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34.リスの話
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秋の深まりとともに木々の葉は鮮やかに色づき、やがて散っていく。
傭兵ギルドの救護室の日の当たる窓辺では、リスが一匹、身体を丸めてまどろんでいた。
リファリールは仕事の手を止めて、布を敷いた小ぶりなバスケットを置く。
「ネムさん、寒くないですか?」
リスの目が、うっすら開いた。
(ん……)
リファリールはネムを手のひらにすくいとって、バスケットの中に移した。触れて、悲しくなった。軽かった。毛皮は艶を失い、肉付きが明らかに薄くなっている。
最近、彼は休んでいる時間が増えていた。
命の流れが、弱まっている。病でも、怪我でもない。ただ炎が燃え尽きるように、草木が枯れるように、時がくれば迎える終焉が近いのだ。
それをネム自身、悟っているようだった。
リファリールは訊く。
「花の蜜、好きですか?」
ネムは鼻先を動かした。
(……いい匂いだなあって、いつも思ってたよ。でも、俺はいいんだ)
――でも、わたしはいいんだよ。
昔の誰かの言葉に重なって、胸がツキンと痛む。
リファリールの顔が曇るのを慰めるように、ネムは明るくまぜっかえした。
(ユールがヤキモチ妬くからな!)
不思議なリスだ。喋るだけではない。愛らしい見た目に反して、その言葉はざっくばらんでも、年長者らしい気遣いで満ちていた。
「……ネムさん……」
(そんな顔してくれるなよ、リファちゃん)
リファリールの指先に、ちいさな手が添えられる。
(楽しかったよ。めいっぱい働いて、嫁も子供も孫も、うまいもんたらふく食わせてやれた。ギルドの仲間は、危なっかしいバカばっかりだが、いいやつらだ)
「はい。ネムさんは、とってもいいお父さんで、おじいさんで、先輩です」
(おう。……リファちゃん、ユールを頼むぜ)
リファリールは頷いた。
(あいつ、リファちゃんのおかげで変わったよ。命、大事にするようになった)
でもな、とリスは言う。
(どんなに強くたって、気をつけたって、傭兵は死ぬときがあるんだよ。みんなの盾になる仕事だから)
このつぶらな黒い目は、きっとそんな悲しみも映してきた。考えれば苦しくて、でも、リファリールはそういう生き方をするひとたちを支えることを選んだのだ。
(それにあいつも俺も、リファちゃんよりずっと寿命が短い生き物だ)
一匹のリスがまさに、その運命を身をもって知らしめる。
(でも、許してくれよな)
俯く彼女に、彼は穏やかな声で頼んだ。
(俺たちなりに生き切ったときはさ、よく頑張ったって褒めて、休ませてくれよ)
わかっていると答えてあげないといけないと思う。でも、いざそうなれば、心は揺らぐ。
「……そんなこと、言わないでください。さみしいです」
(ああ、たくさんさみしがって、悲しんで、泣いてくれ。……そんで、そのあと、楽しかったことは、それよりいっぱい、思い出せよ!)
「はい」
ネムが拳を握るのに、リファリールもならう。あまりに大きさが違うけれど、そっとぶつけあった。
(リファちゃんの花嫁姿、見れそうにないのだけ、残念だよ)
キキッと笑うように鳴いて、リスは再び丸くなった。
何かが背中に触れる感触に、ネムは目覚めた。
「あ、まだ生きてたね」
医者の、無精ひげの生えた大きな顔が近くにあった。
(勘弁しろよ、むさくるしい顔よせやがって)
憎まれ口に憎まれ口で返すと、医者は肩をすくめた。
窓の外はいつのまにか、橙色の夕焼けに染まっている。
(そろそろ身体がきかないから、引退するよ)
「そうかい」
ネムがギルドで働き始めたのは、医者が仕掛けたネズミ捕りにひっかかったのがきっかけだった。ふざけるな、はやく出せと叫ぶリスに、彼は驚きつつも謝ったものだった。
「ずいぶん長くがんばったね。あのころ、スヴェンはまだ結婚してなかったよねえ」
(そうだったかな)
若いリスが老体になるくらいの時間はたった。長寿で肉体の衰えが少ない蛇族のスヴェラードはともかく、人族らしい医者の外見が殆ど変化しないのは、不思議な気もする。同じ人族の団長など、ずいぶん皺も白髪も増えたというのに。
窓辺にいるのは、黒い髪に切れ長の黒い目をした、くたびれた印象の男だ。
「さみしくなるよ。君リスだけど、たったひとり、僕の名前を覚えてくれたから」
(……シロタ。お前、嫌われすぎじゃないか?)
