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the 19th day 術師の素養
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早朝の部屋で、誰かが扉を叩いている。驚いてシンとロキが飛び起きると、特に動揺をせずに起き上がったカイが、
「あ、すまない。疲れているのに起こしてしまったな」
と2人に向かって謝った。何が起きているのか分からずにシンとロキはあっけに取られていたが、カイは普段通りといった様子で支度を始めている。
「団長、どうしたんですか、こんな朝早くから……」
シンが驚いて尋ねると、
「ああ、今、対呪術用の修行をしているんだ。相手は東洋の呪術師で、いつもとんでもない時間にやってくる」
カイは部屋を見渡してブラッドがレナの護衛に入っているのを見ると、まあいいかと1人で出かけようとした。
「お1人で、修行されているんですか?」
ロキに尋ねられ、
「いや、昨日はブラッドも付いてきた。細かい怪我を身体中に作って後悔していたがな。お前らは明日から参加してみると良い」
とカイは笑って部屋を出て行く。
「対、呪術用の修行か……。いよいよ、人間離れが進んできたな……」
シンが言うと、
「修行したら、呪術にも対応できるようになるのかな? 興味あるんだけど」
と、ロキは興味津々のようだった。
「見えない力に対応するって、怖くないか? ちょっと俺は抵抗があるんだけど」
シンがロキに言うと、
「うーん、怖い、か。それより興味の方が強いかな。自分の知らないことは、なるべく経験できる時に経験しておこうと思ってるからなのかもしれない」
と、ロキは改めてベッドに横たわった。シンは、ロキの考え方に感心しながら、
「ロキのそういうところ、見習わないとなあ」
と言ってまた寝直すことにしたが、対呪術用の修行というのは想像がつかない。やはり、未知へのものに対する不安の方が強かった。
「スウ、残念なことに庭木が荒れているのを城のバトラーに見つかっている。2日後に要人を迎えるので、今日の午後に庭木の剪定が入るらしい。明日と明後日は庭木を痛めるような修行はできないぞ」
カイがスウに注意を促しながら、目の前に集めた「気」を使って小さな竜巻をいくつか起こした。
「ふん、人聞きの悪い言い方をするな。私の術のせいだけでもあるまい。劉淵の術も、充分庭木に優しくないぞ」
スウはカイの言い分に反論すると、カイの頭上に大量の水を降らせる。カイは小さな竜巻を3つ衝突させて大きな竜巻を作ると、スウの水が吸い込まれていくのを確認しながら、走ってスウの方に向かって行った。
「さすが、足が速い」
スウは笑いながら姿を消すと、カイが一瞬怯んだ隙にカイの目の前に水の塊を発生させる。カイはその水の塊を「気」の力で散らせた。
「姿と気配を同時に消せるか……」
カイはスウの動きが把握できず、どこから攻撃されても防げるよう、自分の身体を包むように「気」の膜を張って防御壁を作る。不意に後ろから熱を感じ、素早く振り向くと目の前に火が灯っていた。「気」の膜をもってしても熱さを感じ、カイはつくづく火への耐性を何とか出来ないものかと苛立つ。
(イチかバチか)
カイは先ほど作った竜巻を再度起こしてみる。周囲の細かい葉や木の枝、土と共に火も吸い込まれて消えていくのを確認し、スウの気配を探った。
「劉淵は、本当に庭木に容赦がないな」
カイが声がした方に目を向けると、地面から人間1人分程度上に浮かんで笑っているスウがこちらを見ていた。
(待て……声はあそこからしているが……)
カイはスウの姿を見ながら、自分の右に向かって「気」の塊をぶつけた。
「お見事。目で見えるものを疑うとは、流石だ」
「気」の塊を投げた場所で姿を現し無傷で立っているスウは、相変わらず気配はない。どういうことなのか、姿が見える気配のない2人のスウから同時に声が聞こえている。
「やけに手の込んだ術まで使ってくれるんだな」
カイはそう言うと右にいるスウの方に身体を向ける。
「そうだろう。割と呪術師としての素質と素養が要る術なんだ。この術を、王女に伝授しておいた方が良いと思っている」
スウはそう言うと、
「明日、お前は部下を連れてくるつもりらしいが、王女にも声を掛けておけ」
とサラッと付け加えた。
「俺が雇い主のスケジュールを動かせると思っているのか……?」
カイが断るように言うと、
「間違いなく、王女は明日この場に同席したがるはずだ」
とスウは自信満々で言い切った。
「あの王女は、呪術師としての素質を持て余している。そろそろ、そのことに気付いているはずだ」
スウがそう言ったのを、
「なるほどな、この間の一連の王女への話も、その辺を見越していたのか」
とカイはため息交じりに返し、足元に転がっていた木の枝を拾うと、右にいるスウに向かって投げる。木の枝はスウの身体をすり抜けていった。
「趣味の悪い術の使い方だ」
カイはそう言って、姿が見えるスウとは別の場所にいるであろう本体を探した。
「あ、すまない。疲れているのに起こしてしまったな」
と2人に向かって謝った。何が起きているのか分からずにシンとロキはあっけに取られていたが、カイは普段通りといった様子で支度を始めている。
「団長、どうしたんですか、こんな朝早くから……」
シンが驚いて尋ねると、
「ああ、今、対呪術用の修行をしているんだ。相手は東洋の呪術師で、いつもとんでもない時間にやってくる」
カイは部屋を見渡してブラッドがレナの護衛に入っているのを見ると、まあいいかと1人で出かけようとした。
「お1人で、修行されているんですか?」
ロキに尋ねられ、
「いや、昨日はブラッドも付いてきた。細かい怪我を身体中に作って後悔していたがな。お前らは明日から参加してみると良い」
とカイは笑って部屋を出て行く。
「対、呪術用の修行か……。いよいよ、人間離れが進んできたな……」
シンが言うと、
「修行したら、呪術にも対応できるようになるのかな? 興味あるんだけど」
と、ロキは興味津々のようだった。
「見えない力に対応するって、怖くないか? ちょっと俺は抵抗があるんだけど」
シンがロキに言うと、
「うーん、怖い、か。それより興味の方が強いかな。自分の知らないことは、なるべく経験できる時に経験しておこうと思ってるからなのかもしれない」
と、ロキは改めてベッドに横たわった。シンは、ロキの考え方に感心しながら、
「ロキのそういうところ、見習わないとなあ」
と言ってまた寝直すことにしたが、対呪術用の修行というのは想像がつかない。やはり、未知へのものに対する不安の方が強かった。
「スウ、残念なことに庭木が荒れているのを城のバトラーに見つかっている。2日後に要人を迎えるので、今日の午後に庭木の剪定が入るらしい。明日と明後日は庭木を痛めるような修行はできないぞ」
カイがスウに注意を促しながら、目の前に集めた「気」を使って小さな竜巻をいくつか起こした。
「ふん、人聞きの悪い言い方をするな。私の術のせいだけでもあるまい。劉淵の術も、充分庭木に優しくないぞ」
スウはカイの言い分に反論すると、カイの頭上に大量の水を降らせる。カイは小さな竜巻を3つ衝突させて大きな竜巻を作ると、スウの水が吸い込まれていくのを確認しながら、走ってスウの方に向かって行った。
「さすが、足が速い」
スウは笑いながら姿を消すと、カイが一瞬怯んだ隙にカイの目の前に水の塊を発生させる。カイはその水の塊を「気」の力で散らせた。
「姿と気配を同時に消せるか……」
カイはスウの動きが把握できず、どこから攻撃されても防げるよう、自分の身体を包むように「気」の膜を張って防御壁を作る。不意に後ろから熱を感じ、素早く振り向くと目の前に火が灯っていた。「気」の膜をもってしても熱さを感じ、カイはつくづく火への耐性を何とか出来ないものかと苛立つ。
(イチかバチか)
カイは先ほど作った竜巻を再度起こしてみる。周囲の細かい葉や木の枝、土と共に火も吸い込まれて消えていくのを確認し、スウの気配を探った。
「劉淵は、本当に庭木に容赦がないな」
カイが声がした方に目を向けると、地面から人間1人分程度上に浮かんで笑っているスウがこちらを見ていた。
(待て……声はあそこからしているが……)
カイはスウの姿を見ながら、自分の右に向かって「気」の塊をぶつけた。
「お見事。目で見えるものを疑うとは、流石だ」
「気」の塊を投げた場所で姿を現し無傷で立っているスウは、相変わらず気配はない。どういうことなのか、姿が見える気配のない2人のスウから同時に声が聞こえている。
「やけに手の込んだ術まで使ってくれるんだな」
カイはそう言うと右にいるスウの方に身体を向ける。
「そうだろう。割と呪術師としての素質と素養が要る術なんだ。この術を、王女に伝授しておいた方が良いと思っている」
スウはそう言うと、
「明日、お前は部下を連れてくるつもりらしいが、王女にも声を掛けておけ」
とサラッと付け加えた。
「俺が雇い主のスケジュールを動かせると思っているのか……?」
カイが断るように言うと、
「間違いなく、王女は明日この場に同席したがるはずだ」
とスウは自信満々で言い切った。
「あの王女は、呪術師としての素質を持て余している。そろそろ、そのことに気付いているはずだ」
スウがそう言ったのを、
「なるほどな、この間の一連の王女への話も、その辺を見越していたのか」
とカイはため息交じりに返し、足元に転がっていた木の枝を拾うと、右にいるスウに向かって投げる。木の枝はスウの身体をすり抜けていった。
「趣味の悪い術の使い方だ」
カイはそう言って、姿が見えるスウとは別の場所にいるであろう本体を探した。
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