生まれた時から、運命の君へ

ミルクルミ

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恋人のような兄弟⑤

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 学校が終わり、家に入る。
 そして玄関で、悠衣は崩れ落ちた。
 体が熱い。
 息が、上がる。

「始まったの、かな」

 悠衣にとって未知の領域、発情期――通称、ヒート。
 個人によって熱っぽいだけという人もいるが、本格的に寝込む人も多いという、個々によって症状に個人差があるそれが、悠衣にどんな影響を及ぼすのか。正直、悠衣は怖かった。
 体に力が入らない、ここまで歩いてくるのもやっとだった悠衣を、アルファに襲われなかったのは奇跡と言ってもいいくらいだ。
 いつもより具合が悪そうな悠衣を海も心配そうに見ていたが、『大丈夫』だと悠衣が言ったら、大人しく引き下がってくれた。
 正直今は、誰かといるのが怖かった。
 ベータとはいっても、アルファほどではないがフェロモンは効く。
 海に限ってそれはないと思うが……それでも悠衣は、今は誰かと一緒にはいたくなかったのだ。

「このまま、寝てもいいかな」

 無理して這いつくばって部屋に行くより、ここでこうして、柊の帰りを待って部屋まで運んでもらった方がいい。
 それに今、悠衣はものすごく眠たかった。
 抑制剤は鞄の中にあるが、それを出すのですら怠い。
 だから悠衣は、そのまま玄関で意識を手放した。






「悠衣、悠衣……っ! 起きてください、悠衣!」

 体をゆすられる感覚に、目を開ける。

「柊、兄……」
「大丈夫ですか、悠衣」
「うん、ちょっと……やっぱり、柊兄の言った、通り……始まった、みたい」
「……そうですか」

 上手く動かせない体を柊が起こし、心配そうに悠衣の顔を覗き込む。

「今、部屋まで運びますね」
「あり、がとう」

 はっ、はっ、と短く息を切りながら柊の首に手を回す。
 首筋に顔を埋めたところで、甘い匂いが鼻から入ってきた。

(あ……柊兄の、匂い)

 何故か朦朧とした意識の中、柊がアルファだということが頭の中に浮かんで離れなかった。
 普段はアルファだとか、オメガだとかあまり意識しないのに、その時は柊兄がアルファで、自分がオメガだということが、ひどく頭にちらついて。

「…っ…悠衣、何を……!?」

 気が付いたら、柊の首筋を思い切り吸って、甘えるようにそこを舐めていた。

「柊、兄……」
「やめてください。今必死に、抑えているのですから……」

 下唇を噛み、欲情した視線を向けられる。
 頬は上気しており、軽く息も上がっているようだった。

「……っ……はぁ」

 悠衣が止める気配がないことを悟ったのか、止めていた足を動かし、漸くといったように二階にある悠衣の部屋の前にたどり着く。
 ドアを開け、悠衣をベッドに下ろした。

「柊兄……いっちゃ、やだ……」

 早々に部屋を出ようとした柊を、悠衣が止めた。
 柊の腕を掴み、涙目で見上げる。

「悠衣……ごめんなさい、今は……一緒に、いれそうにありません」
「何で……」
「どういうわけか、悠衣のフェロモンが効いているみたいなのです。今悠衣と居れば、僕は悠衣を襲ってしまう」

 振り返らず、柊はそう言った。

「今夕飯を作って持ってくるので、持ってきてすぐ、出ていきます……」

 言うが早いか、柊は部屋から出て行った。
 一人きりになった空間は何だか寂しくて、自身の荒い息が大きく聞こえ、寂しさを紛らわすように悠衣は目を瞑る。

(柊兄……早く、来て)

 そんなことを思いながら、悠衣の意識は段々と遠ざかっていった。
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