<完結> βの俺が運命の番に適うわけがない

燈坂 もと

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< 本編 >

52.生まれ育ったお家でキミと(2)

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俺がトイレから戻ると、圭介さんと優斗は2人で電車のおもちゃを広げて遊んでいた。
優斗が1番お気に入りの赤色と白色の電車のミニチュアをばーん!という効果音を口で言いながら圭介さんに見せている。

「けいすけにーちゃん!これ!これみて!かっこいいでしょ?ゆう、これがいちばんすきなんだよね」
「そうか。優斗はこの電車が1番好きなのか。俺は士郎が1番好きだ。」
「えっ。にぃに?にぃにはでんしゃじゃないよ?」
「にぃには、電車をも凌駕する可愛さだからな。全ての頂点だ。」
「でんしゃはかわいくないよ?でんしゃもにぃにもかっこいいんだよ?」
「優斗はいい子だ。その通りだぞ。」
「えっ、かわいいの?かっこいいの?どっちなの?」
「両方だ。言っただろう?士郎は全ての頂点だ。」
「いや、圭介さん……それ、もう、意味がよくわかんない……」

到着してすぐ、ほんとは長旅だった事もあって、俺の部屋で一息ついてから優斗と遊ぶ予定だったんだけど。

…………部屋に行っちゃうと、俺がいっぱい、いちゃいちゃしたくなっちゃうから……(小声)、先に優斗と遊んで、ご飯食べて、お風呂に入ってから、部屋に移動する、という流れになった。

「けいすけにーちゃんは……にぃにと、ともだち?」

電車を持ったまま、優斗は圭介さんに向かって質問した。
圭介さんは、ふ、と笑って優斗の頭を大きな手で撫でる。

「優斗。それはとても大事な質問だ。友達ではない。にぃには、俺の大切な人で、ずっと一緒にいたい、と思っている人だ」
「ふぅん?ゆうも、にぃにとずっといたいなぁ……にぃに、さいきんかえってこなくて……さみしい」
「……優斗、分かるぞ。俺も2時間離れただけで、寂しくてどうにかなってしまいそうになる。」
「えっ。それは、みじかいね。ゆう、もっとがまんできるけど。」
「……そうか。じゃあ、優斗は偉いな。俺は士郎と離れて2時間ですら我慢出来ないのに、俺より我慢できるなんて……大人、だな」
「うん!ゆう、おとなだよ!にぃにとままとぱぱとやくそく、したからね!……ふふふ。かわいそうだから、けいすけにーちゃんのとこに、にぃに、いさせてあげる!」

おなかすいた!ごはんまだかな!と言って優斗はキッチンにいる母さんのところに走って行った。

「圭介さん……すご。この話になると優斗、絶対寂しいって……いつもなら大泣きなのに……俺、優斗のこの話、貴方にしてなかった、ですよね?」
「?事実を、述べただけだが?俺は、士郎と2時間も離れていられない。………………ずっと、一緒じゃないと、どうにかなってしまいそうだ」

真剣な眼差しで、俺に近づいた彼は、最後の方の台詞を俺の耳元でそっと囁いた。

俺も、こんな耳元ばかり狙われて……どうにかなるけど……???今日ずっと、囁かれまくって爆発しそうなんだが???

ご飯よーの母さんの声に、もう!いきますよ!と彼の手を引く。
俺、多分、首まで真っ赤だ。あつすぎる。
後ろから、ふふふ、という圭介さんの笑い声が聞こえた。
恥ずかしさと嬉しさが混ざって、複雑な気分だ。


ご飯も食べ終わって、一息ついたところで、圭介さんが父さんと母さんに話がある、と改まって口を開いた。

「……突然の、来訪……本当に申し訳ありません。……どうしても。士郎くんのご家族にお会いしたかった」

机の上で両手を結ぶ彼の手に、ぐ、と力が入る。
彼にしては珍しく……緊張、しているんだろうか。

「……俺は、彼と知り合って……まだ数日しか経って、いません。……それでも。……士郎くんは俺にとって、大事な存在で。……士郎くんがいるだけで、世界が鮮やかになる。────── 士郎がいないと、俺が耐えられない。」

その表情は、真っ直ぐ、父と母を捉えていて……喋っているのは圭介さんだけど、俺も何だか、緊張してしまった。

「俺が士郎を笑顔にしたい。士郎が悲しくなってしまった時は、士郎を抱きしめたい。喜びも、悲しみも……全て分かち合いたい。…………士郎と……結婚をしたい。息子さんを、俺に、ください。───────お願いします。」
「お、お願い、します。俺も、圭介さんの横に……ずっと、いたい」

2人して立ち上がって頭を下げた。
頭を上げてほしい、と父さんの声が聞こえて。

口の前に両手を組んでプルプル震えてる父さんと、口元に手を当ててはわはわしてる母さんが目の前にいた。

えっ、ふたりともなに、この反応。

「……っ、まさか……こんなに早く……しかも、お子さんを俺にください、って……!男の子2人だから言われることないと思ってて……!!!言われたいなーなんて、ちょびっと……ほーんのちょびっとだけだけど思ってた……けど無理だなーなんて諦めてた事が今叶うなんて……!ちゃ、ちゃぶ台!ちゃぶ台ひっくり返して、ウチの大事な息子はやれん!!!とか言った方がいい???優里香さん!どうしよう!士郎の彼氏がカッコ良すぎてどうしよう!」
「成一郎さん……!!!貴方の結婚の挨拶以来に胸キュンしちゃった……!!!なんて素敵なのかしら……!ちゃぶ台返しなんていつの時代よ~!何百年も前のネタ出してこないで成一郎さん!」

ウチの両親……あっかるーい。
2人を見た圭介さんは、ポカーンとしている。
なんか、すみません。

「……圭介くん。士郎の事、そんなにも気に入ってくれて……本当にありがとう。とっても嬉しいんだけど、条件がある。聞いてくれるかな?」
「……!何でしょうか。教えてください。」

ニコニコと微笑みながら、父さんは指をスッ、と出した。

「ひとつめ。士郎が必ず慧明を卒業する事。入学するために、この子がどれだけ頑張ったか、僕たちは近くで見ているからね。その頑張りを結婚する事で無駄にしてほしくない。」

わかりました、と圭介さんはコクリ、と頷いた。
俺も頑張らなければいけない。

「ふたつめ。婚約届を出す事。βである士郎は、運命の番には太刀打ち出来ない。婚約届は婚姻届ほどではないがお互いに制約がかかる筈だ。士郎を不安にさせたくはないからね。」
「もちろんです。婚約届は、こちらに。」

そう言って、圭介さんが婚約届を取り出した。
えっ、いつの間に……!準備が早すぎる……!

「婚約届のこの部分。お互いの両親の記入欄が空白、という事は……圭介くんのご両親にこの事は、まだ?」
「先に、士郎のご両親の了承を得てから俺の両親に話を持っていくつもりでした。後手後手になってしまい、すみません。」
「いいんだよ。それだけ士郎を優先してくれてる、という事だろう?……ありがとう。では、みっつめだ。」

父さんは、スッと3本の指を出している。
母さんは婚姻届に自分の名前を記入していた。

「みっつめ。今日、圭介くんが挨拶してくれたように、士郎にも圭介くんのご家族に挨拶させてほしい。婚約は、家族間の付き合いになるからね。」

日程を確認します。と圭介さんは大きく頷いた。

「あと、最後に。─────── 士郎を悲しませないであげてほしい。この子は、とっても優しい子だから……、きっと心を押し殺してしまう。圭介くんしかこの子の心を温める事が出来ない筈だ。士郎を、よろしくお願いします。」

こちらこそ、よろしくお願いします……!
と、圭介さんと父さんは、力強く握手を、した。



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