10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ

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23.閻魔大王は許さない(楓視点)

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中学一年生の時に、隣のクラスの桜田未来に帰り道に友達と買い食いをしているのを注意された。
「家に一度帰るという事がなぜできないの? 中学生なのだから、最低限のルールくらい守るべきよ」
 桜田未来は同じ年なのに生徒指導の教師のようなうざい女だった。言い返すのも面倒で、彼女の教育的指導は仲間と心の中で薄ら笑いを浮かべながら受け流していた。

 しかし、私はその場面を初恋の江夏爽太に見られてしまった。私の中で桜田未来がウザい女から憎い女に変わった瞬間だった。

 爽太は4歳の時から毎年バレンタインデーチョコを受け取ってくれていた。しかし、桜田未来に恋した爽太は私のチョコレートを含め他の女子からのチョコレートも全て断っていた。

 中学二年生で爽太と同じクラスになって嬉しかったのに、そこには桜田未来もいた。爽太が桜田未来を必死で目で追ってるのが嫌だった。

 ニキビができたのが恥ずかしくてうっすら化粧をしていったら、桜田未来に「先生に見つかる前に落としてきたほうが良い」とタオルを渡された。

 爽太に注意をされているのを見られて恥ずかしかった上に、吹き出物一つない透き通るような彼女に自分の気持ちは分からないと憎しみを感じた。
 学校の教師たちも私に対してだけは鈴村の家の子だとルール違反も目を瞑ってくれるのに、桜田未来だけが許さない。

 中学二年生の秋、爽太が桜田未来に告白したことで私の長い片想いは終わると思っていた。しかし、桜田未来はクラスの全女子の憧れだった爽太を振った。心底、桜田未来が嫌いになった。不倫で出来た子で貧乏の癖に偉そうに説教ばかりしてくる。私のずっと好きな人から告白されたのに、あっさりと振る。私は人気者の爽太に恋してた女子たちも煽って、桜田未来に対する虐めを加速させた。爽太のことになると気持ちのコントロールができなくて、自分でも驚くほど残酷になる。私自身もそんな自分が好きではなかった。 

 高校卒業後も私は爽太を追って東京へ行った。大学へ進学する程の頭もなかったので、コネを使ってモデル事務所に入った。

 私は東京のモデル仲間が尻軽過ぎてついていけなかった。それでも、空気を読み、持ち前の社交性を活かして周りに馴染んでいるフリをしていた。有名人と寝た事でマウントをとってたりする彼女たちをバカの極みと心の中では軽蔑していた。外見が綺麗なだけで小綺麗な公衆便器のような安い女たちだ。もしかしたら、彼女たちもあわよくば恋人になりたいと思っても軽く扱われ軽薄ぶっているだけなのかもしれない。

 私は顔や体をお直ししながら、彼女たちのような生き方はできる。でも、桜田未来のようにはなれない。何年も人を沼らせるのは桜田未来のような面倒な女だ。他の女とは明らかに違うから爽太も彼女が忘れられず沼から抜け出せない。

 私は偶然を装い社会人になった爽太と再会し、変わった自分をアピールしてお試しで付き合うことに成功した。

 やっと爽太の部屋に行けるとウキウキだったところに、桜田未来が現れた。
 彼女しか見ていない爽太に気がついてしまい、気持ちのコントロールがまたできなくなり驚くほど攻撃的になってしまった。私も東京に出てきてお山の大将ではいられなくなり成長したつもりだった。

 私は自分の長年の江夏爽太への苦しい片想いを終わらせる為に、軽い女のフリをして城ヶ崎冬馬に近づいた。私は自分と関係したと知れば、桜田未来は城ヶ崎桜だ冬馬と別れると思った。

 城ヶ崎冬馬がいくら遊び人でも、未来は遊びで近づけないとてつもなく面倒な女だ。城ヶ崎冬馬の本命が桜田未来なら、いくら爽太でも勝ち目がない。

 他のモデルの話から、城ヶ崎冬馬と体を関係を持つのは、本当に後腐れない軽い女だけだと悟った。城ヶ崎冬馬と関係があったことを自慢するモデルが、彼は重い女が嫌いだから軽い感じで誘ったらいけたと話していた。
(めちゃくちゃ重い女が本命だけどね⋯⋯)
 私は桜田未来の面倒さを思い出しながら心の中で毒ついた。


