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◆綺堂 薊 side
「よかったら俺と友達にならないか?」
「??………………えっ!? ええっ!!」
恐らく俺の言葉を飲み込むのに時間が掛かったのだろう。突然の申し出に、最初はキョトンとしていた。
当初の俺は彼女に、というかハッピーエンドに導きたいキャラ達に過干渉するつもりはなかった。
しかし、それは最低限原作通りに進んでる事が前提だったのだ。
度重なるイレギュラーに、何もしなければ死んでしまいそうな雁野来紅。以前、「全てを知ってる俺が上から目線で口を出すことじゃない」とか思ってたのがバカみたいだ。
「どうして?」
「俺も友達が欲しかったんだ。それで、雁野となら仲良くなれるかなって」
「綺堂くん……ううん、薊くん」
なお、これは俺の紛れもない本心である。
無論、ハッピーエンドの実現を手伝って貰おうなどとは毛ほども思ってない。理想は自分で掴んでこそであり、他人と共有した理想は不純物が混ざって初心から逸れるからだ。
そうなってしまえば俺が命を賭けてまで求めた理想とは違ってしまう。紛い物に用はない。
「これからよろしくね」
「こちらこそよろしくな。来紅」
だから、今回のこれは俺の俺による俺の為だけの行動だ。
ハッピーエンドを叶えたいのも、現実の友達が欲しいのも、前世からの望みなのだから。
差し当たり、ゲーマーとして、来紅の友人として、やるべき事は、
「なあ、来紅。もう一度、親父さんと話してみたらどうだ?」
親子関係の修復だろう。
これは信用ならないゲーム知識の情報だが、彼女達の喧嘩は互いが互いを思いやり、互いが互いに甘え合っているからこそ起きた喧嘩である。
しかし、来紅の話を聞いた限りではゲーム時代と差異はないように感じる。ならば問題ない筈だ。
「私の話きいてた? お父さん、私どころかお母さんの話も聞いてくれないんだよ!? もう、どうしようないから家出したのに何を話したらいいの!」
当然、そんな自覚のない来紅は受け入れられなかったのだろう。「裏切られた!」と言わんばかりに絶望の表情を向けてくる。
だから彼女も納得できるような具体案を出す。
「来紅も言ってたが、親父さんも来紅に危険な目にあって欲しくないだけなんだと思う」
「……」
「それなら、元冒険者の親父さんに特訓を付けてもらって強くなってから学園に行けばいいんじゃないか?」
「……プイッ」
理性は納得したが感情は納得してないのだろう、拗ねてしまった。
頬を膨らませ口で効果音を表す彼女の姿は可愛らしいく、いつまでも見ていたいのだが、そんな事をすれば先程の躁と鬱が再来するだろう。
それは避けねばならない。
「大丈夫だって。来紅の話だけでも親父さんが来紅の事を大好きだって分かるし、今回の家出で親父さんも来紅の本気度が伝わっただろ。問題ないさ」
「そうかな?」
「そうだろ。それにポーションだって同じ値段の他の物より効果が高い事を俺は知ってる。いずれ大人気だよ」
固有スキルを知られなければな。
そのリスクを考えればゲーム内でも強い方の親父さんに庇護してもらったほうがいい。ゲームの本編開始までだったとしてもだ。
……当然のように親父さんは全ルートで悲惨な死を遂げるのだが。
「うん、そうだよね。ありがとう薊くん」
これで大丈夫だろう。
来紅の親友キャラがどのようにメンタルケアを行っていたか知らないが、来紅の表情を見る限り今回のやりとりで最低限のケアは出来た筈だ。
そうして、俺は達成感と共にハッピーエンドの実現への第一歩を───
「ねえ、薊くん」
「なんだ?来紅」
頼み事だろうか? 今の気分なら何でも許せるきがする。
その後、若干モジモジしていた彼女は、やがて決意を決めたように「よしっ」と呟いてから俺の顔を掴んだ。
「お、おい」
そのまま来紅の顔が俺へと近づき、唇が触れ合う直前で横に逸れた。
それから、耳元で動きを止めた彼女は優しく告げた。
「私以外に増やしちゃ嫌だよ」
「……え゛?」
いつの間にか、顔はミシミシと音が鳴るほど強く掴まれていたのに、そんな事が気にならなくなる程の衝撃があった。
「バイバイ」
返事を聞く前に俺から離れた来紅は、小さく手を振って去ってしまった。それはもう機嫌が良さそうに。
「……ちょ、ちょっと待って」
我に返った俺が声を掛けるも、来紅は行ってしまった。おそらく家に帰ったのだろう。
ああ、これは失敗したかもしれない。
さっき来紅が俺の顔を掴みながら言ったセリフは、ゲームで病みの底に堕ちた来紅が主人公に依存した事を示すセリフなのだ。
愛する家族と親友を喪った彼女が、他に最も親しい人間である主人公に依存するのは当然の流れだろう。そして、自分を置いて何処にも行かないよう、独占を望むのも。
そうだとしたら、来紅は既に病みに染まってる事に───
「───いや、考え過ぎか」
いくらなんでも二回しか会った事のない男に依存などするとは考えにくい。
俺が知らなかっただけで、きっとゲームの親友キャラに同じ事をやっていたのだろう。そうに違いない。
もう既に、ハッピーエンドの実現など不可能になっていたなんて、あっていい筈がないのだ。
「ダンジョン行くかな」
気晴らしの散歩のはずが、大きな悩みを抱える事になってしまった。
レベル上げを兼ねた気晴らしに行こう。
道具屋で本日三度目の入店をした俺は、『清めの塩・下』を購入すると廃教会へ向かった。