シロタユズルという、この世界には類のない奇妙な名前の男は、苦笑いする。
「違うと思いたいなあ。僕はね、存在がこの世界からズレてるみたいだ。……たぶん、君もだよ」
昼と夜のあわいの時間、彼は世界の深部に少しだけ触れる。
「ネム。ニンゲンだったころのことを、覚えていないかい」
ニンゲン? ああ、人間。
変な言葉だが、ネムには覚えがある。
(そういや、若い頃は変な夢をよく見たね。それで言葉も覚えたんだ)
「君の中には、ちょっとだけ、僕が元いた世界から迷い込んだものが混ざってるんだよ、きっと」
(さて、世界とか言われてもよくわからんね。ただの喋れるリスだぜ)
「簡単に言うけどすごいんだよ」
(去年生まれた孫も喋る)
「まじかい」
若ぶった言葉遣いで彼はおどけてみせる。実際のところ、ネムには彼が若いのか年老いているのか、よくわからない。彼もさみしいのだろうとは思う。だいたい、リスによしなしごとを話しかけるのは、心に隙間があるものたちだ。
彼への餞別に、ネムは言ってやった。
(きっとそいつも、お前の名前をちゃんと覚えるよ。シロタユズル)
「そうだと嬉しいね」
窓の外は、ゆっくりと藍に暮れていく。ネムはバスケットから這い出して、夜が訪れる前に南の森の巣に帰った。
数日後、涼しい、よく晴れた秋の日。
ネムは団長室にいた。フィミーの差し出した書類に、赤インクを塗った前足を押し付ける。
ふたりに労われ、退職金(クルミ)の説明を受けて、部屋を出た。
午前の訓練の時間中だというのに、廊下に待ち構えていた見知った面々に囲まれた。
「黙って行こうとするとかさあ、水臭いんだよ」
「フン! シミッタレタ顔サレンノ嫌デナ!」
特にしけた顔をしているユールの肩によじ登ろうとして、滑った。床に落ちる前に、大きな両手に受け止められた。
ユールは器型にした手のひらにネムを載せて、顔の前まで持ち上げた。
「……ありがと。俺がここにいんの、ネムのおかげだ」
蜂蜜色の目を泣きそうに揺らしながらも、口だけ無理に笑ってみせる。
とっくに成人したくせに、最後まで仕方のない子分だった。
「オウ、オ前モウ大丈夫ダナ! シッカリヤレヨ!」
力強く激励して、黒い鼻先をぺしっと叩いてやった。
ネム一族の森の巣には、餞別の食糧が山盛り届けられた。子供と孫たちが大騒ぎしながら仕分けして、冬に向けた貯蔵に勤しむのを、ネムは巣穴からのんびり見下ろしている。
傍らには、長く連れ添った番のリスがいる。
喋らない、ごく普通のリスだ。
それでも、つまらないと思ったことはなかった。
痩せた身体を寄せて、ほのかな温もりを分け合う。
お互い冬を越して生きることはないだろう。けれど、自分たちの命を継いだものがこんなにも増えて、生を謳歌している。
これほど幸せで、満足なことはなかった。
「なんか、物足りないね」
更衣室で、ネムの使っていた棚の一角が空なのを見て、ラパンが呟く。
「リス一匹いないだけなんだがな」
フロックが答えた。
「三羽烏ってもう言えないんだもんね……」
耳を垂らすラパンの背を、ユールは軽く叩く。ネムに心配をかけないためにも、しっかりしないとと言おうとしたところで。
「オウ、ココハ俺様ノ出番ダナ!」
独特の甲高い声がした。
壁の穴から、リスが顔を出していた。一匹出てきたかと思えば、続いてゾロゾロと雪崩れ込んでくる。
「ネム!?」
「ネムだらけ!?」
更衣室中駆け回るリスたちに、傭兵たちは騒然とした。
一匹がユールの頭に素早く駆け上って、角の間に後足で立ってふんぞり返った。
「俺様、ちもしー!」
「ネムじゃねえの!?」
「ぴちぴちノ俺様トジイチャン、一緒ニスンナヨ!」
「わっかんねえよリスの年なんて!」
ユールと言い合うチモシーを、フロックが金色の丸い目で見つめる。
「いやわかるよ俺は。お前のほうが美味そうだ」
「フロックやめてあげて、あんまり冗談に聞こえないよ」
「構ワネエゼ、ウサギ! オ前ガらぱんデ、笑エナイ冗談言ッテンノガふろっく! デ、黒山羊、オ前ガゆーるダナ! ジイチャンノ一ノ子分ダ!」
「ネムのやつ、孫にどういう話してんだよ」
「ぎるどハ全員手下ダロ? 人族ノ団長ハ飾リデ、ジイチャンガ裏ノ団長!」
「ふいてやがるなあ……あいつらしい」
「サア、オ飾リ団長ノトコロ連レテケ! 俺タチねむ軍団、コレカラモ力、貸シテヤルゼ!」
チモシーが「整列!」と一声叫ぶと、リスたちが一斉に集まってピシッと並んだ。
喋るのはチモシー一匹だが、血の繋がりか、何か別の仕組みがあるのか、異常に統率が取れている。
彼らの要求は、森で入手できない食料を対価とした契約だった。ネムに育てられたせいで舌が肥えてしまったらしい。
団長はチモシーを代表者として、リスたちを雇い入れることを即決した。
「ネムには世話になった。引き続き期待してるよ、チモシー」
「オウ、任セトケ!」
声も拳を振り上げる仕草も、よくネムに似ている。案内をしたユールが不思議な気分で見ていると、契約を済ませたチモシーは、なにやら兄弟たちに運ばせてきた。
「ゆーる! コレ、ジイチャンカラダ!」
紺の細いネクタイだった。はじめてリファリールを食事に誘ったとき、ネムが貸してくれたものだ。
「……ネム、元気?」
「……ン、死ンダヨ」
「そっか……」
「オイ、哀レンデンジャネエゾ! 子供ニ孫ニヒ孫、アトナンカイッパイ、一族総勢五百匹ニ囲マレテ大往生ダ! 真似デキルモンナラヤッテミロ!」
力説されれば笑うしかない。確かにネムはよくやった。
「やべえねリスの繁殖力」
ネクタイを受け取って、ユールはチモシーに拳を差し出した。
「もらう。これからよろしく、チモシー」
キキッと鳴いて、チモシーはユールに拳を合わせた。
傭兵ギルドの救護室の日の当たる窓辺では、リスが一匹、身体を丸めてまどろんでいた。
リファリールは仕事の手を止めて、布を敷いた小ぶりなバスケットを置く。
「ネムさん、寒くないですか?」
リスの目が、うっすら開いた。
(ん……)
リファリールはネムを手のひらにすくいとって、バスケットの中に移した。触れて、悲しくなった。軽かった。毛皮は艶を失い、肉付きが明らかに薄くなっている。
最近、彼は休んでいる時間が増えていた。
命の流れが、弱まっている。病でも、怪我でもない。ただ炎が燃え尽きるように、草木が枯れるように、時がくれば迎える終焉が近いのだ。
それをネム自身、悟っているようだった。
リファリールは訊く。
「花の蜜、好きですか?」
ネムは鼻先を動かした。
(……いい匂いだなあって、いつも思ってたよ。でも、俺はいいんだ)
――でも、わたしはいいんだよ。
昔の誰かの言葉に重なって、胸がツキンと痛む。
リファリールの顔が曇るのを慰めるように、ネムは明るくまぜっかえした。
(ユールがヤキモチ妬くからな!)
