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第一章
新入社員、出張を無事に終える
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その日の仕事が終わったのは夜の6時半。展示会の会場で、支社の部長が挨拶を終えた。
計2日間の接客や対応はそれぞれに疲労と達成感をもたらしている。
「東御さん、花森さん、わざわざ東京からお疲れ様でした!」
パチパチと拍手をされて東御と花森は軽く頭を下げる。
花森は大して戦力になれなかったのが心残りだった。
「ではまた、秋の展示会で」
「東御さんはその前に中国企業との商談でも呼びますからね」
そんなことを言われて東御と花森は会場を後にする。あとは帰るだけだ。
*
「お疲れ」
「はい、お疲れ様でした」
二人は大きな荷物をホテルから宅配便で送るよう手配しており、普段会社に通う程度の荷物でタクシーに乗り込んでいる。
「駅に着いたら19時か。新幹線は混んでいるだろうな」
「隣同士の席は取れないでしょうね」
「……嬉しそうに言うな。終電になってでも見つけてやる」
そうして駅に着き、無事に隣り合った席を20分後の出発でおさえることができた。
「夕食は何が良い? 適当に弁当を買うが」
「時間もあまりないので合わせます」
「大阪の弁当も種類が多いからな……和食にしよう」
「どうぞ」
二人は弁当と飲み物を調達して新幹線のホームに向かう。
「まだ仕事に慣れない中、大変だったな」
「そうですね。立ちっぱなしの現場があるなんて思いませんでした」
「まあ、何事も経験だ」
「なんで東御さんは疲れてないんですか。イラっとします」
花森は納得いかない。自分よりも6つ年上の男性が全く疲れを見せないなんて、若さで対抗できないのは悔しかった。
「疲れてはいる。が、気を張っていたのも大きい」
「へえ。東御さんでも気を張ったりするんですね」
「部下のフォローもあるし、何か問題があってはいけないからな」
そのせいで気を張っていたのなら、一人で出張に来た方がよかったではないか。花森は呆れる。
「まあでも、そのくらいでないと仕事はつまらないなと思う」
「ドMじゃないですか」
「……そうなのか?」
東御が真顔で花森に尋ねる。まさかそこに食いつかれるとは思わなかった。
「知りませんよ! 自分の心に聞いてください!」
新幹線のホームで何を聞くのだ、と花森は赤くなる。そもそも自分の発言だったが、そこを改めて尋ねるのは止めて欲しい。
「自分の心にか……なるほど」
「いいですからね、私は興味ありませんからね」
「確かに、花森相手だとそういう部分があるのかもしれないな……」
「認めないで! そこは認めないで下さい!」
二人が乗る予定の新幹線がホームに入って来た。
白にブルーのラインが入った新幹線「のぞみ」の扉が開く。
二人はそこに乗り込むと、そそくさと席に着いた。
すぐに食事をとると、花森は揺れに身を任せながら眠ってしまった。
東御はその寝顔を近距離でじっと見ている。
鼻で息をしているな、と、東御は花森の鼻をつまんでみた。
「んがっ」と花森の奇妙な声が上がり、口が開いて苦しそうに口呼吸をし始めている。
「飽きないな、お前は」
東御はその様子を見て微笑むと、隣でPCを立ち上げる。
受信したままになっているEメールの数々を確認していった。本社に戻ったら、やることが山積みだ。
いくつかのメールに、これは花森に仕事を教えているどころではなくなるに違いないと頭を抱える。東御は息を吐いた。
隣の穏やかな寝息と微かな体温を感じながら、花森の業務に支障をきたさないよう、これからは適度な距離を置こうと東御は自分を戒める。
告白めいたことをしてしまい、花森の気持ちが自分にないことは理解したつもりだ。東御の恋愛感情は花森にとって邪魔でしかない。
花森は今まさに仕事を覚えようとしている。東御のせいで成長を妨げたくなかった。
計2日間の接客や対応はそれぞれに疲労と達成感をもたらしている。
「東御さん、花森さん、わざわざ東京からお疲れ様でした!」
パチパチと拍手をされて東御と花森は軽く頭を下げる。
花森は大して戦力になれなかったのが心残りだった。
「ではまた、秋の展示会で」
「東御さんはその前に中国企業との商談でも呼びますからね」
そんなことを言われて東御と花森は会場を後にする。あとは帰るだけだ。
*
「お疲れ」
「はい、お疲れ様でした」
二人は大きな荷物をホテルから宅配便で送るよう手配しており、普段会社に通う程度の荷物でタクシーに乗り込んでいる。
「駅に着いたら19時か。新幹線は混んでいるだろうな」
「隣同士の席は取れないでしょうね」
「……嬉しそうに言うな。終電になってでも見つけてやる」
そうして駅に着き、無事に隣り合った席を20分後の出発でおさえることができた。
「夕食は何が良い? 適当に弁当を買うが」
「時間もあまりないので合わせます」
「大阪の弁当も種類が多いからな……和食にしよう」
「どうぞ」
二人は弁当と飲み物を調達して新幹線のホームに向かう。
「まだ仕事に慣れない中、大変だったな」
「そうですね。立ちっぱなしの現場があるなんて思いませんでした」
「まあ、何事も経験だ」
「なんで東御さんは疲れてないんですか。イラっとします」
花森は納得いかない。自分よりも6つ年上の男性が全く疲れを見せないなんて、若さで対抗できないのは悔しかった。
「疲れてはいる。が、気を張っていたのも大きい」
「へえ。東御さんでも気を張ったりするんですね」
「部下のフォローもあるし、何か問題があってはいけないからな」
そのせいで気を張っていたのなら、一人で出張に来た方がよかったではないか。花森は呆れる。
「まあでも、そのくらいでないと仕事はつまらないなと思う」
「ドMじゃないですか」
「……そうなのか?」
東御が真顔で花森に尋ねる。まさかそこに食いつかれるとは思わなかった。
「知りませんよ! 自分の心に聞いてください!」
新幹線のホームで何を聞くのだ、と花森は赤くなる。そもそも自分の発言だったが、そこを改めて尋ねるのは止めて欲しい。
「自分の心にか……なるほど」
「いいですからね、私は興味ありませんからね」
「確かに、花森相手だとそういう部分があるのかもしれないな……」
「認めないで! そこは認めないで下さい!」
二人が乗る予定の新幹線がホームに入って来た。
白にブルーのラインが入った新幹線「のぞみ」の扉が開く。
二人はそこに乗り込むと、そそくさと席に着いた。
すぐに食事をとると、花森は揺れに身を任せながら眠ってしまった。
東御はその寝顔を近距離でじっと見ている。
鼻で息をしているな、と、東御は花森の鼻をつまんでみた。
「んがっ」と花森の奇妙な声が上がり、口が開いて苦しそうに口呼吸をし始めている。
「飽きないな、お前は」
東御はその様子を見て微笑むと、隣でPCを立ち上げる。
受信したままになっているEメールの数々を確認していった。本社に戻ったら、やることが山積みだ。
いくつかのメールに、これは花森に仕事を教えているどころではなくなるに違いないと頭を抱える。東御は息を吐いた。
隣の穏やかな寝息と微かな体温を感じながら、花森の業務に支障をきたさないよう、これからは適度な距離を置こうと東御は自分を戒める。
告白めいたことをしてしまい、花森の気持ちが自分にないことは理解したつもりだ。東御の恋愛感情は花森にとって邪魔でしかない。
花森は今まさに仕事を覚えようとしている。東御のせいで成長を妨げたくなかった。
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