そとづら悪魔とビビりな天使〜本音を隠す者たち〜

エツハシフラク

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真黒 燈(マクロ アカシ)

4:少しの変化と新たな驚き

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 自宅に到着したときには夜八時を回っていた。あいつは七時に観たいテレビがあるとかで急いで帰っていった。数時間前まで死のうとした奴が言うことじゃないだろう。
 玄関のドアを開けて靴を脱いだあと、すぐさま自室に入り電気を付けて鞄を床へ無造作に置く。
 制服を脱ぎ部屋着に着替えると、ベッドに腰掛けスマホを手に取った。昨日までだったら炎上ネタを仕入れるのだがあいつからのメールの通知に気付く。

『家着いた?  今暇?  暇ならメール下さい』

 図々しい奴だ。あんたのせいでこっちはクタクタなんだよ。
 姉からのLINEだったら既読スルーで間に合うが、メールにはその機能を備えていない。
 悩んでいるとノックの音がした。

「んー……」

 昨日の二の舞になりたくないので一応返事をする。ガチャリとドアが開くと姉が顔だけ出してきた。俺の存在を確認するとため息をついた。

「はぁ……帰ってるんだったら『ただいま』くらい言いなさいよ」
「はいはい。ただいま」
「心のこもっていない『ただいま』だこと」

 言えと言われたから言ったのに……なんなんだよ、この仕打ちは。姉はこの押し問答を終わりにして本題を切り出した。

「ねぇ、ご飯作ってあるけど食べんの?」
「食う。風呂は?」
「それくらい自分で用意しなさいよ。ご飯はコンロの鍋にあるから適当にどうぞ」

 姉は沈黙を肯定と捉えたのか大きいため息をつく。ため息ばかりだと幸せが逃げると教わらなかったのか?
 ドアを閉める直前、何かを思い出したかのように再び開けた。反射的に眉間に皺を寄せ睨む。

「なんだよ」
「今日あの掲示板見てないからめずらしいなぁって思って」
「だから勝手に見んなよ!」
「ネットで鬱憤晴らしたい気持ちもわかるけど現実の友だちを大事にしなさいよ。友だちは一生ものなんだからね」

 適当に相槌をうち左手をパタパタさせ『シッシッ』の動作をした。

「へーへー。わかったよ」
「全くもう……」

 姉はぶつくさ言いながらドアを閉めた。
 『友だち』ねぇ……
 あいつが俺に持った興味はどれくらいのものかはわからない。でも目の前であんなことをされてメールを無視するのもなんだか気が引ける。

「『飯と風呂済ませたらメールする』……と」

 小声を出しながらメールを打ちスマホをベッドに放り投げ部屋を出た。
 たまに訪れる些細な気まぐれが俺の人生を大きく変えるとも知らずに。



……


 午後九時。俺はひと通りのことを終えて自室に戻ってきた。照明をブックライトに変えスマホを持ちベッドに寝そべる。
 またビビりからの通知があった。俺が部屋から出たあとにすぐに送ったようだ。

『わかった!  待ってるね!』

 素直過ぎるだろう。まぁ、いいか。

『済ませたけど』
『おかえり!  ねぇねぇ、私アカシ君のことをほとんど知らないから軽くお互い自己紹介しようよ!』

 送信後ものの数秒で返信が来てさすがに驚く。下手したらLINEより早いのではないか。

『返信早すぎるだろ……自己紹介? 別に構わねぇけど、寝ちまっても文句言うなよ?』
『え?  なんで?  普通おやすみって送るまで寝ないものでしょ?』
『あんたのせいだろうが!』
『まぁまぁ。じゃあ、名前は聞いたし歳は?私は二十一だよー。飲食店とカラオケのバイトしてます!』

 おいおい、女は歳を気にするもんじゃないのか?仕事は掛け持ちしてるのか。
 二十一って姉貴より年上かよ。外に出るときケバくなるあいつとは真逆で、化粧っ気がなかったから同年代かと思った。年上だとしても十八とか。

『高校一年の十六』
『若いね!  次は誕生日!  私は七月七日です。七夕だよー』
『ふーん。五月九日 』

 めずらしく間が空く。トイレか?

『え!?   ついこの間だったの!?   プレゼントあげたいからまた会おうよ!』
『結構だ。もうプレゼントって歳でもねぇし』

 斜め上の発言に驚くと同時に納得した。なるほど、考えていたから返信が遅れたのか。

『ダメ!  今回のお詫びに何かあげるくらい良いでしょ?』
『条件がある。食べ物は無し。酷い思いしたからな』
『お安い御用だよ!  いつにする?  土曜日なら何時でも良いよ!』

 こっちの都合は聞かないのかよ…… まぁ、確かに予定は空いているが。
 話がひと区切りつきそうなりあくびと共に急激な眠気が襲ってきた。だが寝るわけにいかない。

『了解。じゃ、十時にあの公園で』
『うん!  今日は木曜だからあさってだね!  楽しみにしててほしいな』

 別に楽しみではないが。反発すると面倒だし放っておこう。

『はいはい。もう寝るぞ』

 スマホ画面の上部に表示された時計を見るとすでに十時を過ぎていた。ブックライトを消して本格的に寝る準備をする。

『そうだね!ゴメン。付き合ってもらっちゃって。おやすみ』

 一応人を気遣う心はあるらしい。

『おやすみ』

 そう送信した直後大きなため息をついた。今日一日でいろいろありすぎた。謎の多い女だ。
 明日、無事に起きられるだろうか。そんなことを思いながら俺はベッドに身を委ね眠りへと意識を手放していった。



……


 朝七時。アラームによって目が覚めた。ベッドから起き上がると案の定身体が重い。
 両手を組み、高く挙げて背筋を伸ばすとコキッという小気味の良い音が鳴った。
 洗面所で顔を洗い、髪型を整える。制服に着替え、鞄の中身を確認して玄関を出た。

 登校途中に朝食をコンビニで済ませて校舎に入る。
 廊下を歩いていると、昨日クレープを食わせてきた女子二人と目が合った。相変わらずケバくて朝から気分は最悪だ。

「真黒くんおはよう!  昨日はどうしたの?  変な女と一緒だったけど」
「あのあと野次馬に話しかけられて面倒くさかったー」
「あぁ、それね。ちょっと強引なスカウトだったから断ってすぐに帰ったんだ」

 開口一番の話題に嫌気がさし、その場凌ぎの嘘をつくが二人は納得したようだ。

「やっぱり?  真黒くんカッコいいもん!  どうして読者モデルとかやらないの?」
「芸能人になったら自慢できるし!」
「まだ高校生だし、勉強を頑張りたいんだ。それからでも遅くないよね?」

 答えなんてわかりきってるけれども。この自己顕示欲の塊め。
 タイミング良く朝礼を告げる予鈴が鳴る。

「もちろんだよ!  それじゃ」
「クレープまた食べに行こうね!」

 誰が食うかよ。俺は笑顔だけ返すと自分の席に着いた。
 授業が始まる。



……


「なぁ、これから学食行かねぇか?」

 昼休みになると奏介に話かけられた。いつもは購買だが悪くない。

「いいね。なら急ごう」

 愛想笑いとともに鞄から財布を取り出し席を立つ。


 食堂はピークとはいかないものの混み始めていた。ここは生徒はもちろん学校関係者もちらほら利用している。
 安い、量と種類が多い、うまいの三拍子が揃っていると評判らしい。

「先に買ってこいよ」
「あぁ、悪いな」

 奏介が席に座り場所を取っておいてくれるようなので礼を言い券売機に並ぶ。
 前にいた女子の集団が、順番を譲ろうとしてきたが断った。さすがに割り込みは人間として良くない。
 俺の番が回ってきて券を買う。悩んだが無難にカレーにした。どうせ腹に入れば食い物なんて同じだし。
 配膳され水をコップに注ぐと奏介のいる場所まで戻る。

「おまたせ」
「おかえり。じゃあ、俺も。先に食ってていいぞ」
「いや、待ってるよ」
「まぁいいけど。じゃあな」

 数分して戻ってきた奏介の持つトレーにはラーメンが乗っていた。
 両手を合わせ食べ始めると視線がバシバシと身体に当たる。

「相変わらずの人気ぶりだな」
「あぁ」
「おいおい、否定しないのかよ」

 奏介がからかいながら言うが、そういうお前だって名前負けしない爽やか高校生だと持て囃されてるじゃないか。男の俺から見てもそこそこ男前だと思う。
 たわいもない話をしながら食べ進め皿が空になった。もう少し静かなら味わってゆっくりと食べられるのに。まぁ、女子の割り込みがなかっただけマシか。
 食器とトレーを返却口に置くと教室に戻った。午後は眠くなるが我慢しなければ。
 俺は奏介に断りを入れ自分の机に参考書とノートを広げた。学年一位をキープするためなので妥協はできない。
 授業の予鈴が鳴るまで問題を解き続けた。



