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悪霊と貴族と
悪霊
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「魔法はそんなに不便なものじゃない!」
僕は男の言葉を否定する。
別に彼の言うことが間違っているわけではないのだろう、もしかしたら彼の言葉こそが真理なのかもしれない。でも否定したかった。
男は僕にばかばかしいと言う。
「それならどうして怪盗になる? 魔法が必要ないと感じたからじゃないのかい。僕は怪盗とはそういうものだと思っていたのだが、君はどうやら違うらしい。だが、君がほかの怪盗……いやこれは僕の妄想だが、ほかの怪盗と同じように貴族と悪霊の圧政が気に入らなったから魔法をなくそうと思ったんじゃないのかい?」
薄ら笑いを浮かべながら、男は僕にそう投げかけた。
彼の態度は非常に軽々しいが、その言葉は重い。それは彼が物事の本質を知っているからなのだろう。僕にはその本質というものが見えていないということなのだろう。
「たぶんそうなんだろう。でも、僕は魔法の可能性も信じている」
「おかしなことを言うね……だったら、魔法を使って国を変えていけばいいじゃないか。貴族が、悪霊が、平民が、魔法を使える全種族が魔法を悪いことにだけ使ったとしても、君はいい方向に使えばいいじゃないか。まあ、僕はそれでも魔法をいいものだとは思わないだろうけどね。でも君にとっては、悪霊だとか聖霊だとか、そんなよくわからないものが生み出した力を信じたいという。それはどうしてだい?」
「魔法は不便で、悪用されがちで、平等ではないね。それでも、使い方によっては逆になる。それはあんたの使う武器だって、ほかの道具だって同じだろう? あんたは、日常生活で使われている何かに対して、それが誰によってつくられた者なんだろうって気にするか?」
「そりゃ気にするだろう? たとえばこの道は誰がつくったから信頼できる……とか、この剣は名匠誰それが作った最高の武器だ……とか、誰だって気には留めるはずだ。だけど、悪霊と呼ばれる『何か』が作ったものに対しては恐ろしいほど詳細がわかない。不明瞭で不透明だ……ともかく、これからも魔法を盗み続けてくれるのなら見逃すって言っているんだから、君たちが途中でどう思おうが盗み続けるしかないんだけどね」
男は僕たちに背を向ける。おそらく屋敷に戻るのだろう。
しかし、このままでは彼の目的も、交換条件とやらもよくわからないままになってしまう。
「ちょっと待っ――」
僕が声をかけようとした時にはもう姿はなかった。僕は瞬きひとつしていないはずだ。だけど、忽然と姿は消え、まるで瞬間移動したかのようだ。
「あんな男に関わるとろくなことはないわよ」
アルは考え方的にあちら側だと思っていたが、男の不審さからか、殺気からか、まるであの男を信用していない。それは僕だって同じだ。
魔法に対する考え方だけではない。あの男のすべてが信用というものを受け付けない。
彼が僕たちをわざと突き放しているように感じなくもないが、そんなことはどうでもいい。できるだけ彼とはもう関わりたくない。
「関わりたくはないよ」
だけど、あの男の言っていたことはもっともだと言わざるを得ない。
悪霊とは、いったい何で、それを囲っている貴族という存在はいったい何を隠しているのか……僕が魔法を調べたうえで、その一切を知ることは出来なかった。
貴族でありながら、彼らが悪霊という存在を覆い隠している理由を僕は知らない。でもあの男の口ぶりでは、あの男は知っているようだった。
「あの男の言っていた魔法が不明瞭って話し、どう思う?」
僕は思わず口にしていた。
アルがあの話についてどう思ったのか、それを純粋に知りたかった。彼女は魔法に関して、僕とは正反対の色眼鏡をかけている。僕とは違った見方ができるはずだ。
彼女は髪をかき上げ、僕に対して「ここでは目立つは、家に帰りましょう」とだけ言って歩き始めた。
僕は彼女において行かれないように急ぎ足で歩く。それを確認した彼女は、僕に足並みを並べ、こちらをちらりと見た。
「どうしたの?」
「おかしい、誰の気配も感じない」
頭から顎にかけて一線のしずくをこぼしながら、彼女は冷静な口調でそう答えた。
確かに、いつもと違い人がいなさすぎる気もするが、それは『おかしい』なんて言うほどのことでもない。よくはないが、たまにあることだ。
しかし、彼女の様子からそれだけの話ではないのだろう。そう思ったところで、彼女の言葉の意味が分かった。――誰も見かけないのではなく、誰の気配も感じない。周りの家々から漏れ出す光が一切ついていない……もう少し遅い時間ならありえる光景だが、今の時間帯では『おかしい』。
「でも助かった。人に見られたら相当にまずいからね」
こんな状況だ。いつもより、彼女が慎重になりすぎているだけかもしれないし、そうでなかっても、ポジティブに考える方が気持ち的にも楽だろう。
確かに、慎重になるべきなのだろうが、ともかく、今はどのみち国に雇われている者たちの二人に顔が割れてしまった状態なのだ。気にしすぎてももう手遅れだろう。
