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第2章 エンデランス王国の王権奪還を手伝う。

第51話 老騎士ゴーシュ。

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 シュンッ!

 遥か先まで進んでいたが、馬車の車列にある俺達のいた箱の中に転移する。

「おー、戻ったか?」
「――!! えっ?」

 眠らせていたはずの老騎士の突然の呼びかけに驚いた。

「起きていたのか?」
「いんや、さっき起きたばかりだで」

 その割に騒ぎになっていなかった。……他の連中に報せていない?

「居眠りか眠らされたのか、判らんかったぞい? かっかっか!」
「そ、そうか。居眠りだと思うぞ? ……ところで、何で騒ぎになって無いんだ?」

 疑問をストレートにぶつける。

「かっかっか! 君達は逃げないと思ったでの。 ほら、あの騎士達に魔人族を埋葬させたろう?」

 俺の魔法に気付いたってのか!?

「だで、君達は悪い人間ではないと思ったのだよ。……それに、君達は我らを倒そうと思えば、容易たやすく倒せるほど強い。捕まったのはワザと……だろう?」

 鋭いな、この爺さん。
 ……確かに、騎士連中はレベルも低く、スキルも持たず、弱かった。

 油断してこの爺さんのステータスを覗いていなかった。
 ……俺のミスだ。
 
 俺達はゆっくりと、ガタガタ揺れる床に腰掛ける。
 ミケ達は、話を俺に任せて黙っている。
 
 改めて爺さんを観察する。
 白髪頭にサンタクロースの様な立派な白ひげをたくわえている。瞳は青く、強い意志を持った者の目だ。
 身に着けている鎧や床に置いてある兜は、年季が入っているが綺麗に手入れされている。
 壁面に立てかけてある爺さんの槍は綺麗で、汚れ1つ付いていない。魔人族の遺体をもてあそんでいないし、略奪もしていないようだ。

「お嬢さん方も、緊張せんでええでの。ゆっくりしんしゃい。――まぁ、揺れてゆっくりできんか? かっかっか!」

 爺さんがミケ達に気を使ってくれている間に、こっそりスマホで《アナライズ》を発動する。

 名前 : ゴーシュ
 種族 : ヒト族
 年齢 : 63
 レベル: 42
 称号 : -
 系統 : 武〈剣〉 隠 
 スキル: B・隠密〈4〉 C・剣技〈8〉 
       
 この爺さん、他の若い奴らに比べて断然強いじゃないか!
 スキル持ちだし、レベルなんて30近くも上だぞ! 《スリープ》の解けが早かったのにも納得だ。
 それにゴーシュという名前。ゴーシュ、ゴーシュ……記憶にあるような無いような。

「《フローティング》」

 俺達だけではなく、爺さんにも掛けてやる。

「お~? すまんのぉ、腰が楽になるわい。かっかっか!」

「……爺さん、名前は?」
「ワシか? ワシはゴーシュじゃ。ワシは貴族では無いから楽にしていいぞ。かっかっか!」

 俺達も一応名前だけは教えて、話を進める。

「爺さん、見たところアンタ、相当強いだろ。何で若造にあんなこと言われて黙っているんだ?」
「ん? ワシか? さっきも言ったが――」

 爺さんは平民で、若い騎士達は大抵が貴族の子弟だそうだ。
 爺さんが15歳になって、騎士学校に入り頭角を現したのを、ある若き団長に見染められて遠征騎士団に入った。
 その団長――おそらくバハムートだろう――が死んでからは、少しずつ腐敗していき、今では素行の悪い貴族子弟達の行きつく先になったとの事。
 弱いとはいえ、貴族子弟。爺さんは、まだ遠征騎士団にいたいので、何も手出しはしないようにしているらしい。

「それで、君達は何故あの門から出てきたんだ?」

 門のある場所はここ十数年間魔人族の領地で、半月以上前に異常な魔力が確認された。そうしたら、しばらくして何故か魔人族が撤退をしたので、遠征騎士団が確認に派遣されたらしい。

「――何日か前にワシらが門を発見したで、どうすべきか悩んでおったら、今日急に門が開き出した上に、君達が出てきたでの」

 ……どうしたらいい? 話すか、騙すか。

“みんな、どうする? 話すか? 隠すか?”
“ユウトに任せておるじゃろ。我らなら何とでも出来るじゃろうから、好きにせい”
“このお爺さん、良い人そうですけど……”
“アニタ眠くなってきた~、寝る~”

 ……よし! 話してみるか。

「ゴーシュさんは、バハムートって知ってるか?」

 一瞬……ほんの一瞬、爺さんの表情が硬くなった。

 ガタゴトガタゴトガタン!

 馬車が止まった。

「どこでその名を……」

「――おい! 老いぼれ! 今日はここに宿営だ。テメェはそのままそこに入ってろってさ!」

 ギャハハハハハハ

 周りがうるさくなり始めて、話どころでは無くなった。


 しばらくして、明かり取りの隙間から硬いパンと何の肉か解らない干し肉が、まるで遊びの道具のように投げ込まれた。

「よし! 俺は2個入れたぞ!」
「く~! 狭すぎるんだよ! おい! 新入り! 入らなかったモン全部拾って来い! もうひと勝負だ」
「ジジイ! てめえの飯もそれだ! ありがたく食ってろ!」
「ギャハハハハハー! ひ~、腹イテ~」

「……ゴーシュさん、遠征騎士団って、いつもこんなことしてるのか?」
「ワシは50年近くここにおるが、年々酷くなっていっておるで困っとるところじゃて……、すまんな、君達の食事なのに」
「いいさ、どうせ食わないから。……ちょうどいい、ゴーシュさんも連れていってやる」

 まず、俺だけ上空に転移して、飛びながら騎士団の宿営地を見渡せて、且つ見つかりにくい高台を見繕って、全員を連れて転移する。

「ひゃ~! 一瞬でこんな所まで……凄いな」
「ここならゆっくり出来るだろう。……まずは晩飯だ」

 爺さんがいる手前、そんなに凝った料理はしない。
 茹でてストレージに保管していたスパゲティに、温めたミートソースをかけて簡単に食べる。

「ん~~! うまいのぉ! こんなに美味い飯は王都でもなかなか出会わんぞい」
「そうか、良かった。まだあるからな。みんなもお代わり自由だぞ!」
「おかわりじゃ!」
「ミケは早すぎるだろー」


 夕食後、丁度いい場所だったのでロックドームを作ってここに泊まる事に決めた。
 ミケ達は寝床の準備をし、そのまま寛いでいる。

 俺と爺さんは焚火の前で、マグカップに入れたワインで乾杯する。

「……で、バハムートの名を知っているんだな? ゴーシュさん」



 俺とゴーシュさんはそれなりに長話をし、いろいろ情報を得ることができた。
 夜も更けてきたので明日の起床時間を確認し、その時間には戻ることにして、ゴーシュさんだけ箱に送っていった。

 シュンッ!

 戻って来て、もう少しワインを飲もうとしたんだが……

 毛をピンク色に染めて、目を回している白狐姿のミケがいた。

「はりぇ~~? みぇぎゃみゃわりゅ~にょじょわ~」
「……ミケ、学習しろよ~」
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