21 / 31
21.シンデレラは振り返らない
しおりを挟む
玄関扉を開けると、私はすかさずパンプスを脱ぎエレベーターのある側の廊下に投げた。
(これで、誤魔化せれば良いけど⋯⋯)
非常階段のある重い鉄の扉を開く。
どこまでも続きそうな階段に息を飲む。
なんだか身体に少しだるさを感じるが、両頬を叩いて気合を入れて階段を降り始めた。
冬馬さんへの恐怖からか、体調が悪いからか体の震えが止まらない。足を踏み外さないように手すりを掴みながら階段を降りる。
非常階段を降り始めてすぐの踊り場で、階段を登ってきた江夏君と出会す。江夏君は少し汗をかいていて疲れが見えた。
「江夏君、どうして?」
「桜田さんのことが心配で⋯⋯」
江夏君が私の足元に目線を映し、靴を履いていないことに驚いたのが分かった。中学の時に上履きを捨てられた裸足の私を見て、目を逸らした彼を思い出し暗い気持ちになる。
気が付くと私は彼に抱き締められていた。
「今度こそ何があっても桜田さんを守り抜くから」
私は彼の声に自分の震えが止まるのを感じた。
(私、怖かったんだ⋯⋯)
その時、階上より重い扉が開いた音がして、また体が震え出すのが分かった。江夏君が私を抱きしめる力を強める。
「桜田さん、体が凄く熱い。熱があるんじゃ?」
そういえば、冬馬さんも私が熱がありそうだと言っていた。私を騙して弄ぼうとしながら、私の体の心配をする彼は理解不可能だ。
「靴を落としましたよ。シンデレラ」
冷ややかな冬馬さんの声がして、私は体がビクつくのが分かった。
そっと江夏君の腕から覗き見ると、階上に冬馬さんが立っていた。
冬馬さんは私の投げたパンプスを持っていて、彼の瞳は燃えるような怒りで満ちていた。
「冬馬さん⋯⋯」
「どうして、俺から逃げようとするの?」
冬馬さんの顔が一瞬苦しそうに見えて、私は罪悪感を抱きそうになる。彼と一緒にいた時間で情が芽生えたのかもしれない。
「もう、私の事は放っておいてください」
「俺は未来が好きだから、放っておかない」
冬馬さんは強い力で、私を江夏君から引き剥がした。
そして、私の前に跪いて王子様のように靴を履かせてくれる。私をずっと縋るような目つきで見てきて、思わず目線を逸らしてしまった。そんな私を冬馬さんが抱き寄せる。高そうなコロンの香りがして、彼はやはり自分とは住む世界が違うと感じた。
「江夏爽太! 北海道行きもなしにして、好きな部屋買ってやるから俺の前から消えろ」
頭の上から冬馬さんの冷たい声がする。彼は当然のように人の人生を左右する選択を自分ができると思っている。
「城ヶ崎副社長がお望みなら、俺は姿を消します。でも、桜田さんは絶対に貴方には渡しません」
江夏君の凛とした強い声がする。
「⋯⋯離してください」
私は思いっきり冬馬さんの胸を押し返した。
「未来が好きだから離れたくない」
冬馬さんが骨が折れそうなくらいに私を抱きしめる力を強める。
その温かさと優しい声色に勘違いしそうになる。
「私が好きなら手放してください」
「好きとか軽い感情じゃないから、心から愛してるから手放せない」
私を騙していた男の気持ちなど信じられるはずがない。
「そんなこと、好きでもない人からいられても迷惑なだけです。さよなら、冬馬さん」
私の冷たい言葉に冬馬さんの拘束が一瞬弱まった。
その隙に私は江夏君とエレベーターホールに行った。後ろから冬馬さんの視線を感じたけれど、私は振り返らなかった。
「江夏君、私、実家に帰るね。私を心配してくれてありがとう」
「俺も一緒に地元に帰るよ。こんな夜遅く桜田さんを一人で歩かせられない」
私は自分が刺されそうになった時の恐怖を思い出して、江夏君の厚意に甘えることにした。
地元までの鈍行列車に乗ると、揺れが気持ち良いのかうとうとし始める。
「桜田さん? 眠いなら寝ても良いよ」
「んっ? でも、そういう訳には⋯⋯江夏君、地元に戻ったら会社遠くなっちゃうよ」
私は薄れゆく意識の中で江夏君が心配になった。
彼のことは私を虐めた連中以上に大嫌いだった。でも、今は彼が複雑な気持ちだった事を理解できる。
「別に同じ関東地方だよ。通勤が大変になることを心配してくれてるの? 俺は桜田さんが地元にいる間は地元から会社に行くよ。人の事ばかり気にして、相変わらず桜田さんは優しいね」
「あんな高級マンションの部屋を買ったのに、住まないと勿体なくない?」
私は自分で言っていて、江夏君と自分が過ごした十年は全く違うのだと思い知らされた。
「賃貸だから、気にしないで! 流石に二十代であのレベルのマンションの部屋は買えないよ」
フラフラする私を抱き寄せながら江夏君が言う。私は気がつけば彼の肩に頭を乗せていた。身体中が熱を持っていていうことを聞いてくれそうにない。
「熱い⋯⋯」
「熱が篭ってる。到着したら起こすから、もう寝て」
私のクラクラする頭を江夏君はそっと自分の太ももの上に持っていく。
膝枕と言うやつだろうか、そんなに柔らかくないのに気持ちいよい。
「好きだよ。本当にずっと君のことだけが好きだった⋯⋯」
熱がだいぶ上がっているのかもしれない。私は地元に向かう電車の中で、江夏君が私に囁く言葉を聞きながら意識を手放した。
(これで、誤魔化せれば良いけど⋯⋯)
非常階段のある重い鉄の扉を開く。
どこまでも続きそうな階段に息を飲む。
なんだか身体に少しだるさを感じるが、両頬を叩いて気合を入れて階段を降り始めた。
冬馬さんへの恐怖からか、体調が悪いからか体の震えが止まらない。足を踏み外さないように手すりを掴みながら階段を降りる。
非常階段を降り始めてすぐの踊り場で、階段を登ってきた江夏君と出会す。江夏君は少し汗をかいていて疲れが見えた。
「江夏君、どうして?」
「桜田さんのことが心配で⋯⋯」
江夏君が私の足元に目線を映し、靴を履いていないことに驚いたのが分かった。中学の時に上履きを捨てられた裸足の私を見て、目を逸らした彼を思い出し暗い気持ちになる。
気が付くと私は彼に抱き締められていた。
「今度こそ何があっても桜田さんを守り抜くから」
私は彼の声に自分の震えが止まるのを感じた。
(私、怖かったんだ⋯⋯)
その時、階上より重い扉が開いた音がして、また体が震え出すのが分かった。江夏君が私を抱きしめる力を強める。
「桜田さん、体が凄く熱い。熱があるんじゃ?」
そういえば、冬馬さんも私が熱がありそうだと言っていた。私を騙して弄ぼうとしながら、私の体の心配をする彼は理解不可能だ。
「靴を落としましたよ。シンデレラ」
冷ややかな冬馬さんの声がして、私は体がビクつくのが分かった。
そっと江夏君の腕から覗き見ると、階上に冬馬さんが立っていた。
冬馬さんは私の投げたパンプスを持っていて、彼の瞳は燃えるような怒りで満ちていた。
「冬馬さん⋯⋯」
「どうして、俺から逃げようとするの?」
冬馬さんの顔が一瞬苦しそうに見えて、私は罪悪感を抱きそうになる。彼と一緒にいた時間で情が芽生えたのかもしれない。
「もう、私の事は放っておいてください」
「俺は未来が好きだから、放っておかない」
冬馬さんは強い力で、私を江夏君から引き剥がした。
そして、私の前に跪いて王子様のように靴を履かせてくれる。私をずっと縋るような目つきで見てきて、思わず目線を逸らしてしまった。そんな私を冬馬さんが抱き寄せる。高そうなコロンの香りがして、彼はやはり自分とは住む世界が違うと感じた。
「江夏爽太! 北海道行きもなしにして、好きな部屋買ってやるから俺の前から消えろ」
頭の上から冬馬さんの冷たい声がする。彼は当然のように人の人生を左右する選択を自分ができると思っている。
「城ヶ崎副社長がお望みなら、俺は姿を消します。でも、桜田さんは絶対に貴方には渡しません」
江夏君の凛とした強い声がする。
「⋯⋯離してください」
私は思いっきり冬馬さんの胸を押し返した。
「未来が好きだから離れたくない」
冬馬さんが骨が折れそうなくらいに私を抱きしめる力を強める。
その温かさと優しい声色に勘違いしそうになる。
「私が好きなら手放してください」
「好きとか軽い感情じゃないから、心から愛してるから手放せない」
私を騙していた男の気持ちなど信じられるはずがない。
「そんなこと、好きでもない人からいられても迷惑なだけです。さよなら、冬馬さん」
私の冷たい言葉に冬馬さんの拘束が一瞬弱まった。
その隙に私は江夏君とエレベーターホールに行った。後ろから冬馬さんの視線を感じたけれど、私は振り返らなかった。
「江夏君、私、実家に帰るね。私を心配してくれてありがとう」
「俺も一緒に地元に帰るよ。こんな夜遅く桜田さんを一人で歩かせられない」
私は自分が刺されそうになった時の恐怖を思い出して、江夏君の厚意に甘えることにした。
地元までの鈍行列車に乗ると、揺れが気持ち良いのかうとうとし始める。
「桜田さん? 眠いなら寝ても良いよ」
「んっ? でも、そういう訳には⋯⋯江夏君、地元に戻ったら会社遠くなっちゃうよ」
私は薄れゆく意識の中で江夏君が心配になった。
彼のことは私を虐めた連中以上に大嫌いだった。でも、今は彼が複雑な気持ちだった事を理解できる。
