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傷ついて
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伊織は何も言えなかった。
沖田の言葉が、胸の奥に刺さったまま抜けない。
――俺の玩具になって。
あんなふうに、軽く。
冗談みたいに。
それでも、拒めなかった。
秘密を握られているから。
ただ、それだけの理由で。
そう思っているはずなのに。
伊織は頭を下げると、沖田の部屋を出た。
襖が閉まる。
廊下の空気が、急に冷たく感じた。
足がうまく進まない。
胸の奥が、きしむ。
(玩具……)
その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
自分から言ったはずだ。
――何をすればいいんですか、と。
覚悟していた。
女だと知られた以上、何かを要求されるだろうと。
それでも新選組にいなければならないから。
それなのに。
涙が、こぼれた。
「……ばか」
小さく呟く。
どうして、こんなに痛いのだろう。
利用されることくらい、わかっていたはずなのに。
伊織は廊下の柱に手をついた。
胸が苦しい。
(どうして……)
沖田の顔が浮かぶ。
さっきの笑顔。
楽しそうな声。
――これから退屈しなさそうだ。
「……ひどい人」
そう言ったのに、声は震えていた。
嫌いになればいいのに。
玩具だなんて言う男のこと。
それなのに。
胸の奥に残っているのは、怒りだけじゃない。
さっき触れた手。
抱き寄せられた腕。
あの温度が、まだ残っている。
伊織は唇を噛んだ。
(だめ)
そんなことを考えてはいけない。
自分はここに、別の理由でいる。
恋人の仇を討つために。
そのためだけに、新選組に入った。
それなのに。
「……なんで」
沖田のそばにいたい、なんて思うのだろう。
玩具だと言われても。
利用されているだけだとしても。
それでも――
あの人の隣にいられるなら、と。
そんな自分が、どうしようもなく嫌だった。
伊織は目を閉じる。
涙が頬を伝う。
「……ばかだ」
本当に、ばかだ。
でも。
それでも。
心の奥で、どうしても消えない願いがあった。
(それでも……)
沖田のそばにいたい。
その気持ちだけが、消えてくれなかった。
沖田の言葉が、胸の奥に刺さったまま抜けない。
――俺の玩具になって。
あんなふうに、軽く。
冗談みたいに。
それでも、拒めなかった。
秘密を握られているから。
ただ、それだけの理由で。
そう思っているはずなのに。
伊織は頭を下げると、沖田の部屋を出た。
襖が閉まる。
廊下の空気が、急に冷たく感じた。
足がうまく進まない。
胸の奥が、きしむ。
(玩具……)
その言葉が何度も頭の中で繰り返される。
自分から言ったはずだ。
――何をすればいいんですか、と。
覚悟していた。
女だと知られた以上、何かを要求されるだろうと。
それでも新選組にいなければならないから。
それなのに。
涙が、こぼれた。
「……ばか」
小さく呟く。
どうして、こんなに痛いのだろう。
利用されることくらい、わかっていたはずなのに。
伊織は廊下の柱に手をついた。
胸が苦しい。
(どうして……)
沖田の顔が浮かぶ。
さっきの笑顔。
楽しそうな声。
――これから退屈しなさそうだ。
「……ひどい人」
そう言ったのに、声は震えていた。
嫌いになればいいのに。
玩具だなんて言う男のこと。
それなのに。
胸の奥に残っているのは、怒りだけじゃない。
さっき触れた手。
抱き寄せられた腕。
あの温度が、まだ残っている。
伊織は唇を噛んだ。
(だめ)
そんなことを考えてはいけない。
自分はここに、別の理由でいる。
恋人の仇を討つために。
そのためだけに、新選組に入った。
それなのに。
「……なんで」
沖田のそばにいたい、なんて思うのだろう。
玩具だと言われても。
利用されているだけだとしても。
それでも――
あの人の隣にいられるなら、と。
そんな自分が、どうしようもなく嫌だった。
伊織は目を閉じる。
涙が頬を伝う。
「……ばかだ」
本当に、ばかだ。
でも。
それでも。
心の奥で、どうしても消えない願いがあった。
(それでも……)
沖田のそばにいたい。
その気持ちだけが、消えてくれなかった。
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