真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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20.逃亡計画(清一郎視点)

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弁護士事務所から車でナーサリーに向かう途中にコンドミニアムがある。信号待ちで横目で見たコンドミニアムの入り口には冬城組の園崎がいた。
警備員と押し問答になって中に入れてもらえないでいる。ここの警備員は優秀で住人全員の顔を覚えていた。いくら知り合いだと主張しても通してはもらえないだろう。

俺は違和感を覚えていた。今、誰もいないコンドミニアムに押し入って何の意味があるのだろう。しかも大きなビニール袋を持っている。恐らくあれは、真夏の買い物袋だ。彼女は既に冬城組の手に落ちた可能性が高い。ここに戻ってくるはずはない。

一瞬、俺は一つの可能性を考えた。
園崎が冬城組を裏切り真夏の味方になる可能性だ。

───俺だけでなく双子も殺す命を受けているだろう彼は、組長には殺したと報告しコンドミニアムで双子を保護をする。

信号が赤から青に変わる。
俺は彼が味方だろうと何の力にもならないと判断した。彼はお見合いの時も真夏を逃し冬城源次郎にズタボロになるまで報復されていた。真夏に情があるのだろうが、彼が役に立つとは思えない。所詮、彼は冬城組の大勢の構成員の一人でしかない。
この時の俺は自分が真夏を守っていて、彼女の目的は極道の世界を逃げることだと思っていた。逃げる事のその先の計画、真夏のリベリオンは二十年以上前から仕組まれていた。園崎は彼女が仕込んでいたカメレオンの一人。
ずっと見せられていた裏を表だと勘違いしていたと気付く頃には、俺は反逆計画を遂行する歯車の一つになっていた。

敵を欺くにはまず味方から、じゃあ、味方を欺くには?
俺は彼女にとってたった一人の代わりのきかない男になりたかった。
しかしながら、俺が恋した女は俺の手に負えるような女ではなかった。

ナーサリーに到着して、双子をピックアップしたところで真夏の居場所を確認する。GPSの位置情報は予想外の場所を指し示していた。
真夏を日本に帰国させるだけなら、トロントのピアソン空港に向かうはず。しかし、車はナイアガラに向かっている。

「パパー! ママじゃなくてパパがきたー」
「わーい! 今日は特別な日? 何処かお出かけするの?」
「今から、ハイパークに行くぞ」
「「お花見だー!」」

血の繋がりがなくても、俺に懐いてくれているサラとルイ。
今となっては真夏と同じ様に命に変えてでも、守りたい存在だ。

俺は屈んで二人を抱きしめながら、緊急時のプランEを実行する事を決意する。
アリーヤに呼び出しの連絡をすると、俺は双子を緊急時に落ち合うプランEの集合場所ハイパークに連れて行った。

「あれ? ここハイパーク?」
到着するなりルイが周りを見渡し呟く。
ここは日本から贈られた二千本の桜が植樹されていて春には淡いピンク色に染まる。
「桜は春に咲く木だからな」

俺はここで春にお花見をしたのを思い出していた。トロントは屋外で酒は飲めないから、日本のようなどんちゃん騒ぎはしない。文字通り「お花見」を家族四人で楽しんだ。

───たった三年か⋯⋯。
十年以上も前から計画して来たのに、真夏に平和な日々を三年しかあげられなかった。自分の無力感に打ちひしがれていると、アリーヤがやってきた。

『京極さん。ついに、この日が来てしまいましたね』

子供たちが理解できないように敢えてスペイン語で話すアリーヤ。
彼女は真夏には英語とフランス語と日本語のトリリンガルと紹介しているが、実はスペイン語が母語のクアトロリンガルだ。

彼女はメキシコをルーツに持っていて、ギャングチームを抜けようとして殺されかけていた所を俺が助けた。
彼女には整形させ、新しい戸籍を買い渡し恩を売ってある。

『プランEだ。相手は堅気の人間じゃないから、双子に危害が及ぶなら殺してくれ』

『了解しました。⋯⋯マイアミは久しぶりだわ。腕がなるわね』

銃を構えるポーズをして、おどけてみせるアリーヤの手は震えていた。
彼女も銃を握るのは久し振りだ。双子の子守りは、故郷と家族を捨て逃げた彼女にも癒しを与えていた。きっと彼女は双子を命懸けで守ってくれるだろう。

プランEは真夏が一人の時に連れ去られた場合の策だ。まず、アリーヤが土地勘のあるマイアミに航路で向かい双子を連れて待機。俺は真夏を取り返し合流する。飛行機の移動は船に比べ足がつきやすい。
それ故に、そこから船でカリブ海に浮かぶアメリカ領のキーウエストに行く予定だ。

ヘミングウェイも愛したキーウェストは自然豊かな島で、何より街中に猫が沢山いる。きっと、逃亡中の真夏の心を心が癒してくれるだろう

「アリーヤどうしたの? 今日は日曜日じゃないよ」
落ち葉拾いをしてたルイが近付いて来た。カナダの国旗にも描かれている真っ赤なサトウカエデの葉を握りしめている。メープルリーフと呼ばれるその葉は日本のもみじより大きい。

