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第二章
突然の接触 2
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東御が自宅に着いて玄関ドアを開けると、すぐに中から花森が駆けつけた。
薄いピンク色のショートパンツとスウェットを着て「おかえりなさい」と嬉しそうに笑みを浮かべている。
「今日は何もなかったのか」
昨日のような惨状は起きていないらしいと分かると、東御はほっとしたような残念なような複雑な気持ちになる。
ひとりでは味わえないハプニングさえ日々の愛おしさになっていくのだと思う度に、先ほどの不穏さが頭の中でガンガンと響くようだ。
「夕食はご飯を炊いただけです。その位なら、お米を流しに流す程度の失敗で済みますから」
「したり顔でいう事がそれか」
「マグロの切り落としとネギと大葉を買ってあるので鉄火丼にしてください」
「花森が食べたいものを買って来たのか?」
買い物をしてきたと聞いて、これからはクレジットカードや食費を渡しておこうと初めて気づいた。東御は他人と暮らすのは初めてで、こういったことに慣れていない。
「えへへ。東御さんが食べたいかなって思ったんですよお」
得意げに笑う花森に、東御は胸が苦しくなった。
「花森ーー」
側にあるその身体を抱きしめて、暫くそのまま動けない。
「どうしたんですか? 会社で何かありました?」
普段とは何かが違う東御に、花森は心配そうに声をかける。
「何でもない。ただ、花森がいてくれることが嬉しかっただけだ」
「? そうなんですか?」
その割に、東御は何か思い詰めているような様子だ。
花森の知っている東御は不安そうな姿を見せたことがなかった。
「着替えて早く鉄火丼を作らないとな」
「はい、よろしくお願いします」
花森はそう言って寝室に向かった東御の背中を見送る。どう見ても普段と様子が違う。あの人造人間風情だった男が、哀愁を漂わせているように見える。
「家常さんを彼氏として他の人に見せるってなったから、やっぱり複雑なのかなあ……」
花森はそんなことを考えてどうしたら元気になるだろうかと悩んでいる。東御が着替えてリビングにやってきた。
「あ、あの……」
どうしよう、と解決策も思い浮かばないまま、声だけをかけておろおろとした。
「どうした?」
「ぎゅーとチュウはどっちがいいですか?」
思いもよらない二択を与えられて東御は顔を綻ばせる。
「じゃあ、ぎゅーを」
花森は東御に近づいて身体に手をまわした。あまり力の強くない花森の抱擁は、抱きしめられているというよりもしがみ付かれているような感覚が近い。
東御はその花森に向かって身体を屈めて口づけた。
「チュウもご入用でしたか」
「どちらかで提示されたので、こちらは俺がすることにした」
「なかなか冴えたことをしてくださいますね」
そう言って唸る花森が微笑ましく、あの父が受け入れるはずもないと思うと腹立たしい。
「花森、これだけは覚えていて欲しい」
「改まってどうしたんです?」
「こうして花森と過ごせるなら、大抵のことはなんでもないんだ」
もう東御は父親に何かを言われて従う義理もないはずだ。わだかまりと長年の支配が心に何度影を落とそうとも、これだけは譲れないと決めればいい。
「はい、では記憶しますね。実は私、家のお米を1合ほどバラ撒きまして、無事に掃除を終わらせました」
「そうか、米一粒に七人の神様と言うからな。神は死んだ。罰当たりな奴め」
「そういうところ古風ですよね」
「古風じゃない、基本だ。食べ物は大切にしろ」
「大抵のことはなんでもないって言ったくせに」
ブツブツ文句を言う花森を横目に、東御はネギと大葉を切って丼を完成させる。酢飯も用意したかったなと心残りはあるが、今は何かが足りないくらいが丁度いいのかもしれない。
「足るを知る、だな」
呟いて、大した調理もしていない鉄火丼をテーブルに並べた。
「じゃあーん! なんと、フリーズドライの味噌汁も買っておきました」
「でかした」
手のひらに乗るサイズの立体的な小袋をつまんで、嬉しそうに笑う花森がいる。その頭をよしよしと撫でて東御は一日の気疲れを吹き飛ばした。
