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第二章
【番外編】これは変だと思うので
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出張から帰ってきて、毎日変な夢を見る。
決まって出てくるのは課長の東御さんで、私は夢で裸の彼に襲い掛かり、散々なことをしてしまっていた。
出張の時から始まったこの夢は、日中にも何度かフラッシュバックする。
スーツを着て歩いている東御さんを見かけた時に、夢の中の裸体がよぎってしまうのだ。
認めたくないけど……私はおかしくなっている。
夢を思い出して、昼間も東御さんを意識して見てしまう。
私の身体とは全く違う、太い腕や薄っすらと筋肉のついた首筋、節が目立つのに決して武骨には見えない綺麗な手、スーツから覗く喉仏、低くて落ち着いた声、筆ですっと線を引いたような綺麗で優雅な唇……。
うん……全部……。
って違う!! 今、何考えてた?!
別に東御さんなんてどうでもいいし!
東御さんは、私が好きだと言っていた。
そのせいだと思う。夢の中の私は、東御さんに向かって「私のことが好きなくせに」と言っていた。
おかしい。私にそんなサディスティックな趣味はない。絶対にノーマルだったはずなんだけど……。
*
「花森、少し良いか?」
「え? あ、はい……」
席で呼ばれて、東御さんと社内の打ち合わせスペースに向かった。
オープンスペースで周りには色んな人が行き交っている。この状況なら夢がフラッシュバックすることはない、はずだ。
「実は、俺が暫く支社の仕事に付きっきりになることになってな」
「関西支社ですか?」
「そうだ。中部エリアは本社対応が増える。だから、あまり花森にサポートを依頼することがなくなる……というか面倒を見てやれなさそうなんだ」
「……はあ」
東御さんは両肘をついて手を組んだ姿勢で、口元が隠れるように前屈みになっている。口元が見えないと特に表情が読めない。
「新卒でまだまだ覚えて欲しいことも多い。都度、先輩社員のサポートに入ってもらおうと思っている」
「じゃあ、東御さんのサポートは」
「一旦外れてもらうことにした」
へえ……そうなんだ……。サポートから外れるって、それ……もう、私なんか要らないってことじゃん……。
「はい、分かりました」
部下の私は、素直に話を聞くことしかできない。
もう決まったことだ。会社の決定には逆らえないんだろう。
組まれた東御さんの手を見ながら、あの手はもう、私に触れることなんかないんだって分かった。
それがなんだか悔しくて、私は東御さんを真っ直ぐに見られない。
「大丈夫だ、失敗したっていいから花森らしく頑張れ」
東御さんはそう言うと、「じゃあ、これで」と言って早々に席を立つ。
その態度からは、私を好きだと言って困っていた様子なんか微塵も感じられない。会社で噂されている人造人間のような固まった綺麗な顔をしていた。
もう、私のことなんてどうでもよくなったのかもしれない。
その夜の夢は、今までで一番ひどかった。
私は夢の中で東御さんに馬乗りになっていた。
私のことが好きって言ったのに、どうして?
私を遠ざけるようなこと……!
そう叫んで、あの綺麗な顔を……往復ビンタした。
朝起きた時、夢の私はなんて行為を……と頭が痛い。
上司を虐げたい願望でもあるのだろうか。
夢の中で、東御さんが私のことを好きと言うまでずっと荒れていた。
顔を洗おうと気を取り直して布団から出ると、身体に東御さんの感覚が残っている。
夢で強く抱きしめられて、「まだ花森が好きだ」って言われた時のーー。
こんなのは、絶対おかしい。
身体がなんだか熱を持っているようで、夢の東御さんを思い出すたび心臓がドキドキとした。あの鋭くて切れ長の綺麗な目が、私をじっと見ている様子が脳裏に浮かぶ。
「やだもう……」
東御さんのことを考えると、なんだか私は落ち着かない。
出張の時にTシャツ姿、足首の出る部屋着スタイルを見てから、私の中の東御さんがおかしい。
あんな胸板が目の前に現れてしまったら、目の前がチカチカしてしまう。肩だってなんだか逞しかったし、普段隠れている足首が、あんな風にキュッとしているなんて知らなかった。
ああ……認めたくないけど……見た目が良すぎる……。
「どうしよう……変態みたい……」
こうして一度落ち込んでから、一日が始まる。
これから本物の東御さんがいる会社に行かなくてはならない。
入社して1ヶ月半、私は裸の上司が出てくる夢ばかり見ている。
決まって出てくるのは課長の東御さんで、私は夢で裸の彼に襲い掛かり、散々なことをしてしまっていた。
出張の時から始まったこの夢は、日中にも何度かフラッシュバックする。
スーツを着て歩いている東御さんを見かけた時に、夢の中の裸体がよぎってしまうのだ。
認めたくないけど……私はおかしくなっている。
夢を思い出して、昼間も東御さんを意識して見てしまう。
私の身体とは全く違う、太い腕や薄っすらと筋肉のついた首筋、節が目立つのに決して武骨には見えない綺麗な手、スーツから覗く喉仏、低くて落ち着いた声、筆ですっと線を引いたような綺麗で優雅な唇……。
うん……全部……。
って違う!! 今、何考えてた?!