不思議なリスだ。喋るだけではない。愛らしい見た目に反して、その言葉はざっくばらんでも、年長者らしい気遣いで満ちていた。
「……ネムさん……」
(そんな顔してくれるなよ、リファちゃん)
リファリールの指先に、ちいさな手が添えられる。
(楽しかったよ。めいっぱい働いて、嫁も子供も孫も、うまいもんたらふく食わせてやれた。ギルドの仲間は、危なっかしいバカばっかりだが、いいやつらだ)
「はい。ネムさんは、とってもいいお父さんで、おじいさんで、先輩です」
(おう。……リファちゃん、ユールを頼むぜ)
リファリールは頷いた。
(あいつ、リファちゃんのおかげで変わったよ。命、大事にするようになった)
でもな、とリスは言う。
(どんなに強くたって、気をつけたって、傭兵は死ぬときがあるんだよ。みんなの盾になる仕事だから)
このつぶらな黒い目は、きっとそんな悲しみも映してきた。考えれば苦しくて、でも、リファリールはそういう生き方をするひとたちを支えることを選んだのだ。
(それにあいつも俺も、リファちゃんよりずっと寿命が短い生き物だ)
一匹のリスがまさに、その運命を身をもって知らしめる。
(でも、許してくれよな)
俯く彼女に、彼は穏やかな声で頼んだ。
(俺たちなりに生き切ったときはさ、よく頑張ったって褒めて、休ませてくれよ)
わかっていると答えてあげないといけないと思う。でも、いざそうなれば、心は揺らぐ。
「……そんなこと、言わないでください。さみしいです」
(ああ、たくさんさみしがって、悲しんで、泣いてくれ。……そんで、そのあと、楽しかったことは、それよりいっぱい、思い出せよ!)
「はい」
ネムが拳を握るのに、リファリールもならう。あまりに大きさが違うけれど、そっとぶつけあった。
(リファちゃんの花嫁姿、見れそうにないのだけ、残念だよ)
キキッと笑うように鳴いて、リスは再び丸くなった。
何かが背中に触れる感触に、ネムは目覚めた。
「あ、まだ生きてたね」
医者の、無精ひげの生えた大きな顔が近くにあった。
(勘弁しろよ、むさくるしい顔よせやがって)
憎まれ口に憎まれ口で返すと、医者は肩をすくめた。
窓の外はいつのまにか、橙色の夕焼けに染まっている。
(そろそろ身体がきかないから、引退するよ)
「そうかい」
ネムがギルドで働き始めたのは、医者が仕掛けたネズミ捕りにひっかかったのがきっかけだった。ふざけるな、はやく出せと叫ぶリスに、彼は驚きつつも謝ったものだった。
「ずいぶん長くがんばったね。あのころ、スヴェンはまだ結婚してなかったよねえ」
(そうだったかな)
若いリスが老体になるくらいの時間はたった。長寿で肉体の衰えが少ない蛇族のスヴェラードはともかく、人族らしい医者の外見が殆ど変化しないのは、不思議な気もする。同じ人族の団長など、ずいぶん皺も白髪も増えたというのに。
窓辺にいるのは、黒い髪に切れ長の黒い目をした、くたびれた印象の男だ。
「さみしくなるよ。君リスだけど、たったひとり、僕の名前を覚えてくれたから」
(……シロタ。お前、嫌われすぎじゃないか?)
シロタユズルという、この世界には類のない奇妙な名前の男は、苦笑いする。
「違うと思いたいなあ。僕はね、存在がこの世界からズレてるみたいだ。……たぶん、君もだよ」
昼と夜のあわいの時間、彼は世界の深部に少しだけ触れる。
「ネム。ニンゲンだったころのことを、覚えていないかい」
ニンゲン? ああ、人間。
変な言葉だが、ネムには覚えがある。
(そういや、若い頃は変な夢をよく見たね。それで言葉も覚えたんだ)
「君の中には、ちょっとだけ、僕が元いた世界から迷い込んだものが混ざってるんだよ、きっと」
(さて、世界とか言われてもよくわからんね。ただの喋れるリスだぜ)
「簡単に言うけどすごいんだよ」
(去年生まれた孫も喋る)
「まじかい」
若ぶった言葉遣いで彼はおどけてみせる。実際のところ、ネムには彼が若いのか年老いているのか、よくわからない。彼もさみしいのだろうとは思う。だいたい、リスによしなしごとを話しかけるのは、心に隙間があるものたちだ。
彼への餞別に、ネムは言ってやった。
(きっとそいつも、お前の名前をちゃんと覚えるよ。シロタユズル)
「そうだと嬉しいね」
窓の外は、ゆっくりと藍に暮れていく。ネムはバスケットから這い出して、夜が訪れる前に南の森の巣に帰った。
数日後、涼しい、よく晴れた秋の日。
ネムは団長室にいた。フィミーの差し出した書類に、赤インクを塗った前足を押し付ける。
ふたりに労われ、退職金(クルミ)の説明を受けて、部屋を出た。
午前の訓練の時間中だというのに、廊下に待ち構えていた見知った面々に囲まれた。
「黙って行こうとするとかさあ、水臭いんだよ」
「フン! シミッタレタ顔サレンノ嫌デナ!」
特にしけた顔をしているユールの肩によじ登ろうとして、滑った。床に落ちる前に、大きな両手に受け止められた。
ユールは器型にした手のひらにネムを載せて、顔の前まで持ち上げた。
「……ありがと。俺がここにいんの、ネムのおかげだ」
蜂蜜色の目を泣きそうに揺らしながらも、口だけ無理に笑ってみせる。
とっくに成人したくせに、最後まで仕方のない子分だった。
「オウ、オ前モウ大丈夫ダナ! シッカリヤレヨ!」
力強く激励して、黒い鼻先をぺしっと叩いてやった。
ネム一族の森の巣には、餞別の食糧が山盛り届けられた。子供と孫たちが大騒ぎしながら仕分けして、冬に向けた貯蔵に勤しむのを、ネムは巣穴からのんびり見下ろしている。
傍らには、長く連れ添った番のリスがいる。
喋らない、ごく普通のリスだ。
それでも、つまらないと思ったことはなかった。
痩せた身体を寄せて、ほのかな温もりを分け合う。
お互い冬を越して生きることはないだろう。けれど、自分たちの命を継いだものがこんなにも増えて、生を謳歌している。
これほど幸せで、満足なことはなかった。
「なんか、物足りないね」
更衣室で、ネムの使っていた棚の一角が空なのを見て、ラパンが呟く。
「リス一匹いないだけなんだがな」
フロックが答えた。
「三羽烏ってもう言えないんだもんね……」
耳を垂らすラパンの背を、ユールは軽く叩く。ネムに心配をかけないためにも、しっかりしないとと言おうとしたところで。
「オウ、ココハ俺様ノ出番ダナ!」
独特の甲高い声がした。
壁の穴から、リスが顔を出していた。一匹出てきたかと思えば、続いてゾロゾロと雪崩れ込んでくる。
「ネム!?」
「ネムだらけ!?」
更衣室中駆け回るリスたちに、傭兵たちは騒然とした。
一匹がユールの頭に素早く駆け上って、角の間に後足で立ってふんぞり返った。
「俺様、ちもしー!」
「ネムじゃねえの!?」
「ぴちぴちノ俺様トジイチャン、一緒ニスンナヨ!」
「わっかんねえよリスの年なんて!」
ユールと言い合うチモシーを、フロックが金色の丸い目で見つめる。
「いやわかるよ俺は。お前のほうが美味そうだ」
「フロックやめてあげて、あんまり冗談に聞こえないよ」
「構ワネエゼ、ウサギ! オ前ガらぱんデ、笑エナイ冗談言ッテンノガふろっく! デ、黒山羊、オ前ガゆーるダナ! ジイチャンノ一ノ子分ダ!」
「ネムのやつ、孫にどういう話してんだよ」
「ぎるどハ全員手下ダロ? 人族ノ団長ハ飾リデ、ジイチャンガ裏ノ団長!」
「ふいてやがるなあ……あいつらしい」
「サア、オ飾リ団長ノトコロ連レテケ! 俺タチねむ軍団、コレカラモ力、貸シテヤルゼ!」
チモシーが「整列!」と一声叫ぶと、リスたちが一斉に集まってピシッと並んだ。
喋るのはチモシー一匹だが、血の繋がりか、何か別の仕組みがあるのか、異常に統率が取れている。
彼らの要求は、森で入手できない食料を対価とした契約だった。ネムに育てられたせいで舌が肥えてしまったらしい。
団長はチモシーを代表者として、リスたちを雇い入れることを即決した。
「ネムには世話になった。引き続き期待してるよ、チモシー」
「オウ、任セトケ!」
声も拳を振り上げる仕草も、よくネムに似ている。案内をしたユールが不思議な気分で見ていると、契約を済ませたチモシーは、なにやら兄弟たちに運ばせてきた。
「ゆーる! コレ、ジイチャンカラダ!」
紺の細いネクタイだった。はじめてリファリールを食事に誘ったとき、ネムが貸してくれたものだ。
「……ネム、元気?」
「……ン、死ンダヨ」
「そっか……」
「オイ、哀レンデンジャネエゾ! 子供ニ孫ニヒ孫、アトナンカイッパイ、一族総勢五百匹ニ囲マレテ大往生ダ! 真似デキルモンナラヤッテミロ!」
力説されれば笑うしかない。確かにネムはよくやった。
「やべえねリスの繁殖力」
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