8 / 46
柊の葛藤③
しおりを挟む
「では、行ってきますね」
「うん、行ってらっしゃい」
悠衣に朝ごはんを運んで、柊は部屋から出た。
どうやら抑制剤を飲んで少々落ち着いてきたらしい悠衣は、行ってらっしゃいのキスをねだる事もなく、学校に行く柊を引き止める事もなく、柊を見送った。
それに安堵の息を漏らしながらも家を出て、いつもは二人の道を今日は一人、寂しく歩く。
「あれ先生、今日は一人ですか?」
と、そんな柊に海が声を掛けてきた。
「はい。悠衣が発情期に入ってしまったので、暫くは悠衣は学校を休みます。その間のノートや諸々、頼んでも良いですか?」
「分かりました、ちゃんと起きてノートを取っておきます!」
教師の柊に向かって、おちゃらけたように海は右手を眉の上に掲げた。
そしてそのまま、寂しそうに海は続ける。
「そっか、じゃあ悠衣と先生の関係とか周りも、どんどん変わっちゃうのか……寂しいですね」
「え……どうしてですか?」
そんな事を言われるとは思っていなかったから動揺して、立ち止まり問うた。
そしてそんな柊を不思議そうに見つめながら、海は目を瞬かせる。
「だって、発情期が始まったってことは、オメガとしての器官が成熟を迎えたという事でしょ? オメガに対する風潮は昔より整ってきたとはいえ、番がいないオメガが世間を渡るのは厳しいですよね? 発情期の始まりと共にオメガは番となる人を求める、有名な話じゃないですか」
その言葉に、柊は暫く固まってしまった。
そんな当たり前のことに、今更気が付いた。
そうだ……オメガとしての常識は、悠衣にも通用する。
その昔、オメガの扱いは酷いものだったと聞く。
ただの子をなす道具と考えられ、アルファにとって都合の良い性欲処理、人としての人権などなかった。
けれどそれが問題として捉えられ改善され、今となっては差別などほとんど無いものの、オメガにとって番の存在はもっと世に溶け込むための大切な存在だ。
番がいれば、その番にしかオメガは発情しなくなる。発情期が訪れたオメガに推奨されているチョーカーを付けずとも街を出歩ける。
なのでオメガは、アルファと二人きりを避けられているこの状況から、番を探すために動き出す。
そんなことに、言われて気が付くだなんて……。
「先生? 大丈夫ですか?」
目の前で手をかざされ、柊はハッと意識を思考の渦から抜け出させる。
そんな柊を見て、柔らかく海は微笑んだ。
「別に兄弟だからって、愛し合っても良いと思うんですけどね」
「え?」
「好きなんでしょ? 悠衣の事。バレバレですよ」
むしろ、バレてないとでも思ったんですか。
呆れたようにそう返す海に目を見開き、けれどそれよりも、その言葉が気になった。
愛し合っても良い……それは、この感情を受け入れても、良いという事か。
悠衣にぶつけてしまっても、良いという事か。
考えたこともない事に思考が一杯になり、一瞬トランスしかけた。
けれどかぶりを振り、柊は否定の言葉を口にする。
「うん、行ってらっしゃい」
悠衣に朝ごはんを運んで、柊は部屋から出た。
どうやら抑制剤を飲んで少々落ち着いてきたらしい悠衣は、行ってらっしゃいのキスをねだる事もなく、学校に行く柊を引き止める事もなく、柊を見送った。
それに安堵の息を漏らしながらも家を出て、いつもは二人の道を今日は一人、寂しく歩く。
「あれ先生、今日は一人ですか?」
と、そんな柊に海が声を掛けてきた。
「はい。悠衣が発情期に入ってしまったので、暫くは悠衣は学校を休みます。その間のノートや諸々、頼んでも良いですか?」
「分かりました、ちゃんと起きてノートを取っておきます!」
教師の柊に向かって、おちゃらけたように海は右手を眉の上に掲げた。
そしてそのまま、寂しそうに海は続ける。
「そっか、じゃあ悠衣と先生の関係とか周りも、どんどん変わっちゃうのか……寂しいですね」
「え……どうしてですか?」
そんな事を言われるとは思っていなかったから動揺して、立ち止まり問うた。
そしてそんな柊を不思議そうに見つめながら、海は目を瞬かせる。
「だって、発情期が始まったってことは、オメガとしての器官が成熟を迎えたという事でしょ? オメガに対する風潮は昔より整ってきたとはいえ、番がいないオメガが世間を渡るのは厳しいですよね? 発情期の始まりと共にオメガは番となる人を求める、有名な話じゃないですか」
その言葉に、柊は暫く固まってしまった。
そんな当たり前のことに、今更気が付いた。
そうだ……オメガとしての常識は、悠衣にも通用する。
その昔、オメガの扱いは酷いものだったと聞く。
ただの子をなす道具と考えられ、アルファにとって都合の良い性欲処理、人としての人権などなかった。
けれどそれが問題として捉えられ改善され、今となっては差別などほとんど無いものの、オメガにとって番の存在はもっと世に溶け込むための大切な存在だ。
番がいれば、その番にしかオメガは発情しなくなる。発情期が訪れたオメガに推奨されているチョーカーを付けずとも街を出歩ける。
なのでオメガは、アルファと二人きりを避けられているこの状況から、番を探すために動き出す。
そんなことに、言われて気が付くだなんて……。
「先生? 大丈夫ですか?」
目の前で手をかざされ、柊はハッと意識を思考の渦から抜け出させる。
そんな柊を見て、柔らかく海は微笑んだ。
「別に兄弟だからって、愛し合っても良いと思うんですけどね」
「え?」
「好きなんでしょ? 悠衣の事。バレバレですよ」
むしろ、バレてないとでも思ったんですか。
呆れたようにそう返す海に目を見開き、けれどそれよりも、その言葉が気になった。
愛し合っても良い……それは、この感情を受け入れても、良いという事か。
悠衣にぶつけてしまっても、良いという事か。
考えたこともない事に思考が一杯になり、一瞬トランスしかけた。
けれどかぶりを振り、柊は否定の言葉を口にする。
0
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの少年二人は、15歳になり神の祝福でスキルを得た事で道をたがえる。彼らはやがて青年となり、片方は魔王討伐に旅立つ勇者として華々しい活躍をし、もう片方はただ彼の帰還を待つ相変わらずスラム暮らしの存在となる。
これは何も持たない青年がただ勇者の帰りを待つ日常を描いた作品です。
無自覚両片想いの勇者×親友。
読了後、もう一度だけ読み直して頂けると何か見える世界が変わるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる