80 / 187
第二章
デートらしいデート
しおりを挟む
朝、東御と花森は目が覚めてからもずっと横になっていた。
誕生日の一日がどんどん過ぎていくのに、東御は花森を抱きしめて離さない。
それがなんだか尊い時間のようで、花森は無理に起きようとしなかった。
「八雲さん、誕生日の時間が減っちゃいますよ」
「何もしていないわけじゃない。誕生日だから沙穂を抱きしめている」
「お出かけしませんか? 誕生日らしく」
「誕生日らしく?」
東御にとって誕生日の定義などない。花森が何を考えているのかもよく分かっていなかった。
「八雲さん、誕生日を祝って欲しいって言ったじゃないですか。今日は私がデートで祝います」
「……誕生日祝いはあれじゃなかったのか?」
「あれじゃありません……」
花森は東御に誕生日祝いを誤解されていたのが不本意だったらしい。あんなことを誕生日祝いだと思わないで欲しいという不満げな顔を浮かべる。
「俺はもう、てっきり誕生日祝いは終わったものかと……」
「これからが本番ですよ」
「じゃあ、ぐずぐずしている場合じゃないな」
「そうです、外に行きましょう!」
花森はバサッと掛布をまくり上げると、キャミソールにショーツという下着姿で布団から飛び出す。
その行動は色気というより子どもの様子に近く、東御は急に冷静になった。
「沙穂……俺が言うことじゃないんだが、もう少し恥じらいはないのか」
「は?」
まあいい、と東御はベッドから起き上がって、脇に脱ぎ捨てられているパジャマを羽織る。
そのまま軽くシャワーを浴びて身支度をしたら、今日のことは花森に任せて大丈夫なのだろうか。
「今日は、デートなので先週買っていただいた白いワンピースを着ます」
「尻の部分、汚れが落ちてよかったな。まあ、洗ったのは俺だが」
「人の失敗を楽しまないで下さい!!」
ニヤニヤしながら東御はバスルームに向かう。花森も顔を洗おうと頬を膨らませながら洗面所に向かった。
「そんなにじっと見ないで下さい。……もしかして、かわいいとか思ってるんですか?」
「かわいいなと思って見ていた」
花森が白いワンピースに着替えて髪を高めの位置で結わっている。揺れるポニーテールがしっぽのようだ。
「なんというか……散歩に行きたくなる」
「犬扱いしないでください」
「よーしよしよし……」
「懐きませんからね!!」
東御は花森を小脇に抱えて洗面所からずるずると引きずって行く。
「動物扱いやめてください!!」
「ははは、人間だって動物だ。おかしなことを言うな」
「愛玩(動物)扱いやめてください!!」
「ははは、それは人間に使うと随分卑猥な言葉なんだが」
「文脈読んでくださいーー!!」
花森が憤っていると、東御は楽しそうに笑っている。
東御なりに浮かれているようだが、浮かれ方が独特だった。
誕生日の一日がどんどん過ぎていくのに、東御は花森を抱きしめて離さない。
それがなんだか尊い時間のようで、花森は無理に起きようとしなかった。
「八雲さん、誕生日の時間が減っちゃいますよ」
「何もしていないわけじゃない。誕生日だから沙穂を抱きしめている」
「お出かけしませんか? 誕生日らしく」
「誕生日らしく?」
東御にとって誕生日の定義などない。花森が何を考えているのかもよく分かっていなかった。
「八雲さん、誕生日を祝って欲しいって言ったじゃないですか。今日は私がデートで祝います」
「……誕生日祝いはあれじゃなかったのか?」
「あれじゃありません……」
花森は東御に誕生日祝いを誤解されていたのが不本意だったらしい。あんなことを誕生日祝いだと思わないで欲しいという不満げな顔を浮かべる。
「俺はもう、てっきり誕生日祝いは終わったものかと……」
「これからが本番ですよ」
「じゃあ、ぐずぐずしている場合じゃないな」
「そうです、外に行きましょう!」
花森はバサッと掛布をまくり上げると、キャミソールにショーツという下着姿で布団から飛び出す。
その行動は色気というより子どもの様子に近く、東御は急に冷静になった。
「沙穂……俺が言うことじゃないんだが、もう少し恥じらいはないのか」
「は?」
まあいい、と東御はベッドから起き上がって、脇に脱ぎ捨てられているパジャマを羽織る。
そのまま軽くシャワーを浴びて身支度をしたら、今日のことは花森に任せて大丈夫なのだろうか。
「今日は、デートなので先週買っていただいた白いワンピースを着ます」
「尻の部分、汚れが落ちてよかったな。まあ、洗ったのは俺だが」
「人の失敗を楽しまないで下さい!!」
ニヤニヤしながら東御はバスルームに向かう。花森も顔を洗おうと頬を膨らませながら洗面所に向かった。
「そんなにじっと見ないで下さい。……もしかして、かわいいとか思ってるんですか?」
「かわいいなと思って見ていた」
花森が白いワンピースに着替えて髪を高めの位置で結わっている。揺れるポニーテールがしっぽのようだ。
「なんというか……散歩に行きたくなる」
「犬扱いしないでください」
「よーしよしよし……」
「懐きませんからね!!」
東御は花森を小脇に抱えて洗面所からずるずると引きずって行く。
「動物扱いやめてください!!」
「ははは、人間だって動物だ。おかしなことを言うな」
「愛玩(動物)扱いやめてください!!」
「ははは、それは人間に使うと随分卑猥な言葉なんだが」
「文脈読んでくださいーー!!」
花森が憤っていると、東御は楽しそうに笑っている。
東御なりに浮かれているようだが、浮かれ方が独特だった。
1
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~
cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。
同棲はかれこれもう7年目。
お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。
合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。
焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。
何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。
美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。
私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな?
そしてわたしの30歳の誕生日。
「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」
「なに言ってるの?」
優しかったはずの隼人が豹変。
「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」
彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。
「絶対に逃がさないよ?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる