黒山羊と花の乙女

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29.ふたりの想い②

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 朝の光がうっすらと部屋を明るくする中、小花模様のシーツがかかったベッドに腰掛けたユールの脚の間に、淡紅色の寝巻き姿のリファリールがひざまづいていた。

 休ませようとするユールに反して、彼女が望んだことだった。

「こんな気持ちで、眠れないです」

 涙の消えない瞳で切なげに見つめる一方で、ユールのそこをするりと撫でてきた。いくら気持ちが揺らいでいようと、若い雄の身体は反応していた。

「座って、楽にしてくださいね」

 治療を施すように、彼女は触れてきた。





 リファリールは、彼の太く立ち上がる肉の茎にたおやかな両手を添えて、唇を寄せた。
 根本の膨らみに置くようなキスをされただけで、ユールの口からは弱りきった吐息が漏れた。

「お祭りの準備で忙しかったから……ちょっとだけ、久しぶり」

 仕事のある日でも、ユールが街の外に出ていなければ二日とおかず交わっていたのが、前の休みから丸七日のお預けだった。

「ここ、いつもより膨らんでるみたい……」

 リファリールは中身の様子を確かめるように、ペロペロとちいさな舌で舐めて、袋の柔らかな皮を唇で食む。その刺激のもどかしさに、ユールは情けなく喘いだ。

「うっ、くぅ……リファ、ちゃん……!」
「痛いですか?」
「違……っ、は、俺っ、今ダメだ……」
「だめって?」
「すぐ出そう……」
「いいですよ」
「っ!」

 彼女は、生々しく血管を浮き出させて荒れ狂うそれを、淡緑のすべらかな両手のひらで支えて、裏側をツッと舌先でなぞりあげた。
 だらだらと垂れてくる透明な先走りを絡めて、扱き始める。
 唇を今度は先端に寄せた。

「あ……!」

 リファリールは、ちいさな愛らしい顔を蕩けさせて、獣の欲望そのものにキスを贈っていた。

 彼女のこんな淫らな表情を知っているのは、自分だけ。

 思い至った瞬間、ぞくぞくと一際耐え難く、射精感が上がってきた。
 リファリールはキスからそのまま唇を開いて、先端を含んでいた。口内で、舌がさらにクルクルと動き、裏筋や鈴口をねだるようにくすぐる。

「っ、く、あ、あ……!」

 ユールは呻いた。後ろについた手でシーツを握りしめる。奥に凝っていたものが、熱く滾ったそこを勢いよく通り抜ける。快感が蹄の先から脳天まで突き抜けていく。

 脈打ちながら吹き出すものを、リファリールは唇をぴったりつけたまま受けた。
 一度飲み下して、また口をつけて吸い出すと、ユールの硬い毛皮に覆われた腿が震えた。
 華奢な手が、宥めるようにその強い脚を撫ぜる。

 はっ、はっと荒い息をついて、ユールはリファリールの頭に触れた。光に透ける新緑の滑らかな髪。柔らかくて敏感な羊の耳は、撫でつけるとぷるっと震える。ちいさなかわいい巻き角も、彼女が獣の血を引く証だ。
 そして、花。
 間近で濃い香りを嗅ぐだけで、味が口に広がっていく。どんな酒よりユールを酔わせて、狂わせる。
 気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。
 でも、足りない。
 触りたい。抱きたい。
 ……食べたい。

 リファリールはそんな彼を上目遣いで見て、にこっと笑ってみせた。
 みるみるうちに硬さを取り戻すそこに、軽くキスをすると、一度口を離した。

 床に座ったまま、ワンピース型の寝巻きの胸のくるみボタンを外す。裾をたくしあげて、脱いだ。淡紅色の薄い布が、散る花びらのように、ひらりとめくれて落ちていった。

 この一夏で成長した身体。
 はじめて交わったのもこの部屋だった。そのとき、あまりの小柄さに躊躇ったのを、ユールは覚えている。
 けれど、今、目の前の彼女は、年頃の雌の身体をしていた。
 たゆんと柔らかく膨らみをもった胸元に、くびれた腰。淡緑の身体は、密やかなところどころが、発情を示すような紅に色づいている。

 ユールが両腕を伸ばすと、リファリールは嬉しそうにその中に抱かれた。

 ユールは彼女を膝に乗せ直して、頬と頬を合わせた。ぐいぐい強く擦り付ける。
 ふふ、とくすぐったそうな笑い声が漏らして、リファリールはしばらくされるがままになっていた。

――ユールさん、大好き。

 ユールの頭の中に、言葉が響く。ユールは耳を振った。ずいぶん都合のいい幻聴だ。
 でも、そのすぐあとに重ねて、リファリールが実際に言った。

「ユールさん、大好き」

 ちいさな驚きとともに、顔を離す。リファリールは今度は額と額をこつんとぶつけてきた。

「ふふ。樹花族の挨拶は、ほっぺなの。してもらえて嬉しくなっちゃいました。ね、山羊さんの挨拶は、おでこなんですよね?」
「……うん」
「そういうこと、もっと知りたいの。大好き、ユールさんが、世界で一番好き」

 躊躇いなく、惜しげもなく、何度でも。
 彼女はユールを好きだと言ってくれる。

 答えなくてはと思うのに、リファリールに触れられて、また情けない声が出そうになる。
 リファリールは身体を滑らせて、ベッドに横になった。
 仰向けから、思い直したように、ころりと転がって伏せた。

「この前のやり方でしてほしいです」

 枕を顔の下に引き寄せて、自分から腰を浮かせてみせる。

「ユールさん、気持ちよさそうだったから……」

 まろやかな双丘の合間は、奥ほど紅色が濃い。彼女の下の唇は、ぷっくらと肉厚で、もう物欲しそうに蜜で潤んでいる。
 誘われるままに、彼女の後ろに膝立ちになった。
 けれど、情欲に塗りつぶされて煮え立つ思考の中に、違和感があった。
 もともと、彼女は性的な行為への抵抗が薄い。けれど、ここまで直接的に媚びるような振る舞いをしてみせたのは初めてだった。

 細い腰に手を添えたとたん、また、聴こえた。

――好きなようにして。気持ちよくなって。全部あげるから……お別れなんて、言わないで。

「リファちゃん……!」

 動きが止まったユールを、彼女は横目で見つめてくる。不安そうに、瞳が揺れていた。

「……ねえ、お願い。してください」
「っ……ごめん、俺」
「ユールさん、もう謝っちゃ嫌。ごめんなさいより、好きって言ってほしいです」

 それが、全てを差し出して、彼女が望むことだった。

 自分が楽になるためだけの謝罪を永遠に腹の底にしまって、ユールは答えた。

「好きだ」

 リファリールの横顔が、緩んだ。

「あ……」

 先を押し当てると、リファリールの潤んだそこが吸いついてくる。ゆっくりと押し込んでいった。

「好きだよ。絶対、離さねえ」
「ん……あっ、嬉しい……! ユールさん……!」

 できるだけ抑えて動くのに、リファリールはかわいそうになるほど震えている。
 彼女のほっそりとした背を撫でると、ぎゅうっと強く中が締まった。

「うぅ……!」

 枕に顔を押しつけながらも、くぐもった声が漏れる。
 入れたまま、片脚を持ち上げて横を向かせた。中をぐるりと擦られた彼女は、今度は遮るもののない甘い悲鳴を上げた。

「……俺、確かに後ろ好きだけどさ。今日は顔見たい。俺ばっかりじゃなくて、リファちゃんも、ちゃんと気持ちよくなってるとこ、見たい。好きだから」

 安心させたくて、彼女の顔を見て、髪を撫でて言った。
 その表情が、心底幸せそうに、とろけていく。きゅうきゅうと中が続けて反応して、気を抜くとすぐ持っていかれそうだ。

「ユールさんのそういうところ、大好き」

 仰向けにして、キスをした。脚がユールの腰に絡んでくる。
 繋がったまま、額にも頬にもキスを落とす。薄い眉にも、震える瞼にも。
 柔らかで温かい、白い産毛の三角耳にも。

「あ……ん……」
「耳、好きだよね……かわい……」

 角の根元も甘噛みする。そこも、ユールと同じで、感覚が通っているらしい。ユールの手足に閉じ込められて、リファリールは身をくねらせる。

「ユールさん、ねえ……」
「ん……」

 ユールは知っている。
 リファリールが一番好きなこと。こんなにもずっと、甘い香りを振りまいて誘っている。
 この状態でそうしてしまえば、ユールの理性など完全に吹き飛んで、ただ雌を貪る雄になる。
 リファリールもわかっていて、でも、そうされたいと願うのだ。

「食っていい」
「はい」

 黄色い花芯が鼻をくすぐる。舌を潜らせると、じゅわっと蜜が溢れてきた。

「んっ、あ……あっ」

 リファリールの唇から、啜り泣くような喘ぎが止まらなくなる。音を立てて蜜を啜る。羊の耳が震えて、ユールの顔をくすぐるのを、手のひらで撫でつける。揺れる彼女の身体を、腰を一段進めて貫き止めた。
 片手で腰骨を支え直して、揺さぶった。

「あ……! あっ、あっ」

 数度、中を往復してやると、果てた。彼女は素直で、感じやすい。

「気持ちよかった?」

 耳に吹き込むように訊くと、こくりと頷きながらも、訴えてきた。

「わたしだけ……」
「いっぺん口でしてもらったから、お返し」
「ユールさんも」
「うん」

 くったりと四肢を投げ出している花の乙女に覆い被さって、黒山羊は再び花に口を寄せる。

「両方食ったら……回数なんかわかんなくなるくらい、するから」





 ぎしっ、ぎしっと、ちいさな木のベッドが軋む。
 花の魔力に酩酊した蜂蜜色の目は、リファリールだけを見ている。
 舌を伸ばして、絡めあって、そうしながら種を注いでもらって……また。

 花の魅了で収まる様子がない彼は、何度しても足りないと、彼女の身体に入り込んで、快楽を貪っている。
 リファリールもまた、手足を蔓草のように彼の身体に絡めて、性の悦びに溺れていく。

 こうすることでしか伝えられない。
 きれいで優しいばかりでない、熱い、生々しい、身勝手な衝動に、身を任せた。





 交歓ののちは、二人とも急激な眠気に襲われていた。
 リファリールはユールの身体にのりあげて、首筋にキスをする。

「ユールさん」
「うん……」
「お祭りが終わったらって言ってたこと」

 ユールはちゃんと、答えた。

「部屋探して、一緒に暮らそう」
「……はい!」

 リファリールがようやく安心した表情で笑う。

 ユールは目を細めて、彼女の頭を撫でた。
 彼女にはずっと、こんな顔をしていてほしいと、思った。
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