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第二章
油断は禁物
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東御のサポートを外れてから、花森は様々な先輩のフォローで資料をまとめたりデータを作ったりしている。
「花森ちゃーん、一件いい?」
先輩社員の三木が一件メールを送ってきており、花森の席まで歩いてきた。
「これなんだけど、実は俺、寝かせててさあ」
「……はい」
「今日中にやらないとまずいんだよね」
「それを今……」
時間は午後3時。業務終了時間まで2時間半。入力作業がメインの仕事だが、どう考えても終わる量ではない。
「ごめん、ご飯奢るしタクシー代出すから残業お願いできない??」
「……はい」
渋々引き受けて、まあ仕方がないかと花森は仕事に取り掛かる。
先輩が困っているのならそれをサポートするのも後輩の役割だ。それが例え本人の失態によるものだとしても、自分だって今後同じようなことを起こすだろうし文句は言えない。
「ありがとねー」
三木はそう言って申し訳なさそうにしているが、花森はそこからなるべく早く終わらせようと集中して取り組んだ。いくらタクシー代が出るからと言われても、早く帰りたい。ご飯も抜きにして。
花森は業務終了時間まで一生懸命に取り組んだが、結局三木の資料は出来上がっていない。
東御の姿を見ないなと思い予定表を見ると、「中部エリア出張」となっていた。
まさか、三木は自分の失態がばれないように東御のいない時を狙って花森に仕事を振ったのだろうか。
そう思いつつも、深読みはやめた。
東御の下についていた時は、こんな仕事の振り方はされなかった。
業務時間内で終わる量の仕事しか渡されたことはなかったし、失敗が多い花森を常にサポートしてくれていた。
そう思うと、やはり東御はそこまで酷い上司ではなかったのだ。
新卒社員で大したものを食べていないだろうと、普段行けないような店に食事に連れて行ってくれた。
花森は、まだ部下なのだからまた食事くらいは連れて行ってくれたっていいのに、と思うと不意に寂しさを覚える。
*
営業部のデスクには三木と花森を残し、全員既に退勤していた。
三木と花森は手分けしてデータを入力し、今まさに終わりが見えてきているところだ。
「花森ちゃん、俺、終わったわ」
「私もあと数分で終わるかと」
「うわーーありがとう。絶対終わらないと思った!!」
そんなものをやらせたのか、と花森はげんなりする。
午後9時を前に全てを終わらせられそうで当初の目論見より早かった。
「私も終わりました」
「ありがとう!! ほんとありがとう!! 軽く食事行こ、食事」
「いえ、食事は別に……」
「いいからいいから」
三木は強引に花森を連れてオフィスを出る。近くの店に入って軽く食事をして帰ろうという誘いに渋々乗ることにした。
*
「かんぱーい!」「いただきます」
三木と花森はビールとカクテルで乾杯をした。ここはオフィス近くの居酒屋で、チェーン系の庶民的な店だ。
疲れたから一刻も早く帰りたい花森は、先にあらゆる注文を済ませてしまう。
「花森ちゃんてよく食べるんだね」
「いや、お腹減ってましてあはは」
一気にお腹を満たしてすぐに帰りたいからです、というのは流石に言わないでおく。
「花森ちゃん、カクテル好きなの?」
「ああ、はい、割と」
「お酒好き?」
「んー……最近楽しさがちょっと分かって来たというか」
「最高」
何が最高なのか分からないが、三木は自分の襟足を触りながら満足そうに頷いている。
中肉中背といった体型の三木を見ていると、やっぱり東御は特別だったんだなと変な感想が浮かんでしまった。
「花森ちゃーん、一件いい?」
先輩社員の三木が一件メールを送ってきており、花森の席まで歩いてきた。
「これなんだけど、実は俺、寝かせててさあ」
「……はい」
「今日中にやらないとまずいんだよね」
「それを今……」
時間は午後3時。業務終了時間まで2時間半。入力作業がメインの仕事だが、どう考えても終わる量ではない。
「ごめん、ご飯奢るしタクシー代出すから残業お願いできない??」
「……はい」
渋々引き受けて、まあ仕方がないかと花森は仕事に取り掛かる。
先輩が困っているのならそれをサポートするのも後輩の役割だ。それが例え本人の失態によるものだとしても、自分だって今後同じようなことを起こすだろうし文句は言えない。
「ありがとねー」
三木はそう言って申し訳なさそうにしているが、花森はそこからなるべく早く終わらせようと集中して取り組んだ。いくらタクシー代が出るからと言われても、早く帰りたい。ご飯も抜きにして。
花森は業務終了時間まで一生懸命に取り組んだが、結局三木の資料は出来上がっていない。
東御の姿を見ないなと思い予定表を見ると、「中部エリア出張」となっていた。
まさか、三木は自分の失態がばれないように東御のいない時を狙って花森に仕事を振ったのだろうか。
そう思いつつも、深読みはやめた。
東御の下についていた時は、こんな仕事の振り方はされなかった。
業務時間内で終わる量の仕事しか渡されたことはなかったし、失敗が多い花森を常にサポートしてくれていた。
そう思うと、やはり東御はそこまで酷い上司ではなかったのだ。
新卒社員で大したものを食べていないだろうと、普段行けないような店に食事に連れて行ってくれた。
花森は、まだ部下なのだからまた食事くらいは連れて行ってくれたっていいのに、と思うと不意に寂しさを覚える。
*
営業部のデスクには三木と花森を残し、全員既に退勤していた。
三木と花森は手分けしてデータを入力し、今まさに終わりが見えてきているところだ。
「花森ちゃん、俺、終わったわ」
「私もあと数分で終わるかと」
「うわーーありがとう。絶対終わらないと思った!!」
そんなものをやらせたのか、と花森はげんなりする。
午後9時を前に全てを終わらせられそうで当初の目論見より早かった。
「私も終わりました」
「ありがとう!! ほんとありがとう!! 軽く食事行こ、食事」
「いえ、食事は別に……」
「いいからいいから」
三木は強引に花森を連れてオフィスを出る。近くの店に入って軽く食事をして帰ろうという誘いに渋々乗ることにした。
*
「かんぱーい!」「いただきます」
三木と花森はビールとカクテルで乾杯をした。ここはオフィス近くの居酒屋で、チェーン系の庶民的な店だ。
疲れたから一刻も早く帰りたい花森は、先にあらゆる注文を済ませてしまう。
「花森ちゃんてよく食べるんだね」
「いや、お腹減ってましてあはは」
一気にお腹を満たしてすぐに帰りたいからです、というのは流石に言わないでおく。
「花森ちゃん、カクテル好きなの?」
「ああ、はい、割と」
「お酒好き?」
「んー……最近楽しさがちょっと分かって来たというか」
「最高」
何が最高なのか分からないが、三木は自分の襟足を触りながら満足そうに頷いている。
中肉中背といった体型の三木を見ていると、やっぱり東御は特別だったんだなと変な感想が浮かんでしまった。
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