生まれた時から、運命の君へ

ミルクルミ

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柊の葛藤③

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「では、行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい」

 悠衣に朝ごはんを運んで、柊は部屋から出た。
 どうやら抑制剤を飲んで少々落ち着いてきたらしい悠衣は、行ってらっしゃいのキスをねだる事もなく、学校に行く柊を引き止める事もなく、柊を見送った。
 それに安堵の息を漏らしながらも家を出て、いつもは二人の道を今日は一人、寂しく歩く。

「あれ先生、今日は一人ですか?」

 と、そんな柊に海が声を掛けてきた。

「はい。悠衣が発情期に入ってしまったので、暫くは悠衣は学校を休みます。その間のノートや諸々、頼んでも良いですか?」
「分かりました、ちゃんと起きてノートを取っておきます!」

 教師の柊に向かって、おちゃらけたように海は右手を眉の上に掲げた。
 そしてそのまま、寂しそうに海は続ける。

「そっか、じゃあ悠衣と先生の関係とか周りも、どんどん変わっちゃうのか……寂しいですね」
「え……どうしてですか?」

 そんな事を言われるとは思っていなかったから動揺して、立ち止まり問うた。
 そしてそんな柊を不思議そうに見つめながら、海は目を瞬かせる。

「だって、発情期が始まったってことは、オメガとしての器官が成熟を迎えたという事でしょ? オメガに対する風潮は昔より整ってきたとはいえ、番がいないオメガが世間を渡るのは厳しいですよね? 発情期の始まりと共にオメガは番となる人を求める、有名な話じゃないですか」

 その言葉に、柊は暫く固まってしまった。
 そんな当たり前のことに、今更気が付いた。
 そうだ……オメガとしての常識は、悠衣にも通用する。

 その昔、オメガの扱いは酷いものだったと聞く。
 ただの子をなす道具と考えられ、アルファにとって都合の良い性欲処理、人としての人権などなかった。
 けれどそれが問題として捉えられ改善され、今となっては差別などほとんど無いものの、オメガにとって番の存在はもっと世に溶け込むための大切な存在だ。
 番がいれば、その番にしかオメガは発情しなくなる。発情期が訪れたオメガに推奨されているチョーカーを付けずとも街を出歩ける。
 なのでオメガは、アルファと二人きりを避けられているこの状況から、番を探すために動き出す。
 そんなことに、言われて気が付くだなんて……。

「先生? 大丈夫ですか?」

 目の前で手をかざされ、柊はハッと意識を思考の渦から抜け出させる。
 そんな柊を見て、柔らかく海は微笑んだ。

「別に兄弟だからって、愛し合っても良いと思うんですけどね」
「え?」
「好きなんでしょ? 悠衣の事。バレバレですよ」

 むしろ、バレてないとでも思ったんですか。
 呆れたようにそう返す海に目を見開き、けれどそれよりも、その言葉が気になった。
 愛し合っても良い……それは、この感情を受け入れても、良いという事か。
 悠衣にぶつけてしまっても、良いという事か。
 考えたこともない事に思考が一杯になり、一瞬トランスしかけた。
 けれどかぶりを振り、柊は否定の言葉を口にする。
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