咲かない桜

御伽 白

文字の大きさ
上 下
292 / 352
4章

Part 291『信用』

しおりを挟む
 篝さんの話を聞いて、呪いの恐ろしさについての認識不足を痛感した。

 奇跡を得る代償は、俺が想像するよりも重たい。人を人とは違う化物に変えてしまう天罰など、想像出来ようはずもない。

 しかし、篝さんは、最初から俺に教育してくれていた。呪いの性質上、ほんの少しの削り残しですら危険が存在すると。

 一歩間違えれば、俺も篝さんのお嫁さんの様になっていたのかもしれない。

 そう考えた瞬間に自分がどれだけ恐ろしい事をやっていたかに気付いた。

 「怖いだろ。自分の形が、別のものに書き換わるなんてのは、それも、見たこともない化物に」

 篝さんは、俺の方を見て促す様に語る。

 「辞めるなら、今だ。呪術に関しては、今のところ天罰は受けてない様だからな。」

 今のところ、天罰は受けていない。きちんと本を読んで勉強していたことが功を奏したということだ。

 いつかは、失敗するかもしれない。次か、もっと先の話か。

 思い出すだけで、吐き気を催す様な化物に、いつかはなってしまうかもしれない。

 「篝さん、すみませんでした。」

 俺は、深く篝さんに頭を下げた。自分の考えなさに恥しかない。どんどん努力して力をつけている周りの人に焦って、やるなと言われた事をやって、どうしようもない。

 「自分のことばっかりで、焦ってばっかりで、勝手に一人でキレて、本当にすみませんでした。」

 篝さんは、俺のことを考えてくれていた。呪術の手抜きの危険性を知っていたから、細かな部分でやり直しをさせた。

 こんな事を頼む資格は俺にはない。教えられたことも守れないような不出来な奴に教える意義なんてない。

 けれど、ここで辞めたら本当に無駄になってしまう。

 「篝さん、俺に呪術を教えてください。」

 自分の図々しさに胃が痛くなる。

 「虫のいい話なのは分かってます。だけど、もう一度、俺に呪術を教えてください。俺にはやらなくちゃいけないことがあるんです。」

 「やらなくちゃいけないことってのは、こんなリスクを背負わなきゃならねぇもんなのか?」

 篝さんは、俺にそう尋ねてくる。俺も俺の目的をきちんと話していなかった。自分の事情を説明しないで不満ばかり感じていた。

 「俺は、好きな女のために呪具を作らなきゃいけないんです。」

 「分かった。教えてやる。」

 あっさりと篝さんは、そう言った。渋られると思っていたし、こうまであっさりと許してくれるとは思わなかった。

 「教えてやるが、勘違いするな。お前がしたことは忘れてない。だが、お前のミスで、女に迷惑がかかんのは、違うだろ。」

 「・・・・・・ありがとうございます。」

 「事情ぐらいは、聞いてやる。あとは、自分で信用を勝ち取れ。」

 篝さんは、そう言って帰っていく。俺もそれに続いた。二度と間違いは起こさないとそう誓いながら・・・・・・
しおりを挟む

処理中です...