薄いピンク色のショートパンツとスウェットを着て「おかえりなさい」と嬉しそうに笑みを浮かべている。
「今日は何もなかったのか」
昨日のような惨状は起きていないらしいと分かると、東御はほっとしたような残念なような複雑な気持ちになる。
ひとりでは味わえないハプニングさえ日々の愛おしさになっていくのだと思う度に、先ほどの不穏さが頭の中でガンガンと響くようだ。
「夕食はご飯を炊いただけです。その位なら、お米を流しに流す程度の失敗で済みますから」
「したり顔でいう事がそれか」
「マグロの切り落としとネギと大葉を買ってあるので鉄火丼にしてください」
「花森が食べたいものを買って来たのか?」
買い物をしてきたと聞いて、これからはクレジットカードや食費を渡しておこうと初めて気づいた。東御は他人と暮らすのは初めてで、こういったことに慣れていない。
「えへへ。東御さんが食べたいかなって思ったんですよお」
得意げに笑う花森に、東御は胸が苦しくなった。
「花森ーー」
側にあるその身体を抱きしめて、暫くそのまま動けない。
「どうしたんですか? 会社で何かありました?」
普段とは何かが違う東御に、花森は心配そうに声をかける。
「何でもない。ただ、花森がいてくれることが嬉しかっただけだ」
「? そうなんですか?」
その割に、東御は何か思い詰めているような様子だ。
花森の知っている東御は不安そうな姿を見せたことがなかった。
「着替えて早く鉄火丼を作らないとな」
「はい、よろしくお願いします」
花森はそう言って寝室に向かった東御の背中を見送る。どう見ても普段と様子が違う。あの人造人間風情だった男が、哀愁を漂わせているように見える。
「家常さんを彼氏として他の人に見せるってなったから、やっぱり複雑なのかなあ……」
花森はそんなことを考えてどうしたら元気になるだろうかと悩んでいる。東御が着替えてリビングにやってきた。
「あ、あの……」
どうしよう、と解決策も思い浮かばないまま、声だけをかけておろおろとした。
「どうした?」
「ぎゅーとチュウはどっちがいいですか?」
思いもよらない二択を与えられて東御は顔を綻ばせる。
「じゃあ、ぎゅーを」
花森は東御に近づいて身体に手をまわした。あまり力の強くない花森の抱擁は、抱きしめられているというよりもしがみ付かれているような感覚が近い。
東御はその花森に向かって身体を屈めて口づけた。
「チュウもご入用でしたか」
「どちらかで提示されたので、こちらは俺がすることにした」
「なかなか冴えたことをしてくださいますね」
そう言って唸る花森が微笑ましく、あの父が受け入れるはずもないと思うと腹立たしい。
「花森、これだけは覚えていて欲しい」
「改まってどうしたんです?」
「こうして花森と過ごせるなら、大抵のことはなんでもないんだ」
もう東御は父親に何かを言われて従う義理もないはずだ。わだかまりと長年の支配が心に何度影を落とそうとも、これだけは譲れないと決めればいい。
「はい、では記憶しますね。実は私、家のお米を1合ほどバラ撒きまして、無事に掃除を終わらせました」
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「そういうところ古風ですよね」
「古風じゃない、基本だ。食べ物は大切にしろ」
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ブツブツ文句を言う花森を横目に、東御はネギと大葉を切って丼を完成させる。酢飯も用意したかったなと心残りはあるが、今は何かが足りないくらいが丁度いいのかもしれない。
「足るを知る、だな」
呟いて、大した調理もしていない鉄火丼をテーブルに並べた。
「じゃあーん! なんと、フリーズドライの味噌汁も買っておきました」
「でかした」
手のひらに乗るサイズの立体的な小袋をつまんで、嬉しそうに笑う花森がいる。その頭をよしよしと撫でて東御は一日の気疲れを吹き飛ばした。
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