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悪霊と貴族と
歴史
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アルが何かを大声で叫んだかと思うと、大気中の空気が変わる。なんと言うかピリピリした感じだ。おそらく魔法を発動したということだろう。とにかく、どのような魔法なのかはわからないが、それほどまでにすごい魔法だとはとても思えない。
「無駄だよ」
男は剣を軽く振り払う。すると、周囲を覆っていた異変がいとも簡単に消滅した。
「……っ! どういうこと、私の魔法が!?」
アルは驚いた表情で、僕の方を見る。すべてはもう手遅れだと、言わんばかりに絶望に絶望を塗り重ねたかのような、彼女の顔は僕の目には少しだけ、ほんの少しだけ悲しい気持ちになる。
今思えば、もっとやりようがあったのではないかと思わないでもないが、ともかくこのようになってしまったこと自体が僕たちの落ち度でもある。
振り下ろされた剣がスローモーションで僕の頭上にまで迫っている。思考が停止するなか、頭の頂点で剣が止まる。
「どうだい? 面白い剣だろう、『武器』というのはそのまま使うこともできるけど、こんな使い方だってできるんだよ」
男は何だかうれしそうに騒いでいるが、こんな使い方といわれても、普通に剣を使っているようにしか見えないが、いったいどういうことだろう。
「フラン、姿が……」
今度は絶望ではない、切望にも似たアルの声が僕の耳に入ってくるのがわかった。
僕は生きているのか。まあ、そうだろうね、彼からは僕たちに対する殺気を一切感じられなかった。彼の殺気は最初から別のところに向けられていた。彼はもともと僕を、僕たちを倒す気なんてなかったのかもしれない。
かといって、彼は意味もなく僕たちを脅すために剣を振り下ろしたわけではないだろう。
「これが武器の力というわけか……」
「いやいや、これは能力の一つでしかない。もっと面白いものを見せてあげようと思って、せっかくここまで出向いてあげたんだよ。まあ、君の能力は人間としてはかなり高いとは思うけど、怪盗としてはどうなんだろうね……怪盗としての能力なら、案外彼女の方が強いのかもしれないけど、なんだ……僕は君を気に入ったから生かしておくことにしようってことにしておこうかな?」
僕はアルの方から視線を切り、男の方を振り向いた。
そこには信じがたい光景があった。先ほどまでの黒い衣装を身にまとった男がどこにもいないのだ。――いいや、違う男はそこにいた。だが、それは先ほどまでの姿ではなかった。
男の姿に僕は思わず絶句する。
「いやあ、魔法ってのは面白いね。なんて、魔法がどのようなものなのかはよく知っているつもりだけど、こうして改めて使ってみると面白いよ。まあ、自ら望んで使いたくはないけどね」
その男の姿は間違いなく、見たことがある。あれは教科書で見た姿だ。建国時代の大英雄で、この国最高の騎士と誉れ高い男で、名前は覚えていないがあの特徴的な髭には見覚えがある。
しかし、彼が活躍した時代など遥か昔で、今から数えるなら一体何年ほど前なのだろうか、というぐらいに昔の存在だ。今ここに存在するはずがない。
もっと歴史の勉強をしておくんだった。そういう話でもないけど。
「どうして、その姿に?」
いや、驚くべきところはそこではないだろう。自分で口にしておいてなんだが、尋ねるべきことは『どうして変装魔法を?』だ。だがしかし、僕は僕のプライドとやらをひどく傷つけられてしまったのだろう。
彼が僕よりもはるかに魔法の本質を知っているからだ。
「変装魔法ってのは、その場所にゆかりのある人物になる能力なんだろう? だったら簡単じゃないか、それとも君は先ほどの大工になるべくしてなったということなのかな? それはそれで面白そうだが、ことはそう単純じゃなさそうだ。ともかく、場所というのは位置をすなわち座標を指している。だからこそ、この町の中心点であるところの、いやまあ僕が立っている場所のことなんだけど、ともかくここが彼の場所ということは誰でも知っていることだろう」
そうだ、男の言うとおり、この町の中心が英雄の墓だということは誰でも知っている話だ。だけど、ここは中心ではない。国の中心は王城のはずで、彼の墓は王城の地下深くに保管されているはずだ。それこそ、この町の住民であれば下民ですら知っている事実である。
だから、こんな何もない道のど真ん中に墓などあるはずもなく、ここが英雄の場所であるはずもない。なにより、もしそうだったとしてももっと地下なはずだ。
「ありえないわ」
アルが叫ぶ、僕はそこまではしないが、自分のわずかに覚えていた歴史との食い違いに違和感を覚えないでもなかった。
しかし、そんなことはお構いなしにと、男は足を一歩踏み出す。
「ふうん、まあ君たちが勉強不足だってことはよくわかったけど、それよりもこの魔法がいかに使い勝手が悪いかのほうがよくわかるね。英雄に変身できたどころで、彼の力を使うことができるわけではない。――見かけ倒しだ」
男はそう言い切ると、もう片方の足も前へと踏み出した。その瞬間、男の姿がもとに戻る。
「やっぱり、魔法は便利だ。それでいて不便でもあるけどね」
「無駄だよ」
男は剣を軽く振り払う。すると、周囲を覆っていた異変がいとも簡単に消滅した。
「……っ! どういうこと、私の魔法が!?」
アルは驚いた表情で、僕の方を見る。すべてはもう手遅れだと、言わんばかりに絶望に絶望を塗り重ねたかのような、彼女の顔は僕の目には少しだけ、ほんの少しだけ悲しい気持ちになる。
今思えば、もっとやりようがあったのではないかと思わないでもないが、ともかくこのようになってしまったこと自体が僕たちの落ち度でもある。
振り下ろされた剣がスローモーションで僕の頭上にまで迫っている。思考が停止するなか、頭の頂点で剣が止まる。
「どうだい? 面白い剣だろう、『武器』というのはそのまま使うこともできるけど、こんな使い方だってできるんだよ」
男は何だかうれしそうに騒いでいるが、こんな使い方といわれても、普通に剣を使っているようにしか見えないが、いったいどういうことだろう。
「フラン、姿が……」
今度は絶望ではない、切望にも似たアルの声が僕の耳に入ってくるのがわかった。
僕は生きているのか。まあ、そうだろうね、彼からは僕たちに対する殺気を一切感じられなかった。彼の殺気は最初から別のところに向けられていた。彼はもともと僕を、僕たちを倒す気なんてなかったのかもしれない。
かといって、彼は意味もなく僕たちを脅すために剣を振り下ろしたわけではないだろう。
「これが武器の力というわけか……」
「いやいや、これは能力の一つでしかない。もっと面白いものを見せてあげようと思って、せっかくここまで出向いてあげたんだよ。まあ、君の能力は人間としてはかなり高いとは思うけど、怪盗としてはどうなんだろうね……怪盗としての能力なら、案外彼女の方が強いのかもしれないけど、なんだ……僕は君を気に入ったから生かしておくことにしようってことにしておこうかな?」
僕はアルの方から視線を切り、男の方を振り向いた。
そこには信じがたい光景があった。先ほどまでの黒い衣装を身にまとった男がどこにもいないのだ。――いいや、違う男はそこにいた。だが、それは先ほどまでの姿ではなかった。
男の姿に僕は思わず絶句する。
「いやあ、魔法ってのは面白いね。なんて、魔法がどのようなものなのかはよく知っているつもりだけど、こうして改めて使ってみると面白いよ。まあ、自ら望んで使いたくはないけどね」
その男の姿は間違いなく、見たことがある。あれは教科書で見た姿だ。建国時代の大英雄で、この国最高の騎士と誉れ高い男で、名前は覚えていないがあの特徴的な髭には見覚えがある。
しかし、彼が活躍した時代など遥か昔で、今から数えるなら一体何年ほど前なのだろうか、というぐらいに昔の存在だ。今ここに存在するはずがない。
もっと歴史の勉強をしておくんだった。そういう話でもないけど。
「どうして、その姿に?」
いや、驚くべきところはそこではないだろう。自分で口にしておいてなんだが、尋ねるべきことは『どうして変装魔法を?』だ。だがしかし、僕は僕のプライドとやらをひどく傷つけられてしまったのだろう。
彼が僕よりもはるかに魔法の本質を知っているからだ。
「変装魔法ってのは、その場所にゆかりのある人物になる能力なんだろう? だったら簡単じゃないか、それとも君は先ほどの大工になるべくしてなったということなのかな? それはそれで面白そうだが、ことはそう単純じゃなさそうだ。ともかく、場所というのは位置をすなわち座標を指している。だからこそ、この町の中心点であるところの、いやまあ僕が立っている場所のことなんだけど、ともかくここが彼の場所ということは誰でも知っていることだろう」
そうだ、男の言うとおり、この町の中心が英雄の墓だということは誰でも知っている話だ。だけど、ここは中心ではない。国の中心は王城のはずで、彼の墓は王城の地下深くに保管されているはずだ。それこそ、この町の住民であれば下民ですら知っている事実である。
だから、こんな何もない道のど真ん中に墓などあるはずもなく、ここが英雄の場所であるはずもない。なにより、もしそうだったとしてももっと地下なはずだ。
「ありえないわ」
アルが叫ぶ、僕はそこまではしないが、自分のわずかに覚えていた歴史との食い違いに違和感を覚えないでもなかった。
しかし、そんなことはお構いなしにと、男は足を一歩踏み出す。
「ふうん、まあ君たちが勉強不足だってことはよくわかったけど、それよりもこの魔法がいかに使い勝手が悪いかのほうがよくわかるね。英雄に変身できたどころで、彼の力を使うことができるわけではない。――見かけ倒しだ」
男はそう言い切ると、もう片方の足も前へと踏み出した。その瞬間、男の姿がもとに戻る。
「やっぱり、魔法は便利だ。それでいて不便でもあるけどね」
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