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第90話 大手商会の訪問者
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コウ達はオーウェン第三王子との面会を終えると、王都の甘味通りに繰り出してイッテツのお土産も購入し、暗くなる前に宿泊している『星の海亭』へと戻った。
すると、宿屋の前に見た覚えがある馬車が止まっている。
それは、『五つ星』ブランドの会長であるゴセイが乗っていたものであった。
コウ達は剣歯虎《サーベルタイガー》のベルを連れている為、どこにいても目立つから、あちらはすぐに気づいたのだろう、馬車からシルクハットに金髪が覗く紫の目をした優男が降りてきた。ゴセイ本人である。
両者ともに挨拶を交わすと、立ち話も何なので、宿屋の中に案内した。
「マウス総合商会のヨース会長。まさかとは思っていたが、展覧会事務局に来ていた面会要求を全て断ったそうだな?」
ゴセイは、室内に通されると、すぐに、この大鼠族の若者が仕事の依頼やその他の交渉事を全て断って出かけていたことに呆れる素振りで問うた。
「これはゴセイ会長。あくまで展覧会はうちの作品が素晴らしいことを証明する為の場でしたので。仕事やそのほかの交渉事には興味ありません」
ヨースは一部事実と嘘を織り交ぜながらゴセイに応じた。
証明は事実だが、仕事については、こちらが主導権を握ったものしか受けないつもりでいたし、交渉事、今回は『コウテツ』ブランドを大手の商会がそのまま自分のブランドに吸収、もしくは傘下にする為のものには一切応じるつもりはなかったから、結果的に全て断ったのである。
その中でオーウェン第三王子との面会だけは受けた形ではあるが、これは断りようがないものであったから、文句を言われることはないだろう。
「……展覧会に推薦してやったうちとの面会まで断ることはあるまい?」
ゴセイはこの大鼠族に振り回されたことに少し不満そうであった。
「それはうちが二等級の作品を展示したことで、推薦者の面目は保てたでしょう?」
ヨースはああ言えばこう言うという感じで答えた。
「……なるほど。『コウテツ』ブランドはそういう形で展開していくつもりか……。──わかった。ヨース会長、それで構わないから、うちと合作でいくつか作品を出す気はないか?」
ゴセイはヨースの狙いがわかったのか、多くを語らず合同事業を持ちかけてきた。
ヨースの本当の狙いは、製作者がドワーフであることを隠しつつ、これまで通りマイペースに良いものを市場に送り出していくことであったが、ゴセイは『コウテツ』ブランドの名を高めて、価値を上げていく戦略だと睨んだようだ。
「お断りだぜ」
ヨースは即答した。
合作ということはつまり、お互いの職人を知られることだし、製作現場を見せることにもなる。
そんなリスクはコウやイッテツの為にも犯せないし、何よりあちらの狙いは多分、今回、名前を売ることになった新進気鋭の無名ブランド『コウテツ』の職人達の把握と、できれば引き抜き、もしくはブランド自体の吸収だろうとヨースは想定していたので、即答したのである。
「……やけに警戒しているな。うちはそちらのブランドを他よりもかなり評価しているのだぞ? 他の老舗ブランドはお宅の職人を引き抜く、もしくは吸収することしか考えていない。だが、うちは対等な立場で合作商品を出して稼ごうと提案しているだけだ」
ゴセイは取り付く島がないヨースの態度を少しでも軟化させようと他のライバル達の思惑を打ち明けた。
「それは『五つ星』も変わらないだろう? 合作と言えば、聞こえはいいがうちの一流職人達の正体を明かすことになる。そっちは沢山いる職人の一部だろうから、ほとんど痛くも痒くもないだろう。それにいざ、引き抜き合戦になったらうちにはまず勝ち目がないから、お断りさ」
ヨースは良い人ぶるゴセイの魂胆はわかっているとばかりに答えた。
「確かに情報は命だ。だが、私は本当に『コウテツ』ブランドが気に入ったのさ、一人の事業者としてね。確かに最初は、三等級の戦斧を入手した時、このブランドを吸収するか、職人を引き抜きたいと思った。しかし、今は違う。うちの職人と合作したらどんな素晴らしいものが出来るのか? それが興味の対象なのさ。だから話を聞いてほしい」
ゴセイはあっさり自分の手の内を見せると、格下であるはずの『コウテツ』ブランドを扱う大鼠族の若者に頭を下げて頼み込む。
「……」
ヨースもこのゴセイの手の内を晒し、平身低頭な態度には言葉が詰まる。
コウは黙ってヨースの傍で話を聞いていたが、思わずヨースの服の裾を引っ張った。
それにすぐヨースは気づき、コウがやってみたいという意思表示だとわかった。
「……ならば、条件がある」
ヨースは少し考えると、そう告げた。
