サラリーマン、龍と異世界メシ充してます ~食いしん坊な龍と行く、最強スローライフ~

KEINO

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第十八話

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 眩い光の渦が急速に収束していく。
 まるで無数の光の粒子が一斉に吸い込まれるかのようだった。
 その輝きはあまりにも強烈で、圭吾の視界を白く焼き、頭の奥に軽い痛みを残した。

 身体を包んでいた浮遊感——まるで水中に漂うような、ふわふわとした感覚——が突然消え、代わりに重力が彼を硬い地面へと引き寄せる。

 冷たく滑らかな石の床に両足が着地した瞬間、膝がわずかに震え、ふらつきながらもなんとかバランスを保った。

 まだ目が眩む。
 瞼の裏に光の残像がちらつき、頭がぼうっとする。
 
 周囲の景色は、まるで濃霧が晴れるように、徐々にぼんやりとした輪郭を取り戻していく。
 石の質感、埃っぽい空気、そしてかすかに漂う奇妙な匂い。

 圭吾は、先ほどまでいた神殿廃墟とは全く異なる場所に立っていた。

「ここ、どこだ……?」

 圭吾は掠れた声で呟いた。
 喉が乾き、言葉はまるで砂のようにざらついていた。

 目の前に広がっていたのは、薄暗く、だだっ広い石造りの空間だった。
 広大な空間は、まるで古代の地下墓所か、忘れ去られた城の一角のように、荘厳な雰囲気を漂わせている。

 倉庫、だろうか。

 だが、ただの倉庫とは思えない異様な雰囲気があった。

 壁際には、天井まで届きそうなほど高く積み上げられた木箱や、粗雑に結ばれた革袋、用途不明の金属製の道具が乱雑にうず高く重なっている。
 積み上げられた木箱の表面には、風雨にさらされたようなひび割れや、黒ずんだシミが刻まれ、長い年月を物語っていた。

 棚には、奇妙な色をした液体——深緑や血のような赤、毒々しい紫——が詰まったガラス瓶がぎっしりと並び、埃をかぶったラベルには判読不能なミミズのような文字が記されている。
 その隣には、動物の頭蓋骨らしきものが無造作に置かれ、白く乾いた骨が薄暗い光に鈍く輝く。
 本棚には背表紙の金箔の文字が剥がれかけている古びた革表紙の本がぎっしりと詰め込まれている。

 壁の一部には、巨大な水晶が埋め込まれていた。
 拳よりも大きなその水晶は、微かに青白い光を放ち、ほのかに揺らめいている。
 それがこの空間の唯一の光源らしく、冷たい光は石の床に複雑な影を投げかけ、空間に不思議な奥行きを与えていた。

 空気はひんやりと冷たく、埃っぽい感触が鼻腔をくすぐる。
 そこに、カビの湿った匂いと、甘くスパイシーな薬草のような香りが混じり合い、鼻をついた。

 まるで古い漢方薬局とインドカレー屋が交錯したような、どこか異質な匂いだった。
 圭吾は思わず鼻をすすり、胸の奥でざわめく不安を抑えようとした。

「着いたか」

 隣で、エンヒが安堵したような、それでいて緊張したような声を漏らした。

 彼女も転移の衝撃で一瞬よろめいたが、すぐにしなやかな動きで体勢を立て直すと、肩を軽く振って髪を整えた。

 彼女の翡翠色の髪が、薄暗い光の中でほのかに輝く。
 エンヒは一呼吸置くと、倉庫の入り口に向かって、肺の底から絞り出すような大声で叫んだ。

「長老ーーっ! いるかーーっ! 緊急事態じゃーーっ!」

 その声は、がらんとした倉庫の高い天井に反響し、まるで石壁を跳ね返る波のようにこだました。

 エンヒの声には、どこか子供が悪戯を報告しに来た時のような、焦りと必死さが滲んでいる気がした。
 だが、同時に、彼女の口調には相手に対する親しみのようなものも感じられた。

 しばらくの静寂が流れた。
 埃が舞う空気の中で、水晶の光だけが静かに揺らめく。

 すると、倉庫の奥——山積みのガラクタの向こうにある古びた木製のドアから、呆れたような、それでいて鋭く響く声が返ってきた。

「まったく、やかましい! 長老って呼ぶんじゃないって、いつも言ってるでしょうが! この小娘!」

 バンッ!と荒々しい音を立ててドアが開いた。
 蝶番が軋む音が呻くように響き、埃が一瞬舞い上がる。
 その影から、一人の女性が姿を現した。
 圭吾は思わず息を呑んだ。

 そこに立っていたのは、長い艶やかな黒髪を緩やかに波打たせ、深く神秘的な紫色の瞳を持つ、驚くほどの美女だった。

 髪はまるで夜の海のように滑らかで、肩から背中にかけて流れるたびに、水晶の光を反射してほのかに輝いた。
 その瞳は、まるで星屑を閉じ込めたような深みを持ち、見つめられると心の奥まで見透かされそうな錯覚を覚える。

 年齢は、見た目では判断が難しい。

 二十代後半の若々しさと、どこか時代を超えたような落ち着きが共存しており、まるで時の流れから切り離された存在のようだった。

 彼女は、身体の線を強調するような、流れるような深紫色のローブを纏っていた。
 ローブの裾や袖には、金糸で複雑な幾何学模様や、星座を思わせる刺繍が施されており、動くたびに光を反射してきらめく。

 腰には細い銀の鎖が巻かれ、歩くたびに小さく澄んだ音を立てた。

 その佇まいは、妖艶でありながら、同時に近寄りがたいほどの威厳を放っていた。

 まるで、夜の女王か、古代の魔女のような雰囲気を漂わせている。

 彼女は、まずエンヒをジロリと一瞥した。
 紫の瞳に一瞬、鋭い光が宿る。

 だが、すぐにその視線を隣に立つ圭吾へと移すと、興味深そうに目を細めた。

 唇の端に、ふわりと優雅な笑みが浮かぶ。
 その笑みは、どこか試すような、だが同時に温かみのあるものだった。

「あらあら、失礼。お客様がいらしたのね。エンヒ、あんた、ちゃんとお客人を連れてくるなら、そう言いなさいよ」

 その声は、先ほどの鋭さとは打って変わって、滑らかで心地よい響きを持っていた。
 まるで絹の布が肌を滑るような、耳に心地よい音色だった。
 だが、エンヒはぷんぷんと頬を膨らませ、子供のようにはにかみながら反論する。

「なっ! 先に大声で怒鳴ったのはフィリスの方ではないか! それに、これは客というか、その……」

「あらあら、そうだったかしら? うっかりしてたわ。最近、物忘れが激しくてねぇ」

 フィリスと呼ばれた女性は、くすくすと喉を鳴らして笑い、わざとらしくこめかみを押さえた。
 その仕草は、どこか芝居がかった軽やかさがあり、まるで舞台の上で観客を魅了する女優のようだった。

「エンヒ、あんたも心配してくれない? 私がボケてないかって」

「むー! からかうでない! フィリスは昔からそうじゃ!」

 二人の軽快な、まるで姉妹か母娘のようなやり取りに、圭吾は完全に圧倒されていた。

 エンヒの口調と、フィリスの優雅で少し意地悪な微笑みが、まるで長い時間を共にした者同士の親密さを垣間見せていた。

 ここは一体どこで、この美女は何者なのか。そして、自分はこれからどうなるのか。

 ふと、圭吾は手の甲に視線を落とした。
 そこに刻まれた紋様——まるで古代の呪文のような複雑な模様——が、再びじわりと熱を帯び始めた気がした。

 脈打つようなその感覚は、まるで何かを予告するかのようだった。
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