……


 放課後になり部活組と帰宅組に分かれる。俺は帰宅組なので授業道具を鞄に詰め込む。

「ねえねえ、真黒くん」
「ん?  どうしたの?」

 女子三人グループの一人が話かけてきたので張り付いた笑顔で答える。すると脇の二人が悶絶し、いちいちうるさい反応。

「今日、カラオケ行かない?  どう?」

 家に帰って勉強したいんだけどな……断ろう。

「ゴメン。今日はちょっと……」
「えー!  カレンとサラと一緒にいたのに今日はダメなの?  昨日『また今度』って言ったよね?」
「いいじゃんカラオケ。俺も行くよ。」

 返答に困っていると浮かれた様子で奏介が割り込んできた。

「え?  お前部活は?」
「一日くらい休んでも平気だって。そんなに大事な時期でもねーし。楽しまないと損だろ?」

 そういうものなのか?  女子三人は大歓迎のようだけど。

「ラッキー!  それじゃあ、行こう行こう!」

 あれよあれよという間に行くことになってしまった。まぁ、奏介がいるからフォローしてくれるだろう。



……


 徒歩圏内の中で一番安いというカラオケにやってきた。学生証を見せるだけでフリータイム五百円らしい。
 受付で店員を呼ぶため呼び鈴を押す。『いらっしゃいませ!』というお決まりのあいさつをしながらやってきたのは……忘れもしない、ビビりだった。

「ビ……」

 ハッとして口を閉じ幸い誰も気がついていないようだった。
 なぜか奏介が受付を済ませ伝票を受け取りゾロゾロと個室まで歩く。

「またあとでね」

 ビビりが俺だけに聞こえる声で囁いた。話しかけんじゃねぇよ。

「ん?  知り合いか?」
「いや、姉貴の友だち」

 奏介に尋ねられたが無難な返しをする。
 個室に入ると女子三人は空調の設定や差し入れの菓子と飲み物を出していた。持ち込みは大丈夫なんだよな?

「アカシ!  一緒に歌おうぜ!」
「えー!?」
「動画撮っていい!?」
「レアだよレア!」

 奏介の予想外の言葉に女子がおのおのに叫ぶ。一応話を合わせるために流行曲くらいは歌えるがどうしたものか。
 リモコンを操作でモニターに予約したタイトルが表示される。
 俺たちが小学校のころ流行ったアニソンか……これならなんとか大丈夫そうだ。


 歌い終わり少し息苦しくなったので廊下に出た。自室以外の狭い部屋は苦手だ。
 するとちょうど暇そうにしていたビビりに遭遇した。

「結構ノリノリに歌うんだね」
「ほとんどあいつに助けてもらったけどな」
「あいつって一緒にいた男の子のこと? アカシくんに友だちがいたんだー。びっくりー」

 バカにしたような発言にカチンとくる。馴れ馴れしく下の名前で呼ぶんじゃねぇよ。

「それくらいいてもいいだろ。お前ほど普通に話さないけどな」
「ふーん。ま、楽しんでって」

 受付の電話がなったのでビビりは仕事に戻っていった。含みのある言い方がひっかかるがそろそろ俺も戻ろう。
 歌わなくてもニコニコしていれば何とかなるよな。



……


 高校生の力を舐めていた。俺も高校生だが、遊び慣れているのと慣れていないとでは次元が違う。
 結局フリータイムをフルに使って遊んでしまった。そして自宅に着いたのが九時過ぎで最近流されてばかりのような気がする。
 シャワーを済ませ、リビングを通る最中に母親が声をかけてきた。

「おかえり。こんな遅くまでどこに行っていたの?」

 遅くまでって、あんたは午前様がほとんどじゃないか……
  そんな本音を隠し、いつも用意している嘘を言う。

「学校のあと友だちの家で勉強していたんだ」
「そう。変な人と付き合わないようにね」
「うん。大丈夫だよ。おやすみ」

 俺は曖昧に返事をして自室のドアを開けた。


 ……気分が悪い。むしゃくしゃする。
 スマホのホームボタンを押していつもの掲示板を開き黒く渦巻く闇をぶつける。やはり人間は同情されたい生き物だ。自分でも女々しいと思うが。
 数分後、ビビりからメールが届いた。こいつには当たるわけにいかない。

『少しビックリしたけど来てくれてありがとう。明日の予定忘れないでね』

 わかってるよ……

『了解。じゃあ、おやすみ』

 こんなもんでいいだろ。
 何だかんだ十時だ。遅刻するとあいつの場合怖いから早めに寝よう。
 そんなことを思いつつブックライトを消してベッドに寝転がり目を閉じた。
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