 私は爽太が桜田未来を忘れられず、苦しんでいるのをずっと見てきていた。私自身も爽太を忘れる為に様々な男と付き合ったが、その度に爽太への思いを強くして辛かった。

 決して振り向いてもらえず自分を狂わせる爽太への片想いも、理不尽だと分かりながら桜田未来を憎んでしまう気持ちも終わらせたい。

 結局、城ヶ崎冬馬を落とせなかった上に、桜田未来にキツイパンチを喰らった私は逃げるように地元に戻った。

 地元に戻ると驚くような変化が起きていた。
  
 地元では鈴村建設の取引が全て打ち切られ、父の会社の経営は厳しい状況に陥っていた。周囲の土地は城ヶ崎グループが高額で買収されていた。

 街の人たちは私を見るなり、陰口を叩いたり無視をし始めた。このような千葉の田舎の港町に城ヶ崎グループのリゾートホテルができるらしい。東京の桟橋から専用クルーズ船でダイレクトにアクセスできるという富裕層向けのホテルだ。街の人たちは新しい雇用が生まれる期待でいそいそしていた。土地を売ったお金で、東京に近い浦安などに引っ越そうと考えている人もいる。
 桜田未来の「全ては自分のやってきた事の結果」という言葉を思い出し胸が詰まった。

 父は私を鈴村建設の社長室に呼び出すなり、とんでもないお願いをしてきた。
「お前の同級生だった桜田未来さんは城ヶ崎グループの御曹司の婚約者らしいじゃないか。今、うちの契約が切られてるのは、全て城ヶ崎グループの圧力によるものだ。楓! 桜田さんに今までの行いを謝罪して許して貰え。そして、リゾートホテルの開発に鈴村建設が関わらせて貰えるよう頼むんだ」

 父は今の状況が、私が中学時代に桜田未来を虐めた報復だと思っているようだ。父は虐めの事実を知っていたが、桜田家は余所者だからストレス解消のサンドバックに丁度良いと笑い飛ばしていた。

「謝罪なんて、桜田未来が受け入れる訳ないじゃない」
「そんな事やってみなくちゃ分からないだろう。もう、十年以上も前のことだ。優しそうな子だから、きっと謝罪も受け入れて婚約者の城ヶ崎様に同級生の会社を使ってくれるように進言してくれる」

 私は桜田未来のことを『天使の皮を被った閻魔大王』だと思っている。彼女は地獄行きの切符しか持っていない。罪を犯した人間を許すような人間ではない。糾弾してとことん追い詰め、自分の罪を思い知らせた上で「全ては自分の行いの結果!」と切り捨てる。

「お父さん、今の状況は鈴村家がこの土地でやりたい放題やってきた結果だよ。皆、偉そうにしている鈴村家に内心不満を持ってた。今のこの状況を受け入れよう」

「何を言ってるんだ! 土下座してでも、靴を舐めてでも桜田さんに縋って来い! 大体、お前があの子を虐めたのがいけないんだぞ。そうじゃなきゃ、うちのような小さな会社を城ヶ崎グループがターゲットにする訳がない!」

 父は私に怒声を浴びせて来る。彼が自分の会社を「小さな会社」などと卑下するのは初めてだ。それ程に、城ヶ崎グループの力が強過ぎて父も気持ちが弱っているのだろう。地元の繋がりで長年仕事をもらってきた中小企業だ。大企業の前ではなす術がない。

「ターゲット⋯⋯そうだね、やった事が返ってきたんだよ! お父さん! もう、腹を括ろう! 桜田未来は天使の顔した閻魔大王なんだって! 許しを乞う? 無意味だよ。罪は償えって返されるだけ!」

 私は、桜田未来に言われた事を思い出して涙が溢れてきた。若気の至りで半径2キロの街の中で調子に乗っていた。地元で力を持ち過ぎてて自分が特別な存在だと勘違いしていた。どんな弁明をしても閻魔大王は許さない。
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