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第二十一話 権力者
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金髪の男。
ジンによればジークとかいう名前らしいが、まさか狙いが俺だったとは……。
「ユーリ・フリージアはいるか? いたら僕の前に名乗り出て欲しい」
ジークはクラス全体にそう呼びかける。
そして、クラスメートたちの視線は一気に俺の元へと集中する。
「ん、君かな?」
あっ、気づかれた。
しかもこっちに来たし。
「ユーリ・フリージアとは君のことかな?」
「……ああ、そうだけど」
初めて会するというのに馴れ馴れしい奴だ。
ジンの反応をみる限り、あまり良い奴っぽくなさそうだったのでやり過ごそうと思ってたけど……。
もう知らん振りはできない。
「ふぅーん。君が例の特別推薦入学者ねぇ……」
ジークはそう言うなり、俺の顔を食い尽くように見つめてくる。
「えっと、あなたは?」
「ん? ああ、そうだった! いやはや申し訳ない。好奇心の方が勝って自己紹介を忘れていたよ」
あまりいい気分はしなかったので一言。
するとジークは少し距離を置きつつ、謝罪をしてくる。
そして彼は胸に手を添えると、
「初めまして。僕はジーク・フリット。隣のBクラスの委員長を務めているものです。どうぞ、お見知りおきを……」
態度の割に洗練された自己紹介だ。
慣れを感じる。
「ユーリ・フリージアだ。何故かもう知ってるみたいだけど」
俺も簡単に紹介を済ませる。
でも何故俺の名前を……? もしかして俺って既に有名人だったりするのか?
「いやぁ、まさか50年ぶりの特別推薦入学者が女性だったとは。意外だったよ」
あぁ……こいつも俺を男だと見抜けなかったか。
雰囲気的に人付き合いに慣れてそうだったのであるいは、と思ってたけど考えすぎだったようだ。
「あの、ジークさん。予め言っておくけど俺、男だから」
一応正しい解答だけを述べる。
だがジークはそれを聞くなり唐突に笑い出し、
「いやいやいや! ご冗談を。どっからどうみても女じゃないか。あ、もしかしてそういうキャラだったりするのかな? であるなら失敬失敬」
……こいつ。
前言撤回。
人付き合いに慣れているわけではなくて、人をバカにすることに慣れているらしい。
「悪いが、本当の話だ。容姿に関しては否定しないが」
高まる怒りを抑え、寛容に対応。
学園生活初日から騒動なんて起こしたくないしな。
でもこいつは間違いなく俺の中でブラックリスト行きの人間だ。
間違えるだけならまだいいが、男としてのプライドまで傷つけられるとは思ってもいなかった。
話し方もなんかかんに障るし。
「ま、とりあえず下見はこれくらいにしよう。どんな人かはもう大体分かったしね」
ジークは俺の元を離れ、再び教壇の方へ。
「では、皆の者。僕はこれにて失礼するよ。はっはっは!」
高笑いを上げながらジークは取り巻きの男たちを連れ、教室を出て行く。
周りのクラスメートたちはジークが去るなり、安堵の溜め息を吐いていた。
「はぁ、ようやく去りやがったな。糞野郎が」
ジンが吐き捨てるようにそう言う。
俺はそんなジンを横目に、
「なぁ、ジン。今のは一体誰だ? とんでもなく態度がでかかったけど」
ジンは答える。
「その前にお前はフリット家を知っているか?」
「いや、知らない」
「そうか。ま、お前も辺境国から来たのなら無理もない」
「有名な家柄なのか?」
「ああ、相当な」
ジンは頷き、説明を続けてくれた。
フリット家。
かの有名な帝国5大貴族の一角を占める同家は100年以上もの歴史を持つ名家の中の名家だ。
5大貴族とは帝国を直に支える国直下の貴族家のことを指す。
国の資金はもちろんのこと、政治や経済、文化にすら大きな影響を及ぼすほどであると言われ、国の上層部ですらこの5つの家には頭が上がらない。
いわば貴族経済の核となるような存在であった。
だが、知ったのはそれだけではなかった。
俺がなにより驚いたのはその5大貴族の一角にグレイシア家の名前があったということだった。
しかもその5大貴族の中では最も強い権力を保持しているとのこと。
ちなみに俺は5大貴族の存在も何もかも全く知らなかった。
ただ、知っていたのは結構な名家だという浅い事実のみ。
俺はフリット家がどうとかより、自分の置かれている立場に驚きを隠せなかった。
「ま、ジーク様の態度がデカいのはそのためだ。国ですら言いなりになっている相手に俺たち平民が刃向かえるわけがない」
不満げにジンは話す。
でも、ある意味良かった。
良かったというのはグレイシア家の名前を名乗らなくて、ということだ。
もし名乗っていたら俺も歓迎されることはなかっただろう。
それはさっきジークが入ってきた時のみんなを反応を見てよく分かった。
貴族と平民。この両者は繋がっていそうだが、そうではない。
誰しも貴族というだけで距離を置いてしまう。
これが現実だ。
その辺は前世で俺が経験したことと何ら変わりはなかった。
貴族は貴族、平民は平民のコミュニティーがあって世の中は構築されている。
その両者の比率がどっちかに傾くことによってその者の存在意義が顕著に表れる。
俺がギルドで経験したことと同じことだ。
だが今回はその逆。比率的には平民の方が多いこの学園では貴族はアウェイな立場になる。
友人作りや学園生活に障壁をもたらすのだ。
俺が貴族家の名を伏せているのはそれを見越してのこと。
ま、貴族の場合は権力っていうこの上ない後ろ盾があるからなんとも言えないが。
でもやはり俺の推測と判断は間違いではなかったみたいだ。
「ま、あまり関わらない方がいい。下手なことをすると消されるかもしれないからな」
笑いごとのように聞こえるが、ジンは全く笑みすら見せなかった。
そんな大袈裟なと思うかもしれないが、人一人消すくらい造作もないことなのだろう。
そう思うと自分の存在と今の今まで無知であったことに恐怖を覚える。
(その気になれば、俺だって……)
いや、あまり変なことは考えないようにしよう。
学園に来たのはより高度な教養を得るためだけじゃなく、友人を作って人脈を広げるためだ。
むしろ後者の方が俺にとって重要なこと。
それが出来なくなるようならわざわざここまで来た意味がない。
それに、今の俺は貴族としてのユーリではなく平民としてのユーリだ。
そこのところは露わにならない限り、揺らがない。
今は友人作りに徹する。ただそれだけのこと。
「おっ、もうそろそろ授業が始まるな。いこーぜ、ユーリ」
「ん? あ、ああ!」
そうだ。俺は友人を作るためにここにいる。
今は障害となることは全て捨てて、今を楽しもう。
道中。
ジンと会話を交わしつつもそう思う、俺であった。
ジンによればジークとかいう名前らしいが、まさか狙いが俺だったとは……。
「ユーリ・フリージアはいるか? いたら僕の前に名乗り出て欲しい」
ジークはクラス全体にそう呼びかける。
そして、クラスメートたちの視線は一気に俺の元へと集中する。
「ん、君かな?」
あっ、気づかれた。
しかもこっちに来たし。
「ユーリ・フリージアとは君のことかな?」
「……ああ、そうだけど」
初めて会するというのに馴れ馴れしい奴だ。
ジンの反応をみる限り、あまり良い奴っぽくなさそうだったのでやり過ごそうと思ってたけど……。
もう知らん振りはできない。
「ふぅーん。君が例の特別推薦入学者ねぇ……」
ジークはそう言うなり、俺の顔を食い尽くように見つめてくる。
「えっと、あなたは?」
「ん? ああ、そうだった! いやはや申し訳ない。好奇心の方が勝って自己紹介を忘れていたよ」
あまりいい気分はしなかったので一言。
するとジークは少し距離を置きつつ、謝罪をしてくる。
そして彼は胸に手を添えると、
「初めまして。僕はジーク・フリット。隣のBクラスの委員長を務めているものです。どうぞ、お見知りおきを……」
態度の割に洗練された自己紹介だ。
慣れを感じる。
「ユーリ・フリージアだ。何故かもう知ってるみたいだけど」
俺も簡単に紹介を済ませる。
でも何故俺の名前を……? もしかして俺って既に有名人だったりするのか?
