虎獣人から番になってと迫られて、怖がりの僕は今にも失神しそうです(した)

兎騎かなで

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友人の誘い

 ユウロンは静樹とタオにもお茶を淹れてくれた。お礼を言って受け取ると、彼はタオの隣にドカリと音を立てて座る。

「あっ、ありがとうございます」
「いいってことよ。こいつが不甲斐ないから、俺が代わりに保護制度について説明してやる。ああ、自己紹介がまだだったな。俺はユウロン、タオとは昔馴染みの腐れ縁で、チェンシー町自警団の小隊長だ」
「シズキ、です」

 それ以上なんと言えばいいかわからず、名前だけを口にする。ユウロンは頷いて腕を組んだ。

「シズキ、お前は最近別世界から落ちてきた人間なんだな?」
「……はい」
「人間は一般的に脆弱で死にやすい。故に見つけた者は保護するように国で推奨している」
「そう、なんですね」
「俺もシズキを助けたかったから保護したんだよ」
「話がややこしくなるからお前は黙ってろ」

 尻尾でぺしりとタオの背を叩いた狼獣人は、本題に戻る。

「人間によっては、そのーなんだ? あれるぎぃ? とか、後は性格の不一致なんかで、保護してもらった相手とどうしても合わない場合があるだろう。そういう場合は他の獣人に保護を申し出る権利があるんだ」
「あ、でも俺とシズキは上手くやってると思うよ⁉︎」
「だから、お前は黙ってろって言っただろうが」

 ガルルと唸ったユウロンは、チッと舌打ちした後話に戻った。話しているだけなのに雰囲気が怖くてビクビクしてしまう。

「それか、保護されずに自立してえって場合もあるだろう。人間は非力で無力だが、個体によっては算学や文化、芸術系などの分野で能力を開花させる者もいる。そういった場合は仕事をすることもできる」
「仕事……」

 かまどで火を起こすことすら難しそうなのに、本当に仕事なんてできるのだろうか。それとも町に行けばもっと便利なのだろうか。

 異分子であろう人間に対して権利を認めてくれるような国なら、タオの家で怯えながらお世話になるよりも、有意義な生き方ができるのかもしれない。

 静樹は元々日本にいる時、司書になるための勉強をしていた。本に囲まれて仕事ができる場所があれば願ったり叶ったりだ。

 タオが焦ったような、縋るような目で静樹を見つめてくる。彼は人間と住むのが夢だと言っていたから、静樹に出ていってほしくはないのだろう。

(僕は……どうしよう、タオの牙と爪は怖いんだけれど)

 彼自身の性格は好ましいと思う。穏やかで人当たりがいいし、静樹のために心を尽くして接してくれているのがわかる。

 せめて牙や爪のない草食動物などの獣人であれば、ここまで怖がらずにすんだのだろうか。

(タオの家にずっとお世話になるのは、ちょっと遠慮したいというか……番になるつもりはないし、心臓が保たないよね)

 静樹も年齢的に言えば大人なのだし、保護されている場合ではないのではなかろうか。自立する方向で考えるべきなのではと、ユウロンとタオの顔を見比べた。

 見るだけで恐ろしい獣人達に囲まれて、まともに仕事ができるのかと不安が過ぎる。けれどタオの家にいたって、お荷物になりそうな予感がする。

 司書的な仕事があればぜひやってみたいが、あるのだろうか……考え込んでいると、ユウロンが助け舟を出してくれた。

「町には顔を出したことはあるのか?」
「いえ……ないです」
「なら実際に町の様子を見てから、どうしたいか決めるといい。その上で保護先を変更したいなら、俺が話をつけてやる」
「ええっ、そんな!」

 ショックを受けるタオを、ユウロンは横目で眺めた。

「タオ、お前が人間好きなのは知ってるが、自分勝手な都合を押しつけるなよ。こいつの将来も考えてやれ」

 白いふかふかの腕で頭を抱えた虎獣人は、苦悶の表情で唸った。

「ううっ、そうだよね、そうなんだけど……っ、でも俺、シズキと一緒にいたいんだ!」
「はいはい、人間さんへの愛が伝わるといいな」

 ユウロンは喚くタオの肩を適当に叩いて、戸口へ赴いた。

「ああ、そうだ。大事な用件を伝え忘れていた。饅頭屋の主人が、そろそろ薪の在庫がきれそうだと言っていたぞ」
「わかった、明日納品するって伝えて」
「おう。そんじゃ、せいぜい仲良くやれよ。じゃあなタオ、シズキ」

 ユウロンは片手を上げると背を向けて去っていった。まるで嵐のような人だったなと閉まった扉を見つめていると、タオが小さな声で問いかけてくる。

「シズキも、明日は町に一緒に行く? 行きたくなければここでお留守番してていいからね。三食とお水もたっぷり用意して、一歩も外に出なくて大丈夫なようにしておくから!」

 なにやら必死なタオは、よほど静樹に出ていってほしくないのだろう。けれど静樹の答えは決まっていた。

「一緒についていかせてください。お願いします」
「うっ……! そうだよね、行こうか……」

 しゅんと肩も尻尾も落としたタオを励ましたくなったけれど、こういう時になんて声をかけていいのかわからなくて、沈黙を貫いた。
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