10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ

文字の大きさ
17 / 31

17.家事代行?

しおりを挟む
 もう、真夜中の0時を過ぎた。

 電気を消した病室で私と江夏君はまるで修学旅行のように、巡回する看護師に隠れてこそこそとお喋りしてた。

「江夏君、そろそろ就寝しないとまずいかと思うよ。お願いだからベッドで眠って!」
「それは無理、流石に女の子を簡易なソファーベッドで寝かして、自分がベッドはないでしょ」
 私と江夏君は結局、巡回の看護師が来るとそれぞれベッドとソファーベッドに分かれて寝たふりををしていた。

 また、巡回の看護師さんが私たちを覗きに来る。
 先程まで2人でベッドに座って話していたが、咄嗟に江夏君がソファーベッドで寝たふりをしたので私はベッドで眠ったふりをした。
 
 看護師さんが去ると共に、私は江夏君に抗議した。

「流石に付き添いの私がメインベッドに寝てるのは可笑しくない?」
「可笑しかったかも⋯⋯カカア天下なカップルと思われたかもね」

 江夏君の言葉に確かに私と彼は側から見るとカップルに見えるのかもしれないと思った。冬馬さんは世界が違いすぎて、私は彼といる時いつも緊張していた。今は本当に気が抜けて自然体でいられる。

「俺の刺されたニュース出てるわ」
 江夏君が私にスマホの画面を見せてくる。
「ニュースに出るくらいの事件で怪我を負っているのに、2週間後には北海道に異動しなくちゃいけないの?」
「俺も辞令が取り下げられるか、異動が延期になるかと思ったんだけどな⋯⋯」
 私は肩を落とす江夏君が心配になった。

「北海道って梅雨がないらしいよ。今から東京は暑い夏もやってくるのに、北海道は涼しいし、私は札幌生活悪くない気がするな」

 私の言葉にニヤリと江夏君が微笑んだ。
「それなら、桜田さんも一緒に来ない?」
「えっ?」
 私は一瞬何を言われているのか分からなかった。
 彼の告白は確かに断ったはずだ。

「俺、北海道は行った事ないんだよね。2週間で部屋も探して、あっちに行ったらすぐに生活を立ち上げなければいけなくて⋯⋯」
「私、手伝うよ。私のせいで、こんな怪我したばかりなのに、そんなの一人でやるなんて無理だよ」
 彼が言い終わらない内に私は手伝いを申し出ていた。

「一緒に札幌に行ってくれるってこと? 良かったらさ、住み込みで家事代行みたいなこともしてくれると嬉しい。もちろん、給与は払うからさ」

 江夏君の謎の提案に私は首を傾げた。
 彼は私と彼が雇用関係になる話をしている。
 もしかしたら、私が今無職だから心配してくれているのかもしれない。

「住み込みって、私と江夏君が一緒に住むってこと?」
「まあ、そうなんだけど。もちろん、気持ちもないのに恋人になれって言っている訳じゃないよ。ただ俺が家事が苦手で助けが欲しくて、桜田さんも東京を少し離れたいならウィンウィンの提案かなと思ったんだ」
「うん⋯⋯」
 私の頭の中には冬馬さんと一緒に暮らした短い時間の記憶が蘇っていた。
 恋を穢らわしいと思っていた私が恋をしていたと思う。
 今、思い起こすと本当にあった出来事かも疑わしい程に夢みたいな時間だ。

「結構前に住み込みの家事代行をテーマにしたテレビドラマをやっていたけど見なかった?」
「見ていないかな⋯⋯」

 昨今はテレビをつけるとドラマは不倫を題材としたものが多く、私はメンタルが削られてとてもじゃないけれど見られなかった。
 でも、テレビドラマの題材になるくらいなら住み込みの家事代行サービスというのはメジャーなものなのだろう。

「経費別で1日2万円でどお?」
「2万円? いつから江夏君ってそんなお金持ちになったの? 無理してない?」
「無理してないよ」
「そっか、ご両親に海外旅行をプレゼントできるくらいだもんね。偉いな。凄く頑張ったんだね」
 私はまた江夏君の頭を撫でていた。
 なんとなくだが彼は私に頭を撫でて欲しいタイミングで目を閉じて、私に撫でられるように頭を下げて来ている気がする。
 
「その提案って私しか得をしない気がするけど、それで良いの?」
 日給2万円も貰えて、冬馬さんの生活圏から離れられるなんて私にとっては願ったり叶ったりだ。
 江夏君が私との恋に敗れた後、私に対して気まずいと感じた気持ちが今なら分かる。私はもう冬馬さんと会いたくない。

 簡易のソファーベッドを開くことなく並んで色々とお喋りしてたら、結局朝になってしまった。
 
 カーテンから差し込む光が朝を告げているのに、私は今かなり眠い。
「江夏君、眠くない? 流石に私はちょっと眠いかも⋯⋯」
 私の言葉に彼が私を横抱きにしてベッドに横たわらせていた。

「ここで、眠ってて良いよ。俺は今から検査行ってくるから。軽い外傷だけだから、検査なんていらないと思うんだけどな」

「私のせいで迷惑かけてごめんね。今日も会社お休みしなきゃいけなくなっちゃったんだよね。検査は面倒でも受けといた方が良いと思うよ。私はここで待ってるからさ」

 私は自分の脳がスーパーコンピューターのような状態になっている事を思い出していた。江夏君も大したことないと私を心配させないように言ってくれるが、一時は意識を失い掛けている。脳や体の機能のどこかで異常事態になっている可能性は十分ある。


「迷惑なんて思わないで。俺、ずっと10年前に桜田さんを助けられなかった事を後悔してたんだ。今度は守る事ができたよね」
「うん。守ってくれてありがとう」
「じゃあ、検査に行ってくるね」

 江夏君は私の髪を撫でると、そのまま病室を出た。
 眠る気はなかったのに、私は気がつけばベッドでシーツに包まり眠りに落ちていた。

♢♢♢
 
 誰かが私の頬を撫でるように触っている気がする。
(冬馬さん?)
 目を開けると、江夏君が私の顔を覗き込んでいた。


「ごめん、私、眠っちゃってた。今、何時?」
「俺が眠っててと言ったんだから謝る必要なくない? ちなみに今は17時だよ」
「17時!?」
「結構、待ち時間が多くてさ。病院って予想以上に時間がかかるね」
 江夏君は予想外に寝入ってしまった私に気を遣わせないように優しい嘘をついてくれている気がした。

 江夏君の引っ越しの準備をする為にマンションに戻る。

 エントランス前まで行くと、昨日同じくらいの時間にここで見知らぬ男に刺されそうになったのを思い出した。ニュースでも住所不定無職となっていた犯人。私はなぜそのような男に恨まれるようになったのかの記憶がない。

「大丈夫?」
「全然、大丈夫だよ。江夏君こそ大丈夫? 私が引っ越しの箱詰めとかするから、横で寝ててね。江夏君は寝てないんだから、相当疲れているでしょ」

「あと2週間はあるからそんなに慌てなくても、一緒にのんびり寝転がってから動けば良いよ。桜田さんが側にいるだけで、俺は疲れを感じないんだ」
 彼は私に笑い掛けると、手を引いてマンションの中に入って行った。

 江夏君は32階に住んでいるらしい。
 32階でも中層階という括りになるのは、東京に高層の建物がいかに多いかが分かる。
 そして、タワーマンションの弊害かエレベーターがなかなか来ない。

「江夏君。家事代行の話だけど3ヶ月間は試用期間という事で無給で良いからね。それで私が思うような働きじゃなかったら、問答無用にクビにして!」
「そんなの日本じゃあり得ない雇用形態だと思うけど、桜田さんって本当に真面目だなあ」
 江夏君が私の言葉に楽しそうに笑っている。
 
「私は結構、現金なところもあるよ。実は暑いのが苦手で夏の北海道とか楽しみだったりするんだ。3ヶ月は私も楽しみだからお金はいらないの!」
 私は地元の千葉と東京以外の県に行った事がない。
 中学3年まで学校に行ってれば修学旅行の京都奈良には行けたかもしれないが、その頃は鬱になっていて私は学校に行けなくなっていた。

 札幌でも高卒認定試験は受けられるし、関東にいると記憶のない間に出会った人が私の命をまた狙いに来るかもしれない。

 何より、本州から出ることで冬馬さんと遭遇する確率が激減する。
 私にとっては良いことしかない、ありがたいお話だ。
 
「俺も実は桜田さんのお陰で新生活が楽しみなんだ。あとで一緒にネットで家探ししよ。内覧する程の時間がないから、間取りと立地だけで決めちゃおうかと思ってるんだよね。こういう間取りが良いとか希望はある? アイランドキッチンが良いとか⋯⋯」
 雇われ側の私の希望まで聞いてくれる彼は本当に優しい人なんだろう。
 アイランドキッチンで、パソコンと睨めっこしながらお仕事をする冬馬さんの姿をチラチラ覗き見しつつ料理をしていた記憶が蘇り、胸がキュッと苦しくなった。

「脱衣所さえあれば良いかな」
「脱衣所がない間取りの家なんてあるの?」
「うちの実家が脱衣所がなかったよ!」
 私の言葉に江夏君が驚愕している。
 私と母の女2人の暮らしだから、そのような間取りで生活が成立したのだろう。

「北海道行ったら、何か食べたいものとかある?」
「札幌ラーメンとか?」
「それ、東京でも食べれるやつ。というか、今家にインスタントで良いならあるから俺作るけど!」

 江夏君がとても楽しそうに笑っていてホッとした。
 それにしても、家事が苦手と言っていたのに料理はできるらしい。
 彼は大学からは東京で完全に一人暮らしだと言っていたが、私の手伝いは本当に必要なのだろうか⋯⋯。

 そんな事を考えていたら、斜め後ろから強い視線を感じたので振り向いた。

 そこには私たちを睨みつけるように立っているスーツ姿の冬馬さんが怒りを抑えるように立っていた。
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。 次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

溺愛のフリから2年後は。

橘しづき
恋愛
 岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。    そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。    でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?

契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」  突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。  冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。  仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。 「お前を、誰にも渡すつもりはない」  冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。  これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?  割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。  不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。  これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。

久我くん、聞いてないんですけど?!

桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚 相手はキモいがお金のため 私の人生こんなもの そう思っていたのに… 久我くん! あなたはどうして こんなにも私を惑わせるの? ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。 同じ頃、職場で 新入社員の担当指導者を命じられる。 4歳も年下の男の子。 恋愛対象になんて、なる訳ない。 なのに…?

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

処理中です...