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プロローグ
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もう何千年も前の話だ。俺は日本という国で産まれ生きていた、そして死んだ。
会社員として働く傍ら、趣味の時間はほぼ全てオンラインゲームに費やす。料理もろくにせず、万年睡眠不足の不摂生な生活をしていて、何歳だったか忘れたが気がついたらポックリ死んでいたらしい。
次に目が覚めたと思った時は驚いたもんだ。なにせ手足の感覚がない、体も動かせない状態で白い空間にぽつんといたものだから。
あの時の怖さは数千年経った今でも覚えている。
そんで、発狂しそうになっていた俺の目の前に白髪おかっぱの美少年が現れた。いわゆる神様だった。
「おめでとう! 東原司、君は選ばれし者だ。私の作った虚構世界を一番ディープに体験してくれた。そんな君に、ネメシアオンラインそっくりな世界で神として振るえる力を授けよう」
ええと? なんだそれ。新手のドッキリですかね?
「おや、もっと喜んでくれると思ったんだが。いいかい? 君が理解できるように噛み砕いて言うよ。君が飽きるまで私が作った世界を維持しておくから、好きなだけ生きて好きなように力を振るえばいい」
はあ、そういう設定なんですか。俺あんまり内政系とか統治系のゲームは好きじゃないんだけど……ん? そういう話、だよな?
「おや? お好みではない? いや、君は絶対そういうの好きなはずだけどな。まあ飽きたと思ったらいつでも死んで終わらせることができるし、とりあえず行っておいでよ」
神様は形のいい唇をにんまりと歪めて、酷く機嫌がよさそうだった。
「私としては、人が死ぬまでやめられないほどの面白いゲームを作れて、いたく満足しているんだ。だからそのお礼だよ」
最初から最後まで意味のわからないことを言っていたが、一言一句覚えている。
恐らく大事なことだからと俺の脳みそに記憶を刻みこんだのだろう。なにせ神様だからな、それくらい朝飯前だ。
それで俺は死ぬ寸前までやっていたゲーム、ネメシアオンラインとそっくりな世界に転生した。神様として。
神様に神様として生き返らせてもらうって、意味がわからないよな。
もう一度話したいと思って呼びかけても、あの神様は二度と俺に応えなかった。
それから俺は、本当に好き勝手に生きた。魔王をデコピン一発KOして勇者ごっこをしてみたり、国を作って王様ごっこをしてみたり、伝説の冒険者になってみたり、容姿も自由にいじれたからすげーイケメンになってみたり。
……イケメンも意外と大変なんだなって思ったよ。当時の純情な俺はちょっと女性不信になった。
いろいろ弄ってみて、最終的には元通りの地味顔に戻った。やっぱり自分の顔が落ち着くんだわ。
後は神様ごっこもしたな。というか、俺は本当に神様みたいな莫大な力を授けてもらったものだから、日照りの時に雨でも降らせて城でも建ててやれば、みんな俺のことを神様だって信じた。
……ま、本当の神様の方がよっぽどすごいけどな。俺はこの世界の中ではなんでもできるけど、この世界から出て日本に帰るなんてことはできない。
世界の法則を捻じ曲げることもできない。例えば人を生き返らせたり、人の意識を意のままに操ったりとかな。
本物の神様ってのは、もっとすごい力を持っていて、全知全能で……だけど人間のことなんて、全然理解していないもんだから。