別に東御さんなんてどうでもいいし!
東御さんは、私が好きだと言っていた。
そのせいだと思う。夢の中の私は、東御さんに向かって「私のことが好きなくせに」と言っていた。
おかしい。私にそんなサディスティックな趣味はない。絶対にノーマルだったはずなんだけど……。
*
「花森、少し良いか?」
「え? あ、はい……」
席で呼ばれて、東御さんと社内の打ち合わせスペースに向かった。
オープンスペースで周りには色んな人が行き交っている。この状況なら夢がフラッシュバックすることはない、はずだ。
「実は、俺が暫く支社の仕事に付きっきりになることになってな」
「関西支社ですか?」
「そうだ。中部エリアは本社対応が増える。だから、あまり花森にサポートを依頼することがなくなる……というか面倒を見てやれなさそうなんだ」
「……はあ」
東御さんは両肘をついて手を組んだ姿勢で、口元が隠れるように前屈みになっている。口元が見えないと特に表情が読めない。
「新卒でまだまだ覚えて欲しいことも多い。都度、先輩社員のサポートに入ってもらおうと思っている」
「じゃあ、東御さんのサポートは」
「一旦外れてもらうことにした」
へえ……そうなんだ……。サポートから外れるって、それ……もう、私なんか要らないってことじゃん……。
「はい、分かりました」
部下の私は、素直に話を聞くことしかできない。
もう決まったことだ。会社の決定には逆らえないんだろう。
組まれた東御さんの手を見ながら、あの手はもう、私に触れることなんかないんだって分かった。
それがなんだか悔しくて、私は東御さんを真っ直ぐに見られない。
「大丈夫だ、失敗したっていいから花森らしく頑張れ」
東御さんはそう言うと、「じゃあ、これで」と言って早々に席を立つ。
その態度からは、私を好きだと言って困っていた様子なんか微塵も感じられない。会社で噂されている人造人間のような固まった綺麗な顔をしていた。
もう、私のことなんてどうでもよくなったのかもしれない。
その夜の夢は、今までで一番ひどかった。
私は夢の中で東御さんに馬乗りになっていた。
私のことが好きって言ったのに、どうして?
私を遠ざけるようなこと……!
そう叫んで、あの綺麗な顔を……往復ビンタした。
朝起きた時、夢の私はなんて行為を……と頭が痛い。
上司を虐げたい願望でもあるのだろうか。
夢の中で、東御さんが私のことを好きと言うまでずっと荒れていた。
顔を洗おうと気を取り直して布団から出ると、身体に東御さんの感覚が残っている。
夢で強く抱きしめられて、「まだ花森が好きだ」って言われた時のーー。
こんなのは、絶対おかしい。
身体がなんだか熱を持っているようで、夢の東御さんを思い出すたび心臓がドキドキとした。あの鋭くて切れ長の綺麗な目が、私をじっと見ている様子が脳裏に浮かぶ。
「やだもう……」
東御さんのことを考えると、なんだか私は落ち着かない。
出張の時にTシャツ姿、足首の出る部屋着スタイルを見てから、私の中の東御さんがおかしい。
あんな胸板が目の前に現れてしまったら、目の前がチカチカしてしまう。肩だってなんだか逞しかったし、普段隠れている足首が、あんな風にキュッとしているなんて知らなかった。
ああ……認めたくないけど……見た目が良すぎる……。
「どうしよう……変態みたい……」
こうして一度落ち込んでから、一日が始まる。
これから本物の東御さんがいる会社に行かなくてはならない。
入社して1ヶ月半、私は裸の上司が出てくる夢ばかり見ている。
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