アメイジング・ナイト ―王女と騎士の35日―

碧井夢夏

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the 23rd day 女騎士と外国人兵

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 城下町は昼間から屋台が出ていた。人々は楽しそうに行き交い、華やかな雰囲気だ。
 サラは今のところ何かが起きることもなさそうだと思いながら、昨日訪れた宿の前までやってきた。
 特別変わったことはなさそうだが、何か違和感がある。
(誰かに……見られている……)
 サラは、どこかから自分を見ている存在に、腰の短剣を抜いた。

「何か、御用かしら?」
「誰か」に話しかけるが、返事はない。暫く待っても何も起きないため、短剣を握ったまま宿の中に入ることにした。

(そういえば、町の喧騒に比べてここはやけに静かだわ……)
 サラは、こんな静けさの中で急な殺気を受けた経験があった。ルリアーナに来てからすっかり平和な毎日を送っていたが、やはり自分はこの世界から逃げられない運命にあるのだろうと諦めに似た感情が湧く。
 宿の入口に入ると、サラは絶句した。

 そこには、昨日話をしていた初老の男性の、変わり果てた姿があった。
「ちょっと、大丈夫?!」
 サラはとっさに駆け寄って、男性の脈を確かめて心臓の音を聞いた。
「亡くなっている……」

 男性には、強い力で首を絞められた形跡が見られた。
(宗教戦争は、直接的な暴力はないんじゃなかったの……? これは、明らかに戦い慣れた人間の仕業だわ)

 サラは急いで城に戻ることにした。早くみんなに知らせなければ……この近くに、呪術師とは違う、戦いのプロが潜んでいる。

 サラが宿から出ようとすると、後ろから強烈な殺気を感じ、サラは咄嗟に短剣で攻撃を受け流した。
 褐色の肌をした男が、曲刀を構えて笑っている。

(東方の戦士か……)
 サラは褐色の肌に黒い髪を持つ目の前の男をじっと見つめた。
「……何の人か。」
 男は不自由な言葉でサラに尋ねる。

「こちらの言葉が話せないのに、ここで仕事をしている……奴隷兵か傭兵かしら……」
 サラはそう言って目の前の男をじっと見ると、
「あたしはあんたと同じ、同じ兵士よ。王家の兵士」
 と呼びかける。
「同じ……」
 男は手にしている曲刀を下ろし、サラをじっと見た。

「この人を殺したのは、あなた?」
 サラが目の前に横たわっている初老の男性を指さして尋ねると、
「これの人、私、酷いことを命令した。雇い主違う。邪魔になった」
 と、男はつたない言葉で説明した。

「雇い主は、この人じゃなくて……この人が邪魔になったのか。雇い主は誰?」
 サラはじっと男の目を見つめたまま短剣を握りしめて尋ねる。
「質問の意味、分からない」
 男はそう言うと、そのまま宿を出て行こうとする。

「ちょっと待ちなさい。この国で殺人は犯罪よ。異国で殺人をしないで」
 サラが必死に呼びかけると、
「雇い主、邪魔なやつ、皆殺せと言っている……」
 と、男はサラを見て曲刀を構えた。

(なんて荒い指示を出されているの……)
 サラは背筋に汗をかいていることに気付いた。応援無しで目の前の相手と戦えるのか、自信がない。

「サラ、そちらはどうだ」
 突然、耳元にカイの声が聞こえた。
「団長?」
 サラが驚くと、
「私の術で、直接サラと話をしているのよ」
 とレナの声がする。

「正教会の拠点になる予定だった宿に居ます、ここに、東方の兵士が出ました……。今、目の前に」
 サラはゆっくりそう言うと、目の前の兵を見ながら、
「曲刀を持っています。宿の男性を殺した後でした。雇い主は不明」
 と話しながら間合いを詰められないよう、短剣を男の方を向けたまま構えている。

「シン、ロキ、向かえるか?」
 カイの声に「はい」と2人の声がする。

(あの2人がここに到着するまで、軽く10分は掛かるわね……これは、ちょっとまずいかも……)
 サラは脂汗を浮かべながら、途方もなく長い10分をどう耐えようかと深呼吸をした。
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