彼女はその程度か? ~奪われし魔法~

城井 白

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悪霊と貴族と

武器

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 あれだけ警備の厳しかった屋敷をいともたやすく抜け出せ、夜になり全く人気のない中央通りまでたどり着けたのはある意味では不自然ともいえるが、まあ抜け出せたのに文句を言うのもおかしな話だと思う。何度も言うが、別に文句を言いたいわけじゃない。ただ、どう考えても不自然なのだ。
 それは、アルだって気がついているはずだ。
 さっきから、横目でちらちらとこちらを見てくるのがその証拠だろう。

「これは、罠かもしれない」
「嫌なこと言わないでよ……ただでさえ、顔を見られてしまうなんて言う失態をしたところよ」

 いやはや、全くその通りだ。
 しかし、だからこそ不自然だろう。僕たちの顔を見たあの男は、いつの間にか、気配すらなく僕の後ろに立っていた。そんな男が、これほどたやすく僕たちに巻けるだろうか、いや無理だ。不可能だ。

「そうだね、僕もそこまで愚かじゃないつもりだけど……ところが、君たちが考えているほど有能な男でもないのだよ」

 再び背後から、男の気配がした。今度は驚くこともなかった。
 それは、やっぱりとしか言いようがないからだ。だってどう考えても、逃げ切れるはずがないもの。なんといってもこれはチャンスだ。

「会いたかったよ」

 いや、僕がそんなことを本気で思っているわけもない。だが、ここで遭遇したのが彼でよかったと思っているのは確かだ。
 男は僕の言葉に少しだけ笑う。
 何がおかしいのかは僕には皆目検討もつかない。いや、考えたくもない。

「それは僕もだよ。怪盗には色々と思うところがあるからね……ともかく、僕の話を聞いてもらってもいいかな? それとも戦いのほうがお好みかな?」
「いいや、今の僕たちじゃあんたに勝てる気はしないよ。できれば話し合いで解決したいのはこちらも同じだ」
「話が分かりそうではあるね、でも僕は君とは違うよ。僕はもともと話し合いで解決するつもりはない、先に話すか、あとで話すかの違いでしかない」
「なら僕たちを倒してから、話せばいいんじゃない?」

 何が言いたいのかわからないが、僕は男に少しだけ不満を感じる。そんな僕を見て、男はひたすら笑い続ける。

「冗談だよ。僕が今君を倒すことには何のメリットもないからね。というよりも、さっきも言っただろう、僕は探偵だけど君たちを捕まえるのは不本意なんだよ。――幸い君たちが侵入したことを知っているのも僕だけだしね」
「私たちを逃がして、依頼を反故にするってこと?」
「いやいや、それは違うだろう? 僕は魔法書の警備を任されただけだ……侵入者を捕まえてくれとは言われていないわけだ。だったら無駄な殺生は避けるだろう? それなら折衝した方がいいだろう? 難しい言葉を使ってしまったな、まあつまり……君たちを見逃す代わりに――」
「――交換条件ってことか?」

 僕はこれを待っていた。もともと、味方とは言えない相手だが、利益を目的としているというのであれば、まだ信用は出来る。
 アルはまだその男を信用していないようだが、それもまた仕方のないことだろう。
 ともかく、僕は出来るだけに冷静に話し合いに応じる。男も表面上は笑ったりして楽しそうなふりをしているが、彼からは冷徹さしか感じない。

「まあ、そういうことだね。いわゆる交渉というやつだ。本当に話しが早いね、でもお母さんに習わなかったのかい、人の話は最後まで聞けって? まあいいけどさ、とにかく君にはこれからもどんどん怪盗として実力をつけてほしいというわけさ……。だけど、何度も言うけど、僕は探偵だ。どう考えても体裁がよくないだろう? まあ、探偵といってもこの国のじゃないけど……ってどうしたんだい? そんなに不可解な顔をして?」

