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第三章
旅行 9
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花森はどこから露天風呂に行くのだろうと室内をぐるぐる歩き、ようやく入口脇から露天風呂に行くための廊下が伸びていることに気付く。
浴衣のまま板張りの廊下を歩いてくと、外に出る扉の前は壁が簡易的な棚になっていた。
タオルと東御の浴衣が置いてあることに気付いて、花森もそこで浴衣を脱ぐ。
裸のまま外に出る勇気は出なかったので、タオルを身体に巻いて扉を開けた。
「来たか」
花森の姿を目に入れて、東御が目を細めている。
背景には雄大な自然、石造りの露天風呂に濡髪の東御がよく似合っていた。
「え、画になりますねえ……」
「何を言ってるんだ。早く来い」
見惚れたまま足を止めている花森に、東御は遅いぞと不満げだ。
入浴時間が短い東御にとって、花森が来ない時間は長く感じた。
花森はゆっくり露天風呂に近づくと、タオルはどこに置こうと唸る。
風呂の脇に足が悪い人向けなのか後付けの手すりが付いているのを見つけ、そこにタオルをかけた。
「お邪魔します……」
清々しい山の空気を胸いっぱいに吸い込んで、花森は温泉に身体を委ねる。
「気持ちいいですねえー……」
にこにことしながら東御の方を向くと、じっとこちらを見ている東御と目が合った。
「あっという間に、お昼にはチェックアウトだ」
「……なんかごめんなさい」
「何を謝っている?」
「昨日の夜も、温泉に入りたかったですよね……」
昼と夜では、また雰囲気も違ったのだろう。
露天風呂の脇には部屋と繋がっている縁側があり、そこに酒を持ってきて晩酌などもできると事前に説明されていた。
花森は、ここでしかできないそういった趣のある行動を選ばなければいけなかったのだと反省する。
しゅんとしていると東御が隣にやって来た。
「温泉に入るつもりだったが、あれはあれでいい思い出になりそうだ」
「あれは、その……」
「沙穂がずっとかわいかった」
「酔ってて、私……」
「温泉よりも俺が良いと言っていた」
「ごめんなさい」
「嬉しかった」
東御は湯の中で花森と指を絡める。花森はその手に一度視線を移してから、山の景色に目をやった。
「こんなに気持ちのいいところなのに、寝室にばかり閉じ込めてしまいました」
「俺は断っていない。同意の上だ」
「優し……」
「惚れ直したか?」
東御がそっと花森の唇にキスを落とす。
まつ毛の濡れた花森が俯きがちに視線を寄越したので、東御の胸がドキッと音を立てた。
一晩経って朝になり、また花森に誘惑されそうな危険な香りに己を律しようと雑念を払う。
「お風呂から出たら、またお着物着てくださいね」
「……ああ、分かった」
そうか、まだ着物は見たいんだなと東御は花森の希望を知る。
素面でどんな反応をしてくれるかというのも楽しみではあった。
浴衣のまま板張りの廊下を歩いてくと、外に出る扉の前は壁が簡易的な棚になっていた。
タオルと東御の浴衣が置いてあることに気付いて、花森もそこで浴衣を脱ぐ。
裸のまま外に出る勇気は出なかったので、タオルを身体に巻いて扉を開けた。
「来たか」
花森の姿を目に入れて、東御が目を細めている。
背景には雄大な自然、石造りの露天風呂に濡髪の東御がよく似合っていた。
「え、画になりますねえ……」
「何を言ってるんだ。早く来い」
見惚れたまま足を止めている花森に、東御は遅いぞと不満げだ。
入浴時間が短い東御にとって、花森が来ない時間は長く感じた。
花森はゆっくり露天風呂に近づくと、タオルはどこに置こうと唸る。
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「お邪魔します……」
清々しい山の空気を胸いっぱいに吸い込んで、花森は温泉に身体を委ねる。
「気持ちいいですねえー……」
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「あっという間に、お昼にはチェックアウトだ」
「……なんかごめんなさい」
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しゅんとしていると東御が隣にやって来た。
「温泉に入るつもりだったが、あれはあれでいい思い出になりそうだ」
「あれは、その……」
「沙穂がずっとかわいかった」
「酔ってて、私……」
「温泉よりも俺が良いと言っていた」
「ごめんなさい」
「嬉しかった」
東御は湯の中で花森と指を絡める。花森はその手に一度視線を移してから、山の景色に目をやった。
「こんなに気持ちのいいところなのに、寝室にばかり閉じ込めてしまいました」
「俺は断っていない。同意の上だ」
「優し……」
「惚れ直したか?」
東御がそっと花森の唇にキスを落とす。
まつ毛の濡れた花森が俯きがちに視線を寄越したので、東御の胸がドキッと音を立てた。
一晩経って朝になり、また花森に誘惑されそうな危険な香りに己を律しようと雑念を払う。
「お風呂から出たら、またお着物着てくださいね」
「……ああ、分かった」
そうか、まだ着物は見たいんだなと東御は花森の希望を知る。
素面でどんな反応をしてくれるかというのも楽しみではあった。
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