「よかったら俺と友達にならないか?」
「??………………えっ!? ええっ!!」
恐らく俺の言葉を飲み込むのに時間が掛かったのだろう。突然の申し出に、最初はキョトンとしていた。
当初の俺は彼女に、というかハッピーエンドに導きたいキャラ達に過干渉するつもりはなかった。
しかし、それは最低限原作通りに進んでる事が前提だったのだ。
度重なるイレギュラーに、何もしなければ死んでしまいそうな雁野来紅。以前、「全てを知ってる俺が上から目線で口を出すことじゃない」とか思ってたのがバカみたいだ。
「どうして?」
「俺も友達が欲しかったんだ。それで、雁野となら仲良くなれるかなって」
「綺堂くん……ううん、薊くん」
なお、これは俺の紛れもない本心である。
無論、ハッピーエンドの実現を手伝って貰おうなどとは毛ほども思ってない。理想は自分で掴んでこそであり、他人と共有した理想は不純物が混ざって初心から逸れるからだ。
そうなってしまえば俺が命を賭けてまで求めた理想とは違ってしまう。紛い物に用はない。
「これからよろしくね」
「こちらこそよろしくな。来紅」
だから、今回のこれは俺の俺による俺の為だけの行動だ。
ハッピーエンドを叶えたいのも、現実の友達が欲しいのも、前世からの望みなのだから。
差し当たり、ゲーマーとして、来紅の友人として、やるべき事は、
「なあ、来紅。もう一度、親父さんと話してみたらどうだ?」
親子関係の修復だろう。
これは信用ならないゲーム知識の情報だが、彼女達の喧嘩は互いが互いを思いやり、互いが互いに甘え合っているからこそ起きた喧嘩である。
しかし、来紅の話を聞いた限りではゲーム時代と差異はないように感じる。ならば問題ない筈だ。
「私の話きいてた? お父さん、私どころかお母さんの話も聞いてくれないんだよ!? もう、どうしようないから家出したのに何を話したらいいの!」
当然、そんな自覚のない来紅は受け入れられなかったのだろう。「裏切られた!」と言わんばかりに絶望の表情を向けてくる。
だから彼女も納得できるような具体案を出す。
「来紅も言ってたが、親父さんも来紅に危険な目にあって欲しくないだけなんだと思う」
「……」
「それなら、元冒険者の親父さんに特訓を付けてもらって強くなってから学園に行けばいいんじゃないか?」
「……プイッ」
理性は納得したが感情は納得してないのだろう、拗ねてしまった。
頬を膨らませ口で効果音を表す彼女の姿は可愛らしいく、いつまでも見ていたいのだが、そんな事をすれば先程の躁と鬱が再来するだろう。
それは避けねばならない。
「大丈夫だって。来紅の話だけでも親父さんが来紅の事を大好きだって分かるし、今回の家出で親父さんも来紅の本気度が伝わっただろ。問題ないさ」
「そうかな?」
「そうだろ。それにポーションだって同じ値段の他の物より効果が高い事を俺は知ってる。いずれ大人気だよ」
固有スキルを知られなければな。
そのリスクを考えればゲーム内でも強い方の親父さんに庇護してもらったほうがいい。ゲームの本編開始までだったとしてもだ。
……当然のように親父さんは全ルートで悲惨な死を遂げるのだが。
「うん、そうだよね。ありがとう薊くん」
これで大丈夫だろう。
来紅の親友キャラがどのようにメンタルケアを行っていたか知らないが、来紅の表情を見る限り今回のやりとりで最低限のケアは出来た筈だ。
そうして、俺は達成感と共にハッピーエンドの実現への第一歩を───
「ねえ、薊くん」
「なんだ?来紅」
頼み事だろうか? 今の気分なら何でも許せるきがする。
その後、若干モジモジしていた彼女は、やがて決意を決めたように「よしっ」と呟いてから俺の顔を掴んだ。
「お、おい」
そのまま来紅の顔が俺へと近づき、唇が触れ合う直前で横に逸れた。
それから、耳元で動きを止めた彼女は優しく告げた。
「私以外に増やしちゃ嫌だよ」
「……え゛?」
いつの間にか、顔はミシミシと音が鳴るほど強く掴まれていたのに、そんな事が気にならなくなる程の衝撃があった。
「バイバイ」
返事を聞く前に俺から離れた来紅は、小さく手を振って去ってしまった。それはもう機嫌が良さそうに。
「……ちょ、ちょっと待って」
我に返った俺が声を掛けるも、来紅は行ってしまった。おそらく家に帰ったのだろう。
ああ、これは失敗したかもしれない。
さっき来紅が俺の顔を掴みながら言ったセリフは、ゲームで病みの底に堕ちた来紅が主人公に依存した事を示すセリフなのだ。
愛する家族と親友を喪った彼女が、他に最も親しい人間である主人公に依存するのは当然の流れだろう。そして、自分を置いて何処にも行かないよう、独占を望むのも。
そうだとしたら、来紅は既に病みに染まってる事に───
「───いや、考え過ぎか」
いくらなんでも二回しか会った事のない男に依存などするとは考えにくい。
俺が知らなかっただけで、きっとゲームの親友キャラに同じ事をやっていたのだろう。そうに違いない。
もう既に、ハッピーエンドの実現など不可能になっていたなんて、あっていい筈がないのだ。
「ダンジョン行くかな」
気晴らしの散歩のはずが、大きな悩みを抱える事になってしまった。
レベル上げを兼ねた気晴らしに行こう。
道具屋で本日三度目の入店をした俺は、『清めの塩・下』を購入すると廃教会へ向かった。
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