46 / 221
the 9th day 出発と到着と
しおりを挟む
まだ日も昇らない暗い早朝に、シンとロキは連れ立ってルリアーナ城を出発した。
「さて、いよいよだな」
シンがそう言って努めて元気に振舞うが、ロキは浮かない顔をしている。
「おう、そこの美男はテンション低いね」
シンに言われ、ロキは、
「ああ、今ちょっと話す気分じゃないから、少し頭の中が整理できたら改めてちゃんと話すってことで」
と言って自分の殻に閉じこもってしまう。同僚のその姿は意外で、シンは何があったのか心配になった。
ルリアーナ城に近いところから回っていくつもりで、シンは歩きのルートを作っている。元気がないロキを見て、長い時間の徒歩に耐えられるのか不安になった。
「体調が悪かったら早めに言えよ。山道とか通るからな」
シンが言うと、
「そういうのは大丈夫。俺、歩くのとか登山とか得意」
と、ロキは抜け殻のような姿で答える。
「あ、ああ」
シンは調子が狂ったが、マイペースなロキのことなのでそのうち自分からちゃんと話してくれるだろうと思い直し、先を急いだ。
「結局、ハンとは入れ違いになっちゃったな。殿下、あのテンション大丈夫かなー……」
シンが独り言のように言うと、ロキは何も答えることができなかった。
「おはよー! 揃ってる?!」
ハウザー騎士団の朝に、賑やかなメンバーがやってきた。
「朝から元気だな……」
カイは新聞を開きながら横目で良く知った人間の姿を確認すると、コーヒーを一口飲んだ。
「弟。久しぶりの兄に対してその反応はないんじゃない?」
氾楊賢(ハン・ヨウケン)がサラに連れられて城に入って来たのを、カイは特に歓迎もせずに聞き流した。
「サラ姉さん、うちの弟、反抗期だったっけ」
ハンは子ども時代を共に過ごしたカイをワザと「弟」と呼ぶ。実際はカイが上司で4歳年上のハンが部下にあたるが、ハンにとっては弟として可愛がってきたカイのままでいて欲しいらしい。
遊牧民族の血をひくハンは、カイと同じ黄色人種で程よく日に焼けていた。髪の色も黒に近い茶色で、カイと兄弟だと言われれば瞳の色や体格も含め、そう見える程度には特徴が似ている。ただし、顔立ちは少しエラが張っている遊牧民族特有の顔つきをしたハンと、ブリステ人の血が濃く出ているカイは似ても似つかなかった。
「シンとロキが旅立ったばかりだから、親としては心配なのよ」
サラがハンに説明すると、
「誰が親だ」
とカイは冷静に否定した。
サラはカイの父親である蒼劉淵の元部下で、ハンは蒼劉淵の部下の息子だった。
この3人はカイが産まれた時から共に過ごした時期があり、家族のような関係だ。カイは2人の前だと気を使わない分、普段以上に口数が少なくなる。
「なあ、弟、ここの姫君は紹介してもらえないのかなあ?」
ハンがそう言うと、
「こんな朝っぱらから、ハンのテンションに殿下を付き合わせるのか」
と、カイは視線もやらずに言って新聞をめくった。
「いや、今日は昼過ぎからお姫様のお見合いに護衛に入るんだろう?」
ハンが言うと、
「その前までには紹介するから安心してくれ」
とカイは新聞を置いてコーヒーカップを持ち上げて言った。
「カイ、やっぱりハンが相手だと他の部下に比べて雑になるわね」
サラは団長呼びも忘れて、昔のように家族水入らずのような感覚を思い出していた。
「さて、いよいよだな」
シンがそう言って努めて元気に振舞うが、ロキは浮かない顔をしている。
「おう、そこの美男はテンション低いね」
シンに言われ、ロキは、
「ああ、今ちょっと話す気分じゃないから、少し頭の中が整理できたら改めてちゃんと話すってことで」
と言って自分の殻に閉じこもってしまう。同僚のその姿は意外で、シンは何があったのか心配になった。
ルリアーナ城に近いところから回っていくつもりで、シンは歩きのルートを作っている。元気がないロキを見て、長い時間の徒歩に耐えられるのか不安になった。
「体調が悪かったら早めに言えよ。山道とか通るからな」
シンが言うと、
「そういうのは大丈夫。俺、歩くのとか登山とか得意」
と、ロキは抜け殻のような姿で答える。
「あ、ああ」
シンは調子が狂ったが、マイペースなロキのことなのでそのうち自分からちゃんと話してくれるだろうと思い直し、先を急いだ。
「結局、ハンとは入れ違いになっちゃったな。殿下、あのテンション大丈夫かなー……」
シンが独り言のように言うと、ロキは何も答えることができなかった。
「おはよー! 揃ってる?!」
ハウザー騎士団の朝に、賑やかなメンバーがやってきた。
「朝から元気だな……」
カイは新聞を開きながら横目で良く知った人間の姿を確認すると、コーヒーを一口飲んだ。
「弟。久しぶりの兄に対してその反応はないんじゃない?」
氾楊賢(ハン・ヨウケン)がサラに連れられて城に入って来たのを、カイは特に歓迎もせずに聞き流した。
「サラ姉さん、うちの弟、反抗期だったっけ」
ハンは子ども時代を共に過ごしたカイをワザと「弟」と呼ぶ。実際はカイが上司で4歳年上のハンが部下にあたるが、ハンにとっては弟として可愛がってきたカイのままでいて欲しいらしい。
遊牧民族の血をひくハンは、カイと同じ黄色人種で程よく日に焼けていた。髪の色も黒に近い茶色で、カイと兄弟だと言われれば瞳の色や体格も含め、そう見える程度には特徴が似ている。ただし、顔立ちは少しエラが張っている遊牧民族特有の顔つきをしたハンと、ブリステ人の血が濃く出ているカイは似ても似つかなかった。
「シンとロキが旅立ったばかりだから、親としては心配なのよ」
サラがハンに説明すると、
「誰が親だ」
とカイは冷静に否定した。
サラはカイの父親である蒼劉淵の元部下で、ハンは蒼劉淵の部下の息子だった。
この3人はカイが産まれた時から共に過ごした時期があり、家族のような関係だ。カイは2人の前だと気を使わない分、普段以上に口数が少なくなる。
「なあ、弟、ここの姫君は紹介してもらえないのかなあ?」
ハンがそう言うと、
「こんな朝っぱらから、ハンのテンションに殿下を付き合わせるのか」
と、カイは視線もやらずに言って新聞をめくった。
「いや、今日は昼過ぎからお姫様のお見合いに護衛に入るんだろう?」
ハンが言うと、
「その前までには紹介するから安心してくれ」
とカイは新聞を置いてコーヒーカップを持ち上げて言った。
「カイ、やっぱりハンが相手だと他の部下に比べて雑になるわね」
サラは団長呼びも忘れて、昔のように家族水入らずのような感覚を思い出していた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる