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悪霊と貴族と
男
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男は、僕が見たこともないようなぐらい黒い、暗い、濃い漆黒のコートをまとい、その背中からはこれまた目にしたこともないほど大きくも見事な鞘に納められた剣を担いでいる。コートの右胸には、銀色のクロスをつけて、まるで神の使いとも言わんように見事なまでの金髪をたなびかせていた。
そういえば、僕は彼の身に着けるクロスには何となく見覚えがある気がする。
「だから、考えるよりもまずしなきゃいけないことがあるだろう?」
男は至極当たり前のように、僕の方に近づいてくる。彼からは不吉な感じしかしないのに、どうしてか、僕は彼を当たり前にそこにいる存在だと錯覚してしまった。
そのせいで、僕は彼の動きに反応することができない。
「またダンマリかい? それでも君たちは怪盗なのかな……もしかして、ただのコソ泥なのかい? それなら勘違いしてしまった僕は間抜けだな。でも違う、君たちは誰が否定しようとも怪盗団の一員であることには変わりはないのだから。だったら、僕ら探偵が捕まえないわけにはいかないだろう?」
探偵? 何を言っているんだ?
「おや、何を言っているのかわからないって顔をしているね。それは僕の説明不足だったかな? いやね、僕もこんな仕事を引き受けるのは僕のルールに反した不本意なことなんだけど――ってそれはどうでもいいか、ともかく、僕は自分の野望を叶えるために君たちを捕まえなければならないということだ。そうそう、この件に関してはそっちの御嬢さんが正しい……君たちが今するべきことは逃げるっということだ!」
男は言い切ると僕に向かって、強い上段回し蹴りを繰り出した。
蹴り始めは僕の目にははっきり見えていたが、気がつけば僕は壁まで弾き飛ばされていた。彼に蹴られたということに気がついたのは、僕の胸に衝撃が走った時だ。
「フランシス!」
アルの声が僕の頭になり響く。
どうやら、僕はまだ気を失っていないようだ。しかし、まだ頭が働いていないのか、視界はあまり良好ではない。吹き飛ばされたときに頭をぶつけたのだろう、頭が尋常じゃないくらい痛い。もはや死んでしまいそうなぐらいに痛い。
これでも僕は普通の人間として生まれ、きっとこれからもそのままで死んでいく。
そんなことを考えているうちに頭が回るようになってきた。視界も良好だ。
「おやおや、まだお休みの時間には早いよ。ちなみに僕が寝る時間は12時ちょうどと決めている。まあどうでもいいだろうけど……とにかく、動かないなら剣の錆に――」
「――させない! 放電魔法っ!!」
僕に迫る男と、僕の間にアルが割って入る。彼女の手からとても小さな電撃が走る。
「……いっつ。静電気にびっくりしてつい剣を落としてしまったよ。参ったな」
まるで説明がかったかのような口調の後、これまた芝居がかったかのように剣を落とす。といっても、もしかしたら……なんて考えるのは都合がよすぎるだろう。普通に考えるのであれば、彼が口にしたようにおどろいて剣を落としたと考えるのが妥当だ。
だとするならば、逃げるならいまだ。あれは、魔法でどうこうなるレベルではない。それに、彼が落とした剣、あれはいわゆる『武器』とよばれる物だろう。
『武器』といっても、いわゆる辞書なんかに記載されている戦うための道具なんて、そんな生易しいものではない。この国は所持したり、持ち込んだだけで死刑は免れないという対魔法兵器のことだ。
「逃げるわよ! フランシス!」
「……っ! ああ!!」
僕はまだ正常に働かない頭を押さえながら、アルの手をつかんだ。アルも僕の手をしっかりと握りしめ、大きな声で叫ぶ。
「俊敏魔法っ!」
「おわっ!!」
彼女の魔法が僕の思っていたよりも速く、足が少しだけもつれてしまった。――とはいえ、こけている暇などなく、なんとか持ちこたえた。
しかし、そのタイミングで少しだけ足を痛めてしまったようだ。若干痛む足を押さえながら、頭と足どっちが痛いのかよくわからなくなっている自分がいることに気がついた。
ともかく、先ほどから全く追いかけてこようともしない男には釈然としないが、今は逃げることだけに専念しなければならない。なぜなら、アルの魔法は、彼女が使った俊敏魔法はかなり限定的な条件下でしか使うことができない魔法だからだ。
「とにかくっ……顔は見られてしまったけど、今死んでしまうよりはましでしょう! はやく……」
「うん、まだ幸い怪盗しているところを見られたというわけでもないし、何とかごまかせるかもしれない。とにかく、早くここを出ないと」
僕たちはなんとか、その屋敷から脱出することができた。――なんていう風に出来事がつつがなくすすめば、僕たちも苦労することなんてなかったのだろう。まあ、もうすでに順調というにはいろいろなことがありすぎたわけだが、ともかく、もう少しだけ普通……っていうのも違うか、とにかく僕は初めての怪盗をもっとまともな、いや簡単なものにしてほしかった。
最初から、強力な魔法を得ることは魅力的で、それでいて悲劇的な作戦など、最初からうまくいく可能性が悲惨的なほどに低かっただろう。
冷静になって考えれば、命すら保障されるはずもないこんな作戦に参加するなんてありえなかっただろう。
最初に断っておくが、人のせいにするわけではない。だが、彼女が――ジャンヌがあまりにも自信満々だったから参加してしまった。まあ、命だけでもたすかっただけましなのだろう。
そういえば、僕は彼の身に着けるクロスには何となく見覚えがある気がする。
「だから、考えるよりもまずしなきゃいけないことがあるだろう?」
男は至極当たり前のように、僕の方に近づいてくる。彼からは不吉な感じしかしないのに、どうしてか、僕は彼を当たり前にそこにいる存在だと錯覚してしまった。
そのせいで、僕は彼の動きに反応することができない。
「またダンマリかい? それでも君たちは怪盗なのかな……もしかして、ただのコソ泥なのかい? それなら勘違いしてしまった僕は間抜けだな。でも違う、君たちは誰が否定しようとも怪盗団の一員であることには変わりはないのだから。だったら、僕ら探偵が捕まえないわけにはいかないだろう?」
探偵? 何を言っているんだ?
「おや、何を言っているのかわからないって顔をしているね。それは僕の説明不足だったかな? いやね、僕もこんな仕事を引き受けるのは僕のルールに反した不本意なことなんだけど――ってそれはどうでもいいか、ともかく、僕は自分の野望を叶えるために君たちを捕まえなければならないということだ。そうそう、この件に関してはそっちの御嬢さんが正しい……君たちが今するべきことは逃げるっということだ!」
男は言い切ると僕に向かって、強い上段回し蹴りを繰り出した。
蹴り始めは僕の目にははっきり見えていたが、気がつけば僕は壁まで弾き飛ばされていた。彼に蹴られたということに気がついたのは、僕の胸に衝撃が走った時だ。
「フランシス!」
アルの声が僕の頭になり響く。
どうやら、僕はまだ気を失っていないようだ。しかし、まだ頭が働いていないのか、視界はあまり良好ではない。吹き飛ばされたときに頭をぶつけたのだろう、頭が尋常じゃないくらい痛い。もはや死んでしまいそうなぐらいに痛い。
これでも僕は普通の人間として生まれ、きっとこれからもそのままで死んでいく。
そんなことを考えているうちに頭が回るようになってきた。視界も良好だ。
「おやおや、まだお休みの時間には早いよ。ちなみに僕が寝る時間は12時ちょうどと決めている。まあどうでもいいだろうけど……とにかく、動かないなら剣の錆に――」
「――させない! 放電魔法っ!!」
僕に迫る男と、僕の間にアルが割って入る。彼女の手からとても小さな電撃が走る。
「……いっつ。静電気にびっくりしてつい剣を落としてしまったよ。参ったな」
まるで説明がかったかのような口調の後、これまた芝居がかったかのように剣を落とす。といっても、もしかしたら……なんて考えるのは都合がよすぎるだろう。普通に考えるのであれば、彼が口にしたようにおどろいて剣を落としたと考えるのが妥当だ。
だとするならば、逃げるならいまだ。あれは、魔法でどうこうなるレベルではない。それに、彼が落とした剣、あれはいわゆる『武器』とよばれる物だろう。
『武器』といっても、いわゆる辞書なんかに記載されている戦うための道具なんて、そんな生易しいものではない。この国は所持したり、持ち込んだだけで死刑は免れないという対魔法兵器のことだ。
「逃げるわよ! フランシス!」
「……っ! ああ!!」
僕はまだ正常に働かない頭を押さえながら、アルの手をつかんだ。アルも僕の手をしっかりと握りしめ、大きな声で叫ぶ。
「俊敏魔法っ!」
「おわっ!!」
彼女の魔法が僕の思っていたよりも速く、足が少しだけもつれてしまった。――とはいえ、こけている暇などなく、なんとか持ちこたえた。
しかし、そのタイミングで少しだけ足を痛めてしまったようだ。若干痛む足を押さえながら、頭と足どっちが痛いのかよくわからなくなっている自分がいることに気がついた。
ともかく、先ほどから全く追いかけてこようともしない男には釈然としないが、今は逃げることだけに専念しなければならない。なぜなら、アルの魔法は、彼女が使った俊敏魔法はかなり限定的な条件下でしか使うことができない魔法だからだ。
「とにかくっ……顔は見られてしまったけど、今死んでしまうよりはましでしょう! はやく……」
「うん、まだ幸い怪盗しているところを見られたというわけでもないし、何とかごまかせるかもしれない。とにかく、早くここを出ないと」
僕たちはなんとか、その屋敷から脱出することができた。――なんていう風に出来事がつつがなくすすめば、僕たちも苦労することなんてなかったのだろう。まあ、もうすでに順調というにはいろいろなことがありすぎたわけだが、ともかく、もう少しだけ普通……っていうのも違うか、とにかく僕は初めての怪盗をもっとまともな、いや簡単なものにしてほしかった。
最初から、強力な魔法を得ることは魅力的で、それでいて悲劇的な作戦など、最初からうまくいく可能性が悲惨的なほどに低かっただろう。
冷静になって考えれば、命すら保障されるはずもないこんな作戦に参加するなんてありえなかっただろう。
最初に断っておくが、人のせいにするわけではない。だが、彼女が――ジャンヌがあまりにも自信満々だったから参加してしまった。まあ、命だけでもたすかっただけましなのだろう。
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