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怪盗のはじまり
裏切り者の貴族
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フランの言葉に返事を出来ない」でいるアルは、ずいぶんと長い間黙り込んでいる。
普通に考えるのならば、答えは「ノー」なのだ。彼は貴族であり、自分の大切な人だ。そんな相手に犯罪者になれなんて言えるはずもないし、なろうとするものならすぐにでも止めるべきなのだろう。
だが、アルは返事に戸惑っている。
それは彼が貴族たちから嫌われている裏切り者の貴族の末裔だからだ。
彼の祖先は、もともと一般庶民から貴族に成り上がり、女王の庇護下に入ったにも関わらず、不正が蔓延していた貴族社会の膿を一掃した。それだけなら英雄扱いだ。だが結局のところすべてをどうにかすることなどできないし、不正を隠す貴族が多くなって見えなくなっただけにとどまってしまった。
そのため、残った悪質貴族に汚名を着せられ、すべての貴族から裏切りの一族と呼ばれるようになった。
それでも女王はすべてを理解していたので、貴族として近年まで残ることができたのだが、それでも嫌な思いはしてきただろう。
だからこそ、フランはアルにとって正義そのものなのだ。
しかし、彼が正義の一族足りえるからこそ、彼が今の貴族社会を許せないという気持ちそのものはきっと彼の正義なのだろう。アルもそれは理解できていた。
アルがフランのことを理解できていたからこそ、彼の言葉を簡単に否定することなど出来なかった。
「確かに、腐敗した貴族社会をどうにかしなければならないかもしれない。でも、あなたにはやり方を選んでほしい」
「自分はやっているのに……か?」
やり方を選ばなかったものに、やり方を選べと諭されても納得できるはずもないフランは、少しだけ声を荒げそうになりながらも、あくまで冷静を装った。
アルは選ばざる負えなかったのだと、内心では彼もわかっていたからだ。
「うん」
彼女は迷うこともなくうなずいた。結局言葉に迷っていただけで、答えは最初から決まっていたのだ。
しかし、答えが決まっていたというのはフランにとっても同じことだ。
「僕の両祖父母はね、ほかの貴族にはめられて殺されたんだ。国にあるルールを作ろうとしたから……僕の一族にはもう女王からの支援すら危うい状況なんだよ」
「それでも……」
フランの言葉を聞いて、否定しようとするアルだがそれは出来ないことに気がついた。
彼の言葉は、そのまま貴族社会の腐りようを表しているからだ。彼の親族が暗殺されたにも関わらず、女王が動かなかったというのは、女王すらも手出しができない状況だということを表している。
「君ならわかるだろう? 女王よりも強いのは、すべてを失えるものだけ……この国のルールを破って世界を不幸に貶めることができる者だけだということが」
「でも……でも……!」
「貴族なんてみんな同じさ……その財にあやかろうとする民衆も、なすすべもなく従う王も、力を与える悪霊も……誰も痛みなんて知らない。だったら――――」
「――――私たちで不幸にしてやろう……」
背後から聞こえた別の声にフランとアルは驚いて振り返る。
丁度ドアが開かれて、立っていたのは一人の女性だ。
二人はその女性を知っていた。知っていたからこそ、身を構えざる負えなかったわけだが、彼女の様子はどうもおかしい。
「……王立軍のエリート様が何の用かしら?」
沈黙を破ったのはアルだ。それは彼女が自分にとって因縁の相手だったからこそ出た言葉だった。
ジャンヌ・パール。王国で十本の指に入るほど有名な警務官だ。彼女こそが今一番女王に愛されている国民の一人だろう。貴族ではない出生で警務官になることのできた初めての人物であり、『市民の裏切り者』や『貴族の犬』という蔑称がつくほど仕事熱心な女性である。
「今日のあなたは動揺していたのか、追跡をまくのが下手でしたので私はすべてを聞かせてもらうことにしたのです」
「用は何かと聞いた」
今にも一色触発といった感じのアルとジャンヌだが、二人を止めるすべがフランにはあった。
「あんたもこっち側だったってわけか?」
彼の言うこっち側というのは、もちろん反貴族側ということを表していた。しかし、それもかけに近いと言ってもいいだろう。
もし、彼女が犯罪者を捕まえに来た警務官だというのなら、フラン自身も捕まりかねない言質だからだ。
だがそれでも、フランには確信があった。
「ええ、私は貴族を殺したいほど憎んでいるわ」
隠すこともない殺気とでも言うのだろうか、それを経験したことがあるアルですら少し竦んでしまった様子だ。いったいどれほどの恨みがあれば、このような殺気を放つことができるのか、フランにはわかりかねた。
「……それで? あんたは僕たちの話を聞いてどうするの?」
「どうもしません。ただ、そろそろ行動に移ろうかと思っていたところなので丁度良かった。三人でパーティーを組みませんか?」
普通に考えるのならば、答えは「ノー」なのだ。彼は貴族であり、自分の大切な人だ。そんな相手に犯罪者になれなんて言えるはずもないし、なろうとするものならすぐにでも止めるべきなのだろう。
だが、アルは返事に戸惑っている。
それは彼が貴族たちから嫌われている裏切り者の貴族の末裔だからだ。
彼の祖先は、もともと一般庶民から貴族に成り上がり、女王の庇護下に入ったにも関わらず、不正が蔓延していた貴族社会の膿を一掃した。それだけなら英雄扱いだ。だが結局のところすべてをどうにかすることなどできないし、不正を隠す貴族が多くなって見えなくなっただけにとどまってしまった。
そのため、残った悪質貴族に汚名を着せられ、すべての貴族から裏切りの一族と呼ばれるようになった。
それでも女王はすべてを理解していたので、貴族として近年まで残ることができたのだが、それでも嫌な思いはしてきただろう。
だからこそ、フランはアルにとって正義そのものなのだ。
しかし、彼が正義の一族足りえるからこそ、彼が今の貴族社会を許せないという気持ちそのものはきっと彼の正義なのだろう。アルもそれは理解できていた。
アルがフランのことを理解できていたからこそ、彼の言葉を簡単に否定することなど出来なかった。
「確かに、腐敗した貴族社会をどうにかしなければならないかもしれない。でも、あなたにはやり方を選んでほしい」
「自分はやっているのに……か?」
やり方を選ばなかったものに、やり方を選べと諭されても納得できるはずもないフランは、少しだけ声を荒げそうになりながらも、あくまで冷静を装った。
アルは選ばざる負えなかったのだと、内心では彼もわかっていたからだ。
「うん」
彼女は迷うこともなくうなずいた。結局言葉に迷っていただけで、答えは最初から決まっていたのだ。
しかし、答えが決まっていたというのはフランにとっても同じことだ。
「僕の両祖父母はね、ほかの貴族にはめられて殺されたんだ。国にあるルールを作ろうとしたから……僕の一族にはもう女王からの支援すら危うい状況なんだよ」
「それでも……」
フランの言葉を聞いて、否定しようとするアルだがそれは出来ないことに気がついた。
彼の言葉は、そのまま貴族社会の腐りようを表しているからだ。彼の親族が暗殺されたにも関わらず、女王が動かなかったというのは、女王すらも手出しができない状況だということを表している。
「君ならわかるだろう? 女王よりも強いのは、すべてを失えるものだけ……この国のルールを破って世界を不幸に貶めることができる者だけだということが」
「でも……でも……!」
「貴族なんてみんな同じさ……その財にあやかろうとする民衆も、なすすべもなく従う王も、力を与える悪霊も……誰も痛みなんて知らない。だったら――――」
「――――私たちで不幸にしてやろう……」
背後から聞こえた別の声にフランとアルは驚いて振り返る。
丁度ドアが開かれて、立っていたのは一人の女性だ。
二人はその女性を知っていた。知っていたからこそ、身を構えざる負えなかったわけだが、彼女の様子はどうもおかしい。
「……王立軍のエリート様が何の用かしら?」
沈黙を破ったのはアルだ。それは彼女が自分にとって因縁の相手だったからこそ出た言葉だった。
ジャンヌ・パール。王国で十本の指に入るほど有名な警務官だ。彼女こそが今一番女王に愛されている国民の一人だろう。貴族ではない出生で警務官になることのできた初めての人物であり、『市民の裏切り者』や『貴族の犬』という蔑称がつくほど仕事熱心な女性である。
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「用は何かと聞いた」
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「あんたもこっち側だったってわけか?」
彼の言うこっち側というのは、もちろん反貴族側ということを表していた。しかし、それもかけに近いと言ってもいいだろう。
もし、彼女が犯罪者を捕まえに来た警務官だというのなら、フラン自身も捕まりかねない言質だからだ。
だがそれでも、フランには確信があった。
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隠すこともない殺気とでも言うのだろうか、それを経験したことがあるアルですら少し竦んでしまった様子だ。いったいどれほどの恨みがあれば、このような殺気を放つことができるのか、フランにはわかりかねた。
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