288 / 352
4章
Part 287『報われない』
しおりを挟む
俺は、乱丸に事情を説明した。乱丸は、終始呆れた表情を浮かべながら、俺の話を聞いていた。
「なるほど、まあ、好きな女のために急いでるってのは、分かった。ただ、勝手にやっちゃダメだろ。」
「分かってる。けど、春までもうすぐだ。この調子で間に合う保証はないだろ。」
「努力の方向性が、おかしいって言ってんだよ。その熱量をなんで、言われたことに向けないんだ?」
「それは・・・・・・そうだけど、今回の石像が完成しても次の課題が出るかもしれないし、石像にほんの少し削り残しがあったぐらいで、最初からやり直しとか言われるんじゃ、ずっと時間が、かかってしまうだろ。」
「削り残しね・・・・・・。こりゃあ、報われないな。」
乱丸は、哀れむような事を呟いた。俺のことかと思ったが、すぐに「あ、お前じゃなくて、おやっさんな。」と念を押してきた。
「そりゃあ、お前さんの境遇にも同情はするけどな。だが、そうやって正攻法から逃げた奴にかける言葉はない。」
「別に逃げてない。」
「逃げてんだよ。お前は、約束を破った。辛いから楽な道へ逃げたんだよ。」
返す言葉を探したけれど、言葉はすぐには出てこない。逃げている。自分の感じている後ろめたさがそれを否定する事を許さなかった。
「普通はな。呪術なんてのは、技術が完璧になるまでは、覚えさせないもんだ。お前みたいなのが出て来るからだ。」
少なくとも俺はそうだった。と乱丸は、俺に言葉を放つ。乱丸も呪術を習う時に俺と同じような事をしたのだろう。
知識を与えられるのは、俺より後だったということになる。
「だけど、おやっさんは、お前に先に知識を教えた。その意味が分かるか? 約束を守ると信頼してだろ。」
「信頼」
・・・・・・そうだ。本当に呪術を使ってほしくないなら、最初から技術を身につける前に知識を教えないのが正解だ。
篝さんも最初から分かっていたはずだ。けれど、それでも、俺に先に教えてくれたのは、俺を信頼してくれていたからだったのだ。
それを裏切ってしまった。与えられたものを当たり前だと思って、そこの配慮に全然頭が回っていなかった。
自分本位で相手がどう思っているかも考えていなかった。
「だから、報われねぇなって言ってんだよ。まあ、これで終わりなら、これから先どうなろうと知ったこっちゃないだろうけどさ。」
乱丸は立ち上がると「そんじゃあ、俺は帰るわ。お前も気をつけて帰れよ。まあ、川沿いを歩いて帰れば無事に帰れるだろ。」と素っ気なく言い放ち、背を向けて歩き出す。
足音が遠ざかっていく。けれど、俺は、まだ、動き出す気にはなれず、そのまま、川を眺めていた。
結局、俺が焦ってただけなのか。篝さんも別に俺に嫌がらせをしていた訳でもない。むしろ、焦る俺に十分配慮してくれていたのだ。
「・・・・・・かっこ悪いな・・・・・・俺」
本当にかっこ悪い。自分自身に呆れて涙さえもう出ない。
じゃりじゃり、と背後から土を踏む音が聴こえて、乱丸が引き返してきたのかと振り返る。
しかし、そこにいたのは、乱丸ではなく篝さんだった。
「なるほど、まあ、好きな女のために急いでるってのは、分かった。ただ、勝手にやっちゃダメだろ。」
「分かってる。けど、春までもうすぐだ。この調子で間に合う保証はないだろ。」
「努力の方向性が、おかしいって言ってんだよ。その熱量をなんで、言われたことに向けないんだ?」
「それは・・・・・・そうだけど、今回の石像が完成しても次の課題が出るかもしれないし、石像にほんの少し削り残しがあったぐらいで、最初からやり直しとか言われるんじゃ、ずっと時間が、かかってしまうだろ。」
「削り残しね・・・・・・。こりゃあ、報われないな。」
乱丸は、哀れむような事を呟いた。俺のことかと思ったが、すぐに「あ、お前じゃなくて、おやっさんな。」と念を押してきた。
「そりゃあ、お前さんの境遇にも同情はするけどな。だが、そうやって正攻法から逃げた奴にかける言葉はない。」
「別に逃げてない。」
「逃げてんだよ。お前は、約束を破った。辛いから楽な道へ逃げたんだよ。」
返す言葉を探したけれど、言葉はすぐには出てこない。逃げている。自分の感じている後ろめたさがそれを否定する事を許さなかった。
「普通はな。呪術なんてのは、技術が完璧になるまでは、覚えさせないもんだ。お前みたいなのが出て来るからだ。」
少なくとも俺はそうだった。と乱丸は、俺に言葉を放つ。乱丸も呪術を習う時に俺と同じような事をしたのだろう。
知識を与えられるのは、俺より後だったということになる。
「だけど、おやっさんは、お前に先に知識を教えた。その意味が分かるか? 約束を守ると信頼してだろ。」
「信頼」
・・・・・・そうだ。本当に呪術を使ってほしくないなら、最初から技術を身につける前に知識を教えないのが正解だ。
篝さんも最初から分かっていたはずだ。けれど、それでも、俺に先に教えてくれたのは、俺を信頼してくれていたからだったのだ。
それを裏切ってしまった。与えられたものを当たり前だと思って、そこの配慮に全然頭が回っていなかった。
自分本位で相手がどう思っているかも考えていなかった。
「だから、報われねぇなって言ってんだよ。まあ、これで終わりなら、これから先どうなろうと知ったこっちゃないだろうけどさ。」
乱丸は立ち上がると「そんじゃあ、俺は帰るわ。お前も気をつけて帰れよ。まあ、川沿いを歩いて帰れば無事に帰れるだろ。」と素っ気なく言い放ち、背を向けて歩き出す。
足音が遠ざかっていく。けれど、俺は、まだ、動き出す気にはなれず、そのまま、川を眺めていた。
結局、俺が焦ってただけなのか。篝さんも別に俺に嫌がらせをしていた訳でもない。むしろ、焦る俺に十分配慮してくれていたのだ。
「・・・・・・かっこ悪いな・・・・・・俺」
本当にかっこ悪い。自分自身に呆れて涙さえもう出ない。
じゃりじゃり、と背後から土を踏む音が聴こえて、乱丸が引き返してきたのかと振り返る。
しかし、そこにいたのは、乱丸ではなく篝さんだった。
0
あなたにおすすめの小説
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
視える僕らのシェアハウス
橘しづき
ホラー
安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。
電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。
ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。
『月乃庭 管理人 竜崎奏多』
不思議なルームシェアが、始まる。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる