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第8話
しおりを挟む咲に小説名を伝えると、すぐにそれを検索した。
上のほうに表示された小説投稿サイトのタイトルをクリックして、咲はつぶやくように言った。
「……これが、島崎さんの小説なんですね」
検索してたどり着いた小説を見て、咲が目を輝かせていた。
第1話と書かれたそこをタッチして、彼女が視線を向けていく。
その動きの一つ一つに、治はドキリとさせられていた。
「……凄い、ちゃんとした小説ですね。……それに、面白そう……っ!」
咲はそのまま、読み進めようとした。治が胸を撫で下ろしていると、咲ははっとした様子で顔をあげる。
それからスマホの画面を閉じ、小さく頭を下げtあ。
「すみません……またあとでじっくり読ませていただきますね」
「まあ、別に無理に読まなくてもいいからな?」
こうして、現実で読者に対面したことがなかったため、照れくささがあった。しかし、そんな治に咲は首を横に振って答えた。
「いえ、絶対読みます……それと、色々と相談に乗って頂いてありがとうございました」
「……いや、別に大したことはしてないから。まあ、それでも胸のつかえがとれたっていうのなら、良かった」
「……はい。ありがとうございます」
咲は丁寧に頭を下げそれから笑顔を浮かべた。
彼女の可愛らしい微笑に、くらりと眩暈のようなものを覚えながらも同じように笑顔を返した。
治はそういえば、と思いだしたことを質問する。
「昨日、ファミレスで……その、滅茶苦茶食っていたよな」
「そ、そんな滅茶苦茶とは……ないと思いますが……」
「それじゃあ、たまたまヤケ食いしていた、とかか? もしかして、さっきの質問と何か関係があるとか……」
学校で進路希望を聞かれ、答えられず教師、親あるいは友人に何かを言われた。
そんな想像しやすい光景を思い浮かべた治だったが、咲は頬を赤くして声をあげた。
「……や、ヤケじゃないです! あ、あれはその――」
咲は考えるように顎に手をやり、それから覗きこんできた。
「や、やっぱり私……食欲あるほうなんですかね?」
「まあ、あるほうじゃないか? 少なくとも俺は、滅茶苦茶腹が減っているときにようやくあのくらい食べられるかどうかだと思う……」
「そ、そうなんですね……」
がっくりと肩を落とした咲。治も傷つけるつもりで言ったわけではなかった。
食事量の多い女性に関して、悪いとも思っていなかったため、治は慌てて否定する。
「まあ、別に食欲がいいことは悪いことじゃないだろ。あんまり食べない人よりは食べる人のほうが見ていて安心するしな!」
「そ、そうですか?」
「ああ……あっ、でも野菜はもう少し食べたほうがいいと思った、な」
その一言は中々に余計だったようで、咲はむきになった様子で声をあげた。
「と、トマトパスタのトマト! ラーメンに入っていたホウレンソウ! ハンバーグについてきたニンジン! 丼についていたネギを食べました!」
明らかに炭水化物との比率がおかしかった。それでも咲は堂々とした顔つきでそう言い切ったので、治は苦笑するしかなかった。
「俺もインスタント類しか食べていないからあまり強くは言えないが、たまには野菜を食べたほうがいいんじゃないか?」
「……き、気をつけます。あれ、ということは島崎さんも一人暮らしとかなんですか?」
「ああ。ここほど立派じゃないけどな。すぐ近くのアパートだ。たぶん、あの辺だな」
ベランダのほうへと近づき、地上を指さす。治の指さした先を見ていた咲は笑みを浮かべていた。
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