咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
121 / 352
3章

Part 121『意外な立場』

しおりを挟む
 街に入るのに何か許可がいるのかと思ったが、そんな事はなく、門をくぐるとすぐに賑やかな妖怪達の声が聞こえる。

 まさに百鬼夜行という風で、一つ目の人型の妖怪や髪の毛がいくつもの枝になっている女性、首や手足が二つ存在する妖怪など見渡す限りの魑魅魍魎である。むしろ、まともな人間の姿は全く見つけられない。

 人型の存在はいるが耳が生えていたり、尻尾があったり、不自然にパーツが多かったりと少し違う。

 街は随分と活気づいているようで、時代を感じる木造の店には、暖かな光を放つ提灯が吊り下げられている。

 しかし、一見すれば時代劇を思わせる街であるのに辺りにちらほらと進んだ文明の気配が見え隠れしている。

 明らかに電気を使用して使われているであろうテレビやレジのようなものすら店の中で見える。店の中の灯りも明らかに電気を使用するものである。

 なんなら、俺達の世界にあったものまで存在しているのがわかる。明らかに見知った企業のメーカーのロゴが入った機器、さらには、路地裏には、明らかにその辺りを走っていそうな日本車が停車してあるほどだ。

 「なんというか、やけに技術の進歩しているんだな。」

 「まあ、科学に関しては、人間界から調達してきて技術を学んでこの世界にあった形で活かしているので少し不思議な光景かもしれないですね。とはいえ、私も久々にここに来たので、様変わりしていて驚きましたけどね。」

 真冬さんも数十年ぶりの帰省ということで様変わりした街の様子に少なからず驚いているようだった。

 サクヤはというと辺り一面珍しいもののオンパレードで好奇心の塊である彼女が暴走しない訳がなかった。

 「なんですか! この時計! 30時までありますよ!」

 「ん? 何言ってるんだ? お嬢さん。30時間の時計なんて珍しくもないでしょう?」

 どうやら雑貨屋にある商品が気になってサクヤは声をかけたようだが、店主の方は、なぜ気になっているのかわからずに訝しんでいた。

 「こちらの世界の1日は30時間なんですよ。そう言えば説明が忘れていました。今は、ちなみに20時、普通に夕方ですね。」

 「え? でも、真っ暗ですけど・・・」

 「日照時間も基本的に短いんですよこの世界、まともに太陽が出ているのなんて、5時間ぐらいですかね。そうは言っても薄暗い程度で少し明るいんですけどね。」

 なんとも異世界らしい話ではある。常識が全く違うというのは異世界の醍醐味というものだ。しかし、5時間しか日が照らないというのは大変そうだ。洗濯物とかは乾くのだろうか。

 「いや、発想が庶民的すぎるな・・・」

 「凄いですよ! 峰さん! 見たこともないお魚があります!」

 とんでもなく楽しそうな笑顔を浮かべながら俺の腕を引くサクヤにいうのは少し気が引けたが先にやるべきことがある。

 「はいはい。俺も気になるけどさ。とりあえず、真冬さんの家に行くぞ。後で見て回る時間ぐらいはあるだろうし」

 そういうとサクヤはハッとした表情を浮かべて「それもそうですね。先に真冬さんの用事が先でした。」と冷静さを取り戻す。

 「そうですね。とりあえず、荷物を置いてから観光しましょうか。私の家もすぐそこですし・・・」

 「そう言えば、真冬さんの家ってどんな感じなんですか?」

 「どんな感じ・・・普通の家ですよ。ちょっと、大きいぐらいで・・・」

 そう言いながら店が立ち並ぶ通りとは少し離れた道をゆっくりと歩いて行く。そして、数分歩いて真冬さんは、俺達に向かって「着きました。ここが私の家ですよ。」と紹介してくれる。

 目の前にあるのは、木製のいかにも頑丈そうな門そして、左右視線の届く先まで続く長く白い壁がそこにはあった。

 ちょっと大きいというには随分と大きすぎる。マンションとかを建てて全員分の駐車場まで用意できそうなほどに広い建物にかなり物怖じしてしまう。

 しかし、当の本人は、全く不思議に思っていないようで、門の前に立っているおそらく門番に声をかける。

 「真冬お嬢様ですか!? お久しぶりです!」

 「お久しぶりですね。健康そうでなによりです。」

 「いえいえ、真冬お嬢さまこそ、お元気そうで何よりです。」

 軽い世間話をしてから、門番は、ゆっくりと門を開き、「どうぞお入りください」と頭を下げた。

 「峰さん、今、お嬢様って・・・」

 サクヤも流石に驚いたのか、困惑した表情を浮かべて俺に確認してくる。

 「ああ、確かに言ったな。お嬢様って・・・もしかして、真冬さんって」

 「超が付くぐらいのお嬢さまなんですか・・・?」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...