元サレ妻バツイチのアラフォーが年下夫に溺愛されて困ってます

ねこ太郎

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第一章

浮気夫とサヨウナラ

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2015年1月 日曜日の昼下り、台所で少し暖かな日差しを浴びながら、珈琲を落とす。
ほろ苦い香りが部屋に漂う中、私は言った。
「ねぇ、いつになったら他の女の人と連絡取るのをやめてくれるの?」
声は冷静だが、私の心には限界がきていた。
淹れた珈琲を持ち、ソファに座る。
隣に座っている夫の利明は、面倒臭そうに答えた。
「そんなに元彼女と連絡取るのがダメなの?」
利明はいつもこうだった、こちらが質問をしているのに答えずに質問で返してくる。

まともに答えるつもりがないのだ。
私は悟った。
この人とこの先を生きていくのは無理だ。
長男の光輝は4歳になったばかり、次男の悠貴は1歳だ。
自分1人で、この子たちを抱えてやっていけるだろうか?
でも、もしこのまま利明と生活を続けたとして、いつか相手の女性が妊娠したら?
日差しの入った部屋は暖かいのに、私の心はまるで氷のように冷たくなった。
気持ちに応えてくれない人と一緒に暮らすのはやめよう。
子供たちは私が幸せに出来るよう努力すれば良いだけ。

そう思うと、まるで日差しが身体に入り込んでくるような感覚になった。
自分の気持ちを後押しするように珈琲を飲み干し、私は言った。
「離婚しよう、この先一緒にやっていく自信もないし、なにより私は浮気を許してやることが出来ないから」

返事を聞くのは怖かった。
なんだかんだ私は20代のほぼ全ての期間を利明と共に過ごしてきたから、離れた後の生活も想像がつかない。

不意に隣の部屋で遊んでいた光輝の声が耳に入ってくる。
沢山の車のおもちゃを並べて、満足げに遊ぶ、この光景を見るのは今日が最後かもしれない。
そう思うと、座っているのに膝から崩れ落ちそうな気分になる。

「ねぇ、華ちゃん大丈夫?顔、真っ青だよ」
覗き込むように利明が言いながら、背中へ腕をまわしてくる。
この人は、女性を扱い慣れてる。
離婚の話を避けつつ、私の気持ちを宥めるために、このまま抱くつもりだ。
ゆっくりと心配するふりをしながら押し倒そうとする利明の胸を押し返し、私はつづけた。

「話一つまともに答えてくれないアナタと、一緒にいるつもりないから」
離婚を決心した理由を淡々と説明した。
簡潔に伝えたつもりだが、時計を見ると2時間が過ぎていた。

「夕飯の支度をする前に、ちゃんと答えて欲しい」
私は声を震わせながら伝えた。
「本気なの?」
ようやく利明は真面目な顔で聞いてきた、それでも取り乱すことはなく、ただそれで良いのかどうかを聞いているだけだと私はわかった。
なぜなら、利明の持っているコーヒーカップは揺れることすらなかったからだ。

30分ほど経ったころ、利明がこちらを向いて問いかけてきた。
「もう、華ちゃんの心の中に俺はいないんだね」
浮気ばかりのくせに、なぜそんなに悲しげな顔でそんな事を言うのか私にはわからなかった。
だけど、言葉を発することは出来なかった。

利明は言った。
「離婚して、それで華ちゃんの心が救われるなら、離婚しようか」
私は頷いた。
もう、浮気されて喧嘩して、またいつ浮気されるのかと不安な毎日を送りたくなかった。

その後、私たちは最後に夫婦で協力し養育費や面会の取り決めをした。
私は、ほっとしたのか終始泣いてばかりだった。
21歳の時から付き合い始めて、大好きだった人、一生傍にいるものだと思っていたけれど、蓋を開けてみれば浮気ばかりだった。

24歳で結婚した時、友達に結婚の報告をしてると市役所で笑っていたアナタは浮気相手とメールをしていたのだと後から知った。
長男の出産のときも、そうだった。
そして今回、次男の出産の時も浮気されていた。
よく見ると、ずっと同じ相手だった、お互いに既婚者だけど好きだと言い合う彼らを見て私はなんだったのだろうと思った。
付き合ってから7年間、楽しいこともあったけれど終わりが悪くて、この時の私は自分の人生はもう枯れて終わってしまったのだと考えていた。
泣きながら作った、光輝の好物のシチューは味がわからなかった。


2015年3月
1月の話し合いの後から、私は子供たちを連れて実家に帰った。
長く浮気をされていたこと、浮気を問い詰めた際に殴られたこともあることを、親に全て打ち明けた。

私の母は、初婚の相手とは死別しており今の父と再婚している為、すぐに理解し受け入れてくれた。
父も、今日から住めるようにと部屋を空けてくれた。
今、思えば結婚の時に父が反対していたのは何かを察していたからなのかもしれない。

私と子供たちは、実家の2階にある1部屋を借りた。
天窓がついていて、日差しがよく入り私の大好きな部屋だった。
それから、私は生活に必要なものを買う為に父に車を出してもらった。
子供たちは母と留守番だ。

ホームセンターで布団などを買い、家に戻ると母が唐揚げを作っていた。
光輝は、唐揚げを作る母の傍におもちゃを持って行き遊んでいた。
悠貴は、リビングの布団の上で寝ている。

私は、勤め先のコンビニに電話をした。
離婚し、子供を育てていかなければならないので夜勤ができなくなったこと、実家からコンビニまでが遠く通いきれないので今月いっぱいで退職したい旨を伝えた。
店長は話を聞き終えると、次の仕事を見つけるまでは日勤で働いたらどうだと提案してくれた。
非常にありがたい申し出で、私は次の仕事が見つかるまで日勤で働かせてもらうことにした。

その日の夜、私は最後の夜勤の日だった。
夜勤のメンバーが事情を聞いて、すぐに日勤に移れるようにシフトを組み替えてくれたのだ。
私は出勤すると、いつものメンバーに離婚が成立したことを伝えた。
大学生アルバイトの健ちゃんは、商品の品出しをしながら私にこう言った。
「もし、養育費なんかで揉めたら呼んでください、これでも法学部なんで」
もう1人のアルバイトのごっちんも声を被せるように言った。
「俺にも何かできることあったら言ってね、やっぱり女性は大切にしないとバチが当たるからね」
買った珈琲を手渡しながら、ごっちんは笑った。
心強いなと思いながら、私はおでんの仕込みをした。

利明に離婚を問い詰めてから、この数ヶ月間は本当にこの2人に救われたように思う。
離婚を有利に進めるためにバイトのシフト量を増やしたり、公正証書の取り方を教えてもらったり、この2人が居なかったら私は離婚を決断出来なかっただろう。

他愛のない会話をしながら、品出しやホットスナック、中華まんの準備を終え、夜勤の終わりの時間がやってきた。
帰る家は、利明と過ごしたあのアパートではない。
今まで、夜勤でどんなに疲れても、あのアパートに帰り利明と2人の子供たちの寝顔を見ると頑張ることができた。
肌寒い明け方の帰り道、私はこれから頑張ることができるのだろうかと自問しながら自転車を漕いだ。

帰宅後、母が起きてご飯を作ってくれていた。
父も夜勤をしているから、実家の朝ごはんはボリュームがある。
私は作ってもらった朝食を食べながら母と話をした。
母は、浮気をされていたのに何故もっと早く離婚しなかったのかと言いつつ、私を責めることはしなかった。
私は、結婚してから数年間誰にも言えなかった気持ちを母に聞いてもらった。
話を聞いてもらえたことで、私はようやく何か大きくて重たい荷物を下ろすことが出来たような気がした。

食事を食べ終わった私は、子供たちが起きてくるまでこたつに入りスマートフォンで仕事探しを始めた。
母が淹れてくれた珈琲が美味しくて、何より話をしたことで心が軽くなり、私はずいぶん前向きな気持ちになっていた。
新しい仕事の条件は、家から近く自転車で通勤可能で、時間は光輝の幼稚園のお迎えが間に合う範囲で探した。

すると、2件希望に合うところが見つかった。
1件は、歩いて行けるコンビニの日勤。
もう1件は、近くの自転車店での契約社員だ。
私は、珈琲をおかわりしながら考えた。
コンビニなら経験があるから、すぐに仕事に馴染めるだろうけど、子供たちを養っていくことを考えると一生そこで働くことは出来ない。
しかし、もう1件の自転車店は大手小売業の店舗だ。
資格取得も支援してくれて、正社員登用も有りとなっている。
私は、自転車はいじったことはないが車が好きで結婚前は自分で多少車いじりをしていた経験から、自転車くらいならどうにか出来るかもしれないと思い、その自転車店へと応募することにした。


自転車店の面接から1週間後、悠貴の離乳食を作っていると私のスマートフォンが鳴り、店舗から合格の連絡が来た。
ただの合格通知だが、私にとっては大きな1歩で、私は一緒に離乳食を作っていた母と喜びあい、それを見ていた光輝も子供番組でやっているダンスを踊りながら笑っていた。
あまりにも騒ぎすぎて、悠貴がお昼寝から起きてしまったけれど、何もわからない悠貴にも
「ママ、新しいお仕事の面接に受かったんだよ」
と、伝えた。

ひとしきり騒いだ後、私は勤めていたコンビニの店長に連絡し、これまでのお礼を伝え自転車店へと職を変えた。



2015年4月
今日は光輝の入園式だ、この辺りは滅多に雪が降らないのに、この日は大雪だった。
光輝は大喜びしていたが、入園式に来ている保護者たちは皆大変そうに子供を幼稚園に連れてきていた。

入園式が終わると、光輝は満足げな顔で私のところまで戻ってきて
「今日から幼稚園のお兄ちゃんなんだよ」と言った。
入園式に参加している保護者はほとんど両親揃っていたが、光輝は特に気にもしていないようだった。
まだ、親が離婚して、思うように父親に会えなくなることを自覚していないんだろうと思った。
帰りも父が車を出してくれたお陰で、私と光輝は濡れることなく帰宅した。
台所では、今日も私の好物を作ってくれている母が忙しそうにしていた。



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