額の汗をハンカチで拭く。
「あ、アリス。紹介するよ。この人はレイヤさん。冒険者をしていて、俺の父さんの親友でもある人なんだ」
ちなみに現役のA級冒険者である。
俺とは父さんとの繋がりがあってか、昔よく遊んでもらったりしていた。
「初めまして、アリスさん。今日は宜しくね」
「こちらこそ、わざわざ時間を割いていただいて、ありがとうございます!」
と、軽く自己紹介を済ませる。
今回、レイヤさんが同行してくれることになったのは父さんからの配慮によるものだった。
いくら相手がコボルトとはいえ、俺たちはまだ学生の身。
しかも冒険者でもない子供だけで迷宮に行くのは危険を伴うということで、レイヤさんを付き添いとして付けてくれたのだ。
レイヤさんはギルドでも一目置かれるほどの実力者だ。
一緒に来てくれるのは非常に心強い。
迷宮と言っても俺たちは座学で学んだ知識しか知らないからな。
ちなみに迷宮に潜る理由は予め父さんを通じてレイヤさんには伝えてある。
「さて、じゃあ早速だけど、中に入ろうか」
「はい!」
「お願いします!」
と言うわけで俺たちはレイヤさんの案内の元、迷宮の中へ。
松明を片手に持ったレイヤさんを先頭に俺たちは迷宮を進む。
「暗いですね……迷宮ってどこもこんな感じなんですか?」
「まぁね。特にコボルトは暗いところを好む習性がある。視覚が人の何倍も優れているからね」
その後もコボルトに関しての知識を色々と教えてくれた。
流石は冒険者たちの中でも上をいくA級冒険者だ。
すると。
「分かれ道だ……」
「どっちに行けば……」
俺たちが行く先に二分された道が。
ぱっと見ただけではどっちに行けばいいか見当がつかないが……
「こっちだね」
レイヤさんは迷うもせずに即答。
右の道を真っ先に指差した。
俺はすぐにレイヤさんに聞いた。
「なんで右って分かったんですか?」
「下を見て。かなり小さいけど、足跡があるでしょ」
レイヤさんが地面に松明を近づけると……
「…………あ、本当だ」
確かに足跡があった。
かなり小さくて目を凝らして見てみないと分からないレベルだが。
「迷宮に潜る時は前だけでなく足元にも注意を払う必要があるんだ。迷宮攻略の際には大切な判断材料になるからね」
「なるほど……」
と、その時だ。
突然ピロロンという音が脳内に流れ、
≪能力:【特殊眼力】を取得≫
続いてこんな無機質な声が聞こえてきた。
「ん、なんだ今のは……」
「アリシアくん? どうかしたの?」
「い、いや……なんか今誰かの声が聞こえてこなかったか?」
「声……? ううん、聞こえなかったけど……」
「俺も聞こえなかったよ」
二人とも聞こえなかったらしい。
ということは俺だけにしか聞こえないってことか?
なんか能力を取得って言ってたけど――
「はっ! まさか……!」
俺はすぐにステータスボードを開く。
そして自身のステータスの下部にある能力欄のところを見てみると……
「ま、マジか……」
「どうしたの?」
覗きこんでくるアリスに俺は少し興奮気味で。
「新しい能力を取得したんだよ。ほら!」
「この【特殊眼力】ってやつ?」
「ああ! 早速調べてみようぜ」
俺はすぐにその能力の詳細を調べる。
すると、
■能力ファイル01【特殊眼力(LV1)】
能力内容
○暗所などの場所における視界の明瞭化
○モンスターの足跡などのマーキング察知能力の向上(レベルによって能力向上)
○対象者、またはモンスターの危険度を測定(LV3で解放)
○対象者、またはモンスターのステータスファイルの参照(LV5で解放)
○最大LV5
○念じることで任意発動可
と、記載されていた。
「な、なんかすごい能力だね」
「うん。念じると使えるみたいだから、ちょっと使ってみるね」
ということで能力を発動させてみることに。
すると、
≪能力:【特殊眼力(LV1)】が発動しました≫
またもさっきの無機質な声と共に能力が発動する。
「おお、すっげぇ~~~!」
「見えるようになったの?」
「ああ、めっちゃ見える! 外の明るさと変わらないくらいだよ!」
これは驚きだ。
発動した瞬間、まるで光が降り注いだかのような明るさが視界に入ってきた。
一気に視界が明瞭になり、先の道がよく見える。
「本当に能力が手に入ったんだね」
「ああ。しかも経験ポイントを使うことで、さらに上のレベルの能力を解放できるみたいだ」
能力の隣に書いてある必要経験ポイントという文字。
そこには30と書いてあり、経験ポイント増やすことで解放できるみたいだ。
ちなみに現時点での経験ポイントは昨日が0PTだったのに対し今は20PTもあった。
まだ仕組みはよく分からないが、各能力と密接な関係性があることは間違いない。
「じゃあ、やっぱり……」
「予想的中かもしれないな」
「あの~二人とも? 一体なにで盛り上がって――」
「レイヤさん!」
「おおっ! な、なんだい?」
「早く先に進みましょう! 早くコボルトを狩りまくりたいです!」
「え、あ、ああ……うん、そうだね。先を急ごうか」
勢いに圧倒される形で返事をするレイヤさん。
そうして。
俺たちは再びレイヤさんの案内で、迷宮の奥へと進んでいくのだった。
♦
「……この辺でいいかな」
「迷宮内にこんな空間があるなんて……」
あれから俺たちは先へ進み、木々の生い茂る広い場所に出た。
ここは【特殊眼力】を使わずとも結構明るく、周りには見たこともない植物が生えていた。
「なんか外の世界とあまり変わらないね」
「だな」
そんな会話をしていると、レイヤさんは懐のポーチからあるものを取り出し、地面に置いた。
「レイヤさん、それは?」
「ヒンス草だよ。これを使ってコボルトを誘き寄せるんだ」
「これで、ですか?」
「そうだよ。ヒンス草からはコボルトが好む匂いが出るからね。嗅覚が優れているコボルトなら、すぐに食いつくはずさ」
匂いで誘き寄せる……か。
本当に来るのだろうか……? と半信半疑に待っていると、
ガサガサ。
「ん……?」
茂みの中から聞こえてくる音。
耳を澄ますと、足音も……
≪能力:【絶対聴覚】を取得≫
またなんか能力を獲得したみたいだ。
だが今はそんなところではなかった。
「早速現れたようだね。アリシアくん、戦闘態勢を整えて! アリスちゃんは少し後方へ!」
「「は、はい!」」
レイヤさんから警戒態勢を整えろと指示を受ける。
俺たちは指示通り、態勢を取ると――
「「「「「※※※※!!」」」」」
甲高い鳴き声と共に茂みの中から何かが飛び出してくる。
小さな身体に手に持っているのは木製の棍棒。
一応図鑑とかで見たことがあったから、すぐに分かった。
こいつらが、コボルトであると。
コボルトたちは俺たちを見るなり、容赦なく襲い掛かってきた。
俺は家から持ってきた剣を素早く抜き、攻撃を受け止める。
「くっ、意外と力が強い……!」
「気を付けてアリシアくん! コボルトと言えど、力は結構あるんだ。油断していると、力負けするよ!」
そう言いながらも難なく周りのコボルトたちを一掃していくレイヤさん。
いとも簡単に倒しているが、実際戦ってみると、普通に強かった。
コボルトはよく弱いとか、鍛錬の練習台とか言われる風潮があるが、全くそんなことはない。
むしろ油断していると、痛い目に遭うだろうということが分かった。
「やぁぁぁっ!」
ようやく一匹を処理。
数十分くらい格闘しただろうか?
「はぁはぁ……やった、やったぞ!」
初めてのモンスター討伐。
時間はかかったが、何とか倒すことができた。
そして同時に……
≪剣術能力が向上しました≫
≪防御力が向上しました≫
≪体術能力が向上しました≫
≪能力:【状況判断力】を取得≫
次々と能力を獲得していく。
どうやら剣術や防御といった基本能力も向上すると、知らせてくれるらしい。
「お、やるじゃないかアリシアくん!」
「ようやく一匹ですけどね。学園で習ったことが役に立ちました」
言ってなかったが、俺は学園では剣士科を専攻していて、ある程度の剣術は教わっている。
そのおかげもあってか、苦戦はしたものの、何とか対処することができた。
ガサガサ。
「お、どうやら第二波が来るみたいだね。どうだい? 身体の方は」
「だいぶ温まってきました。これなら、行けそうです」
「分かった。じゃあ後は頑張ってね。でも無理だけはしちゃダメだよ?」
「はい! 頑張ります!」
これで準備は整った。
後は己の力だけでこいつらを狩りまくる。
(今に見てろ、アルゴ……絶対にお前より強くなってやるからな!)
心にそう強く誓い、剣を握る。
さて、それじゃあ始めようか。
俺にしかできない、極限の経験を。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
154
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる