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< 本編 >
1.プロローグ
しおりを挟むこの世界には、男女、という性区分の他に
α・β・Ωという第二性と呼ばれる区分が存在するらしい。
αは所謂、超エリート。
学力も、運動神経も、全てにおいてパーフェクト。
社会の支配階級で、カリスマ性があるタイプ。
Ωは、この世界に数パーセントしかいないとされている。
相手が同性同士でも、性別が男でも、妊娠が可能。
差別やいじめをやめようねって学校で指導するくせにΩだけはみんな下に見られてもしょうがない、って意味のわからない常識が通用してる。
αもΩも、お互いにしか感じないフェロモンや、周期的にやってくる発情期があるらしい。
そして、β。人口の大多数を占める「一般人」。
特別なフェロモンや発情期はなく、普通に生活している。
─── 俺、時任 士郎も例に漏れず、しっかりβだ。
αとΩの事は、実はそんなに知らない。
初等科6年の時、だから……12歳で受けた第二性診断の時に聞いた説明、あとは中等科の6年間で受けた保健の授業……その程度でしか知識はない。
家族も友達もみんなβで、自分自身、αでもΩでもないからか、そこまで気にしてもこなかった。
そんな俺でも身近にひとりだけ、αがいる。
兄貴のように慕ってる1個上の幼馴染。
その幼馴染が俺の知ってる唯一のαだけど、αに全然似てなくて。
似てなくて、って……α本人に向かっていうのも変なんだけど、勉強した時に知識として認識したαと全然違うから、全くαって感じがしない。
俺にとってはβと変わらない普通の人。
ただ、異常に頭が良い。あれ、やっぱりαなのかも……?
ま、まあ。だから、何が言いたいかっていうと、俺と接点のあるαはいないに等しい。
Ωの割合はほんとに少なく、そしてΩは必ずαの近くで発現する。
だから俺自身、β以外に本当に出会った事がない。
そういや、第二性っていうのが発見されて、まだ数十年しか経ってないって俺のじいちゃんが言ってた。
フェロモンとか発情期とかの抑制をするための薬が開発、実用化されて、何とか共存出来るようになったけど、第二性が現れ始めた頃は混乱しまくってたって。
曾祖父さんのお父さんの若い頃……だから、今から百年くらい前?は、女性しか妊娠できなかったんだって。
突然妊娠しないはずの男が、いきなり妊娠したら、そりゃ混乱するよなあなんて授業受けてる時はぼんやり思ってたっけ。
あと、αとΩには『運命の番』というのがある。
出会った瞬間に強烈に惹かれあって抑制剤も効かないんだそうだ。
お互いを出逢った瞬間にフェロモンで感じ取るんだとか。
本能、ってヤツ?なんだろうな。マジですごい。
大変な事も多いらしいけど……でも、そういう『この人しかいない』っていうのってなんか憧れる。
俺にはフェロモンはないし、感じもしないけど。
いつか『俺だけの人』と出逢って、その人と同じ気持ちになれたら……
運命の番、まではいかなくても、この人しかって人に出逢えたら、素敵だなあ。
……とか、思ってた。ん、だけど。
「士郎。お前がどう足掻いても、無駄だといつになったら理解できる?」
骨ばった大きな手が俺の左頬を包む。後ろは壁。
俺はどうやってそこから逃げ出そうか周りを見渡した。
もちろん、手を添えられている左は向けない。
慌てて右に視線を逸らした、瞬間。
──────────── ドンッ!
すごい勢いで何かが降ってきた。空いていた左手だ。いわゆる壁ドン。
あれ?ほんとは俺が女の子にする立場では?
「何度言ったら分かる?お前は、俺から、絶対に逃げられない。」
さっきまでの鬼気迫る感じとは裏腹にガラス細工でも触るかのようにそっと引き寄せ、俺を抱きしめた。
逃げ出そうと試みるも、離さまいと込められている力が強すぎて身体が全く動かない。
ここで、俺が幼馴染の名前を呼べば、嫉妬の業火に焼かれた腕の力が更に強まって解放されるのがより遅くなる。
しかもこの部屋は、完全防音設計になっているため、どんなに大声を張り上げても相手には届かない。
つまりは、詰み、だ。
そして、毎回飽きる事なく低く響く声で、いつもの台詞を俺の耳元で囁くのだ。
「悪いことは言わない。はやく、俺のモノになれ。」
そう言われて、俺の心臓が早鐘を打つ。
でも、違うんだ。
先輩の相手は……絶対に俺、じゃ、ない。
何でこんな事になってしまったのか ──────。
俺は、学院に入学する前のことを思い返していた。
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