 突然そんな話をされたら誰だって不可解だろう。それは僕だけじゃないはずだ。アルだってそうだろう。
 しかし、男は僕たちの気持ちなんて無視して話を続ける。

「ふうん……まあ君がどう思おうといいけど、これでもこの国に持ち込むことを禁止されている『武器』を持ち込ませてまで僕なんかを雇った貴族には悪いだろう? ああ、この際の悪いというのは貴族に後ろめたく感じるってことじゃないよ。僕なんかを雇って、あんなものを守るものに抱く罪悪感なんてこれっぽっちも持ち合わせていないからね。ともかく、悪い貴族であっても始末してしまうのは気分が悪いだろう? だから、なるべく僕は貴族たちとも敵対したくないわけだ」
「つまり、僕たちが怪盗しているのをただで見逃すのは難しいってこと?」
「なるほど、そうとらえられてはそうと言うしかないのだろうけど、本質はそこではないよ。僕はね、すべての怪盗を見逃すわけじゃないからね……。でも、見逃したい怪盗もいるわけだ。いやいや、君たちに怪盗団のほかのやつらを裏切れって言ってるわけじゃないよ。僕といい勝負をしてほしいって言ってるんだ。僕はね、実力がかけ離れている相手を簡単に取り逃がすほど甘いつもりはないからね」

 いや実力云々はさておいて、この男には芝居の才能が皆無だ。
 先ほどの大根役者ぶりを見れば彼に才能がないことは明白で、疑う余地もないほどに軽薄な行動となるだろう。

「つまり、演技するよりも、本気でやった方が楽ということだね」

 僕が彼の考えの本質を理解できたのがよっぽどうれしいのか、再び男は笑い始める。先ほどよりも冷徹な感じは男からしなくなっていたが、それでも信頼できるような感じもまるでしない。それは男から薄くはあるが殺気が出ているからだろう。
――そんな男を信用しようとしているなんて、いつもの僕らしくもない。
 当たり前だ。そんな男を信用していいはずがない。信頼なんて持ってのほかだ。
 あくまで、僕は構えを解くことはせず、男の言葉に耳を傾けていた。もしかしたら、それが気に食わなかったのかもしれない。
 男は背中の剣を今にも抜刀するのではないかと構えている。

「いやいや、君達にはちょっとだけ感心したよ。僕が剣を抜こうとしても待ったく構えを崩さないなんてね。僕がこぼしている少しの殺気に気がついたのかな? まあ、それぐらいじゃないと見込みなんてないけどね。今回は時間の無駄にならずに済みそうだ」

 そう言い切ると、男は剣を抜いた。

「さて、それじゃあ戦いのほうを始めようか」

 結局こうなるのか、まあ何もなく帰れるというのも甘い考えだったのかもしれないけど、ともかく、殺されることはないだろう。僕たちが彼にとって見込みがあると認められればの話だが、それでも確実に死ぬよりははるかにましといえるだろう。
 なんて考えているうちに、僕の目の前まで剣が迫る。どう考えても時間的見てもおかしい、男の動きは常軌を逸している。――なんて考えている暇もない!
 僕はすんでのところで剣をかわして、後ろに飛びのいた。
 驚いた。まさか僕にこんな運動能力があったなんて……しかし、これ以上は厳しい。絶対あんなのもうかわせない。

「フランっ! 魔法を!!」

 魔法って言われても、どう考えてもここで変装魔法なんて使いどころがないだろう。それに本名を言うのはちょっと待ってくれないだろうか。

「フランっていうのかい? それにしても僕の攻撃をかわすなんてやるじゃないか……それじゃあ魔法ってやつを見せてもらうとしようかな」

……僕の魔法なんて……使ったところでどうなるわけでもないのに、なんだろうこの期待感は、アルも僕の魔法は知っているはずなのに。
 だが、どのみち魔法を使わなずともなにも変わらないだろうし、この場所、中央通りに一番ゆかりのある人物が強い人物であることに期待するしかない。

「変装魔法」

 まあ、中央通りだし、王国で伝説的な騎士とかが何かの凱旋で使ったなんてことがあるかもしれない。だから僕は僕なりにちょっと期待していた。
 だが、真実というのは残酷だ。

「……君は面白いね。その姿になんの意味があるのかはわからないけど、魔法を見せてくれたお礼だ。僕の武器の力も見せてあげよう」

 おそらく、この道を作ったであろう大工へと変貌を遂げた僕に、男は剣を振り上げる。その様子を見てアルは、ようやく僕の魔法が変装魔法しかないことをおもいだしたのか、急いで駆け寄ってきているのが見える。
 おいおい、そんなに悲しそうな顔はやめてくれよ。たぶん殺されはしないだろうし、ちょっと怪我するだけだ。
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