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19 昼の夜と光の大通り
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アレッタははやる心を抑えられず、早速明日外出できないかルーチェに相談してみた。
「明日? いいよー、全然おっけー! エストに会いたいのね、りょーかい!」
ルーチェは快諾してくれた。直近すぎてあいにくユースの都合はつかなかったので、アレッタは昼過ぎにルーチェと二人で王宮を出た。
夜と光の大通りは昼間でもなかなかの賑わいを見せている。
前回気になったものの入らなかった店に視線が釘付けになっているのをルーチェに気づかれると、ググッと背中を押された。
「アレッタここ気になるの? じゃあ入っちゃおー」
「わわっ、えっ?」
彼女は金のツインテールを楽しげに跳ねさせながら、アレッタを押しつつ堂々と店の中に入る。
ちょっと強引なルーチェにより、思いがけず妖精文化にまた少し詳しくなれたアレッタだった。
そっか、鱗粉屋は羽に施すお化粧品を売っているお店だったのね。時々カラフルな羽の妖精さんがいるなあと思っていたけど、ここでお化粧品を買ってたんだね。
そして光苔はランプほどの明るさはないけど道標や装飾になるから、お庭に飾って楽しむものなんだ。ぼんやりした光が幻想的でいいなあ。
いくつかの店を見てまわった後は、ルーチェがカフェに案内してくれた。
「アレッタがエストに会いたいって言ってたからさ、私エストと約束をとりつけておいたんだ。よさみなカフェ見つけといたから、そこ行こ!」
「わあ、ありがとう……って、待ち合わせしてたの!? 大変、他の店になんて寄っている場合じゃなかったわ」
急いでカフェに駆けつけると、エストレアはテラス席に両肘をついて、体の大きさに見合わない特大サイズのパフェを空にして待っていた。
ソルの姿は見当たらないが、ルーチェはそれが当たり前といった様子でエストレアに声をかけた。
「ごめん、待ったー?」
「うん。かなり」
「ごめんて。ここのお代は私が持つからさー、それでどう?」
「なら許す」
気安いやりとりを経た後、アレッタの見慣れないメニューをルーチェとエストレアから指南を受けながら見ていく。
「私も頼んでしまって大丈夫なの?」
「だいじょぶ、殿下から軍資金たんまり預かってきたからね! もー殿下ちょー太っ腹だから、なんでも頼んじゃって!」
せっかくだからと二人のオススメのパフェを食べてみることにした。食べられる花がふんだんに散らされた、真っ白で美麗なパフェだ。
ルーチェもパフェを頼み、エストレアまでも追加でパフェを頼んだ。
「エストそんなに食べたら太るよ?」
「太らないし、太れない。毎朝起きたら死にそうなほどお腹が空いてる」
「ああ、そっかー。そんじゃ食べてよし! ちょっとだけ羨ましいな、その体質」
「じゃあ代わって」
「無理~」
ルーチェがきししと笑うと、エストは撫然とした様子で水を一気飲みした。
「毎朝お腹が空いてるって、晩御飯は食べないの?」
「食べないというよりは食べられない。私は夜になると意識がなくなるから」
「えっ」
アレッタは改めてエストレアを見た。右半分が黒髪、左半分が白髪で、目の色も右が黒色で左が銀色……半分だけ闇妖精の祝福を受けたってことなの?
エストレアは忌々しそうに黒髪を一房つまみあげた。
「これのせいで光と風の国からは追いだされるし、夜は知らないうちになにかやらかしているし、本当に迷惑」
「そうだよね、エストは他の妖精の闇堕ちに巻きこまれただけだもんね。つらたん」
ブルーな雰囲気に包まれたテーブルだったが、パフェが来ると一変してきゃあきゃあルーチェが騒ぎだす。
「やっばい、このソースキラッキラにラメっててめちゃ美味しそう! いただきまーす!」
光の粉をまぶしたようなパフェを嬉々として食べるルーチェ。すごい……美味しいのかな。
エストレアもふわふわのクリームまみれの白いパフェを無言でどんどん崩して口に入れていく。
アレッタも、食べるのがもったいないくらい綺麗な花弁を一つとって食べてみた。
砂糖をかけられ控えめに輝く桃色の花弁は思ったよりも青臭くなく、フルーティな香りがして美味しい。
「うん、おいしいね」
「どれどれ? 私にも一口ちょうだい!」
分けあったパフェはどれも美味しくて、もしアレッタが侯爵令嬢のままであったなら絶対に経験できないような、新鮮で楽しい時間を過ごすことができた。
パフェを食べ終えたルーチェはご機嫌で、テーブルの上にグッと両手を伸ばして猫のように背伸びをした。
「んふふー、なんか女子会みたいで楽しいね」
「まあ楽しかったけど、私女子会をしにきたつもりじゃなかった。アレッタは私に会いにきてくれたようだけど、なにか聞きたいことでもあった?」
きっちりと二杯目のパフェを食べ終えたエストレアがスプーンを置いてアレッタの方を向いた。
「あ、その、聞いてもいいことなのかな……闇妖精の祝福のことをこの前初めて知ったから、エストレアのことが気になってしまって」
エストレアは表情一つ動かさずに首を縦に振った。
「別にいいよ。私も治せるものなら治したいから、よかったら事情を知ってもらって一緒に考えてほしい」
「うん、わかった」
アレッタも食べ終えたパフェを脇に避けて、居住まいを正す。
「私の体質は、昼間は自分の意識でいられるけれど、夜になると邪悪な闇妖精の意識が目覚めるようになっている」
「痛々しい言動がすんごいことになるんだよね。私もアレはどうかと思う、闇妖精ヤバい」
「ルーチェはちょっと黙ってて」
「はーい」
痛々しい言動って? 気になったけれど話の腰を折りたくないので、そのまま黙って続きを促す。
「ソルによると邪悪な意識は目覚めていようと足掻くけれど、結局は一定時間経つと睡魔に負けて眠りこんでしまうらしいの。けれどその、一定時間の間になにをやらかしているかが問題で」
エストレアがふぅと一呼吸置く。
いったいどんな事件が……アレッタはごくりと唾を飲みこんだ。
「この前なんか朝ベッドで目覚めたら、枕元にキノコの胞子屋から買ったと思われる、痺れ毒やら眠り粉が大量に置いてあったんだ」
「なにそれ! やば!!」
ルーチェが思い切り吹きだしたので、エストレアはジトリとルーチェに恨みがましい視線を送った。
「笑いごとじゃないんだから。毒薬に囲まれて目覚めた私のその時の気持ち、わかる? ついにソルから、お前永遠に寝てろよって見捨てられたのかと思った」
「ソルはそんなことしないよー、面倒見いいもん」
「わかってる。だからなぜこんなことになったのか、昨夜の事情をソルに聞きにいった」
「そしたらなんて言われたの?」
ソルはエストレアの見張りなのに、なぜそんな状況になっているのに止めに入らなかったんだろう? すごく気になる。
「夜の私がどういう行動をするのか、一度なにも止めたりせずにそのまま見守ってみたんだって。そしたら毒薬をしこたま買うだけ買って満足して寝てしまって、おもしろいから危険がないように細工してそのままにしておいたって言ってた」
「んふふ、なにも起こらなくてよかったじゃん」
「夜の私って存外間抜けなのかもね。ホッとしたような残念なような、ちょっと損した気分」
「うんうん、あれは間抜けだよねえ~、わかりみが深いわ~」
ルーチェが飴色の瞳を閉じて、深く相槌を打っている。
ルーチェは夜のエストレアのこともよく知っていそうだね。闇妖精って間抜けなのかな……?
「明日? いいよー、全然おっけー! エストに会いたいのね、りょーかい!」
ルーチェは快諾してくれた。直近すぎてあいにくユースの都合はつかなかったので、アレッタは昼過ぎにルーチェと二人で王宮を出た。
夜と光の大通りは昼間でもなかなかの賑わいを見せている。
前回気になったものの入らなかった店に視線が釘付けになっているのをルーチェに気づかれると、ググッと背中を押された。
「アレッタここ気になるの? じゃあ入っちゃおー」
「わわっ、えっ?」
彼女は金のツインテールを楽しげに跳ねさせながら、アレッタを押しつつ堂々と店の中に入る。
ちょっと強引なルーチェにより、思いがけず妖精文化にまた少し詳しくなれたアレッタだった。
そっか、鱗粉屋は羽に施すお化粧品を売っているお店だったのね。時々カラフルな羽の妖精さんがいるなあと思っていたけど、ここでお化粧品を買ってたんだね。
そして光苔はランプほどの明るさはないけど道標や装飾になるから、お庭に飾って楽しむものなんだ。ぼんやりした光が幻想的でいいなあ。
いくつかの店を見てまわった後は、ルーチェがカフェに案内してくれた。
「アレッタがエストに会いたいって言ってたからさ、私エストと約束をとりつけておいたんだ。よさみなカフェ見つけといたから、そこ行こ!」
「わあ、ありがとう……って、待ち合わせしてたの!? 大変、他の店になんて寄っている場合じゃなかったわ」
急いでカフェに駆けつけると、エストレアはテラス席に両肘をついて、体の大きさに見合わない特大サイズのパフェを空にして待っていた。
ソルの姿は見当たらないが、ルーチェはそれが当たり前といった様子でエストレアに声をかけた。
「ごめん、待ったー?」
「うん。かなり」
「ごめんて。ここのお代は私が持つからさー、それでどう?」
「なら許す」
気安いやりとりを経た後、アレッタの見慣れないメニューをルーチェとエストレアから指南を受けながら見ていく。
「私も頼んでしまって大丈夫なの?」
「だいじょぶ、殿下から軍資金たんまり預かってきたからね! もー殿下ちょー太っ腹だから、なんでも頼んじゃって!」
せっかくだからと二人のオススメのパフェを食べてみることにした。食べられる花がふんだんに散らされた、真っ白で美麗なパフェだ。
ルーチェもパフェを頼み、エストレアまでも追加でパフェを頼んだ。
「エストそんなに食べたら太るよ?」
「太らないし、太れない。毎朝起きたら死にそうなほどお腹が空いてる」
「ああ、そっかー。そんじゃ食べてよし! ちょっとだけ羨ましいな、その体質」
「じゃあ代わって」
「無理~」
ルーチェがきししと笑うと、エストは撫然とした様子で水を一気飲みした。
「毎朝お腹が空いてるって、晩御飯は食べないの?」
「食べないというよりは食べられない。私は夜になると意識がなくなるから」
「えっ」
アレッタは改めてエストレアを見た。右半分が黒髪、左半分が白髪で、目の色も右が黒色で左が銀色……半分だけ闇妖精の祝福を受けたってことなの?
エストレアは忌々しそうに黒髪を一房つまみあげた。
「これのせいで光と風の国からは追いだされるし、夜は知らないうちになにかやらかしているし、本当に迷惑」
「そうだよね、エストは他の妖精の闇堕ちに巻きこまれただけだもんね。つらたん」
ブルーな雰囲気に包まれたテーブルだったが、パフェが来ると一変してきゃあきゃあルーチェが騒ぎだす。
「やっばい、このソースキラッキラにラメっててめちゃ美味しそう! いただきまーす!」
光の粉をまぶしたようなパフェを嬉々として食べるルーチェ。すごい……美味しいのかな。
エストレアもふわふわのクリームまみれの白いパフェを無言でどんどん崩して口に入れていく。
アレッタも、食べるのがもったいないくらい綺麗な花弁を一つとって食べてみた。
砂糖をかけられ控えめに輝く桃色の花弁は思ったよりも青臭くなく、フルーティな香りがして美味しい。
「うん、おいしいね」
「どれどれ? 私にも一口ちょうだい!」
分けあったパフェはどれも美味しくて、もしアレッタが侯爵令嬢のままであったなら絶対に経験できないような、新鮮で楽しい時間を過ごすことができた。
パフェを食べ終えたルーチェはご機嫌で、テーブルの上にグッと両手を伸ばして猫のように背伸びをした。
「んふふー、なんか女子会みたいで楽しいね」
「まあ楽しかったけど、私女子会をしにきたつもりじゃなかった。アレッタは私に会いにきてくれたようだけど、なにか聞きたいことでもあった?」
きっちりと二杯目のパフェを食べ終えたエストレアがスプーンを置いてアレッタの方を向いた。
「あ、その、聞いてもいいことなのかな……闇妖精の祝福のことをこの前初めて知ったから、エストレアのことが気になってしまって」
エストレアは表情一つ動かさずに首を縦に振った。
「別にいいよ。私も治せるものなら治したいから、よかったら事情を知ってもらって一緒に考えてほしい」
「うん、わかった」
アレッタも食べ終えたパフェを脇に避けて、居住まいを正す。
「私の体質は、昼間は自分の意識でいられるけれど、夜になると邪悪な闇妖精の意識が目覚めるようになっている」
「痛々しい言動がすんごいことになるんだよね。私もアレはどうかと思う、闇妖精ヤバい」
「ルーチェはちょっと黙ってて」
「はーい」
痛々しい言動って? 気になったけれど話の腰を折りたくないので、そのまま黙って続きを促す。
「ソルによると邪悪な意識は目覚めていようと足掻くけれど、結局は一定時間経つと睡魔に負けて眠りこんでしまうらしいの。けれどその、一定時間の間になにをやらかしているかが問題で」
エストレアがふぅと一呼吸置く。
いったいどんな事件が……アレッタはごくりと唾を飲みこんだ。
「この前なんか朝ベッドで目覚めたら、枕元にキノコの胞子屋から買ったと思われる、痺れ毒やら眠り粉が大量に置いてあったんだ」
「なにそれ! やば!!」
ルーチェが思い切り吹きだしたので、エストレアはジトリとルーチェに恨みがましい視線を送った。
「笑いごとじゃないんだから。毒薬に囲まれて目覚めた私のその時の気持ち、わかる? ついにソルから、お前永遠に寝てろよって見捨てられたのかと思った」
「ソルはそんなことしないよー、面倒見いいもん」
「わかってる。だからなぜこんなことになったのか、昨夜の事情をソルに聞きにいった」
「そしたらなんて言われたの?」
ソルはエストレアの見張りなのに、なぜそんな状況になっているのに止めに入らなかったんだろう? すごく気になる。
「夜の私がどういう行動をするのか、一度なにも止めたりせずにそのまま見守ってみたんだって。そしたら毒薬をしこたま買うだけ買って満足して寝てしまって、おもしろいから危険がないように細工してそのままにしておいたって言ってた」
「んふふ、なにも起こらなくてよかったじゃん」
「夜の私って存外間抜けなのかもね。ホッとしたような残念なような、ちょっと損した気分」
「うんうん、あれは間抜けだよねえ~、わかりみが深いわ~」
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