婚約破棄されたら妖精王子に溺愛されました

兎騎かなで

文字の大きさ
19 / 41

19 昼の夜と光の大通り

しおりを挟む
 アレッタははやる心を抑えられず、早速明日外出できないかルーチェに相談してみた。

「明日? いいよー、全然おっけー! エストに会いたいのね、りょーかい!」

 ルーチェは快諾してくれた。直近すぎてあいにくユースの都合はつかなかったので、アレッタは昼過ぎにルーチェと二人で王宮を出た。

 夜と光の大通りは昼間でもなかなかの賑わいを見せている。
 前回気になったものの入らなかった店に視線が釘付けになっているのをルーチェに気づかれると、ググッと背中を押された。

「アレッタここ気になるの? じゃあ入っちゃおー」
「わわっ、えっ?」

 彼女は金のツインテールを楽しげに跳ねさせながら、アレッタを押しつつ堂々と店の中に入る。

 ちょっと強引なルーチェにより、思いがけず妖精文化にまた少し詳しくなれたアレッタだった。

 そっか、鱗粉屋は羽に施すお化粧品を売っているお店だったのね。時々カラフルな羽の妖精さんがいるなあと思っていたけど、ここでお化粧品を買ってたんだね。

 そして光苔はランプほどの明るさはないけど道標や装飾になるから、お庭に飾って楽しむものなんだ。ぼんやりした光が幻想的でいいなあ。

 いくつかの店を見てまわった後は、ルーチェがカフェに案内してくれた。

「アレッタがエストに会いたいって言ってたからさ、私エストと約束をとりつけておいたんだ。よさみなカフェ見つけといたから、そこ行こ!」
「わあ、ありがとう……って、待ち合わせしてたの!? 大変、他の店になんて寄っている場合じゃなかったわ」

 急いでカフェに駆けつけると、エストレアはテラス席に両肘をついて、体の大きさに見合わない特大サイズのパフェを空にして待っていた。
 ソルの姿は見当たらないが、ルーチェはそれが当たり前といった様子でエストレアに声をかけた。

「ごめん、待ったー?」
「うん。かなり」
「ごめんて。ここのお代は私が持つからさー、それでどう?」
「なら許す」

 気安いやりとりを経た後、アレッタの見慣れないメニューをルーチェとエストレアから指南を受けながら見ていく。

「私も頼んでしまって大丈夫なの?」
「だいじょぶ、殿下から軍資金たんまり預かってきたからね! もー殿下ちょー太っ腹だから、なんでも頼んじゃって!」

 せっかくだからと二人のオススメのパフェを食べてみることにした。食べられる花がふんだんに散らされた、真っ白で美麗なパフェだ。

 ルーチェもパフェを頼み、エストレアまでも追加でパフェを頼んだ。

「エストそんなに食べたら太るよ?」
「太らないし、太れない。毎朝起きたら死にそうなほどお腹が空いてる」
「ああ、そっかー。そんじゃ食べてよし! ちょっとだけ羨ましいな、その体質」
「じゃあ代わって」
「無理~」

 ルーチェがきししと笑うと、エストは撫然とした様子で水を一気飲みした。

「毎朝お腹が空いてるって、晩御飯は食べないの?」
「食べないというよりは食べられない。私は夜になると意識がなくなるから」
「えっ」

 アレッタは改めてエストレアを見た。右半分が黒髪、左半分が白髪で、目の色も右が黒色で左が銀色……半分だけ闇妖精の祝福を受けたってことなの?

 エストレアは忌々しそうに黒髪を一房つまみあげた。

「これのせいで光と風の国からは追いだされるし、夜は知らないうちになにかやらかしているし、本当に迷惑」
「そうだよね、エストは他の妖精の闇堕ちに巻きこまれただけだもんね。つらたん」

 ブルーな雰囲気に包まれたテーブルだったが、パフェが来ると一変してきゃあきゃあルーチェが騒ぎだす。

「やっばい、このソースキラッキラにラメっててめちゃ美味しそう! いただきまーす!」

 光の粉をまぶしたようなパフェを嬉々として食べるルーチェ。すごい……美味しいのかな。

 エストレアもふわふわのクリームまみれの白いパフェを無言でどんどん崩して口に入れていく。

 アレッタも、食べるのがもったいないくらい綺麗な花弁を一つとって食べてみた。
 砂糖をかけられ控えめに輝く桃色の花弁は思ったよりも青臭くなく、フルーティな香りがして美味しい。

「うん、おいしいね」
「どれどれ? 私にも一口ちょうだい!」

 分けあったパフェはどれも美味しくて、もしアレッタが侯爵令嬢のままであったなら絶対に経験できないような、新鮮で楽しい時間を過ごすことができた。

 パフェを食べ終えたルーチェはご機嫌で、テーブルの上にグッと両手を伸ばして猫のように背伸びをした。

「んふふー、なんか女子会みたいで楽しいね」
「まあ楽しかったけど、私女子会をしにきたつもりじゃなかった。アレッタは私に会いにきてくれたようだけど、なにか聞きたいことでもあった?」

 きっちりと二杯目のパフェを食べ終えたエストレアがスプーンを置いてアレッタの方を向いた。

「あ、その、聞いてもいいことなのかな……闇妖精の祝福のことをこの前初めて知ったから、エストレアのことが気になってしまって」

 エストレアは表情一つ動かさずに首を縦に振った。

「別にいいよ。私も治せるものなら治したいから、よかったら事情を知ってもらって一緒に考えてほしい」
「うん、わかった」

 アレッタも食べ終えたパフェを脇に避けて、居住まいを正す。

「私の体質は、昼間は自分の意識でいられるけれど、夜になると邪悪な闇妖精の意識が目覚めるようになっている」
「痛々しい言動がすんごいことになるんだよね。私もアレはどうかと思う、闇妖精ヤバい」
「ルーチェはちょっと黙ってて」
「はーい」

 痛々しい言動って? 気になったけれど話の腰を折りたくないので、そのまま黙って続きを促す。

「ソルによると邪悪な意識は目覚めていようと足掻くけれど、結局は一定時間経つと睡魔に負けて眠りこんでしまうらしいの。けれどその、一定時間の間になにをやらかしているかが問題で」

 エストレアがふぅと一呼吸置く。
 いったいどんな事件が……アレッタはごくりと唾を飲みこんだ。

「この前なんか朝ベッドで目覚めたら、枕元にキノコの胞子屋から買ったと思われる、痺れ毒やら眠り粉が大量に置いてあったんだ」
「なにそれ! やば!!」

 ルーチェが思い切り吹きだしたので、エストレアはジトリとルーチェに恨みがましい視線を送った。

「笑いごとじゃないんだから。毒薬に囲まれて目覚めた私のその時の気持ち、わかる? ついにソルから、お前永遠に寝てろよって見捨てられたのかと思った」
「ソルはそんなことしないよー、面倒見いいもん」
「わかってる。だからなぜこんなことになったのか、昨夜の事情をソルに聞きにいった」
「そしたらなんて言われたの?」

 ソルはエストレアの見張りなのに、なぜそんな状況になっているのに止めに入らなかったんだろう? すごく気になる。

「夜の私がどういう行動をするのか、一度なにも止めたりせずにそのまま見守ってみたんだって。そしたら毒薬をしこたま買うだけ買って満足して寝てしまって、おもしろいから危険がないように細工してそのままにしておいたって言ってた」
「んふふ、なにも起こらなくてよかったじゃん」
「夜の私って存外間抜けなのかもね。ホッとしたような残念なような、ちょっと損した気分」
「うんうん、あれは間抜けだよねえ~、わかりみが深いわ~」

 ルーチェが飴色の瞳を閉じて、深く相槌を打っている。
 ルーチェは夜のエストレアのこともよく知っていそうだね。闇妖精って間抜けなのかな……?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

冷遇され続けた私、悪魔公爵と結婚して社交界の花形になりました~妹と継母の陰謀は全てお見通しです~

深山きらら
恋愛
名門貴族フォンティーヌ家の長女エリアナは、継母と美しい義妹リリアーナに虐げられ、自分の価値を見失っていた。ある日、「悪魔公爵」と恐れられるアレクシス・ヴァルモントとの縁談が持ち込まれる。厄介者を押し付けたい家族の思惑により、エリアナは北の城へ嫁ぐことに。 灰色だった薔薇が、愛によって真紅に咲く物語。

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

処理中です...