ハッピーエンドを迎えたら、溺愛王子から逃げたくなりました。

専業プウタ

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18.聖女の力がなくても

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「そんなはずありません。ジスラン王子殿下信じてください。私は毒入りのワインなど持ってきた覚えはありません」

クリスティナ・ボネが狼狽えながら必死に無実を訴える。
周囲に待機していた護衛騎士たちが彼女の喉元に剣を突きつけていた。
彼女は一瞬にしてドートリッシュ王国の王族暗殺未遂の容疑者になった。

「ジスラン、騎士たちに剣をおろさせてください。私もクリスティナ・ボネ侯爵令嬢が毒を入れたのではないと思います。このワインに毒を入れたら真っ先に疑われるのは彼女です」

ジスランはクリスティナ・ボネが犯人である可能性が低いことに気がついたようだ。彼は毒と聞いて激情に駆られた事をを反省しているようで、私にアイコンタクトで謝ってきた。私が微笑みで返すと、彼は私の手の甲に軽くキスを落とす。私は彼の手首を握ったままだったことに気が付き、そっと手を離した。

ジスランが騎士たちに剣を下ろすように合図を送る。騎士たちは剣を下ろした後も、クリスティナ・ボネを警戒していた。クリスティナ・ボネは突然王族暗殺未遂の容疑者に仕立て上げられた事に動揺し震えている。この状況は非常に好ましくない。

「この場合、一番の容疑者はワイン飲まないジスランの妻である私です」
私は騎士たちの注意をクリスティナ・ボネから逸らす事にした。

ドートリッシュ王国の飲酒年齢は二十歳以上で、私以外のグラスにはワインが注がれていた。私のグラスだけ甘い白葡萄のジュースが注がれている。

私の言葉にジスランは困ったような顔をする。
私は客観的事実を述べただけだ。

ワインから毒が出たら、疑われるのはワインを持参したクリスティナ・ボネ。
しかし、ジスランの側室になる事を目的に訪れている彼女がそのようなことをする理由は見つからない。今回参加している側室候補の顔ぶれを見れば、洗練されたクリスティナ・ボネは誰が見ても第一候補だと分かる。

彼女を陥れ自分が選ばれるように仕向けようとする他の側室候補の仕業だと考えるのが妥当だろう。

「フェリシア、君からのプレゼントなら僕は毒でも飲むよ」

側室候補たちの前で見せつけるように、私を口説くジスラン。

「ジスラン、まずはコルクを調べましょう。銀が黒く変色したということは毒物であるヒ素が注入されている可能性があります」

私には毒がワインに入っていて得をする人間に心当たりがあった。

それは、毒を浄化する能力を持つ聖女パウラ。
ジスランが毒に侵されれば、それを浄化する聖女の力を見せつけることで自分の価値を示すことができる。

「ジスラン王子殿下! コルクに穴が開いております」

コルクを点検した従者がまるで歴史的大発見をしたように告げてくる。
穴が開いていたことが問題なのではない、問題は誰がこの穴を開けたかだ。

「フェリシア、君が俺に毒を盛ることだけは天地がひっくり返ってもあり得ない。君自身は本当は誰が毒を盛ったと思っているんだ?」

次期国王に内定しているジスランに毒を盛るということはドートリッシュ王国へ喧嘩を売るようなものだ。

「ジスラン、それは、これから調べていくべきことですね。とりあえず、クリスティナ嬢が犯人である可能性はまずありません」

震えて目を潤ませるクリスティナ・ボネを安心させる為に、改めて彼女が犯人ではない事を伝えた。

「フェリシア様、信じて頂きありがとうございます」

私の言葉にクリスティナ・ボネは声を震わせている。

「クリスティナ嬢、僕のフェリシアに惚れたのか? 悪いが彼女は皆を虜にするが僕だけのものなんだ」

皆に見せつけるようにジスランは私を抱き寄せ、額に口付けをした。

毒騒ぎで食事どころではなくなり、ランチ会はお開きとなった。
私はジスランが私を信用してくれたのが嬉しくて堪らない。もう認めざるを得ない。私は再びジスランに恋をしている。でも、彼に惹かれる程、悲しい恋の結末を夢に見る。

だから、私は今晩も必死にジスランへの恋心をかき消すように仕事に没頭し、疲労困憊で夢を見ないよう眠りについた。

執務室の机の上で目覚める。カーテンの合間から差し込む朝日に自室に戻らず心配させただろうエマを想う。

私は寝落ちする前、気になる点を見つけたので至急ジスランに知らせたくて彼の自室に急いだ。

ジスランの部屋の前に少し人だかりができているのを疑問に思い、私は足を早めた。

「ジスラン王子殿下が昨晩、私を強引に⋯⋯」

素っ裸にシーツを纏った聖女パウラが悲壮な表情で集まってくる騎士たちに訴えている。

「聖女パウラ様は純潔をジスラン王子殿下に奪われたのです。殿下には責任をとって頂かねばなりませんね」

「ブランクモン⋯⋯様⋯⋯」
人だかりの中にブランクモン・ノリッジ公爵がいて、聖女パウラに寄り添い慰めている。

私は、今、怒りを必死に抑えている。

今、ブランクモン・ノリッジ公爵に寄り添い嘘を吐いている馬鹿女が聖女の特別な力を持っているなんて、理不尽な世の中だ。

「聖女パウラ様、その格好はどうなさったのですか? 王宮の廊下で服を着ていない貴方様は獣と変わりませんね」

冷めたような私の声にそこにいた騎士たちが一斉に振り向いた。
パウラは、聖女とは思えない鬼の形相で私を睨みつける。

「聖女である私を前に随分と偉そうですね。一時的にジスラン王子殿下の心をを掴んでいるだけの女の癖に」

裸体にシーツを捲りつけながら、挑戦的な目で見つめてくるパウラに思わず苦笑いが漏れた。

そして、淫らな姿の彼女を目の前に動揺もせず寄り添っているノリッジ公爵の不自然さが気になってくる。

その時、突然ジスランの部屋の扉が開いた。

「フェリシア、えっと、この状況は⋯⋯」

ジスランは、慌てて自分で着替えて部屋を出てきたのだろう。

明らかに上着のボタンがずれてしまっている。

そのような完璧過ぎないところも愛おしく感じてしまう程、本当は彼に惹かれている。

「ジスラン、貴方が選んだ女を信じてください。私は現状を把握出来ないほど馬鹿ではありません。今、この状況がどのように作られたか私には分かっております」

私の言葉にジスランは柔らかく微笑みを返してくれた。自分の今の格好と、企みがどれほど下品かも分からない馬鹿女にジスランは渡せない。

彼女に聖女の力があろうと関係ない、聖女の力がなくても私がジスランを守ってみせる。
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