143 / 221
the 23rd day 女騎士と外国人兵
しおりを挟む
城下町は昼間から屋台が出ていた。人々は楽しそうに行き交い、華やかな雰囲気だ。
サラは今のところ何かが起きることもなさそうだと思いながら、昨日訪れた宿の前までやってきた。
特別変わったことはなさそうだが、何か違和感がある。
(誰かに……見られている……)
サラは、どこかから自分を見ている存在に、腰の短剣を抜いた。
「何か、御用かしら?」
「誰か」に話しかけるが、返事はない。暫く待っても何も起きないため、短剣を握ったまま宿の中に入ることにした。
(そういえば、町の喧騒に比べてここはやけに静かだわ……)
サラは、こんな静けさの中で急な殺気を受けた経験があった。ルリアーナに来てからすっかり平和な毎日を送っていたが、やはり自分はこの世界から逃げられない運命にあるのだろうと諦めに似た感情が湧く。
宿の入口に入ると、サラは絶句した。
そこには、昨日話をしていた初老の男性の、変わり果てた姿があった。
「ちょっと、大丈夫?!」
サラはとっさに駆け寄って、男性の脈を確かめて心臓の音を聞いた。
「亡くなっている……」
男性には、強い力で首を絞められた形跡が見られた。
(宗教戦争は、直接的な暴力はないんじゃなかったの……? これは、明らかに戦い慣れた人間の仕業だわ)
サラは急いで城に戻ることにした。早くみんなに知らせなければ……この近くに、呪術師とは違う、戦いのプロが潜んでいる。
サラが宿から出ようとすると、後ろから強烈な殺気を感じ、サラは咄嗟に短剣で攻撃を受け流した。
褐色の肌をした男が、曲刀を構えて笑っている。
(東方の戦士か……)
サラは褐色の肌に黒い髪を持つ目の前の男をじっと見つめた。
「……何の人か。」
男は不自由な言葉でサラに尋ねる。
「こちらの言葉が話せないのに、ここで仕事をしている……奴隷兵か傭兵かしら……」
サラはそう言って目の前の男をじっと見ると、
「あたしはあんたと同じ、同じ兵士よ。王家の兵士」
と呼びかける。
「同じ……」
男は手にしている曲刀を下ろし、サラをじっと見た。
「この人を殺したのは、あなた?」
サラが目の前に横たわっている初老の男性を指さして尋ねると、
「これの人、私、酷いことを命令した。雇い主違う。邪魔になった」
と、男はつたない言葉で説明した。
「雇い主は、この人じゃなくて……この人が邪魔になったのか。雇い主は誰?」
サラはじっと男の目を見つめたまま短剣を握りしめて尋ねる。
「質問の意味、分からない」
男はそう言うと、そのまま宿を出て行こうとする。
「ちょっと待ちなさい。この国で殺人は犯罪よ。異国で殺人をしないで」
サラが必死に呼びかけると、
「雇い主、邪魔なやつ、皆殺せと言っている……」
と、男はサラを見て曲刀を構えた。
(なんて荒い指示を出されているの……)
サラは背筋に汗をかいていることに気付いた。応援無しで目の前の相手と戦えるのか、自信がない。
「サラ、そちらはどうだ」
突然、耳元にカイの声が聞こえた。
「団長?」
サラが驚くと、
「私の術で、直接サラと話をしているのよ」
とレナの声がする。
「正教会の拠点になる予定だった宿に居ます、ここに、東方の兵士が出ました……。今、目の前に」
サラはゆっくりそう言うと、目の前の兵を見ながら、
「曲刀を持っています。宿の男性を殺した後でした。雇い主は不明」
と話しながら間合いを詰められないよう、短剣を男の方を向けたまま構えている。
「シン、ロキ、向かえるか?」
カイの声に「はい」と2人の声がする。
(あの2人がここに到着するまで、軽く10分は掛かるわね……これは、ちょっとまずいかも……)
サラは脂汗を浮かべながら、途方もなく長い10分をどう耐えようかと深呼吸をした。
サラは今のところ何かが起きることもなさそうだと思いながら、昨日訪れた宿の前までやってきた。
特別変わったことはなさそうだが、何か違和感がある。
(誰かに……見られている……)
