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第三章
婚前 4
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東御はいつもより寂しげな目をして花森に笑う。
「中学一年生の頃だったと思う。花をいけている最中に身体を触られたり、帯を外されたりと嫌がらせをされたんだ」
「ひどい……」
「もう今は自分の身は守れるが、当時は見た目のせいだと自分を責めた。外国人の『ミックス』だからなのだろうと」
子どもの頃から人前に出されてきた分、悪意や犯罪にも巻き込まれやすかったのだろう。
家族に守られないという意味が、花森には想像もつかない世界だったのだと気付く。
「つらかったですね」
「……」
「これからは、私が八雲さんを守りますね。あと、私たちに子どもができたら、絶対に一緒に守りましょうね」
「沙穂……」
東御は、初めて自分から子どもの話を出した花森に驚く。
出産や育児に対して抵抗していたようだったが、急にどうしたのだろうかと信じられずにいる。
「決心が……考えが変わったのか? 仕事は……キャリアの件はどうなんだ」
「今すぐってわけじゃないんですし、そのうちってことですよ?」
「本当に、そう思うのか?」
「はい」
その後、東御は無言になった。
花森はその様子を不思議そうに見ながら朝食を再開する。
会話がなくなり、食事は早く終わった。
「沙穂、反則のペナルティに行こう」
「反則……あっ……」
東御は花森の手を引いて速足で歩きだす。花森が長めのキスを言い渡したのは先ほどのことだ。
「どうしたんですか? そんなに急いで……」
「時間が惜しい。帰りの支度もあるんだ。早く二人きりになりたい」
「八雲さん、大丈夫ですよ。まだ時間は……」
「沙穂の気が変わらないうちに」
「えっ?? ……はい」
「言質を取る」
花森は手を引かれながら、おろおろしながら部屋に向かう。
庭を抜けると泊っている離れのある塀が現れ、二人は一軒家の玄関のような入口を入った。
草履と足袋を履いている東御はすぐに履物を脱ぐことができたが、足にストラップの付いたパンプスを履いている花森は入口でもたつく。
「あああああ」
「何をやってるんだ」
焦っているせいでホック式のストラップが上手く外せない花森の元に、東御は足袋のまま膝をついてストラップを外し靴を脱がせる。
「私自身が、子どもみたいですよね」
「いいじゃないか、そういうかわいらしさがあっても」
「子どもに子どもが育てられるでしょうか?」
「俺は、親に育てられた記憶はない」
東御はそっと花森に手を差し伸べ、靴を脱いで上がる段差を支える。
そのまま手を握って部屋を突っ切り縁側に出た。そこで腰を下ろすと胡坐をかいて山を望む景色を眺める。
「さっきの話なんだが」
「ああ、はい。……結婚した後の家族計画的なやつですか?」
花森は隣に長座で座り東御の見ている方向に目をやった。
「中学一年生の頃だったと思う。花をいけている最中に身体を触られたり、帯を外されたりと嫌がらせをされたんだ」
「ひどい……」
「もう今は自分の身は守れるが、当時は見た目のせいだと自分を責めた。外国人の『ミックス』だからなのだろうと」
子どもの頃から人前に出されてきた分、悪意や犯罪にも巻き込まれやすかったのだろう。
家族に守られないという意味が、花森には想像もつかない世界だったのだと気付く。
「つらかったですね」
「……」
「これからは、私が八雲さんを守りますね。あと、私たちに子どもができたら、絶対に一緒に守りましょうね」
「沙穂……」
東御は、初めて自分から子どもの話を出した花森に驚く。
出産や育児に対して抵抗していたようだったが、急にどうしたのだろうかと信じられずにいる。
「決心が……考えが変わったのか? 仕事は……キャリアの件はどうなんだ」
「今すぐってわけじゃないんですし、そのうちってことですよ?」
「本当に、そう思うのか?」
「はい」
その後、東御は無言になった。
花森はその様子を不思議そうに見ながら朝食を再開する。
会話がなくなり、食事は早く終わった。
「沙穂、反則のペナルティに行こう」
「反則……あっ……」
東御は花森の手を引いて速足で歩きだす。花森が長めのキスを言い渡したのは先ほどのことだ。
「どうしたんですか? そんなに急いで……」
「時間が惜しい。帰りの支度もあるんだ。早く二人きりになりたい」
「八雲さん、大丈夫ですよ。まだ時間は……」
「沙穂の気が変わらないうちに」
「えっ?? ……はい」
「言質を取る」
花森は手を引かれながら、おろおろしながら部屋に向かう。
庭を抜けると泊っている離れのある塀が現れ、二人は一軒家の玄関のような入口を入った。
草履と足袋を履いている東御はすぐに履物を脱ぐことができたが、足にストラップの付いたパンプスを履いている花森は入口でもたつく。
「あああああ」
「何をやってるんだ」
焦っているせいでホック式のストラップが上手く外せない花森の元に、東御は足袋のまま膝をついてストラップを外し靴を脱がせる。
「私自身が、子どもみたいですよね」
「いいじゃないか、そういうかわいらしさがあっても」
「子どもに子どもが育てられるでしょうか?」
「俺は、親に育てられた記憶はない」
東御はそっと花森に手を差し伸べ、靴を脱いで上がる段差を支える。
そのまま手を握って部屋を突っ切り縁側に出た。そこで腰を下ろすと胡坐をかいて山を望む景色を眺める。
「さっきの話なんだが」
「ああ、はい。……結婚した後の家族計画的なやつですか?」
花森は隣に長座で座り東御の見ている方向に目をやった。
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