咲かない桜

御伽 白

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3章

Part 190 『敗北の鬼』

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 ***

 「いつまでいじけてんだ。毒はもう抜けたんだろ。」

 マコトが呆れたように私にそう尋ねてくる。私は、二人組の妖怪の男女に負けた。妖刀による麻痺は、いくら身体性能が高い鬼であっても生半ではないらしい。体はまともにいうことをきかなかった。

 しかし、どうやら、毒自体は数時間で切れるようで体は自由に動くようになった。

 満身創痍の私達を残しての捜索は不可能と判断し部隊は撤退。

 みすみす、日向さんを誘拐され、捕まえた犯人のうち二人は、いつの間にか逃亡し、マコトが戦っていた妖怪だけを連れて帰ってきた。

 言ってみれば大失態だ。

 「・・・・・・抜けてません。ていうか、今、話しかけないでください」

 「・・・・・・ゲームをしながら言われてもな・・・・・・」

 そして、私は、家に帰ってきてすぐに自分の部屋に行き、気を紛らわすように携帯ゲーム機をプレイしていた。

 「・・・・・・今回は、奇襲だと慢心してた事と相手の目的が分かってなかった事だ。挽回できる。」

 「そうですね。日向さんが生きてればですけど」

 「それに関しては、今のところは大丈夫だろ。連れ帰って殺したんじゃ、意味がない。」

 人質にして身代金を要求するにしても何かしらに利用するにしても、人質は生きているから意味がある。

 ゲームのボスを倒して私はふと手を止めます。

 村人が魔王に勝てない様に鬼は他でも群を抜いて強い。けれど、私は負けました。格下の相手に・・・・・・

 「格下に負けるなんて、ありえません。」

 「あのなぁ、技術で補える部分はある。格下だと侮って戦った時点でお前の落ち度だ。」

 「慰めたいのか、貶したいのか、どっちなんですか。」

 「・・・・・・慰めようとは思ってたが、正直、腹たってきた。」

 マコトは正直、フォローが下手です。基本的に気が利かないので、おそらく、私のフォローに関しては、お姉ちゃんが指示したのでしょう。

 「努力してないお前が負けて悔しがるなんてのは、正直、微塵も理解できない。悔しがるのは頑張った奴の権利だ。」

 「あーはいはい。そうですね。私が悪いですね。」

 実際、その言葉は正論でけど、だからこそ、あまり私の心には響きません。

 「だって無駄じゃないですか。どれだけ頑張っても最後に物言うのは身体能力です。技術は長い時間を生きれる私達なら、いつか極められる。けど、身体能力は違うじゃないですか。」

 「だから努力は無駄だって言いたいのか?」

 その声に怒気が含まれている事に気付いて私は、顔を上げてマコトを見ます。

 殴られるかと思いましたが、けれど、すぐにマコトは溜息を吐きました。

 「・・・・・・確かにな。真冬さんを見てたら俺もそう思う時がある。今でも半端じゃないほどに強い。真冬さんが戦闘技術に関して努力したらどうなるんだろうってな。けど、それは、俺が弱くなってる訳じゃない。」

 「負けるの分かってて頑張るなんて馬鹿みたいじゃないですか。」

 「けど、努力しなけりゃ、どうやったって勝てないんだぞ。」

 「そんな宝くじは買わないと当たらないみたいな事言われても・・・・・・」

 「同じだ。不可能ってのは、やってみてから分かるもんだ。それだけやって無理なら諦めもつく。諦めて別の勝てることを探す。まあ、俺は戦うぐらいしか能がないからな。他の分野はからっきしだが、お前は違うだろ。色んな才能があって誰よりも上達が早い。正直、俺は、お前の方が羨ましかった」

 マコトにそう言われて私は驚きました。マコトは、他人を羨やむようなタイプではないと思っていました。

 「昔は、全力で努力してもお前に何をやっても勝てなかった。俺がまともに勝負になったのは、戦闘だけだった。だから、俺は、戦いに関しては他よりも努力したつもりだ。俺は、お前や真冬さんが羨ましかった。けど、だからこそ、負けたくはなかった。お前達が一時間努力するなら俺は一日努力する。それぐらいの気概でやってきた。」

 昔は、マコトと色々な勝負をしていました。その度に私は圧勝していました。手を抜けない子供だったのです。

 そして、唯一、いい勝負になったのは、戦闘に関する勝負でした。

 結果だけ見れば、私の圧勝ですが、それなりに苦戦させられました。そういえば、その結果にマコトはやたらと嬉しそうな顔をしていた気がします。

 そんな些細な事でと思いましたが、本人にとっては自信になったのかもしれません。結果的にそれで、ここまで強くなるために努力をしているのですから、本物です。

 「まあ、二人とも戦闘に関しては、ほとんど努力しなくなったがな」と再び大きな溜息を吐いてマコトはそういった。

 お姉ちゃんは、好きな人に会いに行くと言って家を出て生き、私もそれと同じように努力をやめてしまった。

 マコトにとっては、意外と拍子抜けだったのかもしれません。

 「今回の勝負の敗因は分かってます。相手の武器を警戒せずに挑発に乗ってしまった自分の落ち度です。」

 今回の勝負、負けて恥ずかしいと思ってはいても悔しいとは思いませんでした。

 いえ、悔しいと思えませんでした。悔しいと思えるほどに私は努力はしてきませんでした。

 ですから、敗北は受け入れます。ただ、もう二度と同じミスはしません。

 「・・・・・・勝てない努力は無駄ですけど、努力すれば勝てた勝負に負けるのは、嫌です。」

 努力は必要だと思いました。負けたい訳ではないのです。そりゃあ、出来る事なら勝ちたいです。

 「じゃあ、俺が稽古つけてやろうか。」

 「いえ、今はゲームしてるんでいいです。」

 「・・・・・・」

 露骨に呆れた表情を浮かべるマコトは正直、少し面白かったです。けれど、それはそれ、これはこれ。

 「ちゃんと練習はします。けど、趣味は継続します。生き甲斐なので」

 私がそう言うとマコトは、拍子抜けしたように「なんだ。落ち込んでないじゃないか。」と呟いた。

 「恥ずかしい失態で正直、しばらく一人にしてほしいですけど、負けた事に関しては納得してます。ただ・・・・・・」

 そう。部屋に籠っているのには、もう一つの理由があります。

 「・・・・・・どんな顔してサクヤさんに会えばいいんですか・・・・・・」

 私は、憂鬱な気分になりながら、これからどうしようかと思案するのでした。
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