サラは、どこかから自分を見ている存在に、腰の短剣を抜いた。
「何か、御用かしら?」
「誰か」に話しかけるが、返事はない。暫く待っても何も起きないため、短剣を握ったまま宿の中に入ることにした。
(そういえば、町の喧騒に比べてここはやけに静かだわ……)
サラは、こんな静けさの中で急な殺気を受けた経験があった。ルリアーナに来てからすっかり平和な毎日を送っていたが、やはり自分はこの世界から逃げられない運命にあるのだろうと諦めに似た感情が湧く。
宿の入口に入ると、サラは絶句した。
そこには、昨日話をしていた初老の男性の、変わり果てた姿があった。
「ちょっと、大丈夫?!」
サラはとっさに駆け寄って、男性の脈を確かめて心臓の音を聞いた。
「亡くなっている……」
男性には、強い力で首を絞められた形跡が見られた。
(宗教戦争は、直接的な暴力はないんじゃなかったの……? これは、明らかに戦い慣れた人間の仕業だわ)
サラは急いで城に戻ることにした。早くみんなに知らせなければ……この近くに、呪術師とは違う、戦いのプロが潜んでいる。
サラが宿から出ようとすると、後ろから強烈な殺気を感じ、サラは咄嗟に短剣で攻撃を受け流した。
褐色の肌をした男が、曲刀を構えて笑っている。
(東方の戦士か……)
サラは褐色の肌に黒い髪を持つ目の前の男をじっと見つめた。
「……何の人か。」
男は不自由な言葉でサラに尋ねる。
「こちらの言葉が話せないのに、ここで仕事をしている……奴隷兵か傭兵かしら……」
サラはそう言って目の前の男をじっと見ると、
「あたしはあんたと同じ、同じ兵士よ。王家の兵士」
と呼びかける。
「同じ……」
男は手にしている曲刀を下ろし、サラをじっと見た。
「この人を殺したのは、あなた?」
サラが目の前に横たわっている初老の男性を指さして尋ねると、
「これの人、私、酷いことを命令した。雇い主違う。邪魔になった」
と、男はつたない言葉で説明した。
「雇い主は、この人じゃなくて……この人が邪魔になったのか。雇い主は誰?」
サラはじっと男の目を見つめたまま短剣を握りしめて尋ねる。
「質問の意味、分からない」
男はそう言うと、そのまま宿を出て行こうとする。
「ちょっと待ちなさい。この国で殺人は犯罪よ。異国で殺人をしないで」
サラが必死に呼びかけると、
「雇い主、邪魔なやつ、皆殺せと言っている……」
と、男はサラを見て曲刀を構えた。
(なんて荒い指示を出されているの……)
サラは背筋に汗をかいていることに気付いた。応援無しで目の前の相手と戦えるのか、自信がない。
「サラ、そちらはどうだ」
突然、耳元にカイの声が聞こえた。
「団長?」
サラが驚くと、
「私の術で、直接サラと話をしているのよ」
とレナの声がする。
「正教会の拠点になる予定だった宿に居ます、ここに、東方の兵士が出ました……。今、目の前に」
サラはゆっくりそう言うと、目の前の兵を見ながら、
「曲刀を持っています。宿の男性を殺した後でした。雇い主は不明」
と話しながら間合いを詰められないよう、短剣を男の方を向けたまま構えている。
「シン、ロキ、向かえるか?」
カイの声に「はい」と2人の声がする。
(あの2人がここに到着するまで、軽く10分は掛かるわね……これは、ちょっとまずいかも……)
サラは脂汗を浮かべながら、途方もなく長い10分をどう耐えようかと深呼吸をした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結
新作
【あやかしたちのとまり木の日常】
連載開始しました
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる
柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった!
※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる