咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
173 / 352
3章

Part 172『砂の拘束』

しおりを挟む
 全ての感情を持つ存在は魔法を使うことができる。それは、魔法を起こす事に思い出という燃料を消費するからである。

 そして、妖怪達は、人間と違い魔法を多く使う傾向がある。それは、発動する能力が高いというのもあるが、より大きな意味では、妖怪達は、人間よりも圧倒的に寿命が長いからである。

 燃料とするだけの記憶が多ければ、使ったとしてもデメリットが小さくなっていくのは明白である。

 そのため、妖怪同士の戦いが魔法戦になる事は珍しくない。しかし、全ての妖怪が魔法を行使するかと言われれば、それは、ノーである。

 魔法を使うには、燃料となる記憶を必要とする。しかし、その変換効率、つまり、消費する記憶に対しての現象の大きさは、個人によって異なる。

 故に魔法戦の優位とは、その変換効率の良さ、そして、得意とする魔法の系統に大きく左右される。

 魔女であるリューやツララは、魔法全てに対して他の妖怪よりも破格の変換効率の高さを有している。そうでなければ、あれだけ、様々な種類の魔法を使っていれば、すぐにはガス欠になってしまう。

 そして、キズキの得意とする魔法は、砂を操る魔法であり、その変換効率に関しては、中の上といったレベルである。

 変換効率は使えば使うほどに同系統の魔法であれば、効率は上がっていく。つまりは、成長するのだが、強くなるまでの間に記憶を全て失っていては元も子もないため、全く、魔法に適性がない存在は、魔法を使う事はほとんどない。

 キズキも自分自身が魔法を使って戦うのに向いていない事はすぐに分かっていたため、定期的に軽く練習するだけに留めていた。

 しかし、今は、実力差を埋めるためどんな手段でも戦うべきだとキズキは判断した。

 「魔法は苦手だ。俺は使わない。けどな。このレベルなら負ける訳はない。」

 襲いかかる砂の棘を避け、あるいは破壊し狼の妖怪はキズキの攻撃を一切受けていなかった。

 武器を失っていたキズキは、魔法によって作り出した砂の大剣を握っている。その砂は、固まり岩の様に硬くなっていた。

 そして、大剣を魔法によって誘導し、叩き下ろした。超重量の大剣は、しかし、妖怪を潰す事は出来ない。

 「甘いんだよ。」

 その瞬間、大剣は、妖怪の拳によって破壊された。そして、そのまま、妖怪は、イズキの懐に向かって凄まじ速さで攻撃を仕掛けてくる。

 一撃をもらえば、大ダメージは間違いない。拳はキズキに向かってふるわれた。

 しかし、すぐに妖怪は自分が嵌められたことに気づいた。

 魔法で作った武器、しかも、それが砂であれば、壊したところですぐに再生する。いや、違う。それだけではない。別の形状にもする事が出来る。

 妖怪の拳がキズキの体に接触するよりも早く、棍棒の形状を再構成した砂の武器が妖怪の体を捉えた。

 確その衝撃に妖怪は数メートル先へ飛んでいく。確実なクリーンヒット、しかし、手を休めてはいけない。この程度で倒れる輩ならそもそも、もっとうまくやっている。

 すぐに距離を詰め倒れる妖怪に先ほどの砂を巨大な金槌に変化させて叩きつける。それを何度も休む事なく繰り返す。地面が砕け凹み、どんどんと地表よりも深くなる。それでもキズキは止める事なく攻撃を続ける。

 並みの妖怪であれば、数回は死んでいる。

 「いてぇ、いてぇ、なぁ・・・・・・」

 叩きつけている地面の下から苛立った声が聞こえてくる。

 (まだ、生きているのか・・・・・・)

 その事実にキズキは動揺する。想像していた以上にしぶとい敵だ。

 そして、キズキは確信した。自分ではこの妖怪にトドメを刺すことは不可能だということに。

 キズキは、金槌の動きを振るうのを止めた。

 「あ? 満足したのか? なら、こっちから、いくぞ。」

 金槌の下から声が聞こえる。明らかに相手は生きている。そして、すぐに砂の金槌は砕かれ、妖怪は、姿を現した。

 「なんだ。諦めたのか?」

 「・・・・・・」

 キズキは、答えない。もう、その必要がない。確かにタフな相手ではあるが、もうどうすることも出来ない。砂使いを相手にここまで地面と触れ合ってしまった時点でキズキの勝利は揺るがない。

 「ん?」

 反応がないキズキを訝しむ妖怪は、次に自分の体に目を向けた。足が地面に埋まっている。

 それどころかゆっくりと地中に引き込まれている様ですらある。

 妖怪はすぐに抵抗する。しかし、思うように体が動かない。

 「なんだ。これ・・・・・・」

 妖怪は、自分の体に大量の砂が付着していることに気がついた。それは、まるで身体中を覆うように広がっており、腕をふるっても取れる気配がない。

 そして、地面から登ってくる砂によって次第に腕の可動域が狭まっていく。まるで、体を石像にでも変えられている様な現象である。

 「なるほどな。こりゃあ、抵抗出来ないな。体が動かせなきゃ力が出せねぇよ。」

 それは、単純な事である。体は、力を出すために体を動かしている。例えば電話ボックス程度の隙間で全力のタックルが出来るだろうか。不可能である。力というのはより強い力を出すために、助走を付けたり、体に反動を加えたりとする事によって大きな力を出すことが出来る。

 全身の動き、体を曲げることすら許されない状況下でどれだけの力が発揮出来るだろうか。

 砂は、妖怪の体をほとんど飲み込み、地中に埋めた。魔法によって硬化させられた砂は、妖怪に指の一本すら動かすことを許さない。

 次第に妖怪の全身を飲み込み完全に身動きを取れなくさせるだろう。

 だと言うのに妖怪は笑っていた。自分の不利を喜ぶ様に「ああ、やっぱり、一筋縄じゃいかねぇな。」と呟いた。

 魔法でも使うつもりかとキズキは身構える。しかし、この妖怪は、先程から魔法を使う形跡はほとんどなかった。

 「安心しろよ。言ったろ魔法は苦手なんだ。だから、この勝負、お前の勝ちでいいぜ。勝負は負けだ。」

 妖怪はそう言って笑った。そして、呟く様にこう続けた。

 「勝負はな。・・・・・・『禍神まがつかみ』」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

処理中です...