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第三章 巣立ち

第31話 旅立ちの日

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 今日はいよいよ旅立ちの日。

 12歳になったルーシーはカルルク帝国の名門、オリビア学園に行くのだ。

 カルルク帝国の先代皇帝オリビア・カルルクが設立したという名門中の名門の学校。
 魔法以外にも魔法機械に関する学科もあり。ジャンとアンナは一年前に入学している。

 ジャンは当然だと思っていたが、まさかアンナが入学したのには驚いた。いや、実質、魔法機械に適性があるのはアンナだとルカは思ったのだろう。
 でも、あの二人なら上手くやっていけるはずだとルーシーは思った。

「姉ちゃん。忘れ物ない? ちゃんと準備したよね? 砂漠は水が貴重だから水浴びしたいとかわがまま言わないでね?」

「レオよ、心配するな。私に間違いはない。昨日だって何度も確認して眠れなかったくらいだ、ふわぁーあ」

「もう、姉ちゃんはいつも緊張感が別の方向にいくんだから」

 レオンハルトは10歳。身長が延び、ルーシーを追い越そうとしている。次に会う時には弟を見上げることになるだろう。

「では、お父様にお母様。私は今日よりカルルク帝国へ行き、魔法の勉強をします。お手紙は毎週書きます。ですので安心して見送ってください」

「ルー、父さんは……。いや、分かってたこととはいえ離れていくんだな。寂しくなる」

「もう、クロードったら。学校に行くだけよ? はぁ……これではルーシーが結婚するっていったらどうするのかしら?」

「なに? 結婚! 認めんぞ! 俺と決闘して勝ったら話を聞かんでもない!」

「お父様! 私、結婚はまだ考えていませんよ。お相手もいません。でも私にそういう人が出来たらお父様には剣よりも対話をお願いしますね」

「あ、ああ、そうだな。すまん。いかんな、親馬鹿がすぎる。ベアトリクス様にもたまに釘を刺されているというのに」

「さあ、もう出立の時間です。クロード、言い残すことはないの? 最後の言葉がそれじゃカッコ悪いわ」

「クリス……そうだな。ルー。学園で何かあったら、まずは友人を頼りなさい。それでも解決しなかったら。なんでもいい。手紙で知らせなさい。
 俺と母さんはルーの味方だ、仮に世界が敵になってもな。……よし、では行ってきなさい。頑張れよ」

「はい! お父様、お母様。それにレオ。行ってきます」

「へへ、もう出発ですかい? 俺っちは待ちくたびれちまって、出発は明日になるかなーって思ってましたぜ」

 外で待つ40代の男性が声を掛ける。

「ああ、すまんなアラン。すこし別れがおしくって。ではルーをたのむ。ん? そちらのご婦人は?」
 
「団長。忘れちまったっすか? イレーナっすよ。あんときは子供だったっすけど」

「イレーナ、そうだったか。失礼した。大きくなったな。今年で17歳か」

「クロード様お久しぶりです。パパ、ごほん。いつもアランがお世話になっております。この度はご令嬢様を無事カルルク帝国まで送るため微力ながら……ふえん」

 アランは娘のイレーナの頬をつねる。

「おいおい、イレーナ。そんな堅苦しい挨拶でどうするっす。俺っちのように振舞わないとだめっすよ? レンジャーの心得っす」

「パパ! もう。いえ、ごめんなさい。私はアランの娘のイレーナです。魔法戦士です、お見知りおきを」

 ルーシーはアランを知っている。
 父親が騎士だったころに部下でレンジャーだったそうだ。
 一般人の服よりもたくさんのポケットがついた服にズボン。
 顔はお世辞にもいいとは言えない。どちらかというと怖い、世間的には盗賊と間違えられるくらいだ。
 しかし何度か家に尋ねてきて食事もした。ルーシーにとっては、たまに来ては、お土産をくれる優しいおじさんだった。

 イレーナは初対面だった。歳は17歳。身長はルーシーよりも頭一つ分大きい。金髪のロングヘアー。マントを着ているが、その下からは皮の鎧の様な物がちらっと見える。そして腰には細めの剣を下げている。
 ちょっとつんけんしてるけどパパっ子のようなので気が合いそうだ。

「話は終わりやしたね。では団長に姫様。今後は俺っちがお嬢を無事にカルルク帝国まで送り届けますわ。どうかご安心を」

「ええ、アラン。貴方たちなら何も心配してないわ。クロードは。子離れ出来てないだけだから。ふふ」

 照れ隠しか少しだまるクロード。

「アランおじさん。姉ちゃんをよろしくお願いします。わがままだと思うけど見捨てないでください」

「おお、レオっち。問題ないっすよ。お嬢はおいらにとっても娘のように思ってるっす。娘は多少わがままなのが可愛いもんっすよ。なあ、イレーナ」

「パパ! 最後が余計です! でも、レオ君、安心して。旅の仲間は仲良くしないとやっていけない。そういうものよ」

「そういうことっす。じゃあ。いつまでも長話してたら船に乗り遅れちまう。
 うん? ……おいおい、団長! しっかりしてくれよ。嫁に行くわけじゃあるまいし。夏季休暇には戻ってくるんだぜ!」

「あ。ああ、ルー。手紙書くからな。寂しくなったらいつでも帰って来なさい」

「もう、お父様。まだ住所が分からないのに手紙だなんて。でもありがとう。お父様大好き」

 ルーシーは父親の頬にキスをする。続いて母親にも。そして弟に。

「ではルーシー、行ってまいります!」
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