「別に同じ関東地方だよ。通勤が大変になることを心配してくれてるの? 俺は桜田さんが地元にいる間は地元から会社に行くよ。人の事ばかり気にして、相変わらず桜田さんは優しいね」
「あんな高級マンションの部屋を買ったのに、住まないと勿体なくない?」
私は自分で言っていて、江夏君と自分が過ごした十年は全く違うのだと思い知らされた。
「賃貸だから、気にしないで! 流石に二十代であのレベルのマンションの部屋は買えないよ」
フラフラする私を抱き寄せながら江夏君が言う。私は気がつけば彼の肩に頭を乗せていた。身体中が熱を持っていていうことを聞いてくれそうにない。
「熱い⋯⋯」
「熱が篭ってる。到着したら起こすから、もう寝て」
私のクラクラする頭を江夏君はそっと自分の太ももの上に持っていく。
膝枕と言うやつだろうか、そんなに柔らかくないのに気持ちいよい。
「好きだよ。本当にずっと君のことだけが好きだった⋯⋯」
熱がだいぶ上がっているのかもしれない。私は地元に向かう電車の中で、江夏君が私に囁く言葉を聞きながら意識を手放した。
49
あなたにおすすめの小説
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました
ほーみ
恋愛
春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。
制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。
「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」
送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。
――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。
溺婚
明日葉
恋愛
香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。
以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。
イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。
「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。
何がどうしてこうなった?
平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
契約結婚のはずなのに、冷徹なはずのエリート上司が甘く迫ってくるんですが!? ~結婚願望ゼロの私が、なぜか愛されすぎて逃げられません~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「俺と結婚しろ」
突然のプロポーズ――いや、契約結婚の提案だった。
冷静沈着で完璧主義、社内でも一目置かれるエリート課長・九条玲司。そんな彼と私は、ただの上司と部下。恋愛感情なんて一切ない……はずだった。
仕事一筋で恋愛に興味なし。過去の傷から、結婚なんて煩わしいものだと決めつけていた私。なのに、九条課長が提示した「条件」に耳を傾けるうちに、その提案が単なる取引とは思えなくなっていく。
「お前を、誰にも渡すつもりはない」
冷たい声で言われたその言葉が、胸をざわつかせる。
これは合理的な選択? それとも、避けられない運命の始まり?
割り切ったはずの契約は、次第に二人の境界線を曖昧にし、心を絡め取っていく――。
不器用なエリート上司と、恋を信じられない女。
これは、"ありえないはずの結婚"から始まる、予測不能なラブストーリー。
久我くん、聞いてないんですけど?!
桜井 恵里菜
恋愛
愛のないお見合い結婚
相手はキモいがお金のため
私の人生こんなもの
そう思っていたのに…
久我くん!
あなたはどうして
こんなにも私を惑わせるの?
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
父の会社の為に、お見合い結婚を決めた私。
同じ頃、職場で
新入社員の担当指導者を命じられる。
4歳も年下の男の子。
恋愛対象になんて、なる訳ない。
なのに…?
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる