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古いソファーで
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態度が悪い割に礼を用意するなんて、変な奴だなと思った。耐えきれずに口元を隠して密かにニヤけていると、目敏く気付いた朝田にギロリと睨まれる。
「何で笑ってるんですか?!」
「いや、別に。嬉しいなと思っただけ」
「ウソ!また人のことバカにしてるんでしょ」
「バカになんてしたことないだろ」
「本当に嬉しいよ」と改めて礼を言うと、素直な気持ちがやっと伝わったのか、朝田は「別に。こちらこそいつもありがとうございます」と少し照れた様に応えてくれた。
「あ、散らかってるけど適当に座ってて。コーヒー淹れるわ」
「いえ、本当にお構いなく!突然押し掛けてごめんなさい。もう帰りますね」
「何でだよ。何か用事あんの?」
「無いですけど…」
「じゃあいいだろ。後で外に昼飯食いに行こう」
まだ小さく抵抗をする身体を強引にソファーに座らせて、キッチンでお湯を沸かした。最近知り合いに貰ったドリップコーヒーは、少し酸味が強いけれどとても良い香りがした。なにかお茶請けはないかと探してみたけれど、生憎とこの部屋にはそんな気の利いたものは無かった。湯が沸くのをボンヤリと待ちながら、ふとリビングに目を遣ると、長年愛用している草臥れたソファーで、朝田が全身で緊張しながら固まっている。ピクリとも動かず、膝の上で両手を握り締め、真っ赤な顔で、視線だけがキョロキョロと忙しない。
その様子が余りにも面白くてつい笑いそうになったけれど、またご機嫌を損ねてしまうとマズイので、出来るだけ優しく声を掛けた。
「なあ。そういえばさ、昨日の広田と飲んだんでしょ?」
「えっ?!あ、ハイ…」
「楽しかった?」
「ハイ…。あの、広田さんと、その、うちの課の春日井くんって分かりますか?」
「うん、知ってる」
「彼も一緒に行ったんです。楽しかったです」
「…ふーん」
どうやら春日井のことを隠すつもりは無いようだ。ただ、約束を断られた上に他の男と連れ添って行く姿を見てしまったこちらとしては、やはり気分は良くない。もう少し突っ込んで聞いても引かれないだろうか。付き合ってもない癖に、俺に彼女の交友関係に口を出す権利はない。無言の空間に不安を覚えたのか、朝田はやっと顔を上げてこちらを見ている。申し訳無さそうな、泣き出しそうな表情で。
「ご、ごめんなさい。あの、私、春日井くんに…」
聞きたくない。
その瞬間、本能的に身体が動いて、気付いた時には彼女をソファーに押し倒していた。
「何で笑ってるんですか?!」
「いや、別に。嬉しいなと思っただけ」
「ウソ!また人のことバカにしてるんでしょ」
「バカになんてしたことないだろ」
「本当に嬉しいよ」と改めて礼を言うと、素直な気持ちがやっと伝わったのか、朝田は「別に。こちらこそいつもありがとうございます」と少し照れた様に応えてくれた。
「あ、散らかってるけど適当に座ってて。コーヒー淹れるわ」
「いえ、本当にお構いなく!突然押し掛けてごめんなさい。もう帰りますね」
「何でだよ。何か用事あんの?」
「無いですけど…」
「じゃあいいだろ。後で外に昼飯食いに行こう」
まだ小さく抵抗をする身体を強引にソファーに座らせて、キッチンでお湯を沸かした。最近知り合いに貰ったドリップコーヒーは、少し酸味が強いけれどとても良い香りがした。なにかお茶請けはないかと探してみたけれど、生憎とこの部屋にはそんな気の利いたものは無かった。湯が沸くのをボンヤリと待ちながら、ふとリビングに目を遣ると、長年愛用している草臥れたソファーで、朝田が全身で緊張しながら固まっている。ピクリとも動かず、膝の上で両手を握り締め、真っ赤な顔で、視線だけがキョロキョロと忙しない。
その様子が余りにも面白くてつい笑いそうになったけれど、またご機嫌を損ねてしまうとマズイので、出来るだけ優しく声を掛けた。
「なあ。そういえばさ、昨日の広田と飲んだんでしょ?」
「えっ?!あ、ハイ…」
「楽しかった?」
「ハイ…。あの、広田さんと、その、うちの課の春日井くんって分かりますか?」
「うん、知ってる」
「彼も一緒に行ったんです。楽しかったです」
「…ふーん」
どうやら春日井のことを隠すつもりは無いようだ。ただ、約束を断られた上に他の男と連れ添って行く姿を見てしまったこちらとしては、やはり気分は良くない。もう少し突っ込んで聞いても引かれないだろうか。付き合ってもない癖に、俺に彼女の交友関係に口を出す権利はない。無言の空間に不安を覚えたのか、朝田はやっと顔を上げてこちらを見ている。申し訳無さそうな、泣き出しそうな表情で。
「ご、ごめんなさい。あの、私、春日井くんに…」
聞きたくない。
その瞬間、本能的に身体が動いて、気付いた時には彼女をソファーに押し倒していた。
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