彼女は納得していないだろうけど、なんとか僕の説得のもと、足早に家に帰ることができた。
僕は男の言葉を否定する。
別に彼の言うことが間違っているわけではないのだろう、もしかしたら彼の言葉こそが真理なのかもしれない。でも否定したかった。
男は僕にばかばかしいと言う。
「それならどうして怪盗になる? 魔法が必要ないと感じたからじゃないのかい。僕は怪盗とはそういうものだと思っていたのだが、君はどうやら違うらしい。だが、君がほかの怪盗……いやこれは僕の妄想だが、ほかの怪盗と同じように貴族と悪霊の圧政が気に入らなったから魔法をなくそうと思ったんじゃないのかい?」
薄ら笑いを浮かべながら、男は僕にそう投げかけた。
彼の態度は非常に軽々しいが、その言葉は重い。それは彼が物事の本質を知っているからなのだろう。僕にはその本質というものが見えていないということなのだろう。
「たぶんそうなんだろう。でも、僕は魔法の可能性も信じている」
「おかしなことを言うね……だったら、魔法を使って国を変えていけばいいじゃないか。貴族が、悪霊が、平民が、魔法を使える全種族が魔法を悪いことにだけ使ったとしても、君はいい方向に使えばいいじゃないか。まあ、僕はそれでも魔法をいいものだとは思わないだろうけどね。でも君にとっては、悪霊だとか聖霊だとか、そんなよくわからないものが生み出した力を信じたいという。それはどうしてだい?」
「魔法は不便で、悪用されがちで、平等ではないね。それでも、使い方によっては逆になる。それはあんたの使う武器だって、ほかの道具だって同じだろう? あんたは、日常生活で使われている何かに対して、それが誰によってつくられた者なんだろうって気にするか?」
「そりゃ気にするだろう? たとえばこの道は誰がつくったから信頼できる……とか、この剣は名匠誰それが作った最高の武器だ……とか、誰だって気には留めるはずだ。だけど、悪霊と呼ばれる『何か』が作ったものに対しては恐ろしいほど詳細がわかない。不明瞭で不透明だ……ともかく、これからも魔法を盗み続けてくれるのなら見逃すって言っているんだから、君たちが途中でどう思おうが盗み続けるしかないんだけどね」
男は僕たちに背を向ける。おそらく屋敷に戻るのだろう。
しかし、このままでは彼の目的も、交換条件とやらもよくわからないままになってしまう。
「ちょっと待っ――」
僕が声をかけようとした時にはもう姿はなかった。僕は瞬きひとつしていないはずだ。だけど、忽然と姿は消え、まるで瞬間移動したかのようだ。
「あんな男に関わるとろくなことはないわよ」
アルは考え方的にあちら側だと思っていたが、男の不審さからか、殺気からか、まるであの男を信用していない。それは僕だって同じだ。
魔法に対する考え方だけではない。あの男のすべてが信用というものを受け付けない。
彼が僕たちをわざと突き放しているように感じなくもないが、そんなことはどうでもいい。できるだけ彼とはもう関わりたくない。
「関わりたくはないよ」
だけど、あの男の言っていたことはもっともだと言わざるを得ない。
悪霊とは、いったい何で、それを囲っている貴族という存在はいったい何を隠しているのか……僕が魔法を調べたうえで、その一切を知ることは出来なかった。
貴族でありながら、彼らが悪霊という存在を覆い隠している理由を僕は知らない。でもあの男の口ぶりでは、あの男は知っているようだった。
「あの男の言っていた魔法が不明瞭って話し、どう思う?」
僕は思わず口にしていた。
アルがあの話についてどう思ったのか、それを純粋に知りたかった。彼女は魔法に関して、僕とは正反対の色眼鏡をかけている。僕とは違った見方ができるはずだ。
彼女は髪をかき上げ、僕に対して「ここでは目立つは、家に帰りましょう」とだけ言って歩き始めた。
僕は彼女において行かれないように急ぎ足で歩く。それを確認した彼女は、僕に足並みを並べ、こちらをちらりと見た。
「どうしたの?」
「おかしい、誰の気配も感じない」
頭から顎にかけて一線のしずくをこぼしながら、彼女は冷静な口調でそう答えた。
確かに、いつもと違い人がいなさすぎる気もするが、それは『おかしい』なんて言うほどのことでもない。よくはないが、たまにあることだ。
しかし、彼女の様子からそれだけの話ではないのだろう。そう思ったところで、彼女の言葉の意味が分かった。――誰も見かけないのではなく、誰の気配も感じない。周りの家々から漏れ出す光が一切ついていない……もう少し遅い時間ならありえる光景だが、今の時間帯では『おかしい』。
「でも助かった。人に見られたら相当にまずいからね」
こんな状況だ。いつもより、彼女が慎重になりすぎているだけかもしれないし、そうでなかっても、ポジティブに考える方が気持ち的にも楽だろう。
確かに、慎重になるべきなのだろうが、ともかく、今はどのみち国に雇われている者たちの二人に顔が割れてしまった状態なのだ。気にしすぎてももう手遅れだろう。
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