彼女はその程度か? ~奪われし魔法~

城井 白

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正体不明の

あの男

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 結局、あの夜以来あの男が姿を現したことはない。
 ジャンヌにもそれとなく聞いたが、そんな男は知らないというばかりで確かな情報が入ってくることもなかった。何より、あの男が僕たちの正体をばらしていないという現状を考えるに、僕たちはあの男の言うとおり、怪盗を続けるほかないということなのだろう。
 アルも僕と同じ意見だ。というより、アルはもともと怪盗をやめるつもりなどない。僕は彼女の考えを容認できるはずもないが、死なばもろともという考え方が強く、どうせ捕まるのであれば十大拷問魔法を盗むしかないと何度も一人で出て行こうとした。
 僕が何度も止めるのをようやく聞いてもらって、ここ最近は目立たないように依然のようにくだらないという魔法ばかりを盗んでいたのがここ最近のことだ。

「本当にこのままでいいのかな?」

 アルが大きなため息とともに、自身の中にある不安を吐露する。
 彼女の言うことはもっともで、このまま誰にも必要とされていない魔法ばかり盗んでいても、貴族を怒らせるばかりで実害はほとんどない。
 まあ実際のところ、ジャンヌの言うように魔法は使いようというのもわからないわけじゃないから、全く無駄な日々とは言えないだろう。
 しかし、アルが不安になるのもしかたない。彼女にとっては何も変わらない日常が今まで通り続いているだけだからだ。彼女にとって変わったことといえば、僕に正体が知られたこと、足手まといが増えたことぐらいだろう。
 だからこそ、僕は彼女にあまり強く言うこともできない。

「確かにそうだね。僕のせいで申し訳ないよ」

 僕は彼女に深く頭を下げる。それを見て彼女はあわてた様子で、否定する。

「そういうことじゃないよ! ただ、もうそろそろもう一段階進んでもいいんじゃないかな」
「怪盗として?」

 それしか答えはないだろうと、僕は名にも考えず言い切った。しかし、彼女は大きく首を振る。
 そんな強く否定されても、それ以外に何があるのか僕にはわからない。だが、その答えを彼女は教えてくれそうにもないぐらいに膨れている。――いったい僕にどうしろっていうんだ。
 彼女はそうなってしまうと、僕がどれほど謝っても機嫌を直さないだろう。仕方がない、ここいらで真剣な話をするとしよう。
 僕は話をそらすと同時に、彼女に聞きたかったあの夜の話をする。

「そういえば、あの男が言っていた魔法の話……アルはどう思う?」

 突然真剣な話をされたものだから、アルはかなり動揺していたようだ。思わず変な声が出ていた。しかし、それが彼女のかわいいところで、機嫌が悪かったのにも関わらず、僕の話題に対して言葉を返してくれるのが彼女のいいところである。
 ともかく、彼女は機嫌が悪かったことなど忘れ、僕の方を向きなおした。

「あの男の意見には私も同意せざる負えないでしょうね……魔法を作った悪霊という存在、それがいまだにどういった存在なのかを知る人は少ないわ。それを知っているのは一部の貴族だけ、それはとても怪しいことだわ。そんな謎の技術を使うこの国は、他国にとってとても奇怪でしょうね」

 全くあの男と同じ意見を述べるアルに、僕も多少ならずとも納得せざるを得ないことに気がついた。
 確かに、そういわれればそうなのだ。そんなことは僕だって、あの夜あの男に言われた時点から気がついていたに違いない。ただ、それを認めるわけにはいかないというだけだ。
 僕は魔法愛好家として、魔法が不透明なものだと思いたくなかっただけだ。現に今でも魔法のことは愛しているし、本当のところはなくしたくもない。しかし、アルと天秤にかけると、魔法はとるに足らないものに成り下がる。
 見知らぬ男に何を言われようが心に刺さることなどないが、大切な人から言われると少しだけ刺さるものがあるのだ。

「そうだね……」

 すべてを納得できたわけではないが、そういう考え方があるということはようやく受け入れられそうだ。
 彼女は僕の気のない返事に納得はしていないようだが、僕の魔法好きを知っているからか、特に深く突っ込んでくるようなこともなかった。
 この日は結局このまま、彼女と他愛ない話をして就寝した。
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