咲かない桜

御伽 白

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2.5章

Part 112『見るべきものは』

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 「・・・・・・振られたなぁ・・・」

 未だに山のベンチで背もたれに体を預けて空を眺める。こんな気分だというのに御構い無しにそれはキラキラと輝いていて、今ばかりは恨めしい。

 人生初の失恋を経験した気分は、はっきり言って最悪だった。なんというか、とんでもなく無気力で何をする気も起きない。

 冷静になってみれば、ヒントはいくらでもあった。最初から頭の働く人なら分かっていた事かもしれない。

 「いや、俺が鈍感だったんだよな・・・普通に考えて・・・」

 思えば、あの時のコンの遊園地でのリアクションは知っていたからだったのだ。

 記憶が消える。それは、どういう感覚なのだろうか。全て一切合切を失うという事だろう。

 俺達の出会いも今日の日の出来事も全ては花が咲く頃になくなってしまう。なかった事になってしまう。

 彼らにとっては思い出は燃料と同じで消耗品なのかもしれない。

 「そんなのって・・・ありなのかよ・・・」

 俺はサクヤの事が好きだ。それに関して嘘偽りなんて微塵もない。だけど、俺は、毎年、記憶を失い続ける彼女を好きでい続ける事が出来るのだろうか・・・

 今のサクヤは、数十年の記憶が作り出したサクヤで・・・記憶が何もない状態のサクヤは本当に俺が知っているサクヤなのか・・・

 「哲学者にでもなった気分だ・・・」

 そう呟いているとポケットに入れていたスマホに震えるのを感じた。確認すると凛からのメッセージが送られてきていたようだった。

 携帯を開いて確認すると『どうだった? 上手くいった?』と送られてきていた。

 「・・・・・・どうしようか・・・」

 なんと返信するべきかをしばらく考えていると今度は、スマホに着信がかかってきた。勿論、相手は凛からである。

 今は出る気分ではなかったけれど、心配をかける訳にもいかず電話に出る。すると、すぐに電話の向こうから「何かあった?」と凛の声が聞こえた。

 「いや、大したことは・・・・・・」

 「・・・・・・今どこにいる?」

 「え? 山だけど・・・」

 「・・・・・・身投げするのは、まだ早い・・・」

 「いや、そこまでは追い詰められてないよ!? さすがに・・・」

 相変わらずぶっとんだ思考をしている。まあ、たしかにもう夜中でこんな時間に山で一人でいるなら不安に思われても仕方ないけれど・・・

 「何かあった? 話してほしい。じゃないと・・・・・・」

 「・・・じゃないと?」

 「探しに行く」

 「分かりました・・・なんで絶対に来ないでください。」

 流石に今の気持ちで迷子になった柏木さんを捜索する気力はない。きっぱりとそう言うと「それはそれで傷つく・・・」と少し元気がない声で呟いた。

 「・・・・・・実はーーー」

 俺は、凛に自分が告白した事、断られた事、サクヤが言わなかった秘密について説明した。話せば話すほど、なんだか虚しさが胸を締め付ける。

 「何をそんな所でうじうじやってるの?」

 俺の話を聞いた凛は、開口一番、俺に言った。その声は、優しさなんてあまり感じられなくて少し怒っているように感じた。

 「え、あの・・・凛?」

 「なんで日向は、そんな先の事にばっかり考えてるの? 日向が向き合わないといけないのは、そんな先のサクヤじゃない。今、泣いて去っていったサクヤなんじゃないの?」

 そう言われて俺は、頭に冷水をかけられたような気持ちだった。

 「日向は、好きな女の子の最後の思い出をこんな悲しいままで終わらせられるような男だった?」

 「・・・・・・ありがとう。凛、おかげでやるべき事わかった。」

 そう。何も変わらない。サクヤは泣いていた。一緒にはいれないと・・・それは、一緒に居たいからこその言葉だ。

 彼女との恋が大変だなんて最初から分かってたはずなのに・・・

 俺は立ち上がって山に向かって駆け出した。

 「うん。それじゃあね。」そう言って凛は、電話を切った。本当にいい友人をもった。心底そう思った。
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