「条件? なんでもいいぞ!」
ゴセイは急にヨースが歩み寄ってきたので、表情を明るくすると、なんでも応じる姿勢を見せた。
「そちらで材料を用意してもらい、デザインの図面もそちらに任せる。つまり前段階は全てそっちだ。うちは鍛錬と仕上げを行う。それなら、引き受けよう」
ヨースの提案は職人同士を会わせない分業制であった。
「……それではうちの職人が不満に思うところだが……。仕上げの一部はうちの職人にも関わらせてくれ」
ゴセイも一流ブランドの職人達の誇りを背負っているから、仕上げ作業にも関われるように食い下がってきた。
コウは、ゴセイの職人の為に動いてくれている真剣な様子に、はじめの頃のヨースに受けた印象と同じものを感じたので、また、ヨースの服の袖を軽く引っ張って返事を送った。
「……わかった。それでいいだろう。俺達は明日の朝にはこの王都を発つから、そちらの準備が出来たら、うちの王都に登録してある住所の家に材料、デザインの図面などを届けてくれ。そこには大鼠族の誰かが必ずいるだろうから、『ヨースに届けてくれ』と伝えれば、荷物をこちらが指定するところまで届けてくれるはずだ。そちらの職人については、うちが指定する街の工房で落ち合うとしよう」
「なんだ、もう王都を発つのか? ここの宿泊費はうちが出すから、少し、滞在期間を延ばしてくれないか? そうすればデザイン等に関しても詰めた話が出来ると思うんだが?」
ゴセイはあっさり了承を得られたので軽く驚くと、早速、相談を持ち掛けてきた。
「いや、こっちには先約があってな。そっちには明日出発だと伝えているから、滞在期間は伸ばせないんだ」
ヨースは予定が詰まっていることを告げた。
これはオーウェン王子のことである。
「そうか、残念だ。それではこちらの準備が整ったら頼む。──あ、そうだ、少年。ヨース会長との契約終了後、あの従魔と共にうちで私の護衛をしないか? 報酬は弾むぞ」
ゴセイはヨースのペースで終始話が進んだので、意趣返しのつもりか最後にコウを勧誘した。
「僕はヨースの友人でもあるので、それは無理な話です。ごめんなさい」
コウはきっぱりと断ると、笑顔で謝るのであった。
「天下の『五つ星』ブランドの会長の誘いをここまで足蹴にする相手はそうそういないぞ? まあ、いい。私も目的は十分果たせたからな。契約書は材料と共に送ることにする。内容を確認したらサインをして送り返してくれ。──それでいいか?」
ゴセイは笑って愚痴を漏らすと、ヨースに伝える。
「わかった。それで頼む」
ヨースはそう言うとゴセイと握手を交わす。
ゴセイはさらにお気に入りであったコウとも握手を交わすと、宿屋をあとにするのであった。
すると、宿屋の前に見た覚えがある馬車が止まっている。
それは、『五つ星』ブランドの会長であるゴセイが乗っていたものであった。
コウ達は剣歯虎《サーベルタイガー》のベルを連れている為、どこにいても目立つから、あちらはすぐに気づいたのだろう、馬車からシルクハットに金髪が覗く紫の目をした優男が降りてきた。ゴセイ本人である。
両者ともに挨拶を交わすと、立ち話も何なので、宿屋の中に案内した。
「マウス総合商会のヨース会長。まさかとは思っていたが、展覧会事務局に来ていた面会要求を全て断ったそうだな?」
ゴセイは、室内に通されると、すぐに、この大鼠族の若者が仕事の依頼やその他の交渉事を全て断って出かけていたことに呆れる素振りで問うた。
「これはゴセイ会長。あくまで展覧会はうちの作品が素晴らしいことを証明する為の場でしたので。仕事やそのほかの交渉事には興味ありません」
ヨースは一部事実と嘘を織り交ぜながらゴセイに応じた。
証明は事実だが、仕事については、こちらが主導権を握ったものしか受けないつもりでいたし、交渉事、今回は『コウテツ』ブランドを大手の商会がそのまま自分のブランドに吸収、もしくは傘下にする為のものには一切応じるつもりはなかったから、結果的に全て断ったのである。
その中でオーウェン第三王子との面会だけは受けた形ではあるが、これは断りようがないものであったから、文句を言われることはないだろう。
「……展覧会に推薦してやったうちとの面会まで断ることはあるまい?」
ゴセイはこの大鼠族に振り回されたことに少し不満そうであった。
「それはうちが二等級の作品を展示したことで、推薦者の面目は保てたでしょう?」
ヨースはああ言えばこう言うという感じで答えた。
「……なるほど。『コウテツ』ブランドはそういう形で展開していくつもりか……。──わかった。ヨース会長、それで構わないから、うちと合作でいくつか作品を出す気はないか?」
ゴセイはヨースの狙いがわかったのか、多くを語らず合同事業を持ちかけてきた。
ヨースの本当の狙いは、製作者がドワーフであることを隠しつつ、これまで通りマイペースに良いものを市場に送り出していくことであったが、ゴセイは『コウテツ』ブランドの名を高めて、価値を上げていく戦略だと睨んだようだ。
「お断りだぜ」
ヨースは即答した。
合作ということはつまり、お互いの職人を知られることだし、製作現場を見せることにもなる。
そんなリスクはコウやイッテツの為にも犯せないし、何よりあちらの狙いは多分、今回、名前を売ることになった新進気鋭の無名ブランド『コウテツ』の職人達の把握と、できれば引き抜き、もしくはブランド自体の吸収だろうとヨースは想定していたので、即答したのである。
「……やけに警戒しているな。うちはそちらのブランドを他よりもかなり評価しているのだぞ? 他の老舗ブランドはお宅の職人を引き抜く、もしくは吸収することしか考えていない。だが、うちは対等な立場で合作商品を出して稼ごうと提案しているだけだ」
ゴセイは取り付く島がないヨースの態度を少しでも軟化させようと他のライバル達の思惑を打ち明けた。
「それは『五つ星』も変わらないだろう? 合作と言えば、聞こえはいいがうちの一流職人達の正体を明かすことになる。そっちは沢山いる職人の一部だろうから、ほとんど痛くも痒くもないだろう。それにいざ、引き抜き合戦になったらうちにはまず勝ち目がないから、お断りさ」
ヨースは良い人ぶるゴセイの魂胆はわかっているとばかりに答えた。
「確かに情報は命だ。だが、私は本当に『コウテツ』ブランドが気に入ったのさ、一人の事業者としてね。確かに最初は、三等級の戦斧を入手した時、このブランドを吸収するか、職人を引き抜きたいと思った。しかし、今は違う。うちの職人と合作したらどんな素晴らしいものが出来るのか? それが興味の対象なのさ。だから話を聞いてほしい」
ゴセイはあっさり自分の手の内を見せると、格下であるはずの『コウテツ』ブランドを扱う大鼠族の若者に頭を下げて頼み込む。
「……」
ヨースもこのゴセイの手の内を晒し、平身低頭な態度には言葉が詰まる。
コウは黙ってヨースの傍で話を聞いていたが、思わずヨースの服の裾を引っ張った。
それにすぐヨースは気づき、コウがやってみたいという意思表示だとわかった。
「……ならば、条件がある」
ヨースは少し考えると、そう告げた。
「条件? なんでもいいぞ!」
ゴセイは急にヨースが歩み寄ってきたので、表情を明るくすると、なんでも応じる姿勢を見せた。
「そちらで材料を用意してもらい、デザインの図面もそちらに任せる。つまり前段階は全てそっちだ。うちは鍛錬と仕上げを行う。それなら、引き受けよう」
ヨースの提案は職人同士を会わせない分業制であった。
「……それではうちの職人が不満に思うところだが……。仕上げの一部はうちの職人にも関わらせてくれ」
ゴセイも一流ブランドの職人達の誇りを背負っているから、仕上げ作業にも関われるように食い下がってきた。
コウは、ゴセイの職人の為に動いてくれている真剣な様子に、はじめの頃のヨースに受けた印象と同じものを感じたので、また、ヨースの服の袖を軽く引っ張って返事を送った。
「……わかった。それでいいだろう。俺達は明日の朝にはこの王都を発つから、そちらの準備が出来たら、うちの王都に登録してある住所の家に材料、デザインの図面などを届けてくれ。そこには大鼠族の誰かが必ずいるだろうから、『ヨースに届けてくれ』と伝えれば、荷物をこちらが指定するところまで届けてくれるはずだ。そちらの職人については、うちが指定する街の工房で落ち合うとしよう」
「なんだ、もう王都を発つのか? ここの宿泊費はうちが出すから、少し、滞在期間を延ばしてくれないか? そうすればデザイン等に関しても詰めた話が出来ると思うんだが?」
ゴセイはあっさり了承を得られたので軽く驚くと、早速、相談を持ち掛けてきた。
「いや、こっちには先約があってな。そっちには明日出発だと伝えているから、滞在期間は伸ばせないんだ」
ヨースは予定が詰まっていることを告げた。
これはオーウェン王子のことである。
「そうか、残念だ。それではこちらの準備が整ったら頼む。──あ、そうだ、少年。ヨース会長との契約終了後、あの従魔と共にうちで私の護衛をしないか? 報酬は弾むぞ」
ゴセイはヨースのペースで終始話が進んだので、意趣返しのつもりか最後にコウを勧誘した。
「僕はヨースの友人でもあるので、それは無理な話です。ごめんなさい」
コウはきっぱりと断ると、笑顔で謝るのであった。
「天下の『五つ星』ブランドの会長の誘いをここまで足蹴にする相手はそうそういないぞ? まあ、いい。私も目的は十分果たせたからな。契約書は材料と共に送ることにする。内容を確認したらサインをして送り返してくれ。──それでいいか?」
ゴセイは笑って愚痴を漏らすと、ヨースに伝える。
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