トロントは英語を使うが、カナダの公用語は英語とフランス語。ナーサリーではフランス語の時間もある。

スペイン語での俺たちの会話は理解されてないと分かっているが、ドキッとした。
物騒な話を子供たちには聞かせたくない。真夏が優しく大切に育てて来た子供たちだ。

「今日は今からアリーヤと夢の国に行きましょう」

フロリダには夢の国と呼ばれるファンタジーリゾートがある。
───ファンタジーリゾートか、盲点だったな。

『アリーヤ、プランEを修正する。待ち合わせはファンタジーリゾート内にしよう。あそこは金属探知機がエントランスにある。子供たちを遊ばせて待っていてくれ』

ファンタジーリゾートは金属探知機だけでなく、手荷物チェックも厳重にされる。刃物を持ち込むのさえ難しい。エリア内のレストランから包丁でも盗まない限り武器を調達はできないだろう。
サラとルイの顔は割れてしまっているだろうが、大勢の家族連れに混じりヒスパニック系の女が双子を連れていたら見つけるのは困難だ。
ファンタジーリゾートのあるオークランドはヒスパニック系の移住者が大勢いる。

アリーヤは非常事態のヘルプに使う為、土曜の夜だけ双子ベビーシッターを頼んでいた。
双子も懐いているから家族を装い易い。週に一度のベビーシッターの顔まで冬城組が把握しているとは思えない。

『京極さん、銃を持ち込めないと危ないんじゃないですか?』
『それは敵も一緒だ。君は母が子を守るように双子を守ってくれれば良い』
『⋯⋯分かりました』

アリーヤの瞳に涙が浮かぶ。心優しいルイがそれに気が付き、彼女を慰めるように手に持っていたサトウカエデの葉を渡す。

「綺麗なメープルリーフ。ルイは本当に優しい子ね。ありがとう。一生の宝物にするわ」
アリーヤは天にメープルリーフを翳し、覚悟を決めたように目に力を込めた。

彼女がギャングチームを抜けようとしたきっかけは、抗争の際の流れ弾で子を連れた母親が死んでしまった事だ。泣き叫ぶ子に覆い被さる母親。
スラム街に生まれ、何の疑問もなくギャングになった彼女は、その時初めて罪悪感を持ったという。その感情は日毎に膨れ上がり、耐えきれなくなった彼女は逃げた。

辿り着いた先でまた彼女に銃を握らせようとしていた俺は酷い男だ。
ファンタジーリゾートには俺たちを知る日本人と出会すのを恐れて、真夏を連れて行ってあげる事ができなかった。動物をテーマにしたエリアにあるから連れて行ったら笑顔を見られたかもしれない。

ふと、一年前にトロント動物園に連れて行った時の真夏の姿を思い出す。檻の中にいるホワイトライオンの赤ちゃんを切なそうに見つめていた。

『この子たちはここから出たら本当に生きられないのでしょうか?』
『流石に無理なんじゃないか? 赤ちゃんだし⋯⋯』
『まだ、何にでもなれる子たち。このまま連れ出してサバンナに解き放ったら、生きる力はつきませんか?』
『親が付いて守ってあげないと無理だよ』

食い下がってきた真夏は、ベビーカーで眠るサラとルイを見つめていた。彼女は自分が自由になる以上に双子が自由に暮らす事を望んでいる。真夏も双子も俺が必ず極道の世界から解放してやる。

真夏から貰ったミサンガに触れ気合を入れると、決戦の場に向かうべく真夏の位置を確認する。
真夏はナイアガラの滝の駐車場に到着していた。

冬城源次郎はギャンブル好きだから、ナイアガラのカジノに寄ってから帰国しようとしている線も捨てきれない。ただ、逃亡生活を三年送って来た娘を前にして、逃げるチャンスを自分から与えるような事をするとは思えない。
昔から冬城組はキャバクラと密接に関係し、女を薬漬けにして売春させるのを得意としていた。もしかしたら、実験的に売れる女を随行させているのかもしれない。

最近イミグレにおいて、若い日本人女性は売春目的と疑われ止められる事が多い。日本よりもアメリカの方が日本人女性が高く売れる。日本のAVは世界中で見られていて、日本の女は変態プレイも喜んで受け入れると思われているからだ。

冬城源次郎がアメリカでのビジネスを考えているならば、俺に近付いて来たのも腑に落ちる。
ナイアガラのイミグレーションは特殊で、観光客を見送るようにチェックが甘い。冬城組はカナダを経由させた売春ルートを作ろうとしているのかもしれない。

「パパは夢の国に行かないの?」
勘が鋭い良いサラは、いつもとは違う緊張感に気が付いている。
俺は彼女を安心させるように目を細めて微笑んだ。

「パパはママをお迎えに行ってくるから、先にアリーヤと行っててくれ。後から追い掛けるから、良い子にしてるんだぞ」
「⋯⋯分かった。早く来てね!」

落ち葉のような小さな手とタッチして、俺は真夏を取り返しにナイアガラに向かった。
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