俺はやりたい放題やって、友達や仲間もたくさんできて、そしてそいつらはみんな俺を置いて死んでいった。
寿命を延ばしてみたり、眷属化できないか試してみたりと色々やったが、みんな俺の元から去っていった。一人の例外もなく。
何度目かに一人ぼっちになった俺は、じゃあもう一人でいいやと隠居してスローライフをはじめた。
幸い、俺はこの剣と魔法のファンタジー世界が大好きだった。時々王国や魔大陸の様子を覗き見るだけでも面白かった。
性懲りもなくドラゴンと友達になったりしてさ。当初はまあ楽しくて一緒に空の散歩とかしたもんだ。
……それでも、そんな生活も次第に飽きてしまった。
死ぬのが怖いよりも、こんな明日が永遠に続くことの方が怖くなって。
そうか、じゃあもういいか。死のう。
そう思ったのが今朝のことだ。
真っ白な俺の居城の一室は、魔力で動く空調設備が完備されていていつも快適な温度に保たれている。
ふわふわ毛足のマットレスも仕入れた時はお気に入りで、劣化永続防止魔法なんてかけたものだったが。今となってはなんの感慨も湧かない。
窓の外に広がる鬱蒼と繁った森を見て、うん、やっぱりもう死のうと決意する。
未練がなにもないわけじゃないけど、俺には勇気がなかったから……だからもういいや。全部終わりにしよう。飽きたし、疲れたんだ。
心から愛しあえる人が過去に一人でもいれば、もっと気兼ねなく逝けたのかもな……そう思いながら黒く禍々しい槍を顕現させる。俺の無駄にしぶとい再生能力を断ち切るための呪槍だ。
一思いに心臓目がけてひと突きしようとした、その時。
「死んじゃダメだよお兄さん!」
ふと声の方を振り向くと、少年と青年の境にいるような小柄な姿が槍を弾き飛ばそうとタックルしてきていた。
うわ、あぶね。慌てて槍を消す。これただの人間が触ったら一瞬で消し炭になるからね?
少年はいきなり消え失せた槍に怪訝そうに眉を寄せた。キョロキョロ周りを見渡して、脅威が消えたことを確認するとガッと俺の肩を掴む。
「今お兄さん死のうとしたんでしょ? なにか辛いことがあったの? 話を聞くからいったん思いとどまってよ」
ハニーブロンドとエメラルドの瞳を持つ、光の塊みたいな少年が俺の命を長らえさせた。
この出会いが、司と少年、互いの運命を大きく変えることとなる。
会社員として働く傍ら、趣味の時間はほぼ全てオンラインゲームに費やす。料理もろくにせず、万年睡眠不足の不摂生な生活をしていて、何歳だったか忘れたが気がついたらポックリ死んでいたらしい。
次に目が覚めたと思った時は驚いたもんだ。なにせ手足の感覚がない、体も動かせない状態で白い空間にぽつんといたものだから。
あの時の怖さは数千年経った今でも覚えている。
そんで、発狂しそうになっていた俺の目の前に白髪おかっぱの美少年が現れた。いわゆる神様だった。
「おめでとう! 東原司、君は選ばれし者だ。私の作った虚構世界を一番ディープに体験してくれた。そんな君に、ネメシアオンラインそっくりな世界で神として振るえる力を授けよう」
ええと? なんだそれ。新手のドッキリですかね?
「おや、もっと喜んでくれると思ったんだが。いいかい? 君が理解できるように噛み砕いて言うよ。君が飽きるまで私が作った世界を維持しておくから、好きなだけ生きて好きなように力を振るえばいい」
はあ、そういう設定なんですか。俺あんまり内政系とか統治系のゲームは好きじゃないんだけど……ん? そういう話、だよな?
「おや? お好みではない? いや、君は絶対そういうの好きなはずだけどな。まあ飽きたと思ったらいつでも死んで終わらせることができるし、とりあえず行っておいでよ」
神様は形のいい唇をにんまりと歪めて、酷く機嫌がよさそうだった。
「私としては、人が死ぬまでやめられないほどの面白いゲームを作れて、いたく満足しているんだ。だからそのお礼だよ」
最初から最後まで意味のわからないことを言っていたが、一言一句覚えている。
恐らく大事なことだからと俺の脳みそに記憶を刻みこんだのだろう。なにせ神様だからな、それくらい朝飯前だ。
それで俺は死ぬ寸前までやっていたゲーム、ネメシアオンラインとそっくりな世界に転生した。神様として。
神様に神様として生き返らせてもらうって、意味がわからないよな。
もう一度話したいと思って呼びかけても、あの神様は二度と俺に応えなかった。
それから俺は、本当に好き勝手に生きた。魔王をデコピン一発KOして勇者ごっこをしてみたり、国を作って王様ごっこをしてみたり、伝説の冒険者になってみたり、容姿も自由にいじれたからすげーイケメンになってみたり。
……イケメンも意外と大変なんだなって思ったよ。当時の純情な俺はちょっと女性不信になった。
いろいろ弄ってみて、最終的には元通りの地味顔に戻った。やっぱり自分の顔が落ち着くんだわ。
後は神様ごっこもしたな。というか、俺は本当に神様みたいな莫大な力を授けてもらったものだから、日照りの時に雨でも降らせて城でも建ててやれば、みんな俺のことを神様だって信じた。
……ま、本当の神様の方がよっぽどすごいけどな。俺はこの世界の中ではなんでもできるけど、この世界から出て日本に帰るなんてことはできない。
世界の法則を捻じ曲げることもできない。例えば人を生き返らせたり、人の意識を意のままに操ったりとかな。
本物の神様ってのは、もっとすごい力を持っていて、全知全能で……だけど人間のことなんて、全然理解していないもんだから。
俺はやりたい放題やって、友達や仲間もたくさんできて、そしてそいつらはみんな俺を置いて死んでいった。
寿命を延ばしてみたり、眷属化できないか試してみたりと色々やったが、みんな俺の元から去っていった。一人の例外もなく。
何度目かに一人ぼっちになった俺は、じゃあもう一人でいいやと隠居してスローライフをはじめた。
幸い、俺はこの剣と魔法のファンタジー世界が大好きだった。時々王国や魔大陸の様子を覗き見るだけでも面白かった。
性懲りもなくドラゴンと友達になったりしてさ。当初はまあ楽しくて一緒に空の散歩とかしたもんだ。
……それでも、そんな生活も次第に飽きてしまった。
死ぬのが怖いよりも、こんな明日が永遠に続くことの方が怖くなって。
そうか、じゃあもういいか。死のう。
そう思ったのが今朝のことだ。
真っ白な俺の居城の一室は、魔力で動く空調設備が完備されていていつも快適な温度に保たれている。
ふわふわ毛足のマットレスも仕入れた時はお気に入りで、劣化永続防止魔法なんてかけたものだったが。今となってはなんの感慨も湧かない。
窓の外に広がる鬱蒼と繁った森を見て、うん、やっぱりもう死のうと決意する。
未練がなにもないわけじゃないけど、俺には勇気がなかったから……だからもういいや。全部終わりにしよう。飽きたし、疲れたんだ。
心から愛しあえる人が過去に一人でもいれば、もっと気兼ねなく逝けたのかもな……そう思いながら黒く禍々しい槍を顕現させる。俺の無駄にしぶとい再生能力を断ち切るための呪槍だ。
一思いに心臓目がけてひと突きしようとした、その時。
「死んじゃダメだよお兄さん!」
ふと声の方を振り向くと、少年と青年の境にいるような小柄な姿が槍を弾き飛ばそうとタックルしてきていた。
うわ、あぶね。慌てて槍を消す。これただの人間が触ったら一瞬で消し炭になるからね?
少年はいきなり消え失せた槍に怪訝そうに眉を寄せた。キョロキョロ周りを見渡して、脅威が消えたことを確認するとガッと俺の肩を掴む。
「今お兄さん死のうとしたんでしょ? なにか辛いことがあったの? 話を聞くからいったん思いとどまってよ」
ハニーブロンドとエメラルドの瞳を持つ、光の塊みたいな少年が俺の命を長らえさせた。
この出会いが、司と少年、互いの運命を大きく変えることとなる。
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