「いやぁ、まさか50年ぶりの特別推薦入学者が女性だったとは。意外だったよ」
あぁ……こいつも俺を男だと見抜けなかったか。
雰囲気的に人付き合いに慣れてそうだったのであるいは、と思ってたけど考えすぎだったようだ。
「あの、ジークさん。予め言っておくけど俺、男だから」
一応正しい解答だけを述べる。
だがジークはそれを聞くなり唐突に笑い出し、
「いやいやいや! ご冗談を。どっからどうみても女じゃないか。あ、もしかしてそういうキャラだったりするのかな? であるなら失敬失敬」
……こいつ。
前言撤回。
人付き合いに慣れているわけではなくて、人をバカにすることに慣れているらしい。
「悪いが、本当の話だ。容姿に関しては否定しないが」
高まる怒りを抑え、寛容に対応。
学園生活初日から騒動なんて起こしたくないしな。
でもこいつは間違いなく俺の中でブラックリスト行きの人間だ。
間違えるだけならまだいいが、男としてのプライドまで傷つけられるとは思ってもいなかった。
話し方もなんかかんに障るし。
「ま、とりあえず下見はこれくらいにしよう。どんな人かはもう大体分かったしね」
ジークは俺の元を離れ、再び教壇の方へ。
「では、皆の者。僕はこれにて失礼するよ。はっはっは!」
高笑いを上げながらジークは取り巻きの男たちを連れ、教室を出て行く。
周りのクラスメートたちはジークが去るなり、安堵の溜め息を吐いていた。
「はぁ、ようやく去りやがったな。糞野郎が」
ジンが吐き捨てるようにそう言う。
俺はそんなジンを横目に、
「なぁ、ジン。今のは一体誰だ? とんでもなく態度がでかかったけど」
ジンは答える。
「その前にお前はフリット家を知っているか?」
「いや、知らない」
「そうか。ま、お前も辺境国から来たのなら無理もない」
「有名な家柄なのか?」
「ああ、相当な」
ジンは頷き、説明を続けてくれた。
フリット家。
かの有名な帝国5大貴族の一角を占める同家は100年以上もの歴史を持つ名家の中の名家だ。
5大貴族とは帝国を直に支える国直下の貴族家のことを指す。
国の資金はもちろんのこと、政治や経済、文化にすら大きな影響を及ぼすほどであると言われ、国の上層部ですらこの5つの家には頭が上がらない。
いわば貴族経済の核となるような存在であった。
だが、知ったのはそれだけではなかった。
俺がなにより驚いたのはその5大貴族の一角にグレイシア家の名前があったということだった。
しかもその5大貴族の中では最も強い権力を保持しているとのこと。
ちなみに俺は5大貴族の存在も何もかも全く知らなかった。
ただ、知っていたのは結構な名家だという浅い事実のみ。
俺はフリット家がどうとかより、自分の置かれている立場に驚きを隠せなかった。
「ま、ジーク様の態度がデカいのはそのためだ。国ですら言いなりになっている相手に俺たち平民が刃向かえるわけがない」
不満げにジンは話す。
でも、ある意味良かった。
良かったというのはグレイシア家の名前を名乗らなくて、ということだ。
もし名乗っていたら俺も歓迎されることはなかっただろう。
それはさっきジークが入ってきた時のみんなを反応を見てよく分かった。
貴族と平民。この両者は繋がっていそうだが、そうではない。
誰しも貴族というだけで距離を置いてしまう。
これが現実だ。
その辺は前世で俺が経験したことと何ら変わりはなかった。
貴族は貴族、平民は平民のコミュニティーがあって世の中は構築されている。
その両者の比率がどっちかに傾くことによってその者の存在意義が顕著に表れる。
俺がギルドで経験したことと同じことだ。
だが今回はその逆。比率的には平民の方が多いこの学園では貴族はアウェイな立場になる。
友人作りや学園生活に障壁をもたらすのだ。
俺が貴族家の名を伏せているのはそれを見越してのこと。
ま、貴族の場合は権力っていうこの上ない後ろ盾があるからなんとも言えないが。
でもやはり俺の推測と判断は間違いではなかったみたいだ。
「ま、あまり関わらない方がいい。下手なことをすると消されるかもしれないからな」
笑いごとのように聞こえるが、ジンは全く笑みすら見せなかった。
そんな大袈裟なと思うかもしれないが、人一人消すくらい造作もないことなのだろう。
そう思うと自分の存在と今の今まで無知であったことに恐怖を覚える。
(その気になれば、俺だって……)
いや、あまり変なことは考えないようにしよう。
学園に来たのはより高度な教養を得るためだけじゃなく、友人を作って人脈を広げるためだ。
むしろ後者の方が俺にとって重要なこと。
それが出来なくなるようならわざわざここまで来た意味がない。
それに、今の俺は貴族としてのユーリではなく平民としてのユーリだ。
そこのところは露わにならない限り、揺らがない。
今は友人作りに徹する。ただそれだけのこと。
「おっ、もうそろそろ授業が始まるな。いこーぜ、ユーリ」
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