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第二章

第45話 デュラハン校則違反をする

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 デュラハンが校則違反をした。
 さすがに先生方も配慮しきれないのだ。今までの格好もアウトといえばそうなのだが……。

 だが、さすがに今回のは無い。

 まるで男性用の映像作品でのみ登場しそうな、ビキニ制服に改造してしまったのだ。

 理由は分かる。熱だろう。そろそろ夏だし。

 彼女には冷却装置がない、完全に失念していた。

 俺は彼女に、というか彼女のボディは冷却装置を組み込む余地はないから、ディーに冷却装置をとりつけ、ひんやり抱き枕のようにしたが、時すでに時間切れだった。


 しかし、だれが考えた! 最低限、隠すところを隠せばいいというものでもない。

 それにこのデザインは例のビデオにしか登場しないぞ、完全にアウトだ、彼女の頭はどうなっている。

 ……は! そうだった彼女には俺の記憶の一部が入っているのだ。これ以上は何も言うまい。

 それにしても、もうすぐ夏休みだというのにまったくなんてことを。

 まだ数か月しか経ってないのに制服の買いなおしをするはめになるなんて。


 いつもの服飾店で買い物……。カール氏の実家が経営している高級ブティックである。

 ちなみに、俺はサンタドレスのデザインを売却したので結構、懐事情があたたかい。

 完全にパクリなので胸がいたいが異世界の知識なので関係ない。

 それに、年一回のイベント用の服なのだ、この世界に影響はないだろう。

 年末が楽しみだ。これで謎の勇者カラーが赤によって駆逐されてくれるとありがたい。

 …………。

「はい、これ、福引券ね、あちらに抽選会場があるから挑戦してみてね、当たりはなんと温泉宿に二名様ご招待よ!」

 む? この文化、随分と日本っぽい。俺はカール氏にこんなこと話したっけ。……思い出せないが話したような気もする。

 そういえばカール氏の実家は新しく温泉宿の事業を立ち上げたようだ。そういえば温泉についてカール氏に話したことがあったっけ。まさかこれがそれだと?

 なるほど。カール氏は戦闘はそこそこだが実業家としての才能はありそうだ。これはもう廃嫡の件は許されるだろうな。本人も反省しているし。

 シルビアさんも許したようだし。あとはローゼさんとの関係も徐々に良くなっていけばいいだろう。

 ……さてと、ここが抽選会場か。お店の片隅に、お! 見覚えのあるガラガラがあった。ああ、間違いなく俺が話したんだろう。

 しかし、カール氏も俺の与太話を聞き分けて、いけそうなのは実用化してしまうフットワークの軽さは半端じゃないな。

 彼は案外、大物になるかもしれない。

 ガラガラを回すと、色付きの玉が出てきた。

「おめでとうございます。温泉旅行二名様ご招待!」

 やった。温泉チケットゲットだ。シルビアさんと一緒に夏休みに行ってみるか。

「あ、僕も大当たりだ、温泉チケットだね、ローゼちゃんでも誘おっかな」

 ユーギ・モガミ! なぜ、やつがここに、しかも女子用の制服を買っているだと? こいつそういう趣味でもあるのか。

「ああ、これ? 僕は何を着ても似合うからね、困ったもんだよ、僕の美貌には、まさしく神が創りしなんとやらだ」

 相変わらずナルシストなやろうで嫌な感じだ。



 というわけで、ユーギはローゼさんを誘う。ローゼさんは俺とシルビアさんも一緒だというので誘いに乗ったそうだ。

 これはカール氏は気が気でないだろう。案の定、俺達に同行してきた。ハンス君を誘って。おい、そこで友達を巻き込むなよ。

 まあ、御曹司である彼もペアチケットを持っていたのであるが、なるほどローゼさんを誘おうとしてたのだな。それで先を越されてしまってのハンス君か。

 この二人はいったいどうなってしまうのか……。 
 
 それはそれとして、……温泉か、異世界の温泉はどんなものか、じつに興味がある。ベタなイベントだがぜひ体験したいものだ。


 夏休みになった。

 俺、シルビアさん、ローゼさん、ユーギ、カール氏、ハンス君の6名はさっそく温泉宿に向かった。

 ちなみに、アンネさんとドルフ君は実家と親戚に挨拶に行っている。新しいご当主候補としての地盤固めもあるのだろう。

 それに、無事に弟が生まれたそうなので。ぜひともドルフ君に見せたいというのもあるのだろう。子育ての経験もしておきたいとアンネさんは言っていた。

 いいじゃないか、こちらは順風満帆だ。

 問題はローゼさんとカール氏の何とも言えない距離感、時間の問題かと思ってたけど。強力で強烈なインパクトのライバル出現である。

 道中、馬車の中で彼らはことあるごとに口喧嘩を始める。ユーギがことあるごとにローゼさんにちょっかいをかけているのだ。

 シルビアさんにも多少はあるにはあるがローゼさんに対しては露骨すぎる。

 カール氏はなぜローゼさんに付きまとうのかと聞くと。

「黒髪で素敵じゃないか。僕と同じ黒髪、それに魔力もいい感じだ。闇を感じてとてもいい。
 それに彼女はまだフリーだろ? 君が勝手に彼氏面をしているだけで、ぶふっ」 

 露骨に煽られたカール氏は真っ赤になり口喧嘩を再開させるのだ。

「あ、近づいてきたね、湯煙が見えるよ。それに独特の臭いもする」

 ハンス君は話題をそらす。彼は自然とそういう立ち回りになっているが、実際周りをよく見ている。
 
 魔法使いというよりはレンジャーに近い素質を持っているのだろう。それに空気を読めるいい男だ。

 カール氏には彼みたいな友達がいて本当によかったと思う。最初は男色なのかと思ったがそうでもないらしい。

 単純に好みのタイプがいないという理由だった。ハンス君はどういう感じの女子が好きなんだろうか。 今度聞いてみようか。

 そう思いながら。温泉街に到着した。


 チェックインを済ませる、部屋に荷物を置くと、やることは一つだ。さっそく温泉といこうじゃないか。


 ……見せてもらおうか、この宿自慢の露天風呂の実力とやらを……。




「シルビア、その……綺麗だ……」

「アールだって……その、勇者様って男の人だったんだよね。私、男の人に見られるのは初めてで……なんだか変な気分……」

 お互いに服を脱ぐと照れくさい感じになる。でも、距離はもっと縮まる。二人は自然と肌と肌が触れ合いそうな距離に近づいていく。



「ちょっと! 二人とも……私もいるんだけど……」

 おっと、ローゼさんもいるのだ、あんましそういう雰囲気にはしないほうがいい。

 温泉は、日本の古典的な旅館というわけではないが、露天風呂という形式は世界が違っても似たような作りになるものだな。

 まあ人が使うのだから基本的な形は似てくるのだろう。

 温泉の作法も同じだ、先に身体を洗ってから湯船につかる。清潔な文化があるということは成熟